HP prime graphing calculator のCAS機能

 とりあえずMacのparallels desktopにWindows7を入れ、HP Connectivity Kitをインストールして、HP prime graphing calculator のファームウェアアップデートを行った。
 この結果、Apps→Functionsと選んで、関数を入力するところでは、最初からシングルクォーテーションで囲った中に入力するようになって、関数電卓の方はRPNのままでも、textbook方式で入力すれば式が入るようになった。しかし、CAS機能で方程式の解が出なかったり、定積分ができなかったりする状態は改善しない。
 これも、ひょっとして、と思って
proot(‘2*x2+3*x-2′)
のように式をシングルクォートで囲ったところ、解が[-2 .5]のように正常に表示された。
 定積分は、
int(‘5*x2-6′,’x’,1,3)
のように、積分すべき式とパラメータの名前の両方をシングルクォートで囲ったところ、94/3、と解が正しく表示された。

 しかし、これらのシングルクォートは、毎回Shift Varsとキーを押して画面上で選ばなければならず、大変に面倒である。

 情報交換している海外フォーラムを見た方が良さそう。

関数電卓の試練

 HP primeと使い比べてみようとして、Texas Instruments Nspire CX CAS をamazonで頼んだ。この商品はHP primeのような使い勝手の問題は報告されていないかわりに、「正しい商品がなかなか送られてこない」という問題がある(amazonのレビュー)。
 本日届いたので引き取って開封したら、案の定、CAS機能のないTexas Instruments Nspire CXが届いていた。早速サポートに連絡して返品&返金の手続きをとると同時に、別のショップで同じ品を注文した。

 次回は正しい商品を受け取ることができるのだろうか。

HP prime graphing calculatorを買って不具合にみまわれる

 久し振りに関数電卓を買った。TI Nspire CX CASを買おうかと思っていたのだが、HP電卓を調べていたら良さそうなグラフ電卓が出ていたので購入。カラー画面がタッチスクリーンになっていて、RPNにするかどうかの切り替えができる。もちろんRPNにして使い始めた。
 付録のCD-Rには、Windowsで動く実機のエミュレータと、PCで作ったプログラムを実機に入れたりするための接続キットと簡易マニュアルが入っていた。本格的なユーザーズガイドはpdfファイルをHPのサイトから勝手にダウンロードせよ、ということで、付録CD-Rには入っていなかった。このへん、ユーザーの自助努力を期待する放任な方針が全開で、どうせマニアしか買わないだろうと思われている節があるような……。
 ところが、CAS(ビルトインの数式処理機能)で、2次方程式の解を求めたり、簡単な定積分をしようとするとエラーになって実行できない。ユーザーズガイドの例を順番に実行していて発覚した。マニュアルによると、関数電卓についてはRPNとtextbookとalgebraicを選べるが、CASとビルトインのアプリでの式入力はtextbookとalgebraicのどちらかだと書いてある。入力方式がまずいのかと思って、関数電卓機能の入力をtextbookやalgebraicに変えてみてもやっぱり計算されなかったりエラーが出たりする。リセットスイッチを押してみても状況は変わらない。
 私が何か間違えているのかと思って、エミュレーターで同じことをしてみたら、期待した通りに動いた。
 これはサポート対象だろう、ということでコールセンターに電話をしようとしたら、サポート業務は中国の会社に委託されていて、電話番号が国際フリーダイヤルだった。そのままでは電話できないので、まずは0057でKDDIにつないでオペレータを呼び出して、携帯電話から国際通話可能になるように設定してもらった。その後サポートに電話をして状況を伝えた。米国本社に連絡をするそうで、少し時間がかかるとのことだった。

 なお、この電卓、RPN入力を選んだままだと、ビルトインアプリのPlotなどで数式を入力するとエラーが出る。じゃあ数式をRPNで入力できるかというとそれもできない。全体の入力方式をtextbookかalgebraicにしてからでないと、ビルトインアプリが使えないということらしい。この切り替えは面倒である。CASや数式そのものの入力までRPNに対応しろというつもりはないので、関数電卓で選んだ入力方式の影響を受けないような仕様にしておいてほしかった。なお、こちらも、エミュレーターでは関数電卓をRPNモードにしておいたままでも、アプリを選んでRPNでない方式で数式を入力してもエラーにならない。しかも、入力時に’’(シングルクォート)が出てそこに入力する表示になる。どうもエミュレータの方が期待通りに動いてかつスマートな気がする。実機のアップデートあるいは早急な改善をしてほしい。

 Appleの最初の製品は人柱覚悟で、と言う話はあるけど、HPの関数電卓を使うのに人柱になる覚悟がいるとは思わなかったし。

 RPN入力モードのままでビルトインアプリで数式を入力する件。エミュレータで入力しようとすると、最初から、’’(シングルクォート)が出てそこに入力する表示になっているため、もしやと思って、実機の方で、
入力方式をRPNにする。
Appsキーを押してFunctionを選ぶ。
Editをタッチ。
Shift+Varsを押してCharsを出す。
一番上の行のシングルクォートをタッチしてOKをタッチ。
Enter Functionのところにシングルクォートが出るので、その間に通常の順序で数式を入力。
をしてみたところ、正常動作した。グラフも狙い通りに描ける。ただ、一手間以上面倒。

大学で学ぶのに必要な能力の具体例

 ○○力、といった曖昧な表現だと、入試ごときで全人格的評価するような印象になってしまうのだけど、実際のところ必要なのはこの程度だという話。

○「コミュニケーション能力」
 わからないところをきちんと言葉で説明して質問できる能力。
 グループで学生実験する時にメンバーと意思疎通できる能力。
 社交的とか友達を沢山作るといったことは個人の趣味の問題なのでどうでもいい。
○「道徳観および誠実さ」
 試験でカンニングしない。
 レポートなどで、他人の書いたものを丸写ししない(ネットのものも友達のものも)。
 データ捏造や改竄をしない。
 実験器具を壊したら迅速に正直に報告。
 その辺に置いてある自転車を借りパクするとか、犯罪にあたることをするのは論外。
○「知識および創造力」
 大学の講義についていける学力。入試で相当なところまで測れる。
 創造力は必ずしも全員に求められるものではないし測るのも無理だろう。自分からいろいろ考えたり調べたりする態度は欲しいところ。
○「計画性および運営力」
 試験前の一夜漬に頼らないよう、毎日予習復習する。
 実験について事前の段取りが必要な場合は適切にこなせること。
○「回復力」
 何かトラブルがあったからといって引きこもらない。
 大学にはきちんと出てくること。
○「チームワーク」
 班組んで実験したり共同で1つの作業ができる。話し合って仕事の分担を行える。

牛乳☆たん@milktan2525による曖昧な削除要求

 本日、苦情電話があったので内容を伝えたい、という連絡があったので、学部長と理学部総務係のところに行った。
 それによると、
1.私のウェブサイトについて名前も名乗らず削除しろと電話してきた人が居る。
2.電話を受けた大学の人は名前を聞いたがその人物は名乗ることを拒否した。
3.削除を求めるページは、EM菌について書いたもの。
4.削除理由ははっきりしない。名誉毀損とは言っていたらしい。
直接、理学部の総務係の人から聞き出せたのはこれだけだった。
 その後、理学部の総務係の人が本部に連絡して、追加で判明したことは、
5.5月7日の記事で私が批判を書いた 牛乳☆たん@milktan2525 という人で氏名は不明。
6.削除してほしい記事は5月7日付けのもの
7.大学の研究者情報の記事からリンクをたどるとその記事にたどり着けることも問題にしているらしい。

 となっていて、削除理由ははっきりしないままであった。
 これまでにやってきた削除要求のなかで、今回のものが一番わけがわからない。

 問題の記事というのがhttp://www.cml-office.org:8080/official/wwatch/radioactive/comment-rad-06.htmlのことだとして、牛乳☆たん@milktan2525から反論してみろとツイッターで言われたからわざわざ反論を書いて公開したのに、反論を求めてきた張本人から削除を求められるというのは全く意味がわからない。
 クレームを受け付ける前提として、牛乳☆たん@milktan2525 ってどこの誰、ってことが問題になる。確かに他人の権利を侵害する内容を書いて公開した場合、削除を求められるのは当然あり得ることだが、その削除を求める権利を有するのは書かれた本人だけである。電話をかけてきた人物がツィッターの牛乳☆たん@milktan2525であることを、私はどうやって知ればいいのだろうか。しかも、電話に出たのが本部の広報担当の誰かで、それを理学部の総務係の人が聞いて、私に伝えるという伝言ゲーム状態で。
 次に削除理由。一応、名誉毀損というキーワードは登場した様子なのだけど、私が書いた文章が名誉毀損にあたるかどうか以前の問題として、一体誰の名誉の話なのか?という疑問がある。名誉毀損というのは人の社会的評価の変動が生じれば成立する。牛乳☆たん@milktan2525の中の人が誰であるかということが不明なままでは、牛乳☆たん@milktan2525のネット上での評価がどう変動しようが、中の人の社会的評価の変動には全く結びつかないので、名誉毀損自体が成立しないことになる。

 電話をかけてきた人が、そもそも削除を求めうる立場にある人物かどうか、理由として出て来た名誉毀損が成立するかどうかを確認しておく必要があるので、牛乳☆たん@milktan2525の中の人につながる情報を募集しています。どなたかご存知の方はぜひお教え下さい。

 今回のクレームについては、
1.牛乳☆たん@milktan2525 がどこのだれであるかが特定できること。及び、私が反論を公開した2014/5/7の時点で容易に特定可能であったことが示されること。
2.削除理由。名誉毀損を主張するならば該当する文言の特定がなされること。
3.1.および2.がわかる内容が文書で届くこと(形式は自由)。
が無い限り、このまま放置して対応はしません。

 なお、名誉毀損ということなら、こちらに書いたように私が言ってもいないことを言ったという内容をツィートした牛乳☆たん@milktan2525の方が既に一線を越えています。科学非科学論争の時に、私が、線引きできないと言った後、グレーゾーンがあるということや、明らかに黒と明らかに白は区別できる等と書いたものを牛乳☆たん@milktan2525は既に読んでいます。その上で「科学と疑似科学の区別もつかないと自分で言ってた人」と事実摘示を公然と行いました。私の方は業務として科学リテラシーというテーマで講義も行っており、この事実摘示は直接仕事の信用に関わるものです。ですから、私の側には、牛乳☆たん@milktan2525の発信者情報開示をかける理由が既に存在しています。

 まあ、前期前半は特に多忙なのでどうするかはまだ決めていません。牛乳☆たん@milktan2525から訴状の1通でも来れば、中の人が誰かははっきりするでしょうから、それを待って対応しても遅くは無いでしょう。
 ということで、どうしても削除させたければさっさと私を訴えるように>牛乳☆たん@milktan2525。最初の送達先は職場にしてください。週明け早々に事務にもそのように伝えておきます。なお、裁判所の書記官は自宅住所でないとなかなか訴状を受け付けてくれない場合がありますが、被告(予定)が、職場を居所にしてかまわないと事前に主張している場合はすんなり受け付けてくれるようです。必要ならこの記事を印刷したものを提出時に窓口で提示してください。

【追記2014/05/13】
 今日に至っても、牛乳☆たん@milktan2525(現在のツィッターアカウントは@milktan2828)がどこの誰であるか特定できるだけの情報が出てこない。私の書いたものは、仮にどこの誰か特定できる人物について言及したものであったとしても名誉毀損にあてはまるとは考えていないが、特定できない人物への言及であるならそもそも最初から人の社会的評価を変動させることが不可能なので名誉毀損にならない。つまり牛乳☆たん@milktan2525を名乗った人物は、絶対に名誉毀損にならないことを知っていたにも関わらず、名誉毀損を理由に私の職場に電凸するという「ただの迷惑行為」を働いたことになる。
 牛乳☆たん@milktan2525(現在のツィッターアカウントは@milktan2828)の主張する「名誉毀損」が言いがかりに過ぎないことは、本人の態度から明らかである。まず、牛乳☆たん@milktan2525の名誉とは一体どこの誰の名誉のことか明らかにしていない。次に、私が書いたもののうちどの部分が名誉毀損なのか特定していない。削除要求を出す場合は、この2つを明かにして電話ではなく書面で要求するのが普通であるが、本人にその気は全く無いと判断せざるを得ない。今のところ、牛乳☆たん@milktan2525が今回主張した「名誉毀損」とは、明らかに口先だけのものだと私は考えている。

【追記2014/05/14】
 さて、牛乳☆たん@milktan2525は鍵がかかり、@milktan2828の方でいろいろ言っているようだが、念のため警告を書いておく。
 http://www.cml-office.org/v2log/2014/05/06/fringescience/560で指摘したような姑息な中傷を鍵アカで行った場合、フォロワーの人数がさほど多くなくても公然性が認められて名誉毀損成立の可能性があるということだ(過去に、大学の教授会というメンバー限定の場所での発言に名誉毀損が認められた例があある)。しかも、鍵アカで私がその事実を知るのが遅れた場合、相手の行為を知ってから一定期間の間に責任を問えば良いことになっているので、時間が経っても時効とならない。鍵アカにしたから安心して都合のよいことが何でも書けるなどとは思わない方がいい。

「福島で放射線のせいで鼻血」に特商法6条運用指針を適用して評価しよう

 鼻血の原因を福島県の放射能のせいにする言説について、どうも、効果のない健康食品やダイエット食品の宣伝と同じに扱えばすっきりしそうだと気づいたので簡単にまとめておく。
 これまでにわかっていることとしては、放射能が原因の鼻血つまり出血傾向がみられるのは骨髄死を起こす3〜6Gy被曝した時の急性症状としてであり、急性症状を起こさないような低い線量では(現在の福島はこちら)鼻血のような出血傾向がみられるという効果は見つかっていない、ということがある。人為的に短寿命のRIを患者さんの体内に入れた場合(核医学検査)でも、患者さん本人が検査の前後で放射線が原因の鼻血で困っているという話は皆無である。

 考えるための参考資料は、特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針。景品表示法の4条2項の運用指針もこれと同じ内容である。

 まず、福島県に行った人が鼻血を出した事実があれば、これは別に否定しない。福島県に行く人など大勢いるのだから、その中でたまたま鼻血を出す人が居ても全く不思議ではないし、花粉症の季節には数が増えるかもしれない。
 鼻血の原因が「福島県の放射能」にあるとする主張は、放射能の「効果効能」を謳っている言説の一つであると考えることができる。本人だけがその「効果効能」があると思い込んでいるなら自由だが、他人にその主張を振りまくことによって他人の判断を誤らせたり、しなくていい心配をさせる可能性がある。

 個人の経験を語ることによって他人の判断を左右するケースの典型例は、根拠のない健康食品やダイエット食品を他人に売りつける時の体験談を利用した広告である。宣伝と、鼻血の原因を福島の放射能であるとする言説は、体験によって効果効能を他人に伝えるという共通点がある。「使った、治った、効いた」が健康食品の「3た論法」であるのに対し、「福島に行った、鼻血が出た、放射能が効いた」が使われている。効果効能が見つかっていない健康食品やダイエット食品に効果効能があると主張するのと同じように、鼻血を出すという効果効能が見つかっていない低線量の放射線について鼻血を出す効果があるという主張が行われている。
 したがって、宣伝に対して求められている根拠と同じものを求めていけば、それなりに確からしいかどうかがわかるのではないだろうか。つまり、経産省のガイドラインに従って「合理的な根拠」をそなえているかどうかを確認すればよい。

 ガイドラインの7ページには、「合理的な根拠」の判断基準として、企業(つまり効果効能を謳う側)が提出する資料について、

①提出資料が客観的に実証された内容のものであること
②勧誘に際して告げられた、又は広告において表示された性能、効果、利益等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

が求められている。ここでいう「客観的に実証」とは、

① 試験・調査によって得られた結果
② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

である。
 放射能の効果効能については、商品販売ではないので、「合理的な根拠」の②はさしあたり考えなくても良い。①についてのみ考える。
 この基準によれば、体験談に基づく「鼻血の原因を福島の放射能に求める」主張は、全て却下するべきだということがわかる。
 試験・調査の方法についても制限があるので、詳しくは上記の参考資料を見ていただくとして、関連部分を抜粋すると、

①に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。
②学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法が存在しない場合には、当該試験・調査は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある。
③…長期に亘る多数の人々の経験則によって性能、効果等の存在が一般的に認められているものがあるが、このような経験則を…根拠として提出する場合においても、専門家等の見解又は学術文献によってその存在が確認されている必要がある。

となっている。

 ダイエット食品やでも健康食品でも、使ってみて効果があったという人は存在する。そういう人が居るからといって、特定の「○○ダイエット」や健康食品に効果効能があるだろうということは言えない。なぜなら、比較すべき対照群がないために、本当にダイエット食品や健康食品が有効であったかどうかがわからないからである。
 鼻血も同じで、福島に行ったら鼻血が出たからといって、鼻血の原因が福島の放射能だということはいえない。鼻血を出す原因は他にもいろいろあるので、他の県との比較をしないとそもそも福島に原因があるかどうかもわからない。

 現状では、鼻血が出たことを福島の放射能に関連づける言説は、風評被害の原因になるなどという理由で強く批判されることがある。これは、純粋な科学の問題ではなく、言説が社会の中でどう位置付けられているかということによる。
 たとえば、「マイナスイオンは体に良い」という根拠のない言説が10年ほど前に大流行した。批判も相当あって、今では落ち着いてはいる。しかし、言説があまりに広がったため、もはや、体にいいとか、その他個別具体的な効果を言わなくても、ただ単に「マイナスイオン」と言うだけで「体に良い」イメージを相手に伝えることができてしまう。この状況が生じている時に、「マイナスイオン」を謳って商品を他人にすすめたら、騙す意図があるのだろうと疑われても仕方がない。
 特定のサプリメントについて上記の基準を満たす合理的な根拠無しに「がんに効く」という話が広まっている時に、「自分も癌だがこのサプリメントを使っていたら治った」という体験談を広めたら、それがその人にとって事実で、誰かに知らせることに何ら悪気が無かったとしても、「他人の判断を誤らせるようなことは言うな」と批判されることはあり得る。
 鼻血の原因を福島の放射能に求める言説もこれらと同じで、体験談によって他人の判断を誤らせることをさらに進めるから批判の対象となっている。

 引用した基準を満たす根拠が出てくるまでは、鼻血の原因を福島の放射能に求める言説は、臨床試験のない健康食品に効果効能があったと主張する体験談程度の話だとして扱うしかない。そういった体験談で商品を買ってしまう人も相当数居るので、鼻血の原因を福島の放射能に求める言説が無くなることはないだろう。ただ、その言説が体験談宣伝と同レベルだと指摘し続けることは、ついその気になってしまう人を減らすことには役立つはずである。

※運用指針は、心の準備ができていない消費者に不意打ちで販売する時の規制なのだけど、その内容の本質は「不確かなことを言って他人を惑わしてはいけない」というものなので、商品販売を伴わない言説の流通に対し、個々人がこの基準を流用して判断することは全くかまわないだろう。

わざとに行われた言い換えの例

 たとえば、私の発言について

牛乳☆たん@milktan2525 1:35
@Hideo_Ogura @apj apj氏に科学的態度を要求するのは無理です。その人は科学と疑似科学の区別もつかないと自分で言ってた人なので、おそらく健康食品のまっとうな商法と悪徳商法との区別もつかないでしょう。

といった主張がなされています。これ、私が主張したことではなく、他人の勝手な解釈によるものです。つまり私の発言ではないのです。実際に私がどう発言したかは、このあたりに記録が残っています
 もとは、「科学」と「非科学」の間に線は引けるかという問いに対し、「グレーゾーンが拡がっているため線引きはできない」と私が答えたものです。グレーゾーンがあるわけですから、1本の線は引けませんが、明らかに確からしいほぼまっ白から、明らかに科学ではない大体真っ黒なものまで幅があるわけで、真っ黒なものについては非科学と判定しても間違いではないわけです。既に白である内容に反するものであれば、科学非科学判定における黒、ではなくて、単なる間違いとする方が適切でしょう。
 まず、上記で引用した言説は、元々科学と非科学の話であったものが、科学と疑似科学についての発言であるとされています。この点で元の発言の趣旨とは違っています。私は、科学を装った言説については一貫して「ニセ科学」と呼んでおり、疑似科学とは区別しています。科学と疑似科学の線引きについて議論したことはありません。
 次に、程度の問題を無視するという種類のごまかしが行われています。グレーなところに1本の線を引けない、ということと、両端に近い黒と白の区別がつかないということは意味が全く違います。
 つまりこの言い換えは、「apj氏に科学的態度を要求するのは無理」と言うのに都合良く見せかけるために、私の本来の発言の趣旨をねじ曲げているものなのです。おそらく、本来の私の主張をそのまま書いたのでは、都合のよい主張つまり科学的な話の信用をわざとに落とすことができないからでしょう。
 勝手な解釈をもとに、言ってもいないことを本人が言ったように見せかけるというのは、不誠実です。
 なお、科学とそうでないものの間に線が引けるかというのは、科学哲学で以前から出されていた問いで、線引きできない、というのが一応のコンセンサスとなっています。このコンセンサスがあるからといって、科学的態度をとれないとか、科学的な態度や科学そのものがあてにならないかというとそんなことはありません。線引き問題については、科学の専門家に訊くよりも科学哲学の専門家に訊いた方が、現状の研究を踏まえた答えが得られるはずです。

 参考までに、「科学哲学の冒険」(戸田山和久著、NHKブックス)の83ページより、線引き問題について書かれている部分を引用しておきます。

科学と科学でないものとを区別する基準を探そうというのも、科学哲学の古くからの問題で、「線引き問題(demarcation problem)」と呼ばれている。線引き問題の現在のところの結論は、科学と非科学をすっぱり区別するただ一つの基準はなさそうだ、というものだ。だからといって、科学と非科学は結局区別できないんだということにはならない。いくつもの基準があり、それの総合点というか合わせ技で、やはり、現在まともな科学とみなされているものとそうでないものとの間には大きな隔たりがあるということが示される。この点については伊勢田哲治さんの『科学と疑似科学の哲学』(名古屋大学出版会、285ページ参照)が詳しい。

 線引きできない、というのを絵で表すならば、白から黒までグラデーション塗りした帯を想像すると良い。白黒の境界線を1本引くことはできないが、白い方の端と黒い方の端の色の違いは誰が見ても明らかである。これが、まともな科学とそうでないものを分けるのは「大きな隔たり」でしかない、ということの意味である。

【追記2014/05/08】
 伊勢田さんの「疑似科学と科学の哲学」も確認したので追記。この本に285ページは無いので、戸田山さんの本に書かれた参照ページは誤記ではないかと思われる。線引き問題について、おそらくここではないかと思われるのは252ページの
「2)線引き問題は何を問題にしているのか?」という節と257ページの「4)線を引かずに線引き問題を解決する」という節である。ここに挙げられている線引きの基準として使えるかもしれないもの一覧は次の通りである。

(a)ルースの線引き基準
(b)枚挙的帰納法
(c)仮説演繹法
(d)ヒューム流懐疑主義(奇蹟論までふくめて)
(e)反証主義(仮説自体の反証可能性)
(f)方法論的反証主義(反証された仮説に固執しないこと)
(g)蓄積的進歩
(h)俗流パラダイム論
(i)クーンの「通常科学」による線引き
(j)クーンの五項目の合理性基準
(k)リサーチプログラム論
(l)リサーチトラディション論
(m)強制的な基準(学会誌、査読制度など)
(n)科学的理論の使用
(o)強い再現性・操作性
(p)機械論的世界観の使用
(q)マートンの科学の四つの規範
(r)ファイヤアーベントのアナーキズム(なんでもあり)
(s)科学知識社会学
(t)特定理由の要件
(u)統計的検定法
(v)ラングミュアの病的科学の徴候リスト
(w)ベイズ主義

さらに、伊勢田氏は、

 確かに、科学であることの必要十分条件を与えるのは無理そうだ。ということは科学も疑似科学も区別できないということになるのだろうか?それはちょっと気の早い結論である。わたしが提案したいのは、「科学と疑似科学は区別できる、しかしそれは線引きという形での区別ではない」という考え方である。第5章で確率論的な「程度」思考の重要性を強調したが、「程度」思考を取り入れるということは,科学と疑似科学の間の区別を線引き問題としてとらえることを止める、ということでもある。

が、グレイゾーンが存在するからといって明確に科学的な分野や明確に非科学的な分野が存在する可能性を排除することにはならない。

と述べている。
 結局、伊勢田氏も、科学とそうでないものの判定は合わせ技でやるしかないという考えを示している。列挙された基準のいくつかと、分野ごとのクリティカルな要件を満たしていないといったことの合わせ技でもって判定するしかないというのが現状である。

学生が教員の悪口をネットで書いた場合でもそれなりの賠償金が認められる

 Yahooニュースの記事より。

元准教授「ネットで中傷」 横浜地裁が教え子に賠償命令
カナロコ by 神奈川新聞 5月2日(金)7時3分配信
 インターネットの掲示板「2ちゃんねる」での書き込みで中傷を受けたとして、慶応大学湘南藤沢キャンパス(藤沢市)の元准教授が教え子の男性に約330万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が1日までに横浜地裁で言い渡され、志村由貴裁判官は「元准教授の社会的評価を低下させた」として、約180万円の支払いを命じた。判決は4月24日付。

 判決によると、在学中に元准教授のゼミに所属していた男性は2012年8~10月、元准教授について掲示板に「楽しそうにハラスメントしてんじゃねーよ」などと匿名で書き込んだ。

 男性側は、書き込んだ理由について「元准教授から不当な扱いを受けた」と説明する一方で、書き込みは一般的な表現で社会的評価は低下していないなどと主張。だが志村裁判官は、元准教授の名誉を毀損(きそん)したと認定。600近いサイトへの転載分も含めた慰謝料100万円のほか、書き込んだ人物の調査費用約70万円の支払いも命じた。

 元准教授側は、掲示板の管理会社やプロバイダー会社を相手に、書き込んだ人物の情報開示を求める仮処分や訴えを提起。東京地裁は昨年、プロバイダー会社に発信者情報の開示を命じ、男性の書き込みと判明した。
最終更新:5月2日(金)7時3分

 以前、弁護士と話した時に「学生が教員の悪口を言うのはありふれたことなので教員が学生に対して名誉毀損の民事訴訟を起こすハードルは高い」というのが弁護士の説明だったのだけど、この賠償額をみればそうでもないようだ。これは教員にとって朗報かも。私も以前、ハラスメント事件をでっちあげられた時に随分ひどいことを2ちゃんねるに書かれていたので、訴えてみれば裁判例を1つ積み重ねることができたのかも、と少し後悔。
 これを見る限り、ネットつまり学外でいろいろ書かれた場合には、学内のハラスメント処理の手続きを使うよりも直接訴えた方が手っ取り早いし、判断にブレもなさそうである。

 まあ、教員は学生から悪口言われることぐらいは予想の範囲だし、いちいち目くじら立てるつもりもないが、その悪口がそこそこ自由に言える程度に黙認されているのは学校の中だけだということだろう。学外でやれば社会のルールが直接適用されることになる。学内のルールの範囲で収めるかどうかは書く側に任されているのだから、そのことを教えるところまでは学校でやるとして、その後の行動は個人の責任でやればいい。