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第5回
講義内容
- 液体の動的構造とは?
- 動径分布関数の説明
- 水・氷の動径分布関数
- アモルファス氷
- 氷の水素原子の位置
- クラスレートとは?
- 水を特徴づける量
- 水の電気伝導
- 水の質量分析
- 水のX線・中性子散乱
- 構造モデル
- 分子動力学計算
- 氷の結晶と道徳の話
- 余談:それは道徳の問題か?(文部科学省「心のノート」3・4年生より、理科と道徳を混同するとまずいという話)
第5回の内容に関する質問とコメント
- 音楽を聴かせた氷の結晶はきれいな結晶になるというのはうそなのなら、植物の場合も同じなのですか?音楽を聴かせて育った植物は成長が早くなると実験でわかったときいたのですが…。
→植物の場合、完全に否定するのは難しい。植物が音楽を理解するとは思えないが、空気の振動が何らかの刺激となって違いが出てくる可能性は残る。また、植物そのものを試験対象とする場合、音楽以外の条件をいかにしてそろえるのかということや、個体差以上の差があることを統計的にどう評価するかという部分を押さえておく必要がある。なお、仮に成長が早くなったとしても、最終的なサイズが変わらないのなら、果たして実用的意味があるのか疑問だし(成長は同時に老化でもある)、育てる時間を短縮することによって得られるメリットと、音楽をきかせる設備や手間とのかねあいを評価する必要がある。
- わたしは、その「言葉によって氷が形をかえる」という本をみたことがあり、すごく感動したのを覚えている。まさかそれがインチキだったなんてショック。(私はマヌケ。弟にもその本の話をしたのに…。)オカルトでも子供に教育のために教える。それほど、言葉などの教育はむずかしいんだろうな…。理想と現実の差を知った。
→あなただけではないので気にしなくてもかまわない。昔、アルバイトで医療用データベースの構築に関わったことがあるのだが、一緒になった企業側のSEの人がやっぱり信じていた。ある時、雑談していて、その話全部ウソだと言ったところ、ショックで泣き出してしまった。ただ、中谷宇吉郎の話も全部して、わかってもらえたし、自然の不思議についても感動してもらえた。
- 氷の結晶を作る時に、ラベルの文字によって結晶の形が変わることはないと思うけど、曲によって曲の振動数なんかの違いで結晶の出来方が変わることはあるように思える。
→鋭いツッコミ。このことを議論するには、曲のかけ方について確認する必要がある。私が取り上げた例では、水を瓶に入れた状態で音楽を聴かせたあと、音楽のない状態でシャーレに入れて凍らせて観察するというもの。水分子は熱運動で動き回っていて、10-12秒から10-11秒という短い時間で前の状態とは全く変わってしまう。だから、水の時に聞かせた曲の影響が氷になっても残るということは全く考えられないことである。これが、もし、水蒸気から固体になって雪結晶が成長するときに曲を流したのであれば、空気の振動が結晶成長に少しは影響するかもしれないが……。
- 6ページ目の道徳の話、今になって読むと確かに「それじゃダメだろ」というツッコミ所が満載でおもしろかったです。ところで先生はどちらで道徳の教材を入手されたんですか?お子さんがいらっしゃるのでしょうか。少し気になりました。あと、ガスハイドレートについてもう少し詳しく知りたいと思いました。何かオススメの文献やサイトはありますか?
→道徳の教材の「心のノート」は、普通に書店で売っていて買うことができる。
サイトとしては、独立行政法人産業技術総合研究所メタンハイドレート研究ラボhttp://unit.aist.go.jp/mhlabo/あたりが詳しい。
- 水の質量分析の図がわかりにくかった。
→横軸は、分析器にたどり着いたクラスターの分子量。縦軸は個数に比例する量。1分子の質量が決まっているから、分子が1つ増えるごとに等間隔にピークが出てくる。
- 卵は穴をあければ爆発しないと言っていましたが、この間皿に卵を割って入れて電子レンジに入れたら、しばらくした後に”ボンッ”とすごい音がして、皿の中で卵がひっくり返って、白身がレンジの中に飛び散っていました。黄身は無事でした。なぜ、殻はついていなかったのに爆発したんでしょうか?
→どういう固まり方をしたかによる。既に固まった部分に囲まれたところで圧力が急激に上がれば、殻がついてなくても爆発することがあるはず。よく観察するとどこの圧力が上がりそうかわかるのでは。
【ウェブ版追加情報】今回、黄身は無事だったということだが、黄身を覆っている膜が爆発の原因になることがあるので、前もって針でつついて穴をあけておくと爆発しない。
- サランラップを使って電子レンジで温めるとダイオキシンが出るとよく聞きますが、本当ですか?人体には何か影響があるのでしょうか?
→塩素が入っている樹脂を低温で不完全燃焼させるとダイオキシンが出る。電子レンジ程度だと、燃焼していないから出ないはず。
- 昔から水の流動性には関心を持っていました。小さな分子が集まるとなぜ”水”というつかめないものになるのか、とても不思議でした。今日の講義でも話してくれたんですが、温度や圧力で水の状態が変わることに本当に感激します。1つの水分子に他の水分子は重ならないということは、例えばコップの中の水は、水の層が何層も重なってできている、ということですか?
→分子という粒がたくさん入ってできている。
- ダイエット補助食品で、よく、油や糖分を包み込んで体外へ排出する、というものがありますよね。よくビーカーで実験しているものを目にしますが、本当に人間の身体でも同じような効果があるのでしょうか?インチキに感じてしまいます。
→ビーカーでの実験ではなんともいえない。本当に調べるなら排泄物の中でどうなってるかを調べるべき。
- 砂糖水の話が面白かった。動径分布関数の意味がわからない。
→ある分子を中心にしたとき、まわりの分子がどれくらいの距離のところによく存在するかをあらわしている。
- 酒のチャンポンは悪酔いするといいますが何故でしょう?
→単純に、ある時間内に飲むエタノールの量が増えるから。混ぜることが原因じゃなくて飲み過ぎることが原因。
- 電子レンジの話で思ったのですが、携帯のバッテリーを潰そうとしたら水のような液体が出来たのですが、あれ一体何だったんですか。
→リチウムイオンのふくまれた電解液だが、バッテリーの液の組成はメーカーによっても違うし、劣化の状態によっても変わってくる。
- 高校時代、弁当にブルドックソースをかけたカツをアルミ箔みたいなものにいれておいて、昼食べようと思ったら、ソースがそのケースに落ちたところから溶け穴があいていました。その時はソースの中の何かの酸がAlと反応して溶けたと思ったのですが、詳しいことを調べようと思いつつ調べていません。どんな化学反応が起こったのでしょうか?そして、そこに入ってたカツは溶けた物質とかもあるので食べられないですか?
→酸の方は酢酸が主でしょうが他のものもはいっているかもしれない。普通に水が存在する場合、酢酸アルミニウムができたあと塩基性酢酸アルミニウムAl(OH)(CH3COO)2に変わってしまい、これは水に溶けにくいのでそれ以上腐食することはない筈だが……そのとき実際何が起きたのかはよくわからない。ソースの組成もはっきりしない。また、アルミニウムの表面は酸化アルミニウムになっていて、普通は安定でなかなか溶けたりしないはず。
- アモルファス氷は実験室以外で何か実用化されているのでしょうか?
→実用化された話は今のところない。
- 今回の内容と異なるのですが、家族旅行や友達とレストランに行った時、水が消毒臭かったり重かったりしました。消毒臭いのは消毒しているからなのですよね?!それでは、なぜ水を重いと感じたのでしょうか?含まれている水の成分が違うからですか?
→実際に重いかどうかは密度を測定すれば結論が出るが、重いと「感じる」理由についてはよくわからない。人によって感じ方や表現の仕方が違うので。
- 水って面白いと思った。話が少しむずかしかった。ガイガーカウンターというのは初めてきいた言葉なので詳しく知りたい。
→ガイガーカウンターの構造。小さな金属の筒の中央に細い金属線を張って、内部にアルゴンやネオンなどの希ガスを少しだけ入れて密閉する。金属線と筒の間には電圧をかけておく。放射線が筒の中を通過すると、ガスの原子や分子が、電子と正電荷を持ったイオンに別れて、電圧に引っ張られて金属部分に到達して電流が流れる。この電流を測定することで、放射線がたくさんきているか少しなのかがわかる。
- よく雨にあたると頭の髪が薄くなるという事を聞きますがこれは本当なのですか?酸性雨は人体に影響を及ぼすのですか?
→頭髪の色が変わることがあるという話は見かけるが、薄くなるという話はなさそう。酸性雨の影響については、本学の環境保全センターhttp://www.id.yamagata-u.ac.jp/EPC/13monndai/13ame/ame.htmlにまとまっている。
- 少し古いアニメで「ルパン三世」がありますね。その中で石川五右衛門が『斬鉄剣』を操り、鋼鉄の金庫からヘリコプターに至るまで切り捨てていくシーンをよく見かけますが、刀って基本的に「鉄」のはずなのに、なぜ「斬鉄剣」は「鉄」の金庫などを相殺を受けずに斬れるのでしょうか。
→「フィクションはフィクションとして楽しめ」というだけじゃあんまりなのでちょっと余談を入れておく。この手のフィクションについて考えるときには、2通りの方法がある。1つは「科学考証」というもので、もう一つは「SF考証」というものである。「科学的に正しい結論はこうだ」という議論をするのが科学考証、「どうすれば作品世界を説明できるか、そのためにはどこでどう嘘をつけばよいか」を考えるのがSF考証で、どちらも科学の知識を必要とするが、全くの別物である。前者に近いのが柳田理科雄の「空想科学読本」シリーズ、後者が長谷川祐一の「すごい科学で守ります」シリーズだろう。
フィクションを科学的に否定することは誰でも簡単にできるし、やって面白いかというと、あんまり面白く無さそうだと思う。作品を味わい尽くすには、SF考証をして、成り立たせるために何が必要かを考える方が、より楽しめるのではないか。ただ、ルパン三世にSF考証が果たして必要かというと……ちょっと微妙かな。もともと、実写じゃできないアクションやコミカルな動きも魅力の一つだし、それを成り立たせるための細かい設定も必要としていない。こんなことをブログに書いていたら、知り合いの人(ネット上では温泉カワセミと名乗っている)が、『斬鉄剣』の考証をやってくれたので、掲載しておく。
------------------------【ここからSF考証、科学ではなく単なるネタですので全部信じないよう注意】
<材質的考察>
まず、同じ鉄だからと言って特性が同じではなく、特に今回斬るという「加工」に重要な特性である「硬度」は、添加した合金組成によって、また焼き入れ等の熱処理によって数倍も変わるので、一概に「相殺」と言える程のことになるとは言えない。例えば、工具鋼、特に高速度鋼(ハイス)を使えば鉄系素材の加工も可能である。(高性能とは言い難いが)また、斬鉄剣の材質を、所謂純粋な鋼材に限らなければ内部に砥粒のような硬質物質を粉末状で分散させることも可能であるし、炭化タングステンにコバルトを加えて焼き固めた、金属加工に広く用いられている所謂「超硬合金」も見た目は金属そのものであるため、アニメの絵では判別は付かないであろう。超硬の場合、比重は鉄の2倍ほどあるので重量増加が懸念されるが、刃先のみに挿入すれば重量増加は限定的になると推測される。
<切断機構的考察>
金属材料を「斬る」場合、包丁で肉を切る状態をイメージしてはならない。このためには被加工材が、刃物の侵入に相当(最低、刃の厚さ)する分「変形し得る」ことが前提となっているが、いくら達人とはいえ、それなりに厚肉の金属部材をソコまで変形させるのは、人力では困難なためである。また昔、刀の出来映えのデモンストレーションとして、兜(当然鉄製)に振り落とすことがなされたが、これはあくまで「割る」のである。イメージとしては最初の打撃で生じた亀裂に、刃という「くさび」をさらに打ち込んで、ムリヤリ隙間をこじ開ける破断法である。しかし、この場合も兜のような薄い鉄板ならともかく、金庫のような厚肉鋼材を破壊するのは人力(力を作用させるための質量も)では不足であろう。加えて、この様な破壊の場合、亀裂は直線的には進展せず肉眼で違いが分かる程の亀裂の偏向や亀裂面の凹凸が観察されるが、アニメでの描写では明らかに切断面は直線的かつ平滑面であるため、この可能性も低い。
よって、斬鉄剣による金属切断機構は、一般的な金属加工と同じく「研削」つまり「刃厚の分を削り取る」ことによっている可能性が高い。おそらく、刀身を高速に振動させて触れるモノを瞬間的に削っているのであり、このためには刃先には微細な凹凸を、積極的に形成していることが予測される。1秒間に30コマ用いられるアニメの描写ですらこの様な「振動」は見えないことから、おそらく100Hz以上で微小距離振動させているのであろう。要するに斬鉄剣は「刀の形をしたヤスリ」なのである。おそらく、五右衛門のような「超達人」にしか発揮できない切断法であり、他の主要登場人物が斬鉄剣で鉄斬りをしていないことからも推測される。
------------------------【SF考証ここまで】
材料屋のプロがやるとこういう感じになる。もちろん、ウソがちりばめられているが、科学的真実を書いている部分もある。これにツッコミを入れられるようになれば、工学部の材料系の学生としては頼もしいと言ってよいだろう。
ともかく、作品を楽しむ方法はいくつもあって、こんなふうにへりくつを並べ立てて考証して楽しむというのもある。これを楽しむには、やる側も読む側もそれなりの科学的素養を必要とする。ということで、しっかり勉強すると、アニメだってもっと楽しめるというのが、大学教員としての私の主張である。
- 水の結晶と道徳で、科学の現象を道徳(情緒的)な目で見るのは本質的におかしいと思いました。この講義を受けて、科学で一番大切なのは冷静な目で現象を見て、それが正しいのかどうかを調査なり実権なりで調べることだと思います。道徳の教材のみが悪いとは思いませんが、今のように様々なインチキグッズが堂々と並べられているのにいは、そういった背景もあるのではないかと思いました。
- 道徳の教材に使われているものを、ちゃんと科学的に見ていくと、インチキがいっぱいで、おもしろいと言っていてはならないのかもしれないけど、興味深かったです。
- 世の中には、矛盾していることや事実ではないことがたくさんあるので、正しいのか判断して使えるようになりたい。
- 私は、学校の先生への道も考えているので、今日は特に余談の道徳について考えさせられました。氷の話からこんな話に発展するとは!!
- 余談がおもしろかった。教育学部の友達に読ませてあげたい!
- 水の結晶と道徳の話がとても興味深かった。「水の結晶の形が音楽や言葉によって変わる」ということがインチキであると納得できた。
- 水や氷を分子レベルから考えたことがなかったので、それらの構造などが分かっておもしろかった。道徳の余談もとても面白かった。(3名)
- 道徳の問題は確かにビミョーだと思った。
- 水の結晶について、音楽や言葉などで変わるというのを私自身テレビなどで見たことがあったので、全くの無関係であることがはっきりして良かった。道徳についての部分がとても面白かった。
- 音楽を聞かせて綺麗な結晶構造をつくるというのは僕もTVで見ました。そのときはそういうものなのかと流してましたが、今後は気をつけたいと思います。
- 「聞かせる音楽や言葉によって氷の結晶に違いが出る」という話を私も昔何かで見たが、私は化学(科学?)的に正しいかは全く別として何も感じずそういうものかと思っていた。これからはもっと気をつけて周りを見ていきたい。
- 音楽を聴かせるときれいな結晶ができる、というデタラメを公然と授業で行っている方もいると聞いてとても驚いた。
- 私も小学校の時「ありがとう」と言うのと「ばかやろう」と言うので水の結晶が変わる、という話を聞いたのを思い出した。実際には、水の結晶は温度と水蒸気圧で変わるのに、私は悪影響を受けた一人だと思った。水、氷の動径分布関数を見て、分子が規則的に並んでいるかいないかで、色々なことが分かるのだなあと思った。
- 急に講義内容が難しくなった気がした。
- 小学生の頃、何の疑問もなく受けていた道徳の授業も、今考えるとおかしいものがたくさんあったなと思いました。
- 普段の生活の中で”水”は欠かせないものだが、水を細分化することで、様々な見方ができ、奥深いものだということが分かった。
- 水と氷についてよくわかってよかった。また、不規則な場合の扱いが複雑でよくわからなかった。
- 水について今まで知らなかったことがわかった。
- 氷の結晶と同じなのかわからないが、雪の結晶はきれいですよね。
- 化学のことがよく分かった。
- みんなマイナスイオンを気にしているんだなあ、と思った。
- 水がクラスレートやハイドレートになるのは知らなかった。道徳で扱っている「水」に対して誤ったことで授業するのは自分もあまりいいようには思えませんでした。
- クラスレートやハイドレートというものは聞いたことがあったけどどのようなものか知らなかったのでためになった。
- 授業コメントに対する先生のコメントだけでも勉強になる。冷静に考えると、キレイな言葉と汚い言葉で相応の結晶ができるというのは、実におかしな話である。子供の頃に教えられればそう信じてしまう。芸術を科学に勝手におきかえてはいけない。
- 私も、中学生のころ「水からの伝言」を使った授業をうけました。その先生の話はすごく良かったけど、今回の授業で「確かにそういう考え方もあるな」と思いました。「先生=正しい」と思わずに、常に客観的な見方として講義を受けたい。
- 「水からの伝言」の本にとても興味がわき、ぜひ読んでみたいです。この授業で水に詳しくなりました。
→批判的視点を持って読んでください。間違っても洗脳されないように。
【中谷宇吉郎 雪の科学館】 JR加賀温泉駅からバスで約15分、片山津西口下車徒歩10分。休館日は水曜と年末年始。入館時間は9時から16:30。所在地:922-0411 石川県加賀市塩津町イー106 tel;0461-75-3323
ここが出している、『天から送られた手紙[写真集 雪の結晶]』はとてもきれいな雪結晶の写真が出ている。
- 化学が難しすぎて良くわからない。なるべく、先生の言いたいことをわかるようにしたいです。
- プリントが少し自分には難しくて理解できなかった。やっぱり科学は難しいです。
→全部を完全にわかろうと思わないように。内容としては、4年の卒業研究とか大学院あたりでないと出てこない話題も扱っている。原理やメカニズムの細かいところまでわかってもらおうとすると、それだけで半期が終わってしまうので、何がおきているかという現象の紹介にとどめる形にしている。
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