Posted on 5月 24th, 2013 by apj
ツイッターアカウント ahaare_asayaka(この他の別アカあり)、本名は近藤毅と名乗っている人物から、ツィッターやブログ等の発言について、「提訴してやる」「告訴してやる」旨を告知された方は、差し支えなければこのエントリーのコメント欄に状況を書き込んでいただけないでしょうか。掲示板を立ててもいいんですが、ちょっと最近忙しくて充分管理できそうにないので、とりあえずコメント欄で。
なお、近藤氏本人と思われる書き込みは削除します。
昨年8月に近藤氏は私の勤務先の学長や学部長等に、告訴や提訴をする予定であるというメールを送りました。その後放置され、告訴の期限の六ヶ月はとうに過ぎたのに何も起きず、民事の訴状も来ないという状態です。送達先として勤務先を指定し、勤務先送達で訴訟を開始できることを近藤氏の居住地の裁判所の書記官に電話で確認して訴状受理のOKまでもらってそのことを公開しているにもかかわらずです。つまり、近藤氏は私の勤務先に嘘をついたということになります。勿論、近藤氏に削除を求められた内容はそのまま公開中です。
その後、私以外の人にも同様のことが行われていると伝え聞いております。
伝え聞いた状況の例などから、私は、近藤氏の目的が金銭にあると考えるようになりました。その理由の1つは、近藤氏が弁護士に相談した形跡が全く無いことです。本人訴訟は可能ですが、相談すらしないというのは、相談料をけちっている、つまり元手はかけたくないということではないかと思うのです。10万円を要求するだけなのに弁護士に相談していては、手にできる金額が減るか、下手すれば赤字になるのは明らかです。また、最初に支払いやすい少額の要求、その後金額を上げて提訴、というパターンだと、(相手が訴訟を面倒だと思えば)最初に要求された少額の金を渡して決着、というケースが出てくるかもしれません。
この推測を裏付けるための情報を集めたいというのが主な目的です。
情報が集まれば、今後同様なことをされた人にとっても参考になるかと思います。
なお、この人物に訴訟をちらつかされても絶対に先に金を払わないようにしてください。手続き無しに金を手にできるということになれば、ますます同じ事を繰り返しかねません。
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Posted on 5月 13th, 2013 by apj
ウチの学科は実験を伴う必修の講義が1年次後期から始まるし、卒業研究は必修、卒業論文もほぼ全ての研究室で書くことを課している。学生実験であるので、テキストもあり、やる内容も決まっている。レポートには使った実験器具や実験手順も書くように指導しているが、メニューが決まっているので、書くとなるとほとんどテキストの一部分を丸写しする結果になる。
わかりきっていることを何故書かなければならないかというと、レポートとしての形式を満たすための訓練である。これをおろそかにして社会に出ると何が起きるかを最近実感した。
事件は、某水処理装置会社が某管理会社にトルマリンを利用した水処理装置を売ったが宣伝文句が科学としては間違った内容を含んでおり、後から事業を引き継いだ某管理会社2がそのことに気づいてメンテナンス料の支払いを拒んだところ提訴されたというものである。現在進行中の他人の訴訟であるし、議論の本筋と関係がないので、固有名詞への言及は差し控える。
さて、訴訟が始まり、原告の某処理装置会社は、製品には科学的根拠もあるし大学で測定もしてもらっている、と、製品開発の参考にした日本語の報文(ここで取り上げたもの)や、自社製品を某大学某研究室に依頼して測定してもらったレポートを証拠として裁判所に提出した。被告から、原告提出の証拠について科学的見地から意見書を出して欲しいと頼まれたので、私の出番となった。
まずは大学で行った実験について検討するか、と、原告が某大学某研究室に依頼して測定してもらったと称するレポートを見たら、これが、主に次のような理由で大変ひどい出来であった。出されたレポートが後から改竄されていないという確証が得られないので、具体的な研究室名は伏せる。
(1)測定に使用した装置の製造元と型番が充分に記載されていない
レポートには試料の電顕写真やX線回折の結果、元素分析の結果が掲載されていた。しかし、元素分析をどのような方法でやったのかについては、装置も手法も書かれていないため、推測するしかない状態だった。このため、一体どの程度信頼できるデータなのか、信頼性の相場はどれくらいなのかの評価が困難だった。
(2)図のキャプションと、レポートの後の方で出てくる説明が食い違っている
試料の加熱処理の温度を変えて同じ測定をしたグラフが1ページにまとめて掲載されていた。ところが図番号を示して書かれたレポートの結論を読むと、その中に別の測定法を用いたものが混じっていると読める内容になっていた。キャプションが正しいのかまとめの説明が正しいのか、推測で判断するしかない状態だった。具体的には、元素分析のグラフなのかX線回折のグラフなのかが曖昧という状態だった。
(3)結果について何も言及していないグラフが掲載されている
部材と錆びた金属片を水に投入し、撹拌しながらpHがどのように変わっていくかを測定したグラフが載っていた。この商品を使うと水道配管の防錆効果があると宣伝されており、錆びた金属片を加えた実験は、セールスポイントである防錆効果を直接確認するものであった。しかし、錆の状態がどうなったかについてはレポート中に記載が無かった。その上、その図の番号を示して結論部分に書かれた説明は「熱分布曲線の測定」となっていた。なお、レポート中のグラフに熱分布曲線を測ったらしきものは存在せず、単純な図番号の付け間違いとも思えない状態だった。
(4)図の縦軸と横軸の判読が難しいものが多数ある
図のキャプションと説明が食い違うという状態だったので、図の縦軸と横軸がわかれば少しは推測もしやすいところ、判読できないものが多かった。
(5)説明が不十分かつ不親切
この商品は、上記報文の久保氏の説によるトルマリンの焦電性を利用した水処理を原理として採用していた(この内容自体の是非はともかく)。ところが、大学が出したX線回折の結果は、商品の部材にトルマリンの結晶構造が存在しないというもので、レポートにも文章で明記されていた。トルマリンの焦電性は特定の結晶構造によって維持されているので、結晶構造が壊れれば焦電性もなくなる。トルマリンの結晶構造が無いという測定結果を得たのであれば、焦電性が消失している可能性に言及するのが当然であるべきところ、何も書いていなかった。依頼された方法で測定を行い結果の解釈は依頼者に任せるという立場があることを否定はしないが、こうして裁判所にまで証拠書類として出された挙げ句、宣伝の前提を否定する実験結果であることを晒すくらいなら、説明を書いておくのが依頼者に対して親切だったのではないか。
こんな具合に、測定を引き受けた教授の印鑑(コピーで見た限りシャチハタっぽかったけど)が表紙に押されていたレポートが、レポートべからず集のオンパレードであった。変なことを言いだす水処理装置会社がいるのはよくあることなので別に驚かなかったが、大学の名前でこんなレポートが民間企業に出されていたことの方にショックを受けた。さすがに、大学の研究室がこんなものを出したとはすぐには信じられず、誰かが途中で改竄あるいは編集したのではないかと疑っている。
私は、測定法に馴染みがないであろう裁判官のために、用語集や教科書などから引用したものを資料として添付し、それぞれの測定法がどんなもので何がわかるかを解説した上で、問題点を指摘した意見書を書いて被告代理人に託した。
意見書の中で「もしこの書き方のレポートを学生実験の結果として学生が提出したら,私は間違いなく書き直しを命じて再提出させるか,不合格の判定を出す」と書かずにはいられなかった。読んだ裁判官は苦笑したにちがいない。原告から次回の反論のため某研究室に私のコメントが回されたら、私は研究室を2つばかり完全に敵に回したことになる。
当学科の卒業生なら、学生実験をこなし指示通りに実験レポートを書く習慣を身に付け、社会に出てからもその基本を忠実に守っていれば、(1)〜(5)にあてはまるようなレポートは書かないはずである。
ここからは学生向け。
実験のレポートは個人の成績評価に使われるものだと思っているかもしれないが、社会に出たらそうではない。書く側の心構えとしては、出る所に出される可能性を考えて、評価に耐えられる程度に必要事項を記載しなければいけない。それができなければ批判に晒され信用を落とすし、今回のように、依頼者を裁判所で不利にする材料を提供することにもなり得る。
逆に、企業等に就職し自社製品に関わる測定を依頼する場合、受け取ったレポートが最低限の形式を満たしているかということや、内容に矛盾が無いかといったことのチェックをしなければいけない。不明なところがあれば問い合わせてはっきりさせるといったこともしなければいけない。チェックのポイントは、これまでに正しいレポートの書き方として指導された項目全てである。
大学では、全員同じようにトレーニングされるので、まともなレポートが書けて読めることが強みだとは意識しないかもしれないが、最低限満たすべき基準を超えていないと信用されないし身を守ることもできない。今受けている面倒なトレーニングには意味があるということを認識してもらいたい。
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Posted on 5月 9th, 2013 by apj
ふと気になって、数研出版の「最新版視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録」(平成16年発行)のチンダル現象の解説ページを見てみた。
コロイド粒子は光を散乱させるので、コロイド溶液中を通る光の道筋が見える。一方、普通の溶液に含まれる分子やイオンは光を散乱させないので有色の溶液でもチンダル現象は起こらない。
確かに私も高校生の頃、こう習った記憶がある。
東京書籍の化学IIだと、チンダル現象のところに
水溶液では溶質の粒子が小さいので光を散乱しない。
と但し書きが。啓林館の化学IIでは、チンダル現象の写真として、デンプン水溶液、硫酸銅水溶液、水酸化鉄(III)コロイド水溶液、水の入ったビーカーを並べて赤色レーザー光を当てた時の光の通路の写真を掲載している。水と硫酸銅水溶液では光が通っているのが見えない写真になっている。
これでは、私のところで測定している水のラマン散乱は、はたまた夢か幻か……ということになってしまう。
実際、研究室配属になった4年生に「チンダル現象でなくても液体があるだけで散乱は起きる」とわざわざ教えなければならないのは、高校でチンダル現象の写真をすり込まれてきているからだろう。
論より証拠で、コロイドの入ってない液体にレーザー光を当てるとこうなる。
レーザー光は写真左から入射していて、写真奥の方が集光レンズである。セルの中には横にまっすぐ光の経路(パス)が通っているのがわかる。パスが見えるということは、光の散乱が起きて、散乱された光が目に届いているということである。
写真の光学セルの中身は、0.2ミクロンのフィルターを通した純エタノール。水でも他の有機溶媒でも大体似たような感じで、物質によってパスの明るさが違う。水はアルコールよりも暗く、ベンゼンはアルコールよりも明るい。
パスを見せている散乱は、レイリー・ブリルアン・ラマン散乱であって、チンダル現象ではない。この散乱は3つ合わせてもチンダル現象よりずっと弱い。しかし、教科書の写真にあるように、光のパスが全く見えないというわけではない。
低分子の液体だけでも光の散乱は起きるんですよ!!
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Posted on 5月 8th, 2013 by apj
NMRパイプテクターの件で相談があった。
団地の理事長が委任状を使って、勝手に買うことにしましたが、団体裁判でお金を払い戻す方法はないでしょうか?
この商品の説明が科学としてはナンセンスであり、また、過去に私を脅したことは既に水商売ウォッチングの方に書いた(日本システム企画株式会社よりのクレームとその対策、水商売ウォッチングに対するクレームと、法律相談の結果、警告文ウォッチング)。私がある程度真面目に法律を勉強しようと思うきっかけになったクレームで、今読み返すと懐かしい。それはともかく、その後もここの宣伝資料はものすごいものが続出したので、と学会年鑑AQUAでもネタにした。売り込みを受けて困惑している方はこれらをご覧下さい。
それはともかく、この会社はうまいところに目を付けて売り込んでいるので、買ってしまった後で説明に担がれたと気付いても、救済の道が容易ではない。
この相談者のケースでわかるように、団地の理事長やマンション管理組合の理事長に売り込んでいるので、訪問販売の形式をとっていても、消費者契約法での保護から外れるし(たぶん)、景品表示法の適用も難しいという問題がある。集合住宅に売り込まれた場合、こりゃダメだと思った人は当然「自分の出資分の金返せ」と思うわけだが、それをどうやって実現するかが難しい。また、ダメ判定をした人達が返金を求めれば、信じている人達と正面から法律問題として争うことになる。争う相手は同じ集合住宅の住民ということになるので、人間関係を重視するなら住民を二分して揉めるというのもそれなりに覚悟が必要である。
マンションやアパートの管理運営を引き受ける方はそれなりに物の道理もわかっており住民にも支持されている方なのだろう。しかし、ニセ科学宣伝への抵抗力が一般の消費者よりもあるかというと、必ずしもそうではない。
今足りないのは次のようなことである。
(1)形式上は一般消費者扱いではないが力の実態は一般消費者と何ら変わりがない集合住宅の管理担当者を、一般消費者と同じ基準で救済できるようにするための法改正(景表法及び消費者契約法)。
(2)現状の法の枠組みで、出資した金が明らかにヘンな製品に使われた時に出資者が救済される法律構成を弁護士に考えてもらって、実際に訴訟を行い金を回収する下級審裁判例を作る。
(3)(2)を楽に実現するための立法。
さしあたり、相談者が実行できるのは(2)しかない。そこで、「委託した金が全く同意できないことに使われた場合の救済策については、私は素人なので何とも言えないが、弁護士なら考えてくれるかもしれないので、まずは弁護士に相談するように」という旨回答した。さらに、「もし弁護士に相談して訴訟ということになった場合、宣伝の非科学性を裁判所で立証するための意見書を書くといった協力をする予定はあるので、相談時に弁護士にそのことを伝えてもかまわない」と付け加えた。
(2)の裁判例が出ればかなり状況は良くなるだろうとは思うのだけど……。
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