よくある質問その3
私のところにこれまでに寄せられた質問、コメントなどをQ&Aとしてまとめました。
Q. 電解還元水のデモンストレーションで、「還元水でお茶を薄めると色が濃くなる」というものがあります。場合によっては、お茶の抽出能力が優れているといった説明がなされることがあります。これは本当ですか?
A. 電解還元水でなくても、pHがアルカリ性の溶液でお茶を薄めれば、色は必ず濃くなります。実際に実験してみました。
アルカリ性のときは、2倍に薄めているにもかかわらず、元のお茶より色が濃くなっています。
実験の詳細は次の通り。
【1】広域緩衝液(0. 2Mホウ酸・0.05 Mクエン酸溶液 x ml に、0.1 M Na3PO4・12H2O 溶液 (200-x) mlを加える)を用いて、pH3(x=176)、pH7(x=99)、pH12(x=17
)の3種類の緩衝溶液を調整した。この緩衝液は低精度であるため、調整した後pHを測定すると、それぞれ、pH3.0、pH7.5、pH11.8であった。(試薬は和光純薬から購入、水は電気透析純水製造装置RFP343RA,
ADVANTECで精製)
【2】試料として、KIRIN生茶を用いた。生茶のpHは6.4であった。
【3】生茶7 mlをそのまま測定用試験管にとりわけたものを、希釈無しの試料とした。生茶を試験管に3.5 mlとったものを3本用意し、それぞれに3種類の緩衝液を3.5
ml加えてよく混ぜたものを2倍希釈の試料とした。
【4】島津SPECTRONIC 20Aを用いて、340 nmから650 nmの範囲で10 nmおきに透過率%Tを測定した。
【5】吸収測定が終わった後で、緩衝液を加えたものについて試料のpHを測定したところ、それぞれ、3.4, 7.3, 11.6であった。
【6】測定はすべて室温で行った。
透過率の測定結果を次の表に示す。一番左が希釈無しで、後は順にpH3, pH7, pH12の値である。
wavelength (nm) |
org_t(%T) | ph3_t(%T) | ph7_t(%T) | ph12_t(%T) |
340 | 5.8 | 12.9 | 9.8 | 4.1 |
350 | 4.1 | 12.1 | 8.1 | 2.9 |
360 | 3.5 | 14.7 | 8 | 2.1 |
370 | 4 | 22.3 | 8.9 | 2.1 |
380 | 6.9 | 35 | 10.8 | 2 |
390 | 9 | 50.7 | 14.6 | 2 |
400 | 15.8 | 60.2 | 21.1 | 2.2 |
410 | 20 | 67.8 | 21.3 | 3.8 |
420 | 28 | 74.8 | 30 | 6.7 |
430 | 40 | 76 | 41.3 | 11.1 |
440 | 45 | 78.4 | 52.5 | 21 |
450 | 51 | 80.1 | 62.3 | 31.8 |
460 | 54.5 | 81.2 | 72.7 | 41.9 |
470 | 59 | 83.7 | 73.1 | 48.4 |
480 | 60.2 | 85.9 | 75.3 | 54.2 |
490 | 63 | 87 | 77.2 | 55.1 |
500 | 67.8 | 88.2 | 79.4 | 64 |
510 | 76 | 90.3 | 84.1 | 68.9 |
520 | 80.3 | 89.8 | 87.1 | 73.6 |
530 | 81.2 | 90.9 | 89.1 | 76.4 |
540 | 85 | 92.6 | 90.7 | 80 |
550 | 87 | 93.6 | 92.3 | 80.9 |
560 | 88.2 | 94.1 | 94 | 82.2 |
570 | 86.8 | 94.1 | 93.3 | 82.5 |
580 | 91 | 97.2 | 94.1 | 83 |
590 | 87.5 | 97.5 | 93 | 87.1 |
600 | 90 | 99.1 | 97.1 | 87.1 |
610 | 94 | 100 | 96.3 | 87 |
620 | 89 | 100 | 98.8 | 87.5 |
630 | 95 | 100 | 96.1 | 88.9 |
640 | 87.1 | 97.7 | 98.9 | 92.2 |
650 | 98 | 91.1 | 100 | 89.7 |
透過率のグラフは次のようになった。
透過率から、A=-log(T/100)により、吸光度を求めた。吸光度のグラフを次に示す。
分光器の限界で短波長側が充分測定できていないが、pHの増加に伴い、350 nmのバンドが強度を上げつつ長波長側にシフトしていることがわかる。また、見た目の通り、pH11.6では、2倍に薄めているにもかかわらず、薄めていない試料より吸光度が大きいという結果になった。
お茶の黄色は、主にフラバノールによる。フラバノールはフラボン類に分類される色素分子で、共役二重結合を持つ。発色するのは、HOMOからLUMOへのエネルギー遷移が起きるからである。pHが変わると電子状態が変わるため、吸収帯が移動するので、色が変わってくる。
電解還元水の宣伝で、電解水の効果として「お茶を薄めたら色が濃くなる」というのをデモンストレーションされることがあるが、電解水に特有の効果でもなんでもなく、単に、pHの大きい(アルカリ性の)溶液をお茶に加えれば、色が濃くなる。家庭で手軽に確認するには、重曹水でお茶を薄めてみればよい。