Posted on 11月 11th, 2012 by apj
macroscopeさんのところをを読んで。
「有用微生物は活用すべきだが、比嘉ブランドのEMは勧められない」
「「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題」
「「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (2)」
「「EM (有用微生物群)」と科学教育の問題 (3)」
科学教育の問題について、以前から気になっていることがあります。教育用のために作られた実験と、まだ未知のことがらを確定させるための実験とは違うということです。
理科教育のために行われる実験はdemonstrationつまり演示実験であり、既に確定した自然現象を教育のために見せやすくしたものです。一方、まだ不確かなことを確定させるための実験は、主に大学以上で学ぶもので、experimentといいます。理科教材として準備されたdemonstrationには、experimentの裏付けが十分にあります。これは無理からぬことでもあります。小中高の理科でexperimentを経験することは、予備知識とかけられる時間を考えた場合、非現実的です。ただ、demonstrationを生徒の前でやっていい条件は、experimentが終わっていて、説明が確定している自然現象に限られているということです。
EM菌を環境教育に使うことの問題は、experimentが十分ではない、つまり、その菌を使って河川の浄化などを行った時に、本当に効果があるのか、効果があるとしたらどんな条件が必要なのかということを十分確かめないままに、demonstrationと区別がつかないやり方で学校に持ち込まれているということです。
菌を使って河川の浄化を試みるなら、菌を投げ込んだ→川がきれいになった、だけを見るのは不十分です。撒いた菌がその後どうなったか、その場所で生きて活動しているのかということくらいは調べてからでないと、菌の効果だという結論は出せないでしょう。
EM菌の提唱者である比嘉氏は、効果について「波動」(オカルトです)や重力波(こちらは専門家がこれから検出するための装置の準備をしていますが、菌と関係するとはとても考えられないものです)といった、科学としてはまともでない説明をしています。EM菌を無批判に使うと、こういったまともでない説明を肯定していると受け取られても仕方がありません。どうしてもEM菌を使いたいのなら、こういったインチキな説明を正面から批判した上で、かつ、実験で十分に確認された菌の作用を利用するという形でしか、学校に持ち込んではいけないでしょう。しかし、批判を行ってから実践したという話も出てきません。この批判を教師がしてくれれば、別の意味で教育効果が高いと思うのですが、残念ながらEM菌を使っての実践は良い面だけ強調してやっているのではないかと思われます。
EM菌で環境浄化の実践例では、菌を撒いた後その菌がそこに居るかについてはスルーされています。率先して持ち込んだ教師がその後菌の生存を確認するところまでやったという話は出てきていません。提唱者の比嘉氏は、確認のための実験には許可が必要だと主張し、検証を拒否しています。これを教育の場で使うということは、科学は誰でも検証できるという条件でしか進まないものだという、科学の教育にとって決定的に重要なことを無視するという教育効果をもたらしかねません。
教わっている生徒は、demonstrationしか経験していないでしょうから、EM菌のdemonstrationを見て、普段教わっている理科の実験と質的な区別が出来なかったとしても仕方がありません。しかし、教える教師の側が区別できないのはまずいです。自分が何を教えているかわかっていないということになるからです。
EM菌を学校で使ってはいけません。理科教育の重要な内容を否定する結果になります。
Filed under: ニセ科学 | No Comments »
Posted on 11月 9th, 2012 by apj
八戸大学の高大連携事業のマイナスイオンマップの件、朝日新聞の長野記者から電話取材を受けていました。記事になる前に話題にするのはよろしくないので黙っていましたが、本日記事が出ましたので紹介します。記事カテゴリーは「朝日新聞デジタル> マイタウン> 青森>」です。
マイナスイオン実習を中止 八戸大
2012年11月09日
「体によい」などと紹介される一方、その根拠があいまいとの批判も多いマイナスイオンについて、八戸大学は今月、3年間続けてきた測定の実習を中止した。大学は「商業用語と科学を混同していた。反省を教育に生かしたい」としている。
マイナスイオンは、一般に空気中の電気を帯びた物質を指すとされ、インターネットには「自然治癒力を上昇させる」とか、「血液サラサラに」などの説明が多い。2000年前後には、効果をうたう家電製品も多く販売された。
一方、科学理解を養う科学リテラシーの講義を持つ山形大の天羽優子准教授によると、マイナスイオンという言葉は科学用語に存在せず、健康効果を示す科学論文もほとんど無い。立証されない効果をうたう商品・商法には批判も多く、公正取引委員会から効果をうたうことを禁じる排除命令をうけた商品もある。
八戸大は三つの高校とともに10年から十和田市の奥入瀬渓流で、市販の測定器を使ったマイナスイオン測定を開始。結果を健康効果の説明と併せ、ネットやパンフレットで紹介してきた。これまで5回、測定会を開き、のべ36人の高校・大学生が参加した。
大学の担当者は「インターネットなどを使った観光PRの手法を学んでもらう目的だった」と話す。
10月末、測定会を報じた新聞記事が科学者の間で話題になり、天羽准教授は「効果のはっきりしないものを確定したもののように教えるのは問題」と、電話で八戸大に伝えたという。
大学は2日、ホームページに「マイナスイオンは明確な定義の無い用語。実習で使ったことをおわびする」との学長名の声明を掲載、実習中止を表明した。今後、参加した学生にも説明するという。
担当者は「恥ずかしいことだが、当初の検討が不十分で、あいまいなマーケティング用語に踊らされた。学生が同じような失敗をしないように授業などで伝えていきたい」と話す。
(長野剛)
記事中でも言及されていますが、マイナスイオンと血液サラサラの組み合わせは最悪でした。
マイナスイオン関連の商品販売時に、血液サラサラのデモンストレーションをするため、業者が勝手に客から血液をとって顕微鏡で見せるといったことが行われました。採血の方法は、小さな針を指の目立たないところに刺して一滴だけ血液をとるというものです。シリンジを使った本格的な採血ではなかったので、不審に思わずに応じてしまった人も居たのだろうと思います。問題は、針の滅菌が十分でなかったり、採血器具の針のキャップが使い回されていたらしいことです。このため、血液サラサラのデモ付きセールスを受けた人が、B型肝炎などに感染した可能性があります。マイナスイオンをそのまま信じるような知識しかない業者が、医療機関並みの注意深さで針や器具を滅菌してくれることは全く期待できません。
マイナスイオンと血液サラサラ大流行中の時に、針刺し血液サラサラ検査を業者にされてしまった人は、必ず医療機関に相談し、必要な検査を受けて下さい。私も、本務校での講義の度に、学生の父母や親戚の年配の方でこの検査をされた人が居たら医療機関に相談するようにと伝えていますが、十分ではありません。マイナスイオンに踊らされるだけなら財布が痛む程度で済みますが、血液サラサラとの組み合わせの方は健康被害が発生する可能性が高いのです。この話は、以前、学外ブログに書きましたが、大事なことなのでここでも繰り返しておきます。
八戸大学もマイナスイオンのまずいところに気付いてくださったようですので、できれば血液サラサラ採血についての注意喚起をお願いしたいところです。
Filed under: ニセ科学 | 2 Comments »
Posted on 11月 3rd, 2012 by apj
「高大連携でマイナスイオン:八戸大学」で取り上げた件について、10月29日に八戸大学の担当窓口に電話で問題点について伝えた。詳細は後ほど文書で、と連絡したが、別書類の締め切りやら、弁護士事務所に持って行く書類制作やらに追われて、完成はしたが発送する余裕がなく、週明けにでもと思っていたら、11月2日に対応済みとなっていた。
まず、学部のトップページからこの件が消えた。さらに、学長からお詫びと訂正が出た。
高大連携奥入瀬渓流マップ作成プロジェクトについてのお詫びと訂正
地域での調査・実習を通じた学生のフィールドワーク活動(高大連携事業の奥入瀬マップ作成事業、平成24年10月20日実施)において、マイナスイオン(空気イオンカウンターで測定した数値を使って)マップ作成を行う予定でおりましたが、マイナスイオンそのものが明確な定義のない用語であるため、マップ作成は行わないことと決定いたしました。
また、過去に実施したフィールドワークで作成した「奥入瀬渓流 マイナスイオン物語乙女の記録」は配布先より自主回収を行い、今後、マイナスイオンの調査・実習は実施しないことと致します。
今回及び過去の奥入瀬渓流における実習活動において誤解を生む用語を使ったことをお詫び申し上げるとともにマイナスイオンは明確な定義のない用語であることを合わせてお知らせ致します。
平成24年11月2日
八戸大学学長 大谷真樹
大谷学長の迅速な対応がなされて良かったのだが、気になったのは、とても楽しそうに測定していた学生・生徒さんたちに何と説明すると良いのかということである。
単に、チェックが甘かったとか流行に(だいぶ遅れて)つい乗っかった、ということになると、がっかりするか立腹する人が出てきそうである。まあ、情報の取捨選択をするプロであるはずの教員についてはがっかりしても立腹しても自己責任だと思うが、学生・生徒さんは育てなければいけないので、自己責任というわけにはいかない。
こればっかりは、実際に企画が動いた時にどうだったかがわからないとケアの計画が立てられない。
「マイナスイオン」の正体を実験的に調べる、だと高大連携のテーマとしては多分難しすぎる。「マイナスイオン」と自然放射線の関係は、だと、理科としては正しい方向だが、放射線恐怖症に陥っている人が全国各地に多々いる現在、奥入瀬にマイナスイメージを与える結果になりかねない。
テーマを変えて空気イオンの利用方法(あるいはイオナイザの利用方法)、というテーマにして、健康にいいとか○○に効くといった話とは全く違うものについて使い方が確立してるんだよ、というのは有りかもしれないが、だからマイナスイオンでも良かったんじゃん、と思われてしまうと元の木阿弥になるから注意が必要だろう(それほどに「マイナスイオン」が定着してしまっているため)。
積極的に関わった学生さんが落ち込まない、かつ、奥入瀬のイメージダウンにならないケアをやっていただけることを願っている。
同時に、なぜチェックできなかったのか、ということは、運営側でしっかり調べて欲しい。学長のお詫びは「マイナスイオン」のもたらした問題について突っ込んだものではないが、まあ、一般的に「学長のお詫び」とはこういうものである。しかし、実働した人達がこれで終わってしまうと、次に別の変なネタに乗っかってしまうかもしれない。過去に「水からの伝言」が学校教育に持ち込まれ、学外から批判が出た時、実践していた学校の先生達は理由の説明もなぜひっかかったかの検証もせずにただその実践例を削除しただけだった。で、次は学校の環境教育がEM菌に乗っかるというていたらくになっている。大学と小中高では文化が違うが、削除して無かったことにして終わる、というだけだと別ネタにひっかかる可能性が大きいままになりそうで心配である。
Filed under: ニセ科学 | 2 Comments »
Posted on 10月 26th, 2012 by apj
デーリー東北の記事より。
マイナスイオン観光マップ改訂版作製へ(2012/10/26 16:00)
八戸大などは、十和田八幡平国立公園・奥入瀬渓流のマイナスイオン発生状況をまとめた、観光マップの改訂版の作製に取り組んでいる。19、20の両日は学生らが、雲井の滝など渓流の名所を訪ね、専用の計測器で数値を測定した。
現行のマップは2009、10年度に作製した。今回は高校生の感性も取り入れようと、光星学院高校と、青森県立十和田西高校観光科の生徒も加え、6人編成でフィールドワークに臨んだ。
一行は十和田湖畔子ノ口から遊歩道を散策し、滝や流れなどの人気スポットでマイナスイオンの数値を計測、動画も撮影した。
改訂版は12年度中に完成させ、ホームページなどで公表する予定だ。フェイスブックなどソーシャルメディアにも対応する。(工藤文一)
2011年版のマップはすでに公開されている。さらに、八戸大学学報の第77号の14ページには、マイナスイオンマップ作成が高大連携事業として行われたことが記載されている。
プロジェクトで使った測定器はもう販売していない。
また2012年10月26日現在、八戸大学の学部紹介のトップページが、マイナスイオン測定の紹介になっている(魚拓はこちら)。
使った測定器の原理はエーベルト方式とのことで、測定理論の解説はここにあるエーベルト氏式のことだろう。原理を見ると、空気中に漂っているイオンを種類は問わず電荷量で評価するだけのものらしい。
マイナスイオンについては、2003年頃が流行のピークで、その後は徐々に下火になって今に至っている。なお、マイナスイオンとは商売用の用語に過ぎず、科学の用語ではないし、科学の研究対象となっているイオンをマイナスイオンと呼ぶことはない。
流行を通しての問題は、
- マイナスイオンの実体が化学物質として何であるかが、製品を作っていた各社がまちまちの主張をしていたままだった。
- そもそも導入のきっかけからしてが、滝壺あたりを散歩すると気分がいい→気分がいいのはマイナスイオンが出ているからだ→発生装置を作ればいい、の三段とび論法でしかなく、このつながりを示す測定にもとづいた根拠を欠いていた。
- 発生方法として滝壺を模した水破砕方式と、放電方式の2つがあり、この2つでできるイオンの実体が同じとは考えがたい。にもかかわらず、マイナスイオンでひとくくりにされていた。
- 発生源としてトルマリン(RIが含まれていることによるのだろう)や、チタン(デマだろう)といったものまで登場していた。
- 化学物質が効果を示す常識的な濃度としては、どれも少なすぎる。1ccあたりの個数で表示されると多く感じるが、1cc中の空気の分子総数を考えると、濃度としては極端に薄い。
- 化学種として何であるかを確定せず、従って効果の濃度依存を実験的に確認することもしないまま、効果がありましたという話だけが一人歩きしていた。
- 効果の説明が二分法の上言葉遊びに過ぎなかった。マイナスイオンは健康や還元や若返りといったイメージに結びつけられ、プラスイオンは病気や酸化や老化、果てはダニなどの有害な生き物にまで結びつけられていた。
といったところである。つまり、マイナスイオンと称して登場したものは、個別に調べれば科学になるかもしれないが、世の中に名前が広まった時は十分な実験的根拠が足りない状態の、いわば「未科学」であった。だから、『「空気イオンに効果があるかもしれない」という話があるからさらに詳しく調べよう』であれば良いが、『効果があると言われているのをなんちゃって測定で確認したので商品作って売ります』はニセ科学ということになる。その後、流行のピークはひとまず去ったがそれぞれの発生方法におけるマイナスイオンの実体や量と効果の関係が確定したという話は出ていない。
八戸大学の高大連携では、電荷しか測定していないので、相変わらずマイナスイオンの実体は不明なままである。滝壺や川沿いで測定しているのは、そういう場所で多いと「言われている」からなのだろう。そもそも化学種の特定もなく、量と効果の関係もはっきりしない状態で、電荷の測定マップを作って何の役に立つかというと大いに疑問である。
マイナスイオンは、インチキ商売のネタになったというイメージもそれなりに定着してしまっている。観光や地域おこしのネタとして適切とはいえないのではないか。うさんくさいものを敢えてネタにするというのは、ビジネス学部のテーマ設定としては妥当なのか。
未科学のものを未科学のまま何らかの指標として使おう、というのは高大連携のテーマとしては相当に無理がある。もともとマイナスイオンに十分な科学的根拠がないということを教え、かつ、行きすぎた製品開発と販売が詐欺の一歩手前であったことも教え、「マイナスイオンで血液サラサラ」デマに基づく業者の勝手な針刺し検査によるB型肝炎蔓延のおそれもあることも説明し、その上で今敢えてマイナスイオンを測定してマップを作る意味を伝えないといけない。これが十分でなかった場合、将来、未科学であるのに科学を装った言説に騙される人間を養成することになる。
2011年のマップを見ると、
マイナスイオンの効果には、血液浄化作用や、自然治癒力を高めたり、集中力UP、そして体のアンバランスを調整する働きがあると言われています。
とあり、「言われている」とさえ書けばどんな効果をうたってもOKだというスタンスの宣伝の悪い例をしっかり踏襲している。効果があるかどうかの責任はとりませんしあるかどうかも知りませんよ、と主張しているのと同じである。さすがにこれは無責任すぎるだろう。つまりは噂レベルの話に積極的にのせられましょうということで、大学や高大連携でやってはいけないことである。
こんなことを書いたマイナスイオンマップが好評だということは、逆に喜べないはずである。マイナスイオンが未科学でかつ根拠があやふやなままでも流行し、噂レベルの内容でもって他人の財布に被害を与えたという状況が未だ改善していないということを意味するからである。学校の役割というのは、こういったあやふやな話に人々が踊らされることを防ぐところにあり、その方法をこの二学部には研究してもらいたいところだが、学部のサイトを見た限りでは喜んでるだけで、深刻さを理解しているように見えない。
Filed under: ニセ科学 | No Comments »
Posted on 10月 26th, 2012 by apj
Posted on 10月 25th, 2012 by apj
Posted on 10月 24th, 2012 by apj
Posted on 10月 23rd, 2012 by apj
Posted on 10月 23rd, 2012 by apj
Posted on 10月 22nd, 2012 by apj