高校物理で得点できない人へ
高校の頃,物理の出来が悪かった。
当時の理科のカリキュラムは,理科Iという,物理・化学・生物・地学の基本的なところだけ集めたものをまずやって,その後,物理・化学・生物・地学のそれぞれの教科書を選択で学ぶことになっていた。今のカリキュラムなら,理科の「○○基礎」の一部が理科Iに入っていて,「○○基礎」の残りと「○○」が,それぞれの教科書に入っている,という対応になる(厳密には同じじゃないので,およそこんな感じ,という意味で)。私が通っていた高校は,可能な限り全科目学ばせる方針だった。1年生で理科Iの生物と地学をやり,当然時間が余るので,分厚い方の生物・地学の教科書を1年生終了まで進める(が,元々1年間でやる内容だから,どちらも最後まで終わらない)。2年生で,理科Iの物理・化学をやったあと,物理・化学の教科書を続けて学ぶ(こちらも2年終了時には終わっていない)。3年生になるときに理系・文系の選択があり,理系は理科2科目選択なので,物理・化学,あるいは化学・生物の組み合わせで,教科書の残りを学ことになっていた。
高校2年生になって,物理の授業が始まったのはいいが,さっぱりわからず得点できないという状態だった。例えば,運動の法則で,等加速度運動の公式が3つ出てくる(加速度,速度,位置の式)。授業の最初の方で出てくるものだけど,よく使うので,先生が,授業の時に,公式を3つ書かせて暗記しているかどうかをチェックするという小テストをしてくれた。クラスのみんながどんどん満点を取っていくのに,なぜか私は覚えることができず,最後まで全問正解はできなかった。こんな有様だから,定期テストも悲惨なもので,毎回,40点台から60点台をうろうろしていた。
高校の物理の教科書は,私の目には,問題を解くための個別の式がばらばらに出てきて,式の形が違うものを大体知っていないと問題が解けない,というものに見えていた。教科書を読んでも,問題集を解いても,つながりが全く見えてこないのである。
3年生になって,理系文系の振り分けがあり,理系を選んだ。例年は,理系選択をする女子の比率が少ないので,理系3クラスのうち2クラスは男子生徒のみで理科は物理・化学を選択,女子は化学・生物を選択するクラスに入ることになっていた。私は物理・化学選択を希望した(その方が大学受験の選択肢が拡がるから)ので,どうなるかと思っていたら,物理を選んだ女子生徒の数が多い学年だったので,物理・化学選択の男子生徒のみのクラスが1つ,物理・化学選択の男女混合クラスが1つ,生物・化学選択の男女混合のクラスが1つできることになった。で,新学期が始まった4月に行われた共通一次試験(今のセンター試験)の模試で,物理が40点取れなかった。さすがに,理系選択は誤りだったかと思った。
5月頃に,従姉妹から,大学受験の参考書として駿台文庫を薦められた。家の近くの本屋には置いてなくて,今と違ってネット通販も無かったので,隣の街の本屋まで探しに行った。薦められたのは主に英語だったのだけど,他の科目も見ていたら,山本義隆の「大学入試 必修 物理」というのがあった。中を見たら,高校の教科書とは全く異なり,微分積分を使って体型的な説明が出ていた。これまで,高校の教科書のやり方でやって全く駄目だったし,理系クラスで物理を選択した以上はどうにかするしかないわけで,それなら全く違う方法でやってみるのも手かなと思ってその場で購入を決定。
2年生の3学期に,数学で多項式の微分積分を習い,応用例として運動の法則がちらっと出てきていた。それが興味深かったのと,微積分は大学入試で変にパズルにされていないので,入試の数学が苦手でも修得しやすいという話をきいて,独習に適した微積分の参考書を買って読み始めていた。「微分積分学精説」という,高専から大学教養部向けの本なので,高校の数学の範囲は超えるがきちんと読んで例題を解けば身につくようになっていた。これを自分なりに進めていた。3年生では,三角関数や指数・対数関数の微積分や簡単な微分方程式が授業に登場する。つまり,3年生に入って少し経ったあたりで,高校物理をやるのに必要な微積分の知識が揃ってきていた。
数学がうまいタイミングで追いついてきていたので,山本義隆の物理の参考書を自分で計算を追いながら読めるようになった。5月の終わり頃から夏休み明けくらいまで,微積分を使って式の展開を追いかけながらノートを作るということをしていた。この作業で,物理量のつながりがやっとわかった。2学期になってからは電気・磁気の単元が始まり,力学や振動,波動も含めた模擬試験も時々あったが,安定して点がとれるようになった。
私に必要だったのは,物理法則や本質は何かといったことと,計算手段の分離だったのだろう。微積分を使うことで,法則の構造のようなものが見通せるようになり,個別の問題について式を立てて解くやり方が,個別の公式の暗記ではなく,一本道で計算できるということがわ理解できた。高3の夏休みは,大学受験をするなら,入試問題を解く練習をする時期である。が,物理に関しては,まず構造を理解する方を優先させた方が良いと判断し,結局これが得点への早道だった。とりあえず目先の模試や入試を何とかするために,教科書に沿った問題演習で馴れよう,という道は私には無かった。
私のような物理劣等生に山本義隆の本を薦める学校の教師も塾の先生もまず居ないだろう。無難なアドバイスとしては,易しい問題集をまずやって,馴れたら中程度のものをやれば,といったものになるに違いない。しかしその方法では,私は高校の物理を絶対に理解できなかった。全体の繋がりや本質を理解した上で,いくつかの問題を解けば,入試対策を目的とした試験でも点が取れるようになっていった。極限概念は使うのに微積分は使わず,指導要領の範囲でだけ説明するというのは,実は分かりにくくて難しい。体系立っていて情報量が多い方が,全体を把握しやすくなり,理解もしやすくなる。この意味で,私にとって,山本義隆の「物理」は,高校の教科書よりもずっと易しかった。山本義隆の本の次は,小出昭一郎の「物理概論」上下巻(こちらは大学の教養向け教科書)が市立図書館に入ったので,それを借りて独習した。この方法で,最終的に私は千葉大学理学部物理学科に合格した。1年前にマークシートの模試で物理が赤点だった状況を思うと,ちょっと考えられない進学先ではあった。今でも,どうしてこうなった感はある。
駿台文庫の方はその後何回か改訂されて,山本義隆の本で今入手できるのは「新・物理入門(駿台受験シリーズ)」「新・物理入門問題演習 (駿台受験シリーズ)」の2冊である。微積分を使って体型的に書いてあるという特色はずっとそのままなので,今買うならこの2冊になる。
「新・物理入門(駿台受験シリーズ)」は,難関校向けと言われることが多いし,高校の範囲を超えた記述もある。が,高校の教科書ではつながりがよくわからず点が取れないという人は,一度は山本義隆流の物理を試してみる価値はある。
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御無沙汰しております。
1.
私自身は理科Ⅰが廃止されて物理ⅠA・ⅠB・Ⅱができた最初の学年(=1994年進学)なんですが、数学のほうは高校進学時点ではまだ数学Ⅰをやっていたので、私以外のほぼ全員が面喰っていましたね。彼らの疑問は要するに、「なぜ、グラフ上の面積(つまり2次元の量)と移動距離(こちらは当然1次元の量)とが等価なのか」ということに集約されると思います。
2.
今の中高生には、「物理基礎を履るつもりなら事前に、できれば高校入試が終わった時点(一貫校なら中学の数学のカリキュラムが終わった時点)ですぐに、高校『数学Ⅱ』の参考書をどれでもいいから買ってきて大雑把に読んでおけ。数学Ⅰはそのあとでもいい。」と説得するようにしています。とはいえ、今の数学Ⅰの内容をまだきちんと把握していないので、本当にⅠを飛ばしてⅡに行っちゃっても大丈夫なのかは自信がないのですが。
3.
本質的には、中3の時点で調理実習室を使って「この大根1本の体積を求めるには?」といった具合の特別授業をやりたいところです(球形の野菜類がベストなんですが、カボチャは硬い上に中空だし、リンゴじゃスライス後の強度が不安だし…他に何かいいものはありませんかね?)。そうすると、「真球の体積はV=(4/3)πr^3」という証明ができて、そこから「表面積はS=dV/dr=4πr^2」、とつながります。あとは地図の正積図法の話をしたりして、最終的に微分積分学の基本定理をきちんと理解するところまでいきたいところです。
ではでは。