水商売ウォッチング:磁気処理水

日本セルポ株式会社(2001/06/23)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 「ポーラー磁気式水処理装置(ポーラーウォーターコンディショナー、PWC)」、「ポーラー磁気パワー活水器PDF-1」の販売。ノルウェー製の製品を輸入して売っている。

 じつはこの会社、お茶大に磁気水関係の資料を持ってきてくれた。そのときに、いろいろ話をして、この会社では水の摩訶不思議な効果を信じたりしていないことがよくわかった。それで、このコメントを書こうと思ってウェブページを見たら、やはり他社と変わらない表現が一部にあった。それで改めて、「話をしたときと違う内容では?」とメールして数日したら返事がきた。普段、コメントはウェブページの内容のみで行っているが、今回はメールの内容も合わせてコメントする。

 まず、ポーラー磁気式水処理装置の説明を読む。

ファラーデーの電磁誘導の法則に基き水処理用の徴弱電流の発生、この電流より下記の作用効果が得られます。
1.水中の固体粒子のゼーター電位と結晶構造の変化により軟質な防食被膜の形成。
2.極微コロイド不純物の凝集沈殿作用の促進。
3.水質の浄化と安定促進。
4.酸化還元作用の促進による防食効果。
5.電流による殺菌性の向上
6.表面張力の低下、イオン化(溶解)の促進

 原理の説明はこれだけである。概念図は説明の左側にあるが、明らかに水に溶けている不純物が変化する絵になっている。水のクラスターの話はどこにもない。どうやら初めて、クラスターのデマに振り回されていない磁気水装置の会社を見つけることができたようである。磁気水関係の多数の会社が、水クラスターの話をそのまま鵜呑みにしているので一体どうなっているのかと思っていたのだが、ちゃんとわかっている会社がでてきたということは、磁気水業界も希望が持てるようである。

 電磁誘導で微弱電流が生じるというあたりは、これから詳しく測定しなければならないだろう。水の中を電子が動けるわけではないから、仮に微弱電流が生じたとしてもその影響は管内表面に限定されるのではないだろうか。まあ、錆除去ということを考えれば、影響は管内表面だけで十分である。また、磁場の効果によるコロイドの凝集状態の違いは実験室でも確認されている(ただしその理由はまだはっきりしない。磁気処理水資料室参照。)。ここに書かれている内容は、その具体的な化学反応プロセス確定させるにはまだまだ研究が必要だが、少なくともこれまでの水の物理化学に反するような内容ではない。処理するべき水を、電解質水溶液に不純物微粒子が分散した系と考えるのは妥当だと思う。磁気処理の原理の探求は、不純物分散系に対する磁気の影響と、磁気および分散不純物の変化による管内表面での電気化学反応にどう影響するのかということついて、従来の化学の枠組みで理解するという方向で進むのが妥当である。

 ところが、PDF-1の説明には、
6,000ガウスの強力な磁力で水分子や溶存酸素を活性化し、制菌力のあるまろやかな水に変えます。
磁力線は無害で水分子やイオンのエネルギーを高め、水道水の健康に良いミネラルを体の中に吸収しやすい状態で運ぶ健康水に変えます。

と書いてある。水の誤解をせずに進んでいる会社の説明にしては、いかにも曖昧である。少なくとも、「活性化」という学術用語は、普通我々の日常生活では水や溶存酸素に対して使うことはない。また、「水分子やイオンのエネルギーを高め」、というのがわからない。エネルギーを与えると、イオンや水分子の電子状態が変わるか、水分子だったら分子内の振動状態が変わるか、それとも単に温度が上がるかしか効果は生じない。そういう高エネルギー状態は不安定だから、手近な不純物と反応してエネルギーの低い状態にさっさと戻るし、最終的にエネルギーは熱になって散逸する。もちろん、その途中で化学反応をして何か化合物をつくって、物質の形でエネルギーを蓄えているのなら話は別であるが、そういうときは水分子やイオンのエネルギーが高まったとはいわないだろう。そこで、どうしてこういう表現になっているのかメールできいてみた。そうしたら、以下のような返事がきた。

4.「ポーラーで水を磁化する」
内外の専門研究者の発表文の中では、水処理のために磁力線の中を適切な流速で垂直に通過した水を 磁気処理水、磁気水、磁化水と呼び、処理前の水(原水)と明確に区別するために表現されております。水が磁化できない事は充分承知しておりますので、セミナーの折、説明にはその意味を加えております。

5.「活性化」
(1)日本水道協会 品質認証センターを訪問した際、磁気及びセラミックを使用した器具を活水器と称していると言われ、他の器具と区別しているとのことでした。
(2)『おもしろい水のはなし』 理博:久保田昌治 著 (日刊工業新聞社)で、第13章に活性水についての説明があります。この中で13.3.1(234頁) 磁気処理水とはという説明と当社のポーラーの構造を発表しております。この中で活性水とは、通常の水より、活性の高い水として、具体的には、洗浄効果の高い水、を例にあげて区別しています。
(3)私の使用している目的では、磁気処理水は、反応を活発に促進させる触媒的作用を有する水という風に考えています。例えば、スケール付着防除、腐食抑制、植物成長促進、コロイド不純物の凝集沈殿作用の促進、効果等のある水という事で区別しています。
(4)そういえば、活性炭が吸着作用他による水質浄化として利用されていますが、の中でも活性とは何か決まった定義がないと思いますが、どのように理解したら良いかと思います。又、PDF−1は抗菌性(銀イオン)活性炭と磁力で組み合 わされております。

6.「磁力線でエネルギーを変える」
水の酸化還元電位の変化は化学反応を促進させると思いますが、このようなものはエネルギーとは言えないのでしょうか?もう少し勉強してみます。

 水の磁化については、こちらからメールを送ってしばらくしてウェブを見たらみあたらなかったので修正したのかもしれない。このメールの説明によれば、「磁化」という学術用語が、磁気水業界では本来の意味と違う意味で用いられていることがわかる。私は、どうしていろんなメーカーが「磁化」というのかわからなかったのだが、1つ疑問が解けた。しかし、こういう用語の使い方をされては困る。既に「磁化」という学術用語がちゃんと定義されて広く使われているわけだから、後から使う側は何かもうちょっと区別できる用語を作るか、もし同じ用語を使うならその都度必ず磁気水業界での定義を明記するようにしてほしい。これは特定の1社に言っても仕方がないことで、業界としてちゃんと守ってほしい。そうでないとあらぬ誤解が広がってしまう。「磁気処理水」が最も正確な呼び名ではないか。「磁気水」では水が磁気を帯びたんじゃないかと思うし、「磁化水」も磁化(本来の意味でのmagnetization)を受けた水を想像してしまう。

 「活性化」という用語も、意味する化学的プロセスはまだはっきりしないようである。(1)の洗浄効果と(3)で列挙されている効果は同じものではない。いろんな業者がちょっとずつ違う効果を総称して「活性化」と勝手に呼んでいる現状では、説明を受ける側は何を思い浮かべていいかわからず、困ってしまう。さらに、「活性化(activation)」も学術用語で、いろんな分野でそれぞれちゃんと定義があって広く使われているから紛らわしい。業界の用語の統一ができるまでは、個別の効果を列挙するか、「当社での定義はこれこれです」という説明を見やすい場所に追加するかしてほしい。これも特定の1社ではなく、業界全体としてやってほしい。なお、「活性炭」の「活性」は、吸着という物理化学プロセスが1つだけ対応しているので、勘違いが入る余地は少ないと思う。

 エネルギーについては、メール引用の直前に書いたとおりである。いずれにしてもエネルギーだと言うには、ちゃんと保存則を満たしていて、化学結合でも熱でも何でもそのあり方を相互に変えられる、というエネルギーが持つ基本的な性質がはっきりしていないと困る。また、ただ単に「エネルギーを与える」と書いたのでは何が起きているのかわからないから、何のどういうエネルギーをどのくらい変えるのかはっきり書くべきだろう。まだそれを詳しく書けるほど、起きている事柄が解明されていないのであれば、効果を正確に記述するだけにとどめた方が誤解されずにすむのではないか。

 いずれにしても、日本セルポからいただいた情報は、なかなか興味深いものであった。これまでに他社からいただいた資料とともに、磁気処理水資料室を作ってまとめさせていただく。


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Y.Amo /
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