奇妙な論理・・・・・・だまされやすさの研究
SNコメント
著者Martin Gardner は,1914年に生まれ,シカゴ大学哲学科を卒業後,海軍下士官,新聞記者,雑誌編集者などを経てアメリカの科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」の数学ゲーム部門の編集長として活躍し,科学解説書などの多くの著書がある科学ライターで,CSICOPの代表委員の一人。
本書は,1952年発行のIn the Name of Science「科学の名において」の全25章のうち11章を訳したもので,疑似科学の数々を紹介している。昔の本で,取り上げられている話題の中には日本ではなじみが薄いものもあるが,同じようなことが今も繰り返されていることがわかる。本書で述べられている多くの事柄は,今でもそのまま通用する。人間が陥る盲信のスタイルや,疑似科学の特徴は,変わらないのである。たとえば,「伝説は年代を決めることが難しいし,想像できるかぎりの自然の奇跡のほとんどどんなタイプでも,一つの文化の種々さまざまな民間伝承のどこかしらに現れているようである。人は神話の文献を注意深く引っかき回し,適切な物語をうつしとり,他は無視する・・・・・・これだけやればよい。」というくだりなどは,相も変わらず出版され続ける「神々の指紋」のような超古代史ものに共通に当てはまるのではないだろうか。
本書で取り上げられているトピックは,地球が平たいとか空洞であると主張する説,ヴェリコフスキーの「衝突する宇宙」(巨大彗星が地球に接近したことによって聖書に書かれた地質的大変動が起こったとする説),アインシュタインの相対性理論に対する攻撃(それらの中には大学の学長が行ったものも含まれる),キリスト教ファンダメンタリストたちの反進化論(創造科学),ユダヤ人や黒人を排斥する人種差別科学,同種療法・自然療法・整骨療法・カイロプラクティックなどの疑わしい医療法,断食療法・反牛乳主義・菜食主義などの非合理的健康法,ライヒのオルゴン理論,ハバードのダイアネティックス(精神治療の疑似科学理論で,生まれ変わりや超能力も取り込んだ「サイエントロジー」に発展),超能力(ラインのESP実験,シンクレアの透視実験)などである。カイロプラクティックは近年日本でも市民権を得てきており,指圧・マッサージとしての効果はかなりあるという話も聞くが,本書の解説を読むと,少なくともその起源や理論はかなり怪しいものであることがわかる。
なお,社会思想社は2002年に倒産して教養文庫も絶版になってしまったが,現在この本はハヤカワ文庫NFの「奇妙な論理〈1〉―だまされやすさの研究」(756円)として入手可能である。