「TOKYO MX「田村淳の訊きたい放題!」(2019/11/23放映)のサポート情報
はじめに
NMRパイプテクターを批判的な立場から取り上げた、TOKYO MX「田村淳の訊きたい放題!」(2019/11/23放映)に関連したサポート情報。スタジオの問答では言い切れなかったところをざっと書いておく。
まず一つわかったことは、予想の範囲ではあったが、熊野社長はその場の出まかせを平気で言う、ということである。ただし、出まかせなので、内容に整合性は全くない。つまり、述べられていることの全てが「単発」の内容で、それに関連して起きていて当然のことは一切出て来ない。ある意味才能とはいえるが、注意深く事実を収集しておけば、間違っていることがすぐにわかる。
番組内で紹介した話題のホントのところ
NMRパイプテクターは正規品
熊野社長は,NMRパイプテクターの在庫が無いので手に入れるには盗むかよくできた偽物を入手することになると主張した。しかし,日本システム企画株式会社は、売った後のパイプテクターの全数管理はできていない。2014〜2015年頃に、少なくとも2回ほど、中古品がヤフオクで売られていた。なお、番組中で紹介した分解済みのものは、日本システム企画株式会社由来のものである。取材源の秘匿の点から提供者については私が明らかにすることはできないが。
もし,販売したパイプテクターの全数管理がされていて,熊野社長の言うようにパイプの延命に不可欠な装置だったとしよう。それが盗まれたのであれば,再度設置したいという連絡が日本システム企画株式会社に伝わり,当然,熊野社長はそれを把握しているはずである。従って,番組中で「ユーザーから盗まれたと連絡があって再設置した,ユーザーは警察に通報済みだ」といったことを断言していなければおかしい。しかしそのような発言は無かった。
パイプテクターに入っていたのは磁石と樹脂だけ
パイプテクターには本物そっくりの偽物が出回っているというのが番組中での熊野社長の主張であり,分解したものを見せても偽物かどうかの判断がその場でできないということだった。我々が社長に提示したのは,パイプテクターを分解し,中がどうなっているかがわかるようになったものだった。つまり,社長の主張によると,「偽物」のパイプテクターは精巧に作られていて内部に至るまでそっくりなので,社長が見ても偽物か本物か断言できない,ということになる。
パイプテクターの特許に描かれた図は次のようなものである(図の着色は小波さんによる)。
これによると,少なくとも,樹脂に埋もれた状態で「黒体放射焼結体」と「電磁波収束体」(そもそもそんな機能を持つものは存在しないし,それぞれ何でできているかも不明だが)に対応するものが入っていなければならない。しかし,樹脂を掘ってみたところ,入っていたのは磁石だけで,黒体放射焼結体も電磁波収束体もどこにも見当たらなかった。なお,社長は,1200℃で焼結していると主張していたが,この温度は大抵の磁石のキュリー点以上であり,磁石を焼結したら元には戻らないので,磁力を維持しているということは,磁石の焼結は行われていない。内部を埋めていたエポキシ樹脂らしい材料は,1200℃に上げたら,焦げるか燃えるかするだろう。つまり,触れ込み通りの加熱を行ったものは入っていない。永久磁石を樹脂で固めただけの構造なのに「本物」と見分けがつかないということは,熊野社長が言うところの「本物」の方も内部には樹脂と磁石しか入っていなかったということを意味する。そうでなければ,分解したものを見た瞬間に「焼結体や収束体が無いからそれは偽物だ」と断言したはずである。
また,偽物が出回っているのであれば,そのことに対する注意喚起をもっと頻繁にしているはずである。私が批判したことについて,誹謗中傷だなどと言い張っている場合ではない。しかし,これまでの日本システム企画株式会社の宣伝において,そっくりな偽物が出回っているので注意せよとか,偽物はここが違う,といった情報提供は全く無かった。まあ,こういうところが,私が,社長の主張はその場限りの単発の内容だ,と指摘している理由なのだが。
パイプテクターを分解した結果は,熊野社長が存在を信じているはずの「黒体放射焼結体」や「電磁波収束体」が,パイプテクターを作る時に全く使われていないいないということを示す結果となった。熊野社長は口では「NMRが」「電磁波が」と言っているが,実際の製品には磁石しか入っていなかった。これは,社長本人が「黒体放射焼結体」や「電磁波収束体」の存在も機能も実は信じていないということを示唆している。
「黒体放射焼結体」や「電磁波収束体」はニセ科学グッズといえるが,パイプテクターは,ニセ科学グッズとしてさえも触れ込み通りでない不完全な物だった。ってか,理論の証明はこれからで社長の推測に過ぎないということはご自分で述べられたわけだけど,せめて推測に忠実に物作ろうよ,っていう……。熊野社長が一体どういうものを指して「黒体放射焼結体」「電磁波収束体」と主張しているのか知りたかったので残念である。
精度の悪い測定と契約のコンボで返金を防ぐ
香川のマンションで,設置後12ヶ月の検査を元に返品・全額返金に成功した。このいきさつは次のようなものである。
日本システム企画株式会社は,NMRパイプテクターの効果の評価法として,管内部を内視鏡で撮影し,設置前後で同じ位置で測定した画像から,管全体と,錆の部分について,プラニメーターを使って面積を出し,その比率から閉塞率を求める,という方法をとっている。完全に同じ位置で写真を撮るのはほぼ不可能である上に,プラニメーターの操作は手作業で錆境界をなぞっていくというものなので,わずかななぞり方の違いによって数値に差が出てくることになる。この方法では,精度の高い閉塞率の評価をするのは無理がある。
このマンションでは,建物内の4カ所で閉塞率の測定を行い,設置後12ヶ月で縮小改善すれば効果ありと判定する,という内容の契約が行われた。
12ヶ月後の結果は,全てにおいて改善がみられる結果となった。つまり,このままなら返品も返金もなく,効果があったということでそのまま使用が継続されるはずであった。ところが,この建物は,配管が入り組んでいて,実際には次の図のような設置となっていた。
設置前後の閉塞率の測定結果は次の通りである。
パイプテクターを通っていない水が12ヶ月流れていたところでも,最も少ないが0.3ポイントの改善があった。まず,この数値は,パンフレットに書かれている,設置後12ヶ月の閉塞改善率11.5%,とはかけ離れた値である。セールスの時に提示された結果が全く得られていない。普通なら,この時点で返品・返金になるはずだが,契約書が「縮小改善」とあるだけで,数値目標が無いので,ごくわずかしか改善しなくても契約書に反してはいないことになる。契約書の「縮小改善」という条件は,購入者にとって極めて不利である。
この結果をどう評価するかについて,場合分けして整理してみる。
(A)測定結果の精度が十分高かった場合(測定原理からいってあり得ないが)。改善の程度が一番小さいとはいえ,パイプテクターに関係なく自然に錆が減っていることがわかったので,そもそもパイプテクターが必要かどうかの疑念が生じる。 そうではなく,設置後12ヶ月では閉塞率の(ランダムな?)変動の影響があるので差が出ない(が,もっと長期に設置すれば差が明らかになる),というのであれば,設置後12ヶ月の検査で効果を判定するという契約書の内容がおかしいということになる。
(B)測定結果の精度が悪く,数ポイントの差は測定誤差として生じる場合(こちらの方がありそうな話)。測定結果の差が数ポイントあったとしても,誤差を上回るものではなく,どんな数値が出たとしても効果があったとはいえない。設置後12ヶ月の測定結果をもって効果の有無を判定するという契約書の設定が無理であり全く無意味ということになる。
熊野社長が主張したように,設置後10年経つとみんな満足するが設置後1年では違いがほとんど出ないというのが本当であるとしよう。設置後12ヶ月の検査は違いが測定誤差に埋もれて出てこないのであれば,設置前後の閉塞率は,誤差の範囲で増えたり減ったりするはずである。つまり,設置前に系統的に閉塞率が増える方向で変化し,設置後は全ての場所で閉塞率が減る方向に変わるということはあり得ないのである。しかし,測定結果は,設置前は変わらないか悪化,設置後は全てが改善している。この結果が示唆するのは,過失か故意かはともかく,閉塞率測定のデータそのものに何らかの恣意性が入っているということを意味する。契約書の内容が数値目標ではなく「縮小改善」であるため,12ヶ月後の測定結果について,誤差による変動幅の範囲で条件に合うデータを選んだものがユーザーに提示され,効果があったという判定になり,設置を続ける事ができる仕組みになっているといえる。こんな仕組みにしている限り,インチキではないかという疑念は拭えないわけで,そういう疑念を払拭する方法を提案したい。
熊野社長の主張に沿うなら,効果の有無の判定は1年後だけではなく,たとえば,3年後,5年後,10年後といった期間でも設定すべきだし,改善については数値目標を入れるべきだろう。社長が言うように,10年で劇的に改善するなら,その主張に見合った程度の数値目標を入れて,効果が無かった時の返金の期限を10年後まで設定したとしても,日本システム企画株式会社としては何ら困ることはないはずである。
なお,上記マンションでは,効果が無かったことと,データ偽装を理由に契約解除に成功している。
上記のことを考慮すると,NMRパイプテクターの導入にあたっては,
- 設置前後の検査はマンション管理業者や日本システム企画株式会社と関係のない検査会社に依頼する。
- 契約書中の効果の有無の判定の条件を「縮小改善」ではなく数値目標とする。数値は,売り込みの時に掲げられためざましい改善の値を踏まえて決定する。
- 設置後12ヶ月の時しか返品・返品に結びつく判定がなされないのではなく,たとえば,3年後,5年後,10年後の検査でも効果が期待通りでなければ返品・返金が可能な条件とする。もちろん,これらのタイミングでの改善について数値目標を設定する。
- 黒錆の比率が増えているかどうかについて,下流側で管内の錆を採取して分析を行う。
といったことが不可欠である。というより,この程度の条件を契約書に入れておかないと,購入者は著しく不利な契約を結ばされる結果になる。既に購入してしまったマンションの方々は,これらの点について,契約書がどうなっているかよく確認していただきたい。また,この条件で満足いく結果が出るなら,永久磁石しか入ってない残念な装置であっても,有用であるとはっきり言えるだろう。
この内容で契約したとしても,効果が社長の言う通りに出るのであれば,日本システム企画株式会社は全く損をしないはずである。なお,番組中で社長は,10年後まで代金を得られないというのは無理である旨主張していたが,私が言ったのは,効果保証に関する返金・返品の判定のタイミングを10年後まで延ばせという話であって,購入時の支払いを延ばす話などしていない。
ところで,どこかに中古品の本物もっと転がってないかな>パイプテクター。もっといろいろ分解して調べてみたい。磁石しかないことを指摘した後で作ったものは対策されてしまうかもしれないので,番組以前に設置したものの数が集まると,特許通りの構造かどうかを検証できる。導入実績の数は凄いらしいので,相当出回っているはずだが……。
測定方法自体の問題
なお,内視鏡写真自体の問題は,精度以外にこのようなものが指摘されている。
あれ、「赤錆閉塞率」なんていうから、文字通り赤錆で閉塞している比率かと思っていたのですが、断面写真じゃないのなら閉塞している率じゃないんですね。
— G@回転中 (@G_rolling) November 26, 2019
しかも魚眼だと、前後の距離で面積に寄与する比率も全然違ってきてしまうではないですか。
塩ビライニング鋼管も、塩ビでライニング(表面に被膜を作っている)だけなので、屋外配管で50℃を超えたり、凍結したり、あるいは発生してしまった錆で被膜が浮いてしまったとすれば、直管部が錆びることはあります。
— G@回転中 (@G_rolling) November 26, 2019
なので全く無駄というわけではないのですが、継手部の写真なら内視鏡は不要かと。
塩ビライニング鋼管も、塩ビでライニング(表面に被膜を作っている)だけなので、屋外配管で50℃を超えたり、凍結したり、あるいは発生してしまった錆で被膜が浮いてしまったとすれば、直管部が錆びることはあります。
— G@回転中 (@G_rolling) November 26, 2019
なので全く無駄というわけではないのですが、継手部の写真なら内視鏡は不要かと。
ていうか、塩ビライニング鋼管なら、直管部の内視鏡写真でわかるのは、ライニングのはがれた部分の面積とかライニングの表面の汚れの面積であって、赤錆と黒錆すらも区別できなさそうです。
— G@回転中 (@G_rolling) November 26, 2019
あと、結構重要なライニング裏側の錆が撮影できないですし。
ていうか、塩ビライニング鋼管なら、直管部の内視鏡写真でわかるのは、ライニングのはがれた部分の面積とかライニングの表面の汚れの面積であって、赤錆と黒錆すらも区別できなさそうです。
— G@回転中 (@G_rolling) November 26, 2019
あと、結構重要なライニング裏側の錆が撮影できないですし。
一連のご考察の通りだと思います
— 謎水/C97月南ミ13b (@nazomizusouti) November 27, 2019
業者の「測定」は真面目に検証する価値がない
ちなみに直管部は測定対象外なので、サビが増大しても、ピンホールができても返金されません
下流の赤錆全部に効く(∵水に水和電子を発生するー!という社長の推測により)という売り方をしているけど継ぎ手部分しか見て無くて,それ以外の部分は錆びようが穴が空こうが返金されないということも重要。売り込む時には言わないのだろうけど。
補足
永久磁石の製造過程で,材料となる合金を作って磁場中で成形するときの温度が大体1200℃〜1300℃とかなので(https://www.neomag.jp/mag_navi/mames/mame_process.html),「1200℃で焼結させる際,内部ではエントロピーが上昇,これがじわじわと低下する際,電磁波を出す」ってここから思いついたのかもしれない。エントロピーは確かに内部エネルギーの増加関数で,冷えて室温に戻るときにエネルギーを失った分だけ変化する。室温ぐらいになった後は,周囲の温度の変化によって多少変わるだけで,じわじわ低下はもう起きない。磁化の寄与分もほぼそのままだろう。以前,パイプテクターは磁気活水器ではないと社長は言い張っていたが,永久磁石しか入ってなかったし,1200℃で焼結が磁石の製造プロセスだとするなら,この意味で整合性はあるな。
参考リンク集
番組内容そのものは著作権の関係で出せないので、視聴していた方々によるつぶやきをまとめたものや関連資料を示す。