排除命令と立証責任:吉岡氏関連情報(2005/12/29)
当サイトの批判サイトに関する追加情報
2年前に私に磁気活水器の件でメールを送ってきて以来、何のアクションもなかった健康と環境の神戸クラブ代表の吉岡英介氏が、最近になって当サイトを批判するサイト(というかほとんど私に対する批判だけ?)を始めた(ttp://www.minusionwater.com、リンクはしないので各自コピペして見に行ってほしい)。吉岡氏は、「水は変わる」という本を自費出版し、お茶の水大に送りつけて当サイトの閉鎖を要求するという、なかなかステキな活動ぶりである。吉岡氏とのメールでのやりとりは、水商売ウォッチングコメント一覧→水商売追加情報一覧→吉岡氏とのやりとり(に続く3つのファイル)で公開している。丸2年も放置プレイしておいて、なぜ今頃になって熱心にやり始めたのかは謎である。
メールでのやりとりでは、吉岡氏が一体どの製品について言っているのかはっきりしなかったのだが、その後ネット上の情報を調べた限り、吉岡氏が薦めている製品の一つが、株式会社エッチアールディーの「ダイポール」であることがわかった。このことは、吉岡氏が、ダイポール説明会の講師を務めていることから明らかである。「ダイポール」については、当サイトでも2002/04/10付けでツッコミを入れている。
mixiのコミュニティでも、「実家に転がってた HRD のパンフレットには、吉岡氏の写真入りのコピーのパンフレットが挟まれていました。吉岡氏の本の抜粋かもしれません。なんかこう、頭の痛くなる擬似科学言説てんこもりでした。 「○○ウォッチング」というアンチに惑わされるなというくだりもありました :) 吉岡氏がどこまで主体的に関わっているかはわかりませんが、HRD 製品の代理店の宣伝に吉岡氏の名前が出てきているのは間違いないです。 」という投稿があり、吉岡氏がダイポールの宣伝に関わっていることは間違いがなさそうである。
2005/12/26に、株式会社エッチアールディーを含む三社に対して、公正取引委員会の排除命令が出た(プレスリリースのミラー。株式会社エッチアールディー、株式会社日本ホームクリエイト、シルバー精工株式会社の三社に対する内容のミラー)。今回の排除命令の意味については後の方で議論する。
この排除命令に対し、株式会社エッチアールディーは、自社のウェブサイトで、次のような内容の「お詫びとお知らせ」を掲載し、まずは、まともな対応をしている。
当社は、このたび公正取引委員会より当社ホームページおよびカタログの一部に不適当な表示があり、それらの部分を表示してはならないとの排除命令を受けました。
今回の排除命令内容は、当社ホームページおよびカタログに記載しておりましたお風呂、トイレ、洗濯、台所、食器に関する表示です。当社は、公正取引委員会に裏付けとする資料を提出いたしましたが、提出しました資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められないと判断されたものです。
当社ホームページおよびカタログの当該箇所表示に適正を欠きましたことを、ここに深くお詫び申し上げます。
一方、吉岡氏はエッチアールディーの製品であるダイポールの説明会の講師をやっており、その主張は「水は変わる」の内容を見ればわかるように、非科学理論のオンパレードである。会社の方ではお詫び文書を出しているが、製品説明会の講師が、今後も表示の裏付けとならないような科学理論を標榜して講演したり、公取の指摘した以外の非科学宣伝を積極的に行うようなことがあれば、会社のお詫びは形式だけのものであったと判断せざるをえなくなるだろう。「製品説明会の講師の話した内容は会社と無関係」という主張が、社会的に認められるとは考えがたい。当サイトで行っている製品宣伝内容に対する科学的議論に逆ギレし、大学にクレームを出すような人物が、技術的裏付けを欠くという理由で排除命令が出た製品の宣伝を行っているのだから、まだまだ油断はできない。
というわけで、株式会社エッチアールディーが公取の指摘に対して誠実に対応したか、うわべだけ対応したかを判断するには、今後の吉岡氏の主張の内容と活動状況について、定点観測(?)することが有効であると思われる。
今回の排除命令の意味
今回の排除命令について考えるために、この件がどのように報道されたかを見てみる。新聞記事は、掲載時のURLが変わったり、一定期間後に削除されたりすることがあるので、掲載時のURLとともにネット上の記事を引用しておく。
まず、読売新聞(yahooヘッドライン)より。赤字は筆者による。
水生成器の効能表示、「根拠なし」と排除命令…公取委
水の生成器を販売する際、合理的な根拠なく「健康維持に効果がある」などと表示していたのは景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、公正取引委員会は26日、東証1部上場の家庭用機器製造会社「シルバー精工」(東京都新宿区)、「日本ホームクリエイト」(港区)、「エッチアールディ」(横浜市)の3社に、こうした表示をしないよう排除命令を出した。
生成器は、家庭の水道の蛇口につなぐなどして使用。1台約10万〜37万円で、昨年度は、3社で計約50億円を売り上げたという。
公取委によると、シルバー精工と日本ホームクリエイトは昨年6月以降、パンフレットなどで「この装置で生成した水を飲むと、体内の活性酸素を消去できる」、エッチアールディも同1月以降、「トイレのにおいを解消できる」などと、表示していた。公取委は3社に根拠を示すよう求めたが、合理的な説明はなく、同法違反と判断。3社は今月、こうした表示をやめた。
シルバー精工は「誤解を招く表現を反省している」、日本ホームクリエイトは「カタログ表示をチェックする社内体制を構築する」、エッチアールディは「厳粛に受け止め、速やかに改善を図る」としている。
(読売新聞) - 12月27日0時26分更新
次に朝日新聞(asahi.com)より。 赤字は筆者による。
公取委、活水器製造・販売3社に排除命令
2005年12月26日23時32分
「体内の活性酸素を消去」「ぬめり、カビの発生を抑える」といった広告には根拠がないとして公正取引委員会は26日、家庭用の磁気活水器と水生成器の製造、販売会社3社に景品表示法違反(優良誤認)で排除命令を出した。水道器具の表示で公取委が排除命令を出すのは初めて。3社の器具は約9万〜約36万円と高額で、公取委は「効果があるか十分に考えてから買ってほしい」と呼びかけている。
排除命令を受けたのは東証1部上場の機械製造会社「シルバー精工」(東京都新宿区)、マルチ販売の家庭用品販売会社「日本ホームクリエイト」(同港区)、活水装置製造販売会社「エッチアールディ」(横浜市)の3社。
公取委によると、3社は04年1月〜今月、パンフレットやインターネット上のホームページで自社商品を広告。商品に水道水を通過させると「レモンに匹敵する抗酸化力があり、飲用すると体内の活性酸素を消去する」「台所のぬめり、風呂場のカビの発生を抑える」などと表示した。
公取委が表示の内容を裏付ける資料の提出を求めたところ、各社は実験データなどを提出したが、公取委はいずれも合理的な根拠がないと判断した。
違反とされた商品のうち、エッチアールディの「ダイポール」は04年度に約1万4000個を販売し、約41億円の売り上げがあったという。
排除命令を受けたことについてシルバー精工は「誤解を招く表現になったことを深く反省する」、日本ホームクリエイトは「今後は表示に関するチェック体制を強化する」、エッチアールディは「速やかに改善を図る」と話している。
「『水道器具の表示で公取委が排除命令を出すのは初めて』とあるが、怪しい水道器具の宣伝はこれまでもあったはずで、公取は一体何をしていたのか?」という質問が理科教育MLver.2の方で出たので、ここでまとめておく。
結論からいうと、これは、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)の改正の効果である。
今回の排除命令は、景表法4条及び6条を根拠とするものである。例えば、平成12年の景表法4条は、
(不当な表示の禁止)
第四条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの
となっていた。これだけでは、優良誤認に該当する表示であることをはっきりさせるには足りなかった。つまり、「事実に相違」の立証責任が公取側にあったからである。ところが、平成15年改正で、4条2項が追加された。
2 公正取引委員会は、前項第一号に該当する表示か否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、第六条第一項及び第七条の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。
4条2項は、宣伝の根拠となった事実の立証責任を事業者に課すことの法的根拠を定めたという、画期的な内容である。この条文があって初めて、新聞記事からわかるように、公取が事業者に対して宣伝の根拠となった資料の提示を求め、それをもとに判断するということができるようになった。今回の排除命令はまさに2項が機能したものであり、2項追加前にはできなかったことである。4条2項の必要性を認識して法改正を行った方々の見識に敬意を表するとともに、適正に運用した公取GJと言っておこう。
私も含めて、理系の研究分野では、「新規なことを主張する側に立証責任がある」ことが常識となっている。このため、つい他の分野でも「あることを主張する人に立証責任がある」と思ってしまいがちだが、法の世界では全く違う場合がしばしばある。たとえば、私が応援で関わっている名誉毀損訴訟は、通常、名誉毀損であると主張する側(原告)には立証責任がなく、訴えられた側が「名誉毀損に該当しない」ことを立証できないと負けてしまう。どちらの側に立証責任をどこまで負わせるかは、どう立法しどう解釈するかに拠っている。
ニセ科学やインチキを推し進めたがる人々に典型的なロジックの1つに、新規だと主張する現象を提示し「間違っているというのならそのことを立証しろ」、というものがある。これは、科学の分野では決して認められることのない主張である。逆に、こういった主張をしている場合はそれはニセモノであると断じてもかまわない。科学の分野では、新規なことを主張する側に証拠を出して立証する全責任がある。そして、極端な主張を立証するには有無を言わさないだけの証拠が必用である。
ジャンルが「製品の宣伝」であっても、それが十分立証されていない現象や効果を謳うものであるならば、通常の科学技術と同様に、宣伝する側に立証責任を課すのが、科学技術立国を標榜する我が国では妥当なことではないかと考える。この意味で、景表法4条2項は、今後もしっかり機能させていく必用がある。