ウォーターサイエンスフォーラムのまとめ(2004/03/11)
2004年3月10日に行われた,第92回ウォーターサイエンスフォーラムに関する覚え書き。演題は全部で6つ。
- 高周波還元水の機能と応用 (株)環境還元研究所 早川英雄 他
- 「電気を使わずに水を変えるミネラル還元活水器」ー21世紀の水の革命児 日本鉱泉研究所 奥村崇升
- 「水にまつわる"怪しい"言説」 京都工芸繊維大学 アドミッションセンター 左巻健男
- 「水の化学物理の視点で電解情報を読み解く」 山形大学理学部物質生命化学科 天羽優子
- 「活性水素による抗酸化作用があると宣伝されている諸水溶液系の性状と実態の検討」 杏林大学保健学部病態生化学教室 平岡厚
- 「活性酸素消去能を持つ還元水の科学と医療への応用」 九州大学大学院農学研究院 遺伝子資源工学部門 白畑實隆
私は準備のためちょっと遅れて行ったので,最初の講演は聴けず,2番目の途中からの参加となった。以下は私なりのまとめだが,普段通り辛口でいきます^^;)。
高周波還元水の機能と応用
講演をききのがしたので,何とも言えないが,講演資料からは,交流を使って電気分解する装置の紹介である。マイナスイオンや活性水素が多い,という触れ込みは相変わらずだが,亜硝酸と硝酸を減らすという機能が報告されている。
還元=善,ともとれるような宣伝はとりあえず無視し,電気分解で硝酸や亜硝酸がどのように変わるのか,変わった後の物質が何で,他に何か影響がないのか,といったところに注意してウォッチしていけばいいと思った。
最後のディスカッションからは,奥村氏は電気化学にかなり詳しいようだったが,素養があるのにどうして「マイナスイオンを含む水」「活性水素の多い水」といったあやふやな概念をあっさり受け入れてしまっているのか疑問を感じた。
「電気を使わずに水を変えるミネラル還元活水器」ー21世紀の水の革命児
マグネシウムスティックを水に入れるもの。同様の装置を林秀光医学博士が「活性水素君」と称して売っているが,奥村氏の方がオリジナルだということだ。当然,金属マグネシウムが溶解し,水酸化マグネシウムとなり,同時に水素ガスが発生する。
いい製品を作りたいという奥村氏の熱意はよくわかったが,酸化還元電位やクラスターや活性水素を水の評価項目として挙げている点,電磁波=プラスイオン,といった「マイナスイオン業界」の非科学俗説を信じている点,説明で,酸化と酸を混同している点が気になった。開発に15年かかったと言っておられたが,もうちょっと理科を勉強していれば,知識が整理できてもっと短期間で開発できたんじゃないかと思った。
「水にまつわる"怪しい"言説」
むしろ普段ウチで扱ってる話題に近い内容。活性酸素を必要以上に悪玉にすることが問題だとか,臨床試験が無いことが問題,水クラスター説の問題(本当に浸透力の強い水を飲んだら人は死にます,といった指摘),πウォーターと磁気処理水へのツッコミなど。
βカロチンの例は常識として知っておく必要があるだろう。疫学調査で果物や野菜の癌予防効果がわかり,細胞レベルの研究でも活性酸素の働きを押さえることがわかり,動物実験からも発ガン物質の有害性を押さえることがわかっていたので,βカロチンは癌予防に確実に効くと思われていた。で,数万人規模・5年以上にわたる介入研究開始。ところが,喫煙者など肺ガンリスク患者約1万8千人のうち,βカロチンとビタミンAを毎日服用した人は偽薬を服用した人よりも肺ガン発生率で28%,死亡率で17%高くなった。別の介入試験では,癌の予防効果も害もないという結果だった。
つまり,科学的に効果があることが確実視されている物質であっても,実際にヒトに適用すると結果が出ないこともあるので,ヒトで確認されるまで効果ありを主張するなということだ。
「水の化学物理の視点で電解情報を読み解く」
私の発表内容です。今回,怪しい話へのツッコミは左巻さんがやったので,電気化学の基礎的な話にしぼってみました。発表スライド(大峰先生のところのMD動画像は除く)はこちら。
「活性水素による抗酸化作用があると宣伝されている諸水溶液系の性状と実態の検討」
電解還元水(ホシザキ社の三漕型電気分解装置),日本トリム「アイムファイン」,ミネラルスティック水(活性水素君を使用),日田天領水を測定。抗酸化作用の測定・不純物組成の測定・ESRによるO2ラジカルとOHラジカルの消去効果の測定・煮沸と限外ろ過による抗酸化作用の変化の観察。
4検体とも,一定の抗酸化作用を持つが,O2ラジカルに効果があってOHラジカルに効果がみられないので,「活性水素」のような酸素ラジカルと直接反応して消去する物質は存在していない。電解還元水とミネラルスティック水の抗酸化作用の原因物質は,電気分解やMgの溶解で生じた水素ガス(分子)である(煮沸で作用がなくなる)。アイムファインと日田天領水では分子状水素に加えて分子量1万以下の還元性カチオンが原因物質の可能性がある(2価と3価のバナジウムイオン,分子量1万以下の金属ナノクラスタ−の可能性も否定はできない)。
この実験については論文投稿中である。
最近の,「活性水素君」の説明の変なところについて。Mg溶解で発生した分子状水素が,体内でヒドロゲナーゼという酵素で分解されて「活性水素」が生じるという説明があるが,ヒドロゲナーゼを持っているのは腸内細菌の一部で,微量の活性水素が生じても直ちに消化管内で消費され,体内で必要な部位にまで到達するとは考えにくい。
「活性酸素消去能を持つ還元水の科学と医療への応用」
今回,始めて白畑教授の発表を生できくことになった。
還元水自体の説明は,「金属ナノコロイドが活性水素供与体及び活性酸素消去剤として機能する」ということで変化なし。測定方法についても,既に当サイトで紹介した特許以上のものは出ていなかった。
研究が進んだところは,金属ナノコロイドと,同時に存在する水素分子が引き起こす生化学的作用に絞って,白畑教授の専門である動物細胞を使った実験が多数なされて,対照群に対して有意差のある結果が出てきたという点である。類似の研究は他にないということなので「金属ナノコロイドの生理学」といった新しい研究分野が立ち上がりつつあるのかなと思った。この点は積極的に評価したいし,今後の進歩が期待できる部分である。
今回の発表は,多数の実験結果を非常に駆け足で紹介するというスタイルで,学会発表慣れしていても,細かいところは別途確認が必要な内容だった(それぞれの詳細な実験条件までは出てこなかった)。白畑教授が他でどういうやり方で発表しているかわからないのだが,白畑教授の発表のうち都合のいいところだけをつまみ食いして宣伝に使う業者はこれからも後をたたないだろう。以前に比べて,白畑教授の発表内容を正確に理解して使うには,使う側にもそれなりのスキルが必要になってきている。
今回の発表をきいて,引っ掛かった点は以下の通り。
- それぞれの実験において使われている水の作り方について。電解槽を3段にしたり,高電圧をかけたりといった工夫をしているし,実験用の水にNaOHを溶かしたものを電気分解したりといったことをしている。このような処方で作った水が発表された実験結果を示すとしても,一般消費者が使う装置とはかなり条件が異なっているだろう(だから,セールストークに発表内容をそのまま引っ張って使うのは問題あり)。
- 平岡氏の実験では,OHラジカルの消去効果がみられなかったが,白畑データではOHラジカルの消去効果もあったという結果になった。この食い違いがどこからくるのか?水の作り方や,天領水のロッドによる違いだとすると,消費者が宣伝によって期待する内容とずれが生じることになるのではないか。
- 白金ナノコロイドは,チタンにメッキした白金黒が電解ではがれることでできる。コロイド生産量と薬理効果を示す量がどの程度違うのか,実験ごとに個別に確認が必要(今後の白畑論文待ち)。チタンのかけらがナノコロイドになることはないのか?
- 白畑教授の説明は,活性水素を強調する部分と,コロイドの触媒作用を強調する部分が混在しているように見えた。実のところ,見つかった効果が,従来から知られている金属ナノコロイドの触媒作用のみで説明できないという証拠はない。活性水素という概念は余分なものではないか。
いずれにしても,現状の白畑教授の活性水素説は,水商売の宣伝に気軽に使っていいものではない。
活性水素をキーワードにしてここまでいろんな水の宣伝が乱立した原因を作ったのが白畑教授であることも確かなので,一旦活性水素の話はやめて,ナノコロイドの生理学が確立したら,別のもっと適切で曖昧さの無い用語を作って,あらためて水の宣伝に使ってはどうか。同業他社をぱくった宣伝の伝言ゲーム状態を,どうやって収拾するか,少しは考えてほしいものだ。