【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
「回帰水」という水をつくる浄水器の販売をしている。
まず、トップページからたどって最初にたどりつくページを見ると
ナチュリターン自然回帰生水器が生み出す回帰水が接触した環境の水にもエネルギーを与 え、蘇った水の力で環境汚染が消失して行く情景こそ、私の本年の初夢であります。と、代表取締役が書いている。夢なんだからこれにツッコむのは野暮ってもんです。
ページ右側の目次を順番につついて、内容を見ていく。まず、「自然回帰水とは?」をクリックすると
自然が水を浄化する仕組みを研究し、1985年、新しく開発した数種類のファインセラミックスと高機能性活性炭を組み合わせ、浄水器を超えた新しいタイプの自然回帰生水器ナチュリターンを、世に問わせて戴きました。とある。自然が水を浄化するしくみって、微生物による有毒物質の分解と、地中にしみこんだために濾過されるのと、紫外線の効果と、あとは何かあったっけ?まあ、汚染物質が除去されるのはいいことだと思って次を見ると、
自然回帰水のエネルギーは余りにも常識外れな不思議なパワーを発揮致しますので、話のみでは理解が難しい面もあり、是非、商品を体験して戴けますようお願い申し上げます。となっている。自然が水を浄化する仕組みを研究したからって、そこから得た知識で浄水器を作っても、「常識はずれな不思議なパワー」が出るとは思えないんだけど。でもどんなパワーなのか、期待が高まってくる。左側のメニューを見ると、
科学的に証明された7つの特長を超えて“不思議な力”を持った水が自然回帰水です。
鉄腕アトムの紹介みたいだな。7つの特徴は次の通り。
1.残留塩素や有害物質が含まれていない。
2.美味しく、身体に浸み通って行くように感じる。
3.クラスター分子集団が小さい。
4.ミネラルバランスが良い。
5.pHが人間の体液に近い弱アルカリ性である
6.酸化還元電位を下げる還元型。
7.セラミックス効果で界面活性作用がある。
1は浄水器の性能としては妥当。2は「感じる」んだから、科学的に証明はされてないんじゃないか。3のクラスター分子集団については、当ページで書いたように、確認自体が無理である。タイセイ株式会社のページは水の異常性についても情報を載せているので、これと合わせて後述する。4,5,6は測定すればわかる話だから測定で確認できるでしょう。7のセラミックス効果がさっぱりわからない。「自然回帰水は水が物理的に変化して界面活性作用を持っていますので」
と書いてあるが、ページに書かれている内容を見た限りでは、有毒物質の除去による化学的変化であって、物理的変化とは考えられない。
使い方を見ると、
自然回帰水は水分子の運動が非常に活発なので、水の働きが強力になります。
運動が活発な水って、単に温度が高い水のことでは。同じ温度・圧力・体積で、水分子の運動の活発な水とそうでない水があるとしたら、その方がよっぽど大発見である。0℃から100℃の間の水の相図が書き変わるわけだから。実際には、最近の研究で、運動が活発なのではなくて構造の違う状態があるのではないかというモデルが出されて、いろんな論文が出ているが、未だにはっきりしない。あっさりこんなことを書いて、水の相図を変えられても困る。
「浸透力・溶解力・排泄力・拡散力・乳化力」が強くなるというフレコミだが、本当にそうなら、そんな水は有毒である。人体の恒常性の維持にとっては負担になるだけである。結石については、カルシウムの排泄を促進する薬剤が治療薬になっているから、自然回帰水のカルシウム濃度が低ければ、予防になる可能性がある。もっとも、結論を出すには試験が必要だが。
水飲み健康法も紹介されているが、体験談が語り継がれているということしか情報がない。効くかどうかは臨床試験無しには判断できない。慢性便秘だけはひょっとしたら正しいかもしれない。機能水研究会で発表された臨床試験では、単に蒸留水を余分に飲ませるだけで腹部愁訴が改善した患者が6割に上っており、通常のプラセボを越える割合となっている。
さて、後述すると書いた水の話だが、「『水』賛歌」の記述に関係する。
『もう一度見直す水の力』 あまりにも身近でありふれている『水』の存在ですが、実は科学で説明できない不思議な存在でも あるのです。
(不思議その1) 『水は0℃で凍る』
水は0℃で凍り100℃で沸騰する。当たり前に思っている事ですが実はそのことこそ不思議なのです。 水の仲間達の融点と沸点から 予想される水の融点と沸点はそれぞれ約−100℃と−80℃であります。 ですが、実際は0℃と100℃であることは異常な現象なのです。
(不思議その2)『氷は水に浮く』
コップに入れた水に氷を入れると表面に氷が浮かびます。極めて当たり前の 現象ですが、これこそが他の液体と比べて極めて特殊なことであり、 この特殊現象のおかげで地球は氷づけになることなく生命が生息できるのです。 通常の液体は、温度が下がるに伴い密度は上昇し液体から固体になればさらに 密度は大きくなる。 つまり固体の状態の物質は、その液体に沈む。しかし水は4℃を境に密度は低下し、0℃で固体になればその密度は急減する。
(不思議その3)『人間の体温は水の都合で決められた?』
単位質量のものを温度1度上昇するのに必要な比熱エネルギーを比熱容量 と言いますが水の比熱容量の最少値はなんと35.5℃〜36℃にあります。 つまり、 人体は体内の65%を占めるといわれる水を最も効率的に温度調節できる温度を 体温として維持していたのです。
ここに書かれている不思議の内容は全く正しい。これと同じ前振りを、私自身が水の話をするときにも言っている。問題は、この3つの説明を科学で説明できない不思議な説明
と片づけたところにある。
まず、水が0℃で凍る話だが、なぜ他の液体と著しく異なるかという説明として、水分子間の相互作用が強く、水素結合でネットワークを作っているからだという説明がなされている。現状では、この説明がほぼ受け入れられている。完璧ではないにせよ、水の物性を再現する、分子動力学計算のモデルも出ている。別のページで出てきたクラスター分子集団が小さい
ということは、水分子間の水素結合が切れてしまうことを意味する。そうすると、水は分子間相互作用の弱い液体として振る舞うわけだから、融点と沸点が予想される値に近づくはずである。水素結合の残りがあるから−100℃と−80℃にはならないとしても、融点と沸点が大幅に変わらなければおかしい。しかし、会社のウェブページにはそのような記述はまったくない。
4℃で密度が最大になる話は、確かに、量子力学から出発する第一原理計算でまだ再現できていない。しかし、密度の極大点を出せるMD計算のモデルは存在する。また、第一原理計算といえども、取り込めていないファクター(ポテンシャルの形など)がまだある。4℃での密度最大が再現できないことをもって、現状の物理学や化学を否定する理由にはならない。ましてや、水が未知のエネルギーを持ちうる根拠にはならない。エネルギーについてはすでに阪大の菊池さんが詳細な議論をしているのでここでは述べない。
水の比熱容量の温度依存性だが、極値が書かれた温度にあることは本当である。しかし、水はもともと他の液体に比べて比熱容量が大きいのだ。以下の表に、液体の比熱容量の値を示す(「水および水溶液」鈴木啓三著(共立出版)より抜粋)。水とアンモニアだけが1付近で、残りは全部0.6以下である。アンモニアは室温では気体だから、水が、その分子構造から予想されるよりもはるかに高温で、かつ液体での比熱容量が異常に大きいことが、生物の熱バッファとして重要な役割を果たしている可能性がある。極値の議論はおそらくその次である。極大値でもせいぜい2%しか増加していないからである。
物質 | 化学式 | 温度範囲℃ | 比熱容量 |
水 | H2O | -5〜+100 | 0.997〜1.016 |
アンモニア | NH3 | -50〜+50 | 1.055〜1.183 |
エタノール | C2H5OH | -20〜+40 | 0.51〜0.65 |
メタノール | CH3OH | +5〜+20 | 0.59〜0.60 |
エチルエーテル | C2H5OC2H5 | 0 | 0.53 |
ベンゼン | C6H6 | 10〜65 | 0.34〜0.48 |
トルエン | C6H5CH3 | 10〜+85 | 0.36〜0.53 |
アニリン | C6H5NH2 | 15〜50 | 0.51〜0.53 |
ニトロベンゾール | C6H5NO2 | 14〜28 | 0.35〜0.36 |
ナフタレン | C10H8 | 80〜95 | 0.40〜0.41 |
回帰水の利用を薦めている団体に、グリーンプラネットがある。株式会社タイセイのページからたどれる。利益を追求しない消費者団体だと書いてある。緑の会惑星通信の案内を見ると、「回帰水で治った」という体験談が寄せられている。水を使った健康法のページにありがちな、「体験談のみ」のページである。1人の患者にとっては治るか治らないかしかないが、効くかどうかの判定は、臨床試験を待たないとわからない。体験談には、ちゃんと試験をしてみようという動機付け以上の意味はない。
それで、結局、「常識はずれの不思議なパワー」って、証拠は体験談だけなんでしょうか。主観を排除した試験じゃないと、治ったことは事実としても、水の効果であることを信じるわけにはいかないんだけど。
【2001/05/25】
独自に、「回帰水」の調査を行い、結果を発表しているページがありました。
ウチのページではほとんど触れていない情報がたくさん掲載されています。例えば、この会社の特許情報を見ると会社の主張と矛盾があることや、販売店と思われる業者の情報、
社団法人日本水道協会への登録が実は無かったこと、その他一般的な浄水器訪問販売でのトラブル(消費者センターが出している情報のまとめ)などです。非常に参考になりました。
【2003/10/06】
上記の回帰水調査のページですが,だいぶ前から行方不明です。どなたか行方をご存知の方がいらっしゃいましたらご一方ください。
【2004/04/20】
ウェブアーカイブに存在するという情報をいただきました。ありがとうございました。ただ,別の情報で,以前にあったこのページの特許番号などが間違っていたりした点を指摘されて,ページがなくなったのではないかという指摘もあったことを追加しておきます。信憑性は各自でご判断ください。
【2005/03/14】
独自調査のページですが、だいぶ前に作者の方から連絡を戴きました。ページが無くなったのは、たまたまだそうで、クレームによるものではないそうです。つまり、パソコンのトラブルによって、作っていた文書が飛んでしまってそのままになったということです。何か、元のリンク先がアダルトサイトにつながるとの指摘もいただいたので、リンクを外しました。
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