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伊藤園「還元性水素水」へのコメント(2015/11/26)

 【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

さすが伊藤園というべきか、このページの宣伝に特に問題になるところはない。

健康を意識したら、この水にたどり着きました。

と書いてあって、随分控えめである。病気が治ったという印象を与える記述は一切無い。原料については、

こだわりの天然水 湯布院を望む、鹿鳴越山系の伏流水を使用しています
まろやかなのどごしの良さが特徴です。
体液に近い弱アルカリ性の軟水ですので体にやさしく浸透します。

とあるだけで、まあ宣伝文句としては常識の範囲内である。

水素水はこんな方にピッタリです!
食事に気を遣っている方
運動をされる方
美容・健康に関心の高い方。

 のようにお薦めされている。ここでも、病気が治るとか健康になるといった積極的な効果を出さないように注意が払われている。

 ただ、ついに来たか、という感じではある。

実は、だいぶ前に、伊藤園の中の技術者の人と水について話をしたことがあって、水素水も話題に出た。記憶が定かではないのだが、私の方からは、「水素で活性酸素を消すといっても効果があるのは水素を吸入させるなどして血中濃度のコントロールをした場合で、かつ梗塞後といった活性酸素が一度に大量発生して悪さをする場合の話であり、普段とは状況が違う。水に対する水素の溶解度は小さいので、水素を溶かした水を飲んでも体に入る水素はわずかで、血液中の水素濃度も変わらず効果も期待できないだろう」といった話をしたと思う。伊藤園の人によると、水素は食品添加物として製造過程で使うことが認められている、という話だった。それならば、製品の保存性を高めるといった目的で水素を積極的に使う技術を追求した方が健全ですね、といったコメントをしたと記憶している。

だからこの製品、中の人はどういうものかはっきり分かった上でやっているだろうと私は見ている。長引く不況の折、売れる商品を出さないといけない会社の事情と、実態を分かっている社内技術者と、営業や経営陣の間で、大人の事情ってやつが相当いろいろあったに違いない。

水素水が流行した背景には、活性酸素が病気や老化の原因になり抗酸化作用をもつ飲食物でそれを防ぐことができる、という俗説がある。だが、前提となる「活性酸素が病気や老化の原因」の部分が、どうやら覆りそうな気配である。入手しやすい文献としては、日経サイエンス2013年6月号の「覆る活性酸素悪玉説」がある。動物実験ではあるが、活性酸素が少ない方が寿命が短いという結果が出始めている。ヒトでどうなるかは今後の研究待ちだが、活性酸素を作ることが体の防衛機構でもある以上、抗酸化物質をとることがいつも体に良いわけではないだろうし、逆に寿命を縮める可能性もある、ということを念頭に置く必要はある。

伊藤園はがんばって水素を溶かしたのだろうけど、もともと水素の溶解度は小さいので、水素水を飲んでも摂取できる水素はわずかで、副作用の心配もないかわりに効果も期待できそうにない。

消費者が、この手の抗酸化何とかには意味がない、と見抜いて、他社の水素水を買わずに早々に市場から駆逐していれば、伊藤園の参入は無かっただろう。アホな製品を買い続けると、知識も技術もあるはずの企業でさえ、消費者のレベルに迎合した商品を出さなければならなくなるのは、マイナスイオンの時にも起きたことである。

まあ、この広告を見て、大手がやっているから水素水はいいのだろう、と思うのは早合点というものである。随分遅くに大手が参入したわけで、後発組としては当然、何かめぼしい効果を確認して先行する商品とは差別化を図りたいと考えたはずである。確実な作用がありそうならとことん試験して宣伝にも書くはずだ。それにも関わらずこの程度の広告、ということは、伊藤園の資金と技術をもってしても、水素水が効果効能を謳えるような商品にならなかったということを意味している。

 

還元性水素水のサイトを見に行く