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インチキ科学の解読法・・・・・・ついつい信じてしまうトンデモ学説

SNコメント

 

 本書は,2000年発行のDid Adam and Eve Have Navels ?「アダムとイブに,ヘソはあったか?」の全28章のうち21章の抄訳である。第20章の「さまよえるユダヤ人」を除いて,CSICOPの隔月発行の機関誌Skeptical Inquirerに連載されたNotes of Fringe Watcherというタイトルのコラムをまとめたもの。まさに疑似科学と科学の明確でないfringe(境界領域)を論じたものであり,単なる迷信の「立春には卵が立つ」という話から,SF小説の世界が実はいつか必ずやって来るという「地球に衝突する可能性のある天体」の話まで,幅広く扱われている。ただ,原題にあるように,宗教に関わる話題は多く,アメリカで1997年に集団自殺をしたカルト教団の「天国の門」や,聖書の「ベツレヘムの星」の科学的根拠,キリスト教ファンダメンタリストの創造論,キリストの再臨,コーランに対する数秘術など,1/3ほどの章を占めている。

 物理教育を専門とする私にとって興味深かったのは,第5章の「ハロルド・パソフの大研究」と第6章の「ボームの哀しい生涯」と第18章の「宇宙を微調整する指」の3つである。はじめの「ハロルド・パソフの大研究」は,ユリ・ゲラーの超能力を事実として紹介した有名なネイチャー論文の著者の一人である物理学者のパソフが,真空から無限のエネルギーを取り出す研究をしていることを紹介しており,日本でもよくトンデモの話題として出てくる「フリー・エネルギー」の少なくとも一部の出所がわかったように思えた。次の「ボームの哀しい生涯」は,物理学の中では異端とされるボームのパイロット・ウェーブ理論を好意的に紹介している。ボームの哲学は宇宙全体が1つのホログラムのようなものだとするホリスティックなもので,ニューエイジ思想の理論的根拠として使われることが多く,私はこれまでかなり眉唾なものだと考えていたので,これはちょっと意外であった。先のパソフの研究が量子力学のゼロ・ポイント・エネルギーに基づくものであることと合わせて,改めて量子力学の基礎を勉強してみたくなった。そして「宇宙を微調整する指」は,あのニュートンがキリスト教原理主義者であったことを紹介したもので,その章題は,彗星などによって起こる摂動のために神はときどき惑星の軌道を修正しているというニュートンの確信に基づいている。私はニュートンが錬金術の研究をしていたのは知っていたが,聖書の預言の解読に関する研究で百万語以上もの文章を書いているとは知らなかった。

 なお,本書は雑誌のコラムをまとめたものなので,まさにエッセイ集であり,事実や理論の探究の深みには欠けるものも多い。また,話題に関連する本,とくにフィクションである詩や小説の紹介や引用は退屈であり,タイトルを期待して買ってしまうと裏切られるかもしれない。