ナノバブル水素水フコイダンへのコメント

ナノバブル水素水フコイダンに近しい人が嵌まりつつあって下手すると必要な治療が遅れかねないという悲鳴が聞こえてきたのでコメントしておく。

製品例としては、http://www.ecotex-j.co.jp/productinfo.htmlのアスミーテという商品がある。フコイダンを薦めているところは例えば「代替医療を考える会」のこのあたり

まず、水の方から見てみよう。

ナノバブル水素水フコイダン50000の組成は、

フコイダン:50,000 mg
ビタミンC:10,000 mg
溶存水素水量:1ppm(製造時)

とある。

水素を強調しているが、室温1気圧の水素の溶解度は、ppmで表すと1.6ppm。他社の水素水も、高濃度と称しているものが1.2ppmだったりするから、つまりは飽和もしていない水素濃度のものが水素水と称して市販されているということになる。

トップページには、メチレンブルーを水素水に加えた場合の、他社製品との比較写真が出ている。青くなったものは「還元力」が失われているという話で、「還元剤としての水素が最初から入っていないか、抜けてしまう事が分かります」と主張している。しかし、この実験は水素が抜けたかどうかを反映していないのではないか。メチレンブルーの発色がみられなかったナノバブル水素水フコイダン50000にはビタミンCが含まれている。ビタミンCは抗酸化作用を持つことで知られているし、水素のように時間が経つと抜けていったりはしない。この実験では、ビタミンCがメチレンブルーの発色を妨げた可能性が高い。もしこの実験で水素が抜けたかどうかを確認するなら、他社の水にも同じ濃度になるようにビタミンCを加えた上で試験をしないと、水素の量の違いについて結論は出せない。

水素が超微細気泡化することにより水の中から抜けにくくなり、また、イオン化することによって気泡同士が反発し合い結びつかなくなるため、その大きさを維持するイオン化ナノバブル製法を採用しています。

とあるが、気泡の内部は水素ガスのはずである。水素分子イオンというものは放電管の中などには存在するが、通常の環境では安定に存在することはない。一体何をイオン化しているのかが謎である。

ナノバブル技術により、ナノバブル水素水フコイダン50000(通称:フコイダン水素水)は、他社水素水製品と比べ、たっぷりと水素が溶け込んでいます。

既に書いたが、他社の水素水で水素濃度が1ppmを越えるものが普通に販売されているので、他社製品に比べて水素が多いとはいえないのではないか。

また、溶存した水素が長時間持つ事の証拠として、ORP値のグラフが示されている。しかし、この製品には抗酸化作用を持つビタミンCが含まれているので、ORPの値はビタミンCの影響で下がっている可能性がある。同じ濃度のビタミンC水溶液のORPも一緒に掲載しておくべきだろう。また、ビタミンCを含んでいるのに、「科学的な添加物などを全く含まず」(化学的、の間違いと思われるが原文ママ)とはどういう意味なのか、わけがわからない。

抽出されたフコイダンを大量に含んだ独自製法のナノバブル水素水フコイダン50000であれば、容易に摂取することができます。

とある。フコイダンが体内に吸収されたことはどうやって測定したのだろうか。

もう少し詳しい説明を見てみる。

水素は、活性酸素を除去する働きがあると言われています。

普段私たちの体は、ストレスに晒されたり有害なミネラルなどの物質が体内に入ってくると活性酸素が発生します。この活性酸素は体の老化、サビの原因であり、様々な病気、体調不良の原因とも言われ、この活性酸素を減らす事が老化予防、病気予防になると言われているのです。

水素は抗酸化作用物質であり、酸化された細胞等を還元(元の状態にする)させる、つまり、体内の病気の元である活性酸素と結びついて安全で無害な水に変化し体内から放出させてくれると言われています。

見て分かるとおり、全て「言われています」と伝聞ばかりである。つまり、この水素水の効果については、自社で確認をしていないし、する気も無いし、効果があるとはっきり述べられるだけの証拠も持っていないにもかかわらず販売しているということになる。

フコイダンの説明は、多糖類であることや発見の経緯を書いている。しかし、効果がある、という根拠に結びつきそうなのは

2002年にはフランスの科学者による研究で、F-フコイダンがウサギの細胞の過形成を抑制することが明らかとなり 、また、2005年に慶應義塾大学教授・木崎昌弘博士らの研究により、フコイダンが人間の悪性リンパ腫の細胞にアポトーシスを起こさせることが発見され、注目されました。

の部分である。この部分を注意深く読むと、どこにも、実際のヒトの悪性リンパ腫に対して治療効果があったとか、臨床試験の結果が出たとは書かれていない。もし、臨床試験で認められた治療効果があれば、それは、企業にとってもっとも売り文句になるはずである。それが無いのだから、ここに書かれた効果は細胞培養の実験でのみ確認されたものだと読み取るべきである。そうすると、「簡単な練習問題」で紹介したフローチャートを適用するなら、フコイダンはステップ2で右側に分岐する。つまり、フコイダンの抗がん作用というのは、「人間にあてはまるとは限らないので、話半分に聞いておく」程度の扱いをすれば十分なのであって、とても、病院での治療の代わりに使えるようなものではない。

なお、この会社のフコイダンを紹介している資料の中にはまともな論文は1つも無く、いわゆる健康本のみである。これらの資料は何冊出ていても効果の証明には何の意味もない。すべて、フローチャートのステップ1を通過できず、「それ以上考慮しない」情報である。もちろん、医薬品でもないフコイダンについて、癌に効果があると誤認させるような、効果効能を謳った販売は違法である。

前置きの部分が非常にしっくりきた

 小田嶋隆のア・ピース・オブ・警句「ネット弁慶が街中に現れた理由」の、冒頭部分。

心を痛めている。

 ……という書き出しを読んだ瞬間に

「なんだこの偽善者は」

 と身構えるタイプの読者がいる。

 ながらく原稿を書く仕事をしてきて、最近、つくづく感じるのは、若い読者のなかに、情緒的な言い回しを嫌う人々が増えていることだ。

 彼らが嫌う物言いは、「心を痛める」だけではない。
 「寄り添う」「向き合う」「気遣う」「ふれあい」「おもいやり」「きずな」といったあたりの、手ぬるい印象のやまとことばは、おおむね評判が良くない。かえって反発を招く。

 彼らの気持ちは、私にも、半分ぐらいまでは理解できる。

 この国のマスメディアでは、論争的な問題を語るに当たって、あえて情緒的な言葉を使うことで対立点を曖昧にするみたいなレトリックを駆使する人々が高い地位を占めることになっている。彼らは、論点を心情の次元に分解することで、あらゆる問題を日曜版に移動させようとしている。

 若い読者は、そういう姿勢の背後にある卑怯さを見逃さない。
 リテラシーとも読解力とも違う、不思議な能力だ。

 この手の言い回しは、どう書かれていてもやっぱり上滑りしているようにしか見えないのですよ。議論すべきことを曖昧にする卑怯さというのは、相手にするとストレスが溜まるものです。何でもかんでも情緒で決着つけようとするヤツばっかりだった嫌な思い出というのは、私の場合、学校教育と一体のものになっています。
 「手ぬるい」言い回しの何が嫌かというと、言ってる側が真意をぼかしているためそれを推測するために余計な労力を使わないといけないからなんですね。禁止するとか止めろということを論理的に伝えられないので、敢えてぼかして相手に察しさせようとする傲慢さか、きれいごとで誤魔化そうとするずるさしか感じないのです。
 それを正面から指摘すると、人の気持ちがわからない、と非難されるわけです。私からみれば、伝える努力を怠っているのは貴方でしょう、としか言えない。
 こういう表現に隠された卑怯さを見抜く若者が増えてきたというのであれば、私にとってはかなり希望が持てる話です。

毎日キレイ、の水の記事

 毎日キレイ、に2013年1月16日付けで水の記事が出た。現在はサイトからも削除されているので、魚拓でしか読めない。キレイナビの、Health&Beautyに出たものである。1月27日現在、この水はキレイランキングの1位になっていた。

13年に注目したい水3種
内山真李
2013年1月16日

 日本では蛇口をひねれば清潔な水が出るのが当たり前。生水でおなかをこわすこともなければ、水不足になることもあまりありません。比べて隣の中国は、およそ3億人もの人がまともな飲み水を入手できない状態。そう、日本の水事情は世界でもトップクラスなのです。日本は美しい水の国。いのちを育む水は豊かさの象徴でもあるのです。

 さて、その水。じつにさまざまなタイプがありますが、13年に注目すべき水を3種、挙げましょう。

 ◇ミネラル炭酸水
 12年は自宅用の炭酸水メーカーも人気でしたよね。炭酸水は胃腸の調子をととのえ、ダイエット効果も期待できるほか、血行を促進するといわれています。個人的なおすすめは天然炭酸水(ガス入りミネラルウオーター)。私はそのおかげでお通じも快調、ダイエットもできました。

 ◇水素水
 活性水素を水に溶かしたものでエージングケア効果に着目されています。体内で活性酸素と結びつき体外へと排出するので、活性酸素が遠因となるさまざまな病気についても改善が認められるそう。購入の際は含まれる水素の量を確認して。水素が多いほどいいとされます。

 ◇純銀イオン水
 食品添加物として認められている銀が微量溶け出した水のこと。消臭・除菌効果があり、しかも飲んで安全。家電メーカーから純銀イオン水生成器が販売されているほか、専用ペレットで水道水から安定した純銀イオン水を作るタイプもあります。昨年バリ島で会った現地の日本人は、自宅で純銀イオン水を作っていました。「日本ではまだ浸透していないけど私たちはふつうに純銀イオン水を飲むわよ。インフルエンザの予防なんかにもいいの」とのこと。帰国後さっそく私も、1日にコップ1杯程度飲んでいます。

 書籍「水からの伝言」(江本勝著)やドキュメンタリー映画「WATER ウォーター」(ロシア)で話題になりましたが、最近の研究では「水は情報を伝える」ことが明らかになっています。愛や感謝を伝えた水を瞬間冷凍すると、たいへん美しい結晶となるのです。ですから、水を飲むときに「ありがとう」と感謝してみましょう。“体が喜ぶ水”を飲みながら、水資源に心から感謝する。これが13年の正しい水との“おつきあい”です。

 炭酸水自体は、口当たりがすっきりするのを楽しめるでしょうし、シロップを加えると自宅で簡単に炭酸飲料を作れたりするので、好きなだけ使えばいいと思います。私も、ペットボトルの炭酸水とストロベリーシロップや青リンゴシロップをおうちに常備しています。でも、ミネラルを補給したいのなら、水から摂るよりも食物から摂った方がずっと効率良く摂れます。水はあくまでも水なので、そこから何か別のものを補給しようとするのは、積極的に何かを溶かしでもしない限り意味が無いことです。
 活性水素水って一体何でしょうか。売ってるのは単に水素ガスを溶かした水にとどまります。食品加工の際に水中の水素ガス濃度を上げて酸化防止効果を狙うのは有りだろうと思いますが、水素はそんなに水には溶けませんし、水素を溶かした水を飲んだからといって、人体に効果があるほど水素濃度が上がるとは考えられません。また、「活性水素」なる物質の存在自体、宣伝用語で、そう呼ばなければならない水素は今のところ見つかっていません。
 銀イオン水を飲み続けていると、顔が青く(写真で見た感じでは青っぽい灰色)になるんですが、これのどこがいいんでしょうかね。まあ、美しさというのは多分に主観の問題ですから、銀が沈着してこの顔色になったのを美しいとか素敵だとか思う人が居ることを否定はしませんが、今の日本では、望まない人の方が圧倒的多数ではないかと思います。こんな水、日本ではまだ浸透していなくて幸いです。これからも持ち込まないでいただきたいですね。
 「水からの伝言」も「WATER」も、最近の水の研究とは何の関係もありません。「水は情報を伝える」なんてことは出てきていませんね。なお、「水からの伝言」は、江本氏自身がポエムだと言ってました。「愛や感謝を伝えた水を瞬間冷凍すると、たいへん美しい結晶となる」は記述そのものがポエムについてのものだし、江本氏の写真集は(瞬間冷凍ではなく)普通にシャーレで凍らせた水を顕微鏡撮影する時に、氷の表面に水蒸気から結晶成長したものを撮影しているので、この記述とは違うことをしています。

 水を飲むときに「ありがとう」と感謝することについては反対はしません。でもその感謝は、安全な水を供給している日本の社会インフラに対して行うべきです。蛇口をひねるだけで感染症や中毒の危険のない水が手に入るのは、本当にありがたいことです。世界中を見渡せば、安全な水が手に入らないために感染症が蔓延して病気になったり死んだりする人がまだたくさんいますので。

相性が……

 WordPress3.5.1にして、プラグインも全部アップデートしたら、真ん中のコンテンツ本体と右側サイドバーが出なくなって焦った。Executable PHP wideget2.1を無効にすれば大丈夫。あーびっくりした。

読書感想文?

 空想科学研究所(@KUSOLAB)のツィートが流れてきた。曰く、

『蜘蛛の糸』お釈迦様がカンダタを助けるために極楽からクモの糸を垂らすと、他の罪人も「何百となく、何千となく」登ってきた。仮に5千人とすれば、これに耐えるクモの糸は直径4.3㎝。こんな太い糸を出すクモがいたら、その体長は220mである。 (柳田)

 これを見て、ツィートしながら、ひょっとしてこれは蜘蛛のサイズ以前にいろいろ問題がありそうだと考えた。

 青空文庫で確認すると、「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)は、

○はるか上空が極楽で、そこにはお釈迦様が居る。
○地獄はうんと下にあって、カンダタ他生前悪事を働いた連中が居る。血の池とか針の山とか、苦痛を与える設備が一通り揃っている。
○カンダタは生前蜘蛛を助けたので、お釈迦様は極楽の蜘蛛の糸をカンダタに垂らしてやった。
○地獄から見ると、天上がどうなってるかはわからない。
○とりあえず蜘蛛の糸が来たのでカンダタは登った。
○途中まで登って下を見ると他の連中も登ってきてたので、この糸は俺だけの物だと叫んだところ、糸が切れてカンダタ以下全員地獄に逆戻り。

 という、まあ有名な話である。道徳話のネタで学校で習った記憶もあるし、ひょっとしたら国語の教科書や教材に登場したこともあったかもしれない。自分だけ助かろうとする了見の狭さがいかんだろうとかそういう教訓話にされてたと思う。

 今回改めて読み返して気付いたのは、蜘蛛の糸の太さとか蜘蛛のサイズの推定以前に、目の前に蜘蛛の糸が垂れてきた場合、常識的に判断すれば、上に居るのは蜘蛛だと思わなきゃいかんだろうということである。蜘蛛の糸が天上から降りてきたからといって、上にお釈迦様が居る、と考えるというのは、相当なぶっ飛び具合である。でもって、人一人を支えられる強度の糸だということは、この糸で蜘蛛の巣が作られた場合、人が引っかかれば切って抜け出すことはまず不可能である。蜘蛛の糸が来たからといって喜んでいてはいけない。様子がわからない以上、上に居るのは、亡者を餌にしようと待ち構えている蜘蛛である可能性の方がずっと高いと考えるしかない。餌にされる予感しかしない。よくこんな状況で糸を登る気になったものだ。
 しかしカンダタは、上に居るのが蜘蛛かお釈迦様かの識別ができない状態で、喜んで糸を登っている。地獄から抜け出せるかも、としか考えていない。後に続いた亡者どもも同様である。普通なら、このまま地獄に居るか上で蜘蛛の餌になるかの二択だったら、餌の方がマシなほど地獄が酷いところでない限り登らないだろう。
 芥川の書いたオチは、自分だけ助かろうとする無慈悲な心がいかんという趣旨のものだったが、これには賛同しかねる。むしろ、上が蜘蛛かどうかも検討しないということでわかるように、先のことを全く考えない行動ばっかり生前にしていたから、結果として悪事をたくさん働いて地獄に落ちることになったのだという教訓話の印象の方が強い。

 私がカンダタだったら、蜘蛛の糸が来た時点で逃げる……蜘蛛苦手。

VanaHに措置命令

 YOMIURI ONLINEの記事より。

飲料水・VanaH、「国連が評価」とウソ広告

ミネラルウオーターを製造販売する「VanaH」(山梨県富士吉田市)が、「国連から高い評価を受けた」などとうその表示をしたとして、消費者庁は20日、景品表示法違反(優良誤認)で再発防止などを求める措置命令を出した。

 同庁によると、マルチ商法(連鎖販売取引)を行う同社は、会員向けのお知らせ文書で「世界で初めて『国連認定証』を取得」「国連のロゴマークの使用許可を得た」などと表示して飲料水「VanaH」について広告。だが、国連が品質について評価したり、ロゴマークの使用許可を出した事実はなかった。

 文書は昨年10月と11月の2回、会員約6000人にファクスで送信された。昨年度の売り上げは2リットルのペットボトル(12本入り、6800円)で約62万ケースだったという。同社は「命令を厳粛に受け止め、再発防止に努める」としている。

(2012年12月20日19時18分 読売新聞)

 ニセ科学宣伝に引っかからないようにするための注意事項の一つが、有名人のお墨付きは信用するな、というものです。主に、タレント、スポーツ選手、なんちゃって学者によるお墨付きを想定しているのですが、いかにも権威のありそうな名前を無断で使うというのも、お墨付きをもらった体裁を整えている、という意味でこのカテゴリーに入りそうです。

何とかイオン、の顛末

 感染症学雑誌に論文が出ました。要旨が公開されているので引用します。

殺菌性能を有する空中浮遊物質の放出を謳う各種電気製品の,寒天平板培地上の細菌に対する殺菌能の本体についての解析
独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター
西村 秀一
(平成24年6月22日受付)
(平成24年7月31日受理)
Key words: plasmacluster ion, nano-e particle, minus ion, bactericidal effect, ozone

要旨

 本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4 m3閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3機種,4種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2 m3の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した.

 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.

〔感染症誌 86: 723~733, 2012〕

 電気製品から、放電方式で出てくる何とかイオンの効果は、オゾンの効果で確定ということのようですね。
 滅菌効果を期待して使う側としては、原因物質がオゾンだとわかっても別に問題なありません。ただ、濃度度が薄いと効果が無いし、濃度が高すぎればオゾンの劇物としての効果が顕著になって、使用に注意が必要となりそうです。

 殺菌以外で、一連の「マイナスイオン」の生理作用として言われてきたものが、実は微量のオゾンによるものだった可能性もあるわけで、この先は普通の科学の研究になります。微量のオゾンの生理作用は、研究テーマとしては面白いと思います。しかし、製品にする場合は費用対効果が問題となります。わざわざコストをかけてまで実装する程のものかどうかは、買う側にとっても見極めが必要ではないかと。

 活性水素と同じ経過をたどっているのが興味深いですね。あっちは、活性水素というものがある→成分分析したり分けたりして調査した論文が出る→電気分解でできた微量の溶存水素ガスの効果でほぼ説明できる、という展開でした。

掃除機過大表示

 プラズマクラスターについては基盤教育でも質問が出たりするのでメモ。
毎日JPの記事より。

シャープ:掃除機過大表示 再建に冷や水 独自技術に傷
毎日新聞 2012年11月29日 東京朝刊

 シャープが28日、消費者庁から電気掃除機の性能で過大表示と指摘された「プラズマクラスター」は、経営再建の柱の一つに位置づける白物家電の独自技術だ。性能そのものは問題視されておらず、他の搭載製品への波及もないとしている。ただ、イメージダウンから販売減につながる恐れもあり、シャープの再建に冷や水を浴びせかねない。

 同社は掃除機のプラズマクラスター性能について、ダニのふんや死骸のたんぱく質を分解・除去するなどと表示。その根拠として1立方メートルの空間での実験結果と注釈したうえで「約15分で91%作用を低減する」としたが、消費者庁は「こうした性能はない」と指摘。シャープはすでに4月時点で消費者庁から指摘を受け、10月末までに対象の表示を削除した。プラズマクラスターはエアコンや冷蔵庫など16品目に搭載されているシャープの独自技術。

 13年3月期の営業損益が1550億円の赤字見通しの中、白物家電を含む「健康・環境機器」は330億円の黒字と全6部門の中で最大の利益を生み出す貴重な収益源。最新液晶パネル「IGZO(イグゾー)」とともに業績回復の柱に据えているだけに、同社は「プラズマクラスターの効果自体は実証されている。他のプラズマクラスター搭載製品も安心して使用してほしい」と呼びかけるなど、影響を最小限にとどめたい考えだ。【鈴木一也】

 実験結果を正直に述べていたとしても、実際の使用条件と著しく異なっていれば、消費者にとっては意味がないわけです。
 家電製品の試験条件は、あくまでも、普通の消費者が使いそうな条件にするべきです。

未だにWindows95で動いてたり

 師匠のところから譲り受けたラマン分光器のコントローラー周りが移転早々逝ったのが一昨年。PC(HDDも電源も)+インターフェースボード+コントローラーのセットがお亡くなりになった。何せ、MS-DOSで動く測定ソフトウェアだったものだから、今更インストールしようにも記録が無くてどうにもならない。インストールディスクを手に入れたんだけど動かそうとするとエラーが出てダメで、元のとバージョンは同じだから多分うまくやる方法はあるはずなんだけど、誰も覚えていない。製造元は三回くらい会社合併やら買収やらされて、日本の代理店も買収されて元代理店の人々は別会社作ったり再就職したりで三分割されてる状態。その誰にきいてもやり方を知らない、と。
 この組み合わせよりは新しいセットが別の大学で動いていて、ちょうど廃棄処分になるということだったので、譲ってもらってつないで動かしているのが今のコントローラー一式で、OSはWIndows95。先日このマシンのWindowsが立ち上がらなくなり、コマンドラインならディスクのディレクトリも見えている程度の障害だったので、修復サービスを利用して復旧させてもらった。
 症状としては、測定が終わった時間に行ってみたらPC本体の電源のLEDが点滅していてマウスを振ってもディスプレイが消えたまま戻って来ないという状況で、リセットしたら立ち上がらなくなっていたというもの。
 戻って来たマシンをつないで院生と実験していたら、今日もまた、同じ症状が出ている、と院生が私を呼びに来た。また同じトラブルか、と思いつつリセット。今度は無事に動いてくれた。

 前回の故障直前も、今日似たような感じで止まった時も測定していたのはベンゼン。こいつは振動モードの強度がかなり強い。回折格子の分光器で赤外領域のラマン散乱を測定するということで、スリット大きめにあけてレーザーのパワーも300mW入れていたのだが、フォトマルに届く光が強すぎたらしい。リミッターに引っかかったという理由で測定が途中で止まってしまう。水やアルコールなら同じ条件で測っても全く問題ないのだけど、試料によって散乱強度は随分違うので、こんなこともある。去年はアルコールの超臨界測ってて、低振動数領域で散乱が強く無かったから止まるということはなかった。
 今回の問題は、Windows95のの設定が省電力するようになってて一定時間後にディスプレイが消えたりしている間に、測定プログラムがエラーで止まると復帰してこないというものらしい。何も問題なく測定が終われば、マウスを振ってやると画面もシステムも復帰してくるので、データを保存するだけなのだが……。
 「電源の管理」で、システムスタンバイ、モニタの電源を切る、ハードディスクの電源を切る、を全部無しに設定してから測定すると、途中で止まっても、ウィンドウに警告メッセージが出ているだけで、適当にOKをクリックして対応して再測定で何も問題はない。院生の測定も本日分は無事終了。

 どうも、Windows95あたりの古いシステムで、本体にボードを突っ込んで装置のコントロールをするような時は、省電力設定はしてはいけないということなのかも。

簡単な練習問題

 基盤教育の「科学リテラシー(化学A)」では、講義の時に、「食べ物とがん予防 健康情報をどう読むか」(坪野吉孝著、文春新書)のフローチャートを紹介している。

【健康情報の信頼性を評価するためのフローチャート】
ステップ1 具体的な研究にもとづいているか
はい  いいえ → それ以上考慮しない(終わり)

ステップ2 研究対象はヒトか
ヒト  動物実験や培養細胞 → 「有害作用」についての研究は、
                 それなりの注意を払う。
                「利益」についての研究は、
                人間にあてはまるとは限らない
↓                ので、話半分に聞いておく(終わり)
ステップ3 学会発表か、論文報告か
論文報告    学会発表 → 科学的評価の対象として不十分なので、
↓               話半分に聞いておく(終わり)
ステップ4 定評ある医学専門誌に掲載された論文か
はい    いいえ→  ひまな時に参考にする(終わり)

ステップ5 研究デザインは「無作為割付臨床試験」や
      「前向きコホート研究」か
はい      いいえ → 重視しない(終わり)

ステップ6 複数の研究で支持されているか
はい    いいえ → 判断を留保して、他の研究を待つ(終わり)

結果をとりあえず受けいれる。ただし、将来結果がくつがえる可能性を頭に入れておく。

 さて、このチャートを適用できそうな報道があった。

 日テレNEWSより

ゲルマニウムに血液の流れを改善する効果
(高知県)

13日、高知市で記者会見した高知大学医学部の植田名誉教授などの研究グループによると、ことし6月から5か月の間成人の男女あわせて33人を対象に純度の高いゲルマニウムを使ったネックレス着ける前と、着けてから40分後の血液の流れを測った。その結果、着ける前の測定で血液の流れが悪かった10人すべての血流が善くなったという。高知大学医学部の植田名誉教授は「血液の流れが良くなることで、肩こりや頭痛などの対策に効果が期待できる」と話している。今回の研究結果は、来月兵庫県で開かれる学会で発表される。
[ 11/13 21:54 高知放送]

 順に見ていくと、一応研究はしているのでステップ1はクリア。研究対象はヒトなのでステップ2もクリア。ステップ3で、学会発表なので右側に分岐……発表が無事済めばね。結論は「科学的評価の対象として不十分なので、話半分に聞いておく。」
 貴重な電波をつかってわざわざ報道するような情報ではないですな。

 間違っても、こんなあやふやな情報に基づいてゲルマニウムネックレスを売っても買ってもいけません。

 ネックレスをつけるのに悪戦苦闘した結果腕やら肩やらを動かして血液の流れが良くなったりしたんじゃないかというツッコミにこたえるためには、ゲルマニウムじゃないネックレスをつけさせた対照群が必要ではないかと。