PALETTE CLUB(2000/11/19
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
新型磁力活性装置の販売。
開発の経過を見てみよう。既に特許をとっているとのことだが、
パイプに取り付けた場合にパイプの表面にプラス電荷を自然発生させマイナス電荷を帯びている不純物に対してより高い影響を及ぼすことに成功した。
とある。電荷を発生させたいのなら、電位差が必要で、かけなければならないのは磁石による静磁場ではなくて電場のはずなのだが。もっというと、パイプの材質は何を想定しているのだろうか?もし、水道管としてよく使われている鉄管にとりつけた場合、金属は導体であるから、プラス電荷が発生して電位差が生じると直ちに電流が流れて電圧降下し、できた電荷は無くなってしまうはずなのだが。
最も磁石の効果を引き出す原理はS極とS極を用いて「磁石が反発し合う」ことを利用した場合の方が最も効果が上がると言う事が解ってきた。
N極とN極では駄目なんですか?と訊きたくなってしまう。NSの組み合わせとは磁力線のパターンが違うことは確かだが。
さて、働きについてを見てみよう。最初がこれである。
水の内部に取り込まれていた揮発性の高い有害物質(塩素、トリハロメタン等)が弾き出され、蛇口やシャワーヘッドから出た瞬間に蒸発する。
別に、これらの物質が分解されるわけでも消滅するわけでもないのだから、蛇口やシャワーヘッドから揮発した有害物質は呼吸によってしっかり肺から吸収されるのではないか?かえって危ない気がするが。ところで、この効果であるが、ねおじくんをとりつけてから水を流し、蛇口のところで空気を採取し、有害物質の揮発量が増えていることを確認したのだろうか?そういうデータは示されていないが、どこを見ればわかるのだろう?
これ以外の効果として、水の浸透圧の変化や分子間結合の変化で、水やミネラルが細胞に吸収されるという話が載っているが、細胞の恒常性の維持はどうなるのだろうか?細胞内部の環境は、細胞膜を介して適切な状態に保たれているし、イオンチャンネルや水のチャンネル(イオンや水を細胞に出入りさせる膜蛋白)の存在を考えると、水の組成が変わっても結合が変わってもそういう効果は起きないと思うし、恒常性の維持に逆らって吸収される水やミネラルはかえって有害なのではないだろうか。
次に、磁界を通過した水の変化について、順番に見ていく。表の左側が「磁界を通過した水の変化」で、右側が「磁気化した水の効果」である。「磁気化」がいわゆる「磁化」を意味しているのなら、水は反磁性体であるから磁化しないのでこの記述は誤りということになる。我々の知っている「磁化」とは全く別のプロセスだと主張するなら、まあそれはそれでかまわないのだが。
まず、「1.水の表面張力の低下」は測定結果がそう出たのなら事実だろう。だからといって、一足飛びに細胞に吸収されやすいという説明をするのは、細胞の能動輸送と恒常性の維持を無視しているので無理がある。
「2.水の水素間結合(クラスター)が分断される」話は、宮崎大学の実験結果を引用しているが、私が「水のクラスター」で既に指摘したように、NMRの実験を誤解しているので間違いである。しかも、NMRの実験では測定対象である水に、磁気処理装置よりもずっと強い磁場をかけるので、NMRの実験に使った水はことごとく磁気処理水ということになる。たとえNMRの実験でクラスターの分断がわかったとしても、それが測定のためにかけた磁場の効果なのか測定の前にかけた磁場の効果なのか判定するのは無理だろう。もし、測定前の磁気処理の有無で結果に違いが出るというなら、最初の磁気処理には磁気の効果以外の効果が含まれていることを意味する。
「3.クラスターが大きくなると、クラスター内に残留塩素が取り込まれて蒸発し難くなり、害を及ぼす」については、「テーブル試験で実証可能」とある。どうやったら確認できるのか、公表してほしい。前述したように、蒸発が早いなら蛇口付近の空気の成分測定が必要だし、そうでないなら水質検査をすることになると思うが、簡単に誰でもできるのだろうか。
「4.ミネラルがイオン化しないと体内に吸収され難い:磁界を通過した水はミネラルのイオン化が促進される。」は、前半は正しい。電解質が溶解したあとは、普通はイオンとして解離した状態になっている。後半については後述するが、そのまま読むと、磁界を通過させるとミネラルの溶解度が上がる(溶けるためにはイオンになって混じる)ことを意味している。
「5.水はマイナスの電荷を帯びている為にプラスの電荷を帯びたパイプに静電気吸引力により、吸い寄せられて水の水素間結合が増大する。:水が磁界を通過するとマイナスの電荷を帯びていた水がプラスの電荷に変換され、肌、髪の毛等に静電気の帯電がおきない。」は、完璧に違う。水分は電気的に中性で、余分な電荷をもともとおびていない。1個の水分子に着目すると、酸素側はマイナス、2個の水素側はプラスという電荷の偏りはあるが、分子全体では電荷はつりあっている。また、冬場の乾燥による静電気対策には加湿器が有効で、単に湿度が上がれば静電気の帯電を防ぐことができるので、静電気防止効果は磁気処理の効果とはいえないのではないか。
6,7については、正しいのはスケール除去効果のみである。しかし、「7.水に塩分が含まれている場合は機器の錆を促進させる。:水に含まれている塩分は還元作用により錆を抑制する。」は、表の左側と右側で正反対の事が書かれている。一体、塩分は錆を促進するのか抑制するのかどっちなんだろう。
個別の項目に突っ込んだらこんな感じなのだが、実は磁界を通過した水の変化として記述されている内容に矛盾がある。2の「クラスターが小さくなる」を仮に認めたとしよう。すると、水分子間の相互作用が弱くなることを意味するから、1の「表面張力の低下」とは矛盾しない。ところが、5で「水の水素結合が増大」とある。水素結合が増大したら、表面張力が大きくなるはずだから、5を認めると1および2と矛盾する。さらに、クラスターが小さくなる=1つ1つの水分子がばらばらになる、ということだとすると、ミネラル(=電解質)は水に溶けにくくなるはずだ。一般に電解質(食塩など)は水に非常によく溶けるが、その理由は水の大きな誘電率によることがわかっている(「分子間力と表面力」イスラエルアチヴィリ著、朝倉書店、ISBN4-254-14051-7、38ページ)。水の大きな誘電率は、水分子同士が水素結合で相互作用しながら集団運動することで出てきているので、水分子お互いにがバラバラになると誘電率が減少し、その結果、電解質の溶解度は減少し溶けにくくなることが予想される。これは、ミネラルのイオン化が妨げられることを意味している。従って4は1および2と矛盾する。
このウェブページの作者は、随分磁気処理水の文献を調べたり論文にあたったりして、磁気が水に及ぼす効果を紹介しているようだが、現在までにわかっている水や液体そのものの性質については、この記述ではほとんど無視している。他の磁気処理水のウェブページの記述もほとんど同じ内容であることを考えると、すでにわかっている水や液体の性質を無視するという傾向は、このウェブページに特有のものではなさそうである。
クラッセン博士の「水の磁気処理」が、磁気処理水業界の基本文献とされているらしい。私はまだこれを読んでいないが、引用されている部分だけから判断するなら、この本の記述には内部矛盾があるようだ。矛盾があることは、他の水や液体の本をいくつか読めばわかるが、「水の磁気処理」だけを情報源とする限り、なかなか気付かないのかもしれない。このウェブページは、かたよった情報源にのみ頼るとどうなるかという例を提供している。
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