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資料名 | 徳島地方裁判所 平成12年(ワ)第73号 損害賠償請求事件 判決 |
要約 |
徳島地方裁判所 平成12年(ワ)第73号 損害賠償請求 事件番号 :平成12年(ワ)第73号 事件名 :損害賠償請求 裁判年月日 :H14.10.29 裁判所名 :徳島地方裁判所 主 文
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判決文のうち,注目したいところに私が色をつけた。 まず,裁判所は,被告の製造販売した装置について「磁場に水道水を通過させることによって,水の物性を変化させて活性化した磁気水を造る装置である磁気活水器」であるということを,前提となる事実として認めている点に注目してほしい。磁気活水器の説明としては,水のクラスター細分化に始まり,最近はマイナスイオンに至るまで,物理的変化を起こさせるという説明が出てくる。水は反磁性体なので,磁気による水の物理的変化が起きる(科学的)証拠は何もないし,そのことは当サイトでもしばしば指摘してきた通りである。だからといって,私は,判決の前提が変だと主張するつもりはまったくない。というのは,このような判断の前提が出てくるのは,民事訴訟の手続きの性質によるものだからである。 民事訴訟の原則は「弁論主義」である。弁論主義とは,裁判の基礎となる資料の収集を当事者が責任を持って主導権をとって行うというものである。具体的には以下の内容が含まれている
従って,原告と被告の双方が,「磁場によって水クラスターを細分化させる装置によって生じた結果についての争いだ」と主張した場合,その内容の科学的正しさとは全く無関係に,裁判所はそれをそのまま認めることになるし,そうするのが裁判所として正しい行動である。 さて,私は水産業についてど素人だが,この判決文を読んで,いくつか疑問がでてきたので,以下に書いてみたい。わたしならこんなことを調べて,なぜ魚が死んだかを追求する(探偵する?)だろうというものである。もちろん,民事訴訟での被害立証はそこまで必要ではなく,装置とヒラメが死んだことの因果関係のみで足りるので,訴訟での立証は科学の目でみるとちょっと物足りない。 海水のイオンが磁場部分を通過することによって生じた起電力が原因となって,管表面で何らかの電気化学反応が起きたというのが,もっともありそうな説明だろう。高濃度の塩溶液に磁場をかけても,それ自体では化学反応を引き起こすという証拠はない。もしそんなことが起きていたら,マグネティックスターラーで水溶液を作るという実験操作が原因となった異常な測定結果が続出するはずだが,実際には問題があったという話はないからだ。 磁気活水器で亜硝酸態窒素が発生と書いてあるが,これはヒラメのいない生け簀に活水器を通した水を供給して検出したものなのだろうか?ヒラメが死んだり苔が枯れたりしたときの産物に由来するものかどうかを知りたい。管表面の電気化学反応で亜硝酸態窒素が直接生じる可能性もあるが,管から溶け出した金属イオンによる中毒死が原因で死ぬ前か死んだ後に亜硝酸態窒素が出るということがあるかどうかに疑問を持った。海水中で管に通電したときに生じる物質の中に,ヒラメや苔を殺すものが含まれていたかどうかがわかれば,死因を突き止めるのに役立つだろう。 この判決から得られる教訓は,十分な科学知識無しに磁気活水器を売ることは危険だということだ。巷では体にいい水を作るという触れ込みで水道の配管につける活水器が売られている。しかし,海水という,水道水とくらべて圧倒的に電解質濃度が高い条件では,ヒラメが全滅している。正負の電荷を持ったイオンが含まれた水溶液を磁場中に流すとローレンツ力によって起電力が生じる。起電力は管材料である金属の自由電子の移動によって打ち消されるだろうが,管表面の電気化学反応はどの程度起きるだろうか?水に含まれる電解質の組成と管材料によっては,有害なものが生じる可能性もあるのではないか?安全性の確認は本当に十分なのか?体験談だけで売るやり方は実はかなり危ういのではないか。 逆説的なようだが,この判決をここで紹介することは,磁気活水器への後押しになる可能性があると私は考えている。水道水で使ったのではなかなか顕著な効果が出てこないのに,海水で使うとヒラメには劇的な効果があったという例が出てきたわけで・・・・。磁気活水器の原理を調べるのなら,まずは,塩濃度が非常に高い条件で,管材料を変えたりして,何が起きるかを確認するほうが,起きてる現象をよりはっきりとつかめるのではないだろうか。 |