マスコミの仕事は権力者の監視であって個人の出産の監視ではない

 あまりにひどいのでこっちで。
 週刊文春WEBが「緊急アンケート!安藤美姫選手の出産を支持しますか?」なるものを公開している。

 フィギュアスケートの安藤美姫選手が7月1日の「報道ステーション」で4月に女児を出産していたことを公表しました。また、競技に復帰し、来年のソチ五輪を目指すことをあらためて語っています。

 この突然の告白に対し、出産を祝福する声が上がると同時に、まだ結婚しておらず、父親が誰かも明かさないことへの疑問や、子育ても競技も中途半端になるのではないかなどの批判もあります。そこで、下記アンケートへのご協力をお願いいたします。

1)あなたは安藤美姫選手の出産を支持しますか?
2)子育てをしながら五輪を目指すことに賛成ですか?

各質問にお答えいただき、理由も併せてお答えください。

 そもそも個人の妊娠出産は、他人が支持不支持を表明するような対象じゃない。父親が誰かが重要な問題となるのは、養育費を誰が負担するかという問題の当事者である生まれてきた子供本人にとってのみであり、他人がとやかく言うことではない。子育てが中途半端になったら、子供が母親に大クレームを出してしっかりお返しするだけの話。競技が中途半端になったら、即本人の成果に跳ね返るのだから、結果は本人が引き受けるだけのこと。結果が出せなければ五輪を目指したところで出られないだけで、そんなことは本人が一番良くわかっている。
 大体この選挙の前に文春は一体何をやっているのか。個人のプライバシーを土足で踏みにじるような出産の支持不支持のアンケートじゃなくて、各政党の政策の支持不支持のアンケートでもするのが本来の仕事だろう。とっとと本業に戻ってもらいたい。

【追記】
 週刊文春WEBのTLが案の定大炎上してアンケートは引っ込めた。

 現在、「週刊文春」メルマガ読者の皆さんにお願いしている「緊急アンケート 安藤美姫選手の出産を支持しますか?」について、抗議のご意見を多数いただいております。

 女性の出産という大変デリケートな問題にもかかわらず、設問を「出産を支持しますか?」「子育てしながら五輪を目指すことに賛成ですか?」としてしまったために、出産そのものを否定したり、働きながら子育てをすることを批判しているような印象をあたえてしまいました。その点については、編集長の私の責任です。このアンケートに関して不快な思いを抱かれたすべての方にお詫び申し上げます。

 今回のアンケートは中止させていただきます。ご回答をいただいた皆様にお詫び申し上げます。

「週刊文春」編集長 新谷 学

 問題は、個人の出産に対して支持不支持のアンケートを行うという発想自体にあるわけで、アンケートの文言だの印象だのといった末節の部分にはない。「その点については」とあるが、じゃあそれ以外のどの点については責任が無いと言いたいのだろうね?
 直接の被害者は安藤美姫さんとそのお子さんなのだから、謝罪は真っ先に安藤さんにしなければいけないのに、単にアンケートを見てゲスな内容だと思った人とターゲットにした安藤さんを同じ扱いで済まそうとしているのは、誰に被害を与えたか此の期に及んでちっともわかってないってことだよね。なんで最初に安藤さんに謝罪しないの?
 というか、https://twitter.com/takuramix/status/353002379525885953

電話して、意図を確認しました。このアンケートによって暴力的な言論、安藤美姫さんへのバッシングが強まる可能性については検討の上で、そのような事が起きても週刊文春としては構わないという判断で開催されたアンケートだという事でした。愕然…

てことは、メディアの力を利用して特定の個人を攻撃するために大勢を煽るということを故意にやってたわけだよね。このことについてスルーしてるってことは、反省してるとはいえないんじゃないの。

まともな研究者の対応の例

 名古屋大学の川瀬研究室のページより。「最近出回っている「テラヘルツ鉱石などの健康グッズ」に関して

科学的根拠の希薄な様々なテラヘルツ健康グッズを販売している会社が 近年多数見受けられます。ひどい会社になると、勝手に『名古屋大学川 瀬教授が発明したテラヘルツ波動に基づき、水晶を高温で焼き上げたテ ラヘルツ波を発生する鉱石が癌や脳梗塞を治す』などとして高価な値段 でネックレスなどをご病気の高齢者相手に私の写真などを見せながら 販売していると一般の方から苦情を頂きました。

これらのことは非常に腹立たしく、我々と何の関係もないばかりか、科 学的な根拠が希薄な詐欺紛いの商法です。 私は20年以上、テラヘルツ 波の生体への影響を研究してきましたが、もしもそれらの会社のうたう 効能に(学会が認めるような)科学的根拠が見つかったら、それだけで ノーベル賞ものですが、まだ世界の誰もそのような確たる根拠を発見し ていません。

過去において、同様に科学的根拠の希薄な遠赤外線グッズで長年儲けた 輩がテラヘルツと名前を変えて二匹目のドジョウを狙っているようで、 テラヘルツ波を研究する者としては実に嘆かわしいことです。 さらに 最近では、一部の業者が研究会を名乗って「本物のテラヘルツジュエリー を認証します」などと活動してますが、本物も贋物も普通のセラミクス も岩石も、かつての遠赤外線グッズも、放射原理は常温の黒体輻射にす ぎず、黒体輻射を浴びたら難病が治る、などという話は私の知る限りの 学会では全く認められていません。

これまでは怪しいテラヘルツ商法も苦々しく思いつつも看過してきましたが、 私の名前を使って売っている、という苦情が寄せられた以上、ここに反論 させて頂くに至りました。 今後、もし私の名前を使って売るような会社を 見かけましたら、何卒ご一報下さい。

 まともな研究者であれば、根拠のあやふやな健康グッズの販売に名前が使われることを避けるのは当然ですし、通報があれば、関係ないことを明らかにするのも当然です。この川瀬研究室の反論掲載はもっともなことです。できれば、名前が使われる前に、アレはインチキだと表明していただきたかったところですが……。
 なお、企業が大学と共同研究する時は大学に対して守秘義務を課すのが普通で、一緒に研究した大学側の研究者を宣伝に登場させるようなことはしません。「我が社のすばらしい技術」を前面に出して宣伝するならともかく、大学の先生に手柄譲ってる時点で会社としてはいろいろとダメでしょう。この手の健康グッズが疑わしいかどうかの判断基準の一つとして「大学の先生の名前が使われていると信用ならない」といっても、そう間違いではありません。

業務連絡

ploneに脆弱性が見つかったので、パッチが出て対応できるまでの間、メインのウェブサイトを停止します。ploneではない掲示板や通常のコンテンツにはアクセス可能です。11日にはパッチが出るということなので、説明読んで適用して……今週水曜日くらいには復活の予定。

パッチ配付が1週間ほど遅れることになったから、サイト復活も週明けになることにorz。

ドメイン限定検索を普及させよう

ラジオ出演「疑似科学を科学する」」を読んで。

となるとどうすればいいのか――ということが問われましたが、とりあえず我々にできることは、信頼できる情報の絶対量を増やしていくことかなと思います。たとえば以前に書いた通り、最近「酵素」というキーワードを含んだよくわからない健康法が流行っており、これは疑似科学の要素を多分に含んだものです。しかし「酵素」という言葉で検索しても、まともに生化学的な意味での酵素について解説したページは、上位30位までに2~3件に過ぎません。要するに、業者の発信する情報に、正確な知識が押し流されてしまっている状態です。

 これは以前から指摘していることです。ニセ科学で商売をしている人達は、情報を吟味する気も自分のところでまともな消費開発をする気も(おそらくは能力も)無く、同業他社の宣伝文句をコピペしてきて多少編集して自社製品の宣伝に使っているようです。ですから、数は多いがヴァリエーションに乏しい間違った情報が出回るという結果になります。
 サーチエンジンの検索結果に正しい情報が登場する割合を増やす努力は大事ですが、それと同時に「ドメイン限定検索」を普及させることで、情報がおかしいと気づくきっかけも増やせるのではないかと思います。
 「酵素」を検索するのなら、.ac.jpや.go.jpドメイン限定で検索した時と、そうでない時の検索結果を比べるのです。限定なし検索で謳われている内容が、ドメイン限定検索で出てこないなら、それは宣伝用に歪められた科学とは関係のない言説ということになります。
 もちろん、教育機関でもおかしな言説を信じて情報発信してしまう人がゼロではありませんから、ドメインを限定してもニセ科学言説を完全に遮断することはできません。しかし、出てくる言説の数の分布が大幅に違うということから、ある程度判断はつくはずです。

情報募集

 ツイッターアカウント ahaare_asayaka(この他の別アカあり)、本名は近藤毅と名乗っている人物から、ツィッターやブログ等の発言について、「提訴してやる」「告訴してやる」旨を告知された方は、差し支えなければこのエントリーのコメント欄に状況を書き込んでいただけないでしょうか。掲示板を立ててもいいんですが、ちょっと最近忙しくて充分管理できそうにないので、とりあえずコメント欄で。
 なお、近藤氏本人と思われる書き込みは削除します。

 昨年8月に近藤氏は私の勤務先の学長や学部長等に、告訴や提訴をする予定であるというメールを送りました。その後放置され、告訴の期限の六ヶ月はとうに過ぎたのに何も起きず、民事の訴状も来ないという状態です。送達先として勤務先を指定し、勤務先送達で訴訟を開始できることを近藤氏の居住地の裁判所の書記官に電話で確認して訴状受理のOKまでもらってそのことを公開しているにもかかわらずです。つまり、近藤氏は私の勤務先に嘘をついたということになります。勿論、近藤氏に削除を求められた内容はそのまま公開中です。

 その後、私以外の人にも同様のことが行われていると伝え聞いております。
 伝え聞いた状況の例などから、私は、近藤氏の目的が金銭にあると考えるようになりました。その理由の1つは、近藤氏が弁護士に相談した形跡が全く無いことです。本人訴訟は可能ですが、相談すらしないというのは、相談料をけちっている、つまり元手はかけたくないということではないかと思うのです。10万円を要求するだけなのに弁護士に相談していては、手にできる金額が減るか、下手すれば赤字になるのは明らかです。また、最初に支払いやすい少額の要求、その後金額を上げて提訴、というパターンだと、(相手が訴訟を面倒だと思えば)最初に要求された少額の金を渡して決着、というケースが出てくるかもしれません。

 この推測を裏付けるための情報を集めたいというのが主な目的です。
 情報が集まれば、今後同様なことをされた人にとっても参考になるかと思います。

 なお、この人物に訴訟をちらつかされても絶対に先に金を払わないようにしてください。手続き無しに金を手にできるということになれば、ますます同じ事を繰り返しかねません。

レポートを読み書きする能力は必須

 ウチの学科は実験を伴う必修の講義が1年次後期から始まるし、卒業研究は必修、卒業論文もほぼ全ての研究室で書くことを課している。学生実験であるので、テキストもあり、やる内容も決まっている。レポートには使った実験器具や実験手順も書くように指導しているが、メニューが決まっているので、書くとなるとほとんどテキストの一部分を丸写しする結果になる。
 わかりきっていることを何故書かなければならないかというと、レポートとしての形式を満たすための訓練である。これをおろそかにして社会に出ると何が起きるかを最近実感した。

 事件は、某水処理装置会社が某管理会社にトルマリンを利用した水処理装置を売ったが宣伝文句が科学としては間違った内容を含んでおり、後から事業を引き継いだ某管理会社2がそのことに気づいてメンテナンス料の支払いを拒んだところ提訴されたというものである。現在進行中の他人の訴訟であるし、議論の本筋と関係がないので、固有名詞への言及は差し控える。
 さて、訴訟が始まり、原告の某処理装置会社は、製品には科学的根拠もあるし大学で測定もしてもらっている、と、製品開発の参考にした日本語の報文(ここで取り上げたもの)や、自社製品を某大学某研究室に依頼して測定してもらったレポートを証拠として裁判所に提出した。被告から、原告提出の証拠について科学的見地から意見書を出して欲しいと頼まれたので、私の出番となった。
 まずは大学で行った実験について検討するか、と、原告が某大学某研究室に依頼して測定してもらったと称するレポートを見たら、これが、主に次のような理由で大変ひどい出来であった。出されたレポートが後から改竄されていないという確証が得られないので、具体的な研究室名は伏せる。

(1)測定に使用した装置の製造元と型番が充分に記載されていない
 レポートには試料の電顕写真やX線回折の結果、元素分析の結果が掲載されていた。しかし、元素分析をどのような方法でやったのかについては、装置も手法も書かれていないため、推測するしかない状態だった。このため、一体どの程度信頼できるデータなのか、信頼性の相場はどれくらいなのかの評価が困難だった。
(2)図のキャプションと、レポートの後の方で出てくる説明が食い違っている
 試料の加熱処理の温度を変えて同じ測定をしたグラフが1ページにまとめて掲載されていた。ところが図番号を示して書かれたレポートの結論を読むと、その中に別の測定法を用いたものが混じっていると読める内容になっていた。キャプションが正しいのかまとめの説明が正しいのか、推測で判断するしかない状態だった。具体的には、元素分析のグラフなのかX線回折のグラフなのかが曖昧という状態だった。
(3)結果について何も言及していないグラフが掲載されている
 部材と錆びた金属片を水に投入し、撹拌しながらpHがどのように変わっていくかを測定したグラフが載っていた。この商品を使うと水道配管の防錆効果があると宣伝されており、錆びた金属片を加えた実験は、セールスポイントである防錆効果を直接確認するものであった。しかし、錆の状態がどうなったかについてはレポート中に記載が無かった。その上、その図の番号を示して結論部分に書かれた説明は「熱分布曲線の測定」となっていた。なお、レポート中のグラフに熱分布曲線を測ったらしきものは存在せず、単純な図番号の付け間違いとも思えない状態だった。
(4)図の縦軸と横軸の判読が難しいものが多数ある
 図のキャプションと説明が食い違うという状態だったので、図の縦軸と横軸がわかれば少しは推測もしやすいところ、判読できないものが多かった。
(5)説明が不十分かつ不親切
 この商品は、上記報文の久保氏の説によるトルマリンの焦電性を利用した水処理を原理として採用していた(この内容自体の是非はともかく)。ところが、大学が出したX線回折の結果は、商品の部材にトルマリンの結晶構造が存在しないというもので、レポートにも文章で明記されていた。トルマリンの焦電性は特定の結晶構造によって維持されているので、結晶構造が壊れれば焦電性もなくなる。トルマリンの結晶構造が無いという測定結果を得たのであれば、焦電性が消失している可能性に言及するのが当然であるべきところ、何も書いていなかった。依頼された方法で測定を行い結果の解釈は依頼者に任せるという立場があることを否定はしないが、こうして裁判所にまで証拠書類として出された挙げ句、宣伝の前提を否定する実験結果であることを晒すくらいなら、説明を書いておくのが依頼者に対して親切だったのではないか。

 こんな具合に、測定を引き受けた教授の印鑑(コピーで見た限りシャチハタっぽかったけど)が表紙に押されていたレポートが、レポートべからず集のオンパレードであった。変なことを言いだす水処理装置会社がいるのはよくあることなので別に驚かなかったが、大学の名前でこんなレポートが民間企業に出されていたことの方にショックを受けた。さすがに、大学の研究室がこんなものを出したとはすぐには信じられず、誰かが途中で改竄あるいは編集したのではないかと疑っている。
 私は、測定法に馴染みがないであろう裁判官のために、用語集や教科書などから引用したものを資料として添付し、それぞれの測定法がどんなもので何がわかるかを解説した上で、問題点を指摘した意見書を書いて被告代理人に託した。
 意見書の中で「もしこの書き方のレポートを学生実験の結果として学生が提出したら,私は間違いなく書き直しを命じて再提出させるか,不合格の判定を出す」と書かずにはいられなかった。読んだ裁判官は苦笑したにちがいない。原告から次回の反論のため某研究室に私のコメントが回されたら、私は研究室を2つばかり完全に敵に回したことになる。

 当学科の卒業生なら、学生実験をこなし指示通りに実験レポートを書く習慣を身に付け、社会に出てからもその基本を忠実に守っていれば、(1)〜(5)にあてはまるようなレポートは書かないはずである。

 ここからは学生向け。
 実験のレポートは個人の成績評価に使われるものだと思っているかもしれないが、社会に出たらそうではない。書く側の心構えとしては、出る所に出される可能性を考えて、評価に耐えられる程度に必要事項を記載しなければいけない。それができなければ批判に晒され信用を落とすし、今回のように、依頼者を裁判所で不利にする材料を提供することにもなり得る。
 逆に、企業等に就職し自社製品に関わる測定を依頼する場合、受け取ったレポートが最低限の形式を満たしているかということや、内容に矛盾が無いかといったことのチェックをしなければいけない。不明なところがあれば問い合わせてはっきりさせるといったこともしなければいけない。チェックのポイントは、これまでに正しいレポートの書き方として指導された項目全てである。
 大学では、全員同じようにトレーニングされるので、まともなレポートが書けて読めることが強みだとは意識しないかもしれないが、最低限満たすべき基準を超えていないと信用されないし身を守ることもできない。今受けている面倒なトレーニングには意味があるということを認識してもらいたい。

チンダル現象が起きなくても光散乱は起きます

 ふと気になって、数研出版の「最新版視覚でとらえるフォトサイエンス化学図録」(平成16年発行)のチンダル現象の解説ページを見てみた。

コロイド粒子は光を散乱させるので、コロイド溶液中を通る光の道筋が見える。一方、普通の溶液に含まれる分子やイオンは光を散乱させないので有色の溶液でもチンダル現象は起こらない。

 確かに私も高校生の頃、こう習った記憶がある。
 東京書籍の化学IIだと、チンダル現象のところに

水溶液では溶質の粒子が小さいので光を散乱しない。

と但し書きが。啓林館の化学IIでは、チンダル現象の写真として、デンプン水溶液、硫酸銅水溶液、水酸化鉄(III)コロイド水溶液、水の入ったビーカーを並べて赤色レーザー光を当てた時の光の通路の写真を掲載している。水と硫酸銅水溶液では光が通っているのが見えない写真になっている。

 これでは、私のところで測定している水のラマン散乱は、はたまた夢か幻か……ということになってしまう。
 実際、研究室配属になった4年生に「チンダル現象でなくても液体があるだけで散乱は起きる」とわざわざ教えなければならないのは、高校でチンダル現象の写真をすり込まれてきているからだろう。

 論より証拠で、コロイドの入ってない液体にレーザー光を当てるとこうなる。

Flowcell

 レーザー光は写真左から入射していて、写真奥の方が集光レンズである。セルの中には横にまっすぐ光の経路(パス)が通っているのがわかる。パスが見えるということは、光の散乱が起きて、散乱された光が目に届いているということである。
 写真の光学セルの中身は、0.2ミクロンのフィルターを通した純エタノール。水でも他の有機溶媒でも大体似たような感じで、物質によってパスの明るさが違う。水はアルコールよりも暗く、ベンゼンはアルコールよりも明るい。
 パスを見せている散乱は、レイリー・ブリルアン・ラマン散乱であって、チンダル現象ではない。この散乱は3つ合わせてもチンダル現象よりずっと弱い。しかし、教科書の写真にあるように、光のパスが全く見えないというわけではない。

 低分子の液体だけでも光の散乱は起きるんですよ!!

NMRパイプテクターについての相談

 NMRパイプテクターの件で相談があった。

団地の理事長が委任状を使って、勝手に買うことにしましたが、団体裁判でお金を払い戻す方法はないでしょうか?

 この商品の説明が科学としてはナンセンスであり、また、過去に私を脅したことは既に水商売ウォッチングの方に書いた(日本システム企画株式会社よりのクレームとその対策水商売ウォッチングに対するクレームと、法律相談の結果警告文ウォッチング)。私がある程度真面目に法律を勉強しようと思うきっかけになったクレームで、今読み返すと懐かしい。それはともかく、その後もここの宣伝資料はものすごいものが続出したので、と学会年鑑AQUAでもネタにした。売り込みを受けて困惑している方はこれらをご覧下さい。
 それはともかく、この会社はうまいところに目を付けて売り込んでいるので、買ってしまった後で説明に担がれたと気付いても、救済の道が容易ではない。
 この相談者のケースでわかるように、団地の理事長やマンション管理組合の理事長に売り込んでいるので、訪問販売の形式をとっていても、消費者契約法での保護から外れるし(たぶん)、景品表示法の適用も難しいという問題がある。集合住宅に売り込まれた場合、こりゃダメだと思った人は当然「自分の出資分の金返せ」と思うわけだが、それをどうやって実現するかが難しい。また、ダメ判定をした人達が返金を求めれば、信じている人達と正面から法律問題として争うことになる。争う相手は同じ集合住宅の住民ということになるので、人間関係を重視するなら住民を二分して揉めるというのもそれなりに覚悟が必要である。
 マンションやアパートの管理運営を引き受ける方はそれなりに物の道理もわかっており住民にも支持されている方なのだろう。しかし、ニセ科学宣伝への抵抗力が一般の消費者よりもあるかというと、必ずしもそうではない。
 今足りないのは次のようなことである。
(1)形式上は一般消費者扱いではないが力の実態は一般消費者と何ら変わりがない集合住宅の管理担当者を、一般消費者と同じ基準で救済できるようにするための法改正(景表法及び消費者契約法)。
(2)現状の法の枠組みで、出資した金が明らかにヘンな製品に使われた時に出資者が救済される法律構成を弁護士に考えてもらって、実際に訴訟を行い金を回収する下級審裁判例を作る。
(3)(2)を楽に実現するための立法。

 さしあたり、相談者が実行できるのは(2)しかない。そこで、「委託した金が全く同意できないことに使われた場合の救済策については、私は素人なので何とも言えないが、弁護士なら考えてくれるかもしれないので、まずは弁護士に相談するように」という旨回答した。さらに、「もし弁護士に相談して訴訟ということになった場合、宣伝の非科学性を裁判所で立証するための意見書を書くといった協力をする予定はあるので、相談時に弁護士にそのことを伝えてもかまわない」と付け加えた。

 (2)の裁判例が出ればかなり状況は良くなるだろうとは思うのだけど……。

水素結合は変わりません

 長崎新聞の記事より。

ペットの歯周病を予防

 日本理工医学研究所(佐世保市、阿比留宏社長)は、犬や猫など動物の口臭と歯石予防に効果がある飲用水を家庭で生成できる機器「アニマルウォーター」(税込み1万9800円)を商品化し、4月8日から販売する。

 アニマルウォーターは、電気の力で水分子の水素結合を弱め、口臭や歯石の原因となる菌や汚れの吸着を促す仕組み。使い方は、水道水を入れたペットボトルをアクリル製の機器(高さ28センチ)に入れ、電源を入れるだけ。生成時間は約5時間、電気代は月1・5円(月4回生成の場合)。

 市内の中小企業29社でつくる同市異業種交流協会、佐世保高専、県外の動物病院などが開発支援。昨年9月に動物病院用の生成器を開発し、その後家庭向けを商品化。動物が生成水を継続して飲むと、1~2週間で口臭を軽減したり、約90日間で歯石を希薄化するなどの効果が実証されたという。

 同社は「飲用水を使った歯周病の治療・予防で、歯石除去時の動物の身体的リスクや飼い主の経済的負担を軽減できる」としている。販売目標は年間千台。問い合わせは同研究所(電0956・30・8121)。

 電気の力だろうが何だろうが、水分子の水素結合を弱めることも強めることもできません。水素結合の状態は、温度と圧力によって少し変わるだけです。温度と圧力を元に戻せば、水素結合も元に戻ります。同じ温度・圧力の水の水素結合はどれも同じです。
 もし、水の水素結合が弱くなったとしたら、不純物の効果を越えて、水の沸点も融点も下がります。この水が、他の水と同じように沸騰したり凍ったりしているなら、水素結合は元のままです。

 それにしても、こんな話をチェックできないどころか開発に荷担するって、佐世保高専大丈夫か。
 触れ込み通りの事が起きてるなら、密度最大の温度や、水の静的誘電率、3500cm-1付近の水素結合に由来する赤外吸収やラマン散乱のスペクトルなど、マクロな物性から分光学的データまで軒並み変わるはずですけどね。一体どんな測定法を投入したんだか。

成績の悪い学生をレポートなどで救済してはいけない明白な理由

 まずは、日本経済新聞のサイト、「アインシュタインがもし福島を見たら…(震災取材ブログ) @福島・浪江」より。問題の部分に色付けしてみた。

東京電力福島第1原子力発電所の事故から2年を迎える福島県。いまだに15万人の県民が避難生活を続ける。多くの避難民は仮設住宅で生活し、生命は助かったものの仕事や故郷を失って生きがいを見いだせない人も大勢いる。「生命を奪わず生活を奪う」。福島県で取材を続けると、これが原発事故の本質ではないかと感じてきた。

 2月下旬、原発事故で避難区域になった福島県浪江町の住民が生活する仮設住宅を取材した。福島県が主催する健康相談会が開かれ、約20人の避難者が参加していた。食事のアドバイスに始まり、体操、ゲームと続いた。ただ参加した高齢者の男性は「仮設住宅は狭く、やることが全くない」と肩を落としていた。

 余生を家族と静かに暮らそうとしていた高齢者。自宅周辺は放射線量が高くて帰還できる見通しは立たず、賠償も思うように進まない。生活再建に向けた道筋を示されなければ心身とも厳しい状況に追い込まれる。原発事故は仕事や住居、共同体(コミュニティー)を破壊する。

 これは、そもそも原発が安全かどうかを評価する審査基準に起因するといえる。なぜなら安全審査の考え方は、事故が起きた場合に人命が失われるリスクがどれだけ高いかをよりどころとしているからだ。

 「確率論的安全評価」と呼ばれるリスク評価の方法で、事故が起きるシナリオと頻度、事故が起きたときの規模から、人間が死亡する確率を割り出す。飛行機事故やダムの崩壊などと比べて人命が失われる確率を割り出し、どこまで安全対策に取り組むかを決める。原子力の安全審査では米原子力規制委員会(NRC)が取り入れている。

 2003年に日本の原子力安全委員会(当時)もこの考えを踏まえ「原子力施設の事故に起因する放射線被曝(ひばく)によって生じるがんによって、施設からある範囲の距離にある公衆個人の死亡リスクは年当たり100万分の1を超えないように抑制されるべきだ」と提言している。つまり、事故によって死亡するかどうかを判断すればよく、原発事故が起きても住民に避難生活を強いたり、放射線に対する精神的な不安は考慮したりしなくていいということになる。福島の現状はこれを体現しているといえる。

 放射線による健康影響は不明な点が多い。高線量の放射線を浴びるとやけどなどで死亡するケースがあるが、低線量ならがんをすぐに発症しないうえ、長期的にがんを発症することがあっても、生活習慣や食事などによる影響も考えられるため原因が特定できない。避難生活で亡くなる人も多く、放射線は直接的な被害より、長期間にわたる影響の方が大きい。

 ウランの核分裂が発見されてから80年足らず。原子力のリスクはどう考えられていたのか。「E=mc2」という世界でも最も有名な公式を発見した物理学者のアインシュタインが、もし福島の現状を見たらどう感じただろうか。大学で物理学を専攻していた私は、福島の現状を取材しながらこうした疑問がわくことがあった。

 アインシュタインは核分裂の発見が原子爆弾を生み出す危険性をいち早く感じ、ナチス・ドイツが原爆を製造する危険性を訴える手紙を当時の米ルーズベルト大統領に書いたことでも有名だ。原子力にかかわる数多くの言葉も残している。

 「原子エネルギーの解放によって私たちの世代は先史時代の人類が火を発見してからこのかたもっとも革命的な力を世界にもたらした」

 「私は原子エネルギーが長い間には大きな恵みとなるという見通しをもっていないので、さしあたり脅威であると言わなくてはなりません」

 いずれも『アインシュタインは語る』(大月書店)から引用した。

 これらは原爆について触れた言葉と思われるが、原子力の平和利用である原発についての考えと仮定しても理解はできる。避難生活を続ける福島県民を見たら、同じような言葉を漏らしていたかもしれない。

 原子力を生んだ物理学では、エネルギーを無限に取り出せる永久機関が学問における究極目標の1つ。1990年代後半、東電の原子力担当役員を取材したとき、使用済み核燃料の問題など原発の限界を指摘したところ「聖書に書いてあるだろう」と激しく反論されたことがある。初めは「聖書」という意味が全く分からなかったが、詳しく聞いてみると1950年代に米国で書かれた原子力工学の教科書のことだった。その本には、核燃料リサイクルが夢の永久機関に近づくと紹介され、東電役員はこれを信じて発言していたのだ。

 東電福島第1原発の事故後、多くの原子力学者が批判を受けたが、この教科書をいまだに信じ続ける学者は少なくない。原発事故から科学者は何を学んだのか。人類は原子力と共存していけるのか。福島の取材を通じ、この自問を今後も続けなければならないと強く感じている。(竹下敦宣)

 物理学専攻なら、永久機関の存在がこれまでに行われた実験全てによって否定されてきたたこと、物理学の歴史はそんなものが存在しないことを確かめてきた歴史でもある、ということは共通認識のはずである。また、熱力学はどこの物理学科でも必修科目のはずで、これを落とせば卒業はできない。
 物理学の方では、永久機関は無理、と限界をすでに提示していて、工学の側は、永久機関……じゃなくて効率のよいエネルギー利用を実現するかを追い求めているだけだろう。
 一体、どこの大学のどこの教員が、こんな理解しかできていない学生に単位を与えて卒業させ、物理学科卒の学歴を与えたのか。
 あと、留年が多いとあれこれ圧力をかける文部科学省さん、留年を減らすために救済策を講じたりしていると、こういう知識のままの人材が社会で活躍する結果になるわけですよ。それでもいいんですか?