「事象の地平線」過去ログ倉庫
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2007/07/27
法学分野だけじゃない……
【修正】
「法科大学院雑記帳」米倉明著(日本加除出版)978-4-8718-1323-7。法学部学生への教育と法科大学院での教育を比較している部分(176ページ)より。
ただ、厚くないと情報が足りなくなるというのは、分野によって異なる。
法学では確かにこの著者の言う通りである。最初、法律の教科書に手を出してみたら、分厚くて高いものを買ったのにもかかわらず、細かい注釈がてんこ盛りで、さらに別の本やら総説やらを参照していて、参照先の本も半端ではなく高かったり入手困難だったり入門者がそもそもそんなマニアックなところまで必要なのかと疑問を感じたりということの連続だった。その上、判例通説有力説少数説と並んでいて、物理出身者としては非常に戸惑った。
理系でも、化学や生物学は、厚いテキストでないと情報が足りないことが多い(逆は必ずしも真ではないが)。化学出身の先生の話ではこれらの分野では「神は細部に宿る」のだそうな。実際、化学や生物学の専門のテキストはどれもタウンページ級である。
一方、物理や数学のテキストでは、分厚くてどうにもならんというものはあまり見かけない。たとえば、ランダウ・リフシッツの力学なんか、他の力学のテキストに比べるとむしろ薄い方だが、きちんと理解するとなると実は初心者にはハードルが高い上に奥も深い。物理や数学では、ページ数と情報量が直接比例するわけではなさそうである。まあ、世界をシンプルに記述する方向が好まれることが背景にあるのかもしれない。そのランダウのシリーズは(分量ではなくハードルの高さの問題からか)、一部を除いて品切れ絶版が続いている。
ただ、学生が、専門分野以外の内容について最低限の知識を身に付けようと思ったとき、易しいテキストがあるというのは助かることではないか。昨日、自分で、物理をやり直すテキストを読んでいるという学生が質問に来たので、本を見せてもらってそう思った。物理や数学の知識があまりに貧弱だと、専門の物理化学の理解が困難になってしまうが、そういう学生が物理を学ぶのには、ランダウはどう考えても不適切だろう。軽いテキストの存在は、他分野に入門する時の敷居を下げるのに役立ちそうである。
#なお、法律学については……今のところ、個人的にはやる気満々の方に居るつもりなので、分厚いテキストにかじりついている。ってか、現実の訴訟を前にすると、弁護士に相談するにしたって専門家任せにするなど物足りないし納得できないわけで、それなら勉強するしかない。純然たる暗記物ではないとしても、多少は覚えないと話にならず、元々暗記物は苦手なのでやってて情けなくなることの方が多いのだけど。
相手にやる気がないとなれば、まずやる気を起こさせるために、テキストに色づけまでするなどの工夫をこらし(これを人によっては「色仕掛け」などと酷評する)、話し方にも注意しないといけない(人によっては「殺し文句」を巧みに用いる)ことになる。これと異なり、相手が既にやる気満々であれば、そもそもやる気を起こさせることから始めるなどという必要は全然ないのだから、無味乾燥だろうと分量が多かろうと、気にする必要はあるまい。分量の多寡についていうと、薄いテキストでは説明が不足し、結局、厚いテキストを参照しなければならなくなり、手間と経費という観点からしても、初めから厚いテキストを用いたほうが学生にとって得策なのである。入門段階の勉強は別として、その段階を終えた学生にとっては、厚いテキストをしっかり読むことがベストの道であって、薄いテキストで手軽に済まそうなどとしてはならない。そういうことをしていると、必ずや手痛い目にあうであろう。私は法科大学院の未習者に、常々、このように申し渡してきた。理系の方でも、活字大きめ余白多め図と多色刷りを使った薄いテキストが多数出版されている。高校までのカリキュラムと大学の従来のカリキュラムを埋める目的かと思ったが、大学の専門の講義でも軽いテキストが使われることが増えてきているらしい。教科書が軽く薄いものになるのは、どうも、全分野共通の傾向のようである。
ちなみに、これまでのテキストがとにかく無味乾燥だと非難されてきたことの一因は、テキスト執筆者がテキスト使用の相手を取り違えていたことにある。つまり、やる気のない人々を相手としなければならないのに、やる気満々の人々を相手にしていると思い込んで(これは民法でいう「同一性錯誤」なのか、それとも「属性錯誤」なのか)、やる気満々の人々用に執筆していたのである(執筆者には「重大過失」があったというべきであろう)。そもそも自分の相手とすべき敵を取り違えていたのだから、孫子の兵法を援用するまでもなく、結果はうまくいかなかった(つまり「敗戦」)わけである。昨今は、相手がどういう相手かをよく見極わめて、その相手にフィットしたテキストを執筆する必要があることが意識されるようになった。カラフルな薄いテキストが多数出現したのは、その証左といえよう。
ただ、厚くないと情報が足りなくなるというのは、分野によって異なる。
法学では確かにこの著者の言う通りである。最初、法律の教科書に手を出してみたら、分厚くて高いものを買ったのにもかかわらず、細かい注釈がてんこ盛りで、さらに別の本やら総説やらを参照していて、参照先の本も半端ではなく高かったり入手困難だったり入門者がそもそもそんなマニアックなところまで必要なのかと疑問を感じたりということの連続だった。その上、判例通説有力説少数説と並んでいて、物理出身者としては非常に戸惑った。
理系でも、化学や生物学は、厚いテキストでないと情報が足りないことが多い(逆は必ずしも真ではないが)。化学出身の先生の話ではこれらの分野では「神は細部に宿る」のだそうな。実際、化学や生物学の専門のテキストはどれもタウンページ級である。
一方、物理や数学のテキストでは、分厚くてどうにもならんというものはあまり見かけない。たとえば、ランダウ・リフシッツの力学なんか、他の力学のテキストに比べるとむしろ薄い方だが、きちんと理解するとなると実は初心者にはハードルが高い上に奥も深い。物理や数学では、ページ数と情報量が直接比例するわけではなさそうである。まあ、世界をシンプルに記述する方向が好まれることが背景にあるのかもしれない。そのランダウのシリーズは(分量ではなくハードルの高さの問題からか)、一部を除いて品切れ絶版が続いている。
ただ、学生が、専門分野以外の内容について最低限の知識を身に付けようと思ったとき、易しいテキストがあるというのは助かることではないか。昨日、自分で、物理をやり直すテキストを読んでいるという学生が質問に来たので、本を見せてもらってそう思った。物理や数学の知識があまりに貧弱だと、専門の物理化学の理解が困難になってしまうが、そういう学生が物理を学ぶのには、ランダウはどう考えても不適切だろう。軽いテキストの存在は、他分野に入門する時の敷居を下げるのに役立ちそうである。
#なお、法律学については……今のところ、個人的にはやる気満々の方に居るつもりなので、分厚いテキストにかじりついている。ってか、現実の訴訟を前にすると、弁護士に相談するにしたって専門家任せにするなど物足りないし納得できないわけで、それなら勉強するしかない。純然たる暗記物ではないとしても、多少は覚えないと話にならず、元々暗記物は苦手なのでやってて情けなくなることの方が多いのだけど。
カテゴリー:教育関係
タグ:
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posted at 2007/07/27 12:55:23
lastupdate at 2007/07/27 12:55:23
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