NMRパイプテクターの設置前後の検査には操作可能な穴がある(2021/12/06)
はじめに
日本システム企画株式会社からNMRパイプテクターの売り込みを受けると、効果があるという証拠として、設置前と設置後の水の全鉄の量の検査結果を出されること常である。また、設置後、効果があることを示す証拠として、水の中の鉄分の量を測定した結果が示されることが多い。どれも、設置前に多く、設置後は劇的に減っている。鉄の量の測定が外部機関で行われているので、測定は客観的かつ正確であり,実際に数値通りの効果があると思っている人は多いのではないだろうか。
しかし、実は、効果がある、という検査結果を人為的に出す余地が残っている。以下、設置前後に行われる水質検査にどのような穴があって、どうすればその穴を防げるかについて説明と提案をしたい。
水質検査では鉄イオンではなく全鉄の量を測定している
NMRパイプテクターに水道配管の防錆効果があることを示すための測定は、大抵の場合、水の中の全鉄の量の測定であって、水に溶けている鉄イオンの量の測定ではない。全鉄の量、とは、錆が混じって赤く濁ったり、配管が腐食して錆が剥がれたものが混じっている水の場合、固体である錆のかけらも含めた鉄の量を測定によって求める、ということである。
すると、錆のかけらが混じった水を採水した場合、かき混ぜるなどして錆を浮かせた状態で検査機関に送る水をボトルに詰めれば、ボトルの中に錆の欠片を入れることができる。故意にかき混ぜるのではなくても、一旦ポリ袋やバケツに採水したものをボトル詰めする場合、運ぶ時の揺れやボトル詰めのタイミングによって錆のかけらがボトルの中に入ると、全鉄の量の検査結果の数値が大きく出ることになる。
全鉄の量を測定することになっている限り、採水時の操作次第で、含まれている鉄の量がたいへん多く出ることが起こりうるのである。
設置前の検査で積極的に、あるいは誤操作によって錆の欠片が検体に入るような採水操作をし、設置後の検査で錆の欠片が入らないようにする採水操作をするだけで、設置前に高かった全鉄の量が設置後に劇的に減る、というデータを作り出すことが可能である。採水してボトルに入れる前に、どれだけの鉄が入るかが変わってしまうので、それ以後、どれだけ厳重に封をしてどの検査機関に送ったとしても、正しい検査結果が得られることはない。
検査の時に、採水作業をよく注意しておかないと、過失あるいは意図的な固体の錆の混入が起きる可能性がある。十分な確認なしに行われた採水の測定結果をそのまま受け入れるべきではない。
錆のかけらには、大きいものも小さいものもあるし、暫く滞留している箇所から採水した場合は赤錆が懸濁している水が取れることもある。錆の混入によって鉄分の量が変動するのを避けるため、水中の鉄分の検査をするときには、十分な量の水を流して滞留部分の水を捨ててから採水し、鉄イオンの濃度を指標として測定している。滞留部分の水を捨てて採水する場合とき,水を捨てる量は,設置前後で同じにしなければならない。
特に,管に採水用や水抜き用の枝が付いている時は,その部分の水は長時間滞留したものなので,設置前に滞留している水を採水すると,設置後の検査では滞留期間の短い水しか枝の部分に入っていない状態になることが起こりうる。すると,管全体の腐食の状況とは関係無しに,設置前の鉄分の量が多く設置後に下がるという結果になる可能性がある。
効果判定の水質検査に必要な注意
設置前後の鉄分量の増減によって効果判定を行う場合のチェックリストは次の通りである。
- 採水時に滞留している部分の水を十分流してから採水したか。設置前と設置後で事前に流す水の量が違う、といったことが無かったか。
- 採水時に、ポリ袋やバケツなど、揺さぶったり混ぜたりしたら錆の欠片が浮くようなものに一旦水を移してからボトル詰めしていないことをチェック。
- 全鉄の量ではなく、鉄イオンの量の増減で効果を判定する。同じように採水した水をボトル2本作り、1本は住民側の選んだ検査機関に送り、鉄イオンの量の測定結果を得ておく。
- 採水に用いる器具に汚染がないことに注意する。
もし、日本システム企画株式会社が先に採水を行い、その数値を示して、パイプテクターの導入が必要だ、といった売り込みをしてきたら、設置の前に水を採取して検査機関に送り、鉄イオンの量を求めておくこと。
防錆の効果の評価は、鉄の絶対量でもできなくはないが、鉄イオンの量の増減でも十分可能なので、必ず別途鉄イオンの量を求め、設置後も鉄イオンの量の変化を別途測定しておくこと。もし、日本システム企画株式会社の行う検査で、全鉄の量が劇的に減っているにも関わらず、鉄イオンの量がさほど変わらないのであれば、それは何かがおかしいのである。
設置前後の水質検査を日本システム企画株式会社が行う場合は、説明をきく人以外に実験操作を録画する担当者を決めて、採水操作を後からチェックできるように完全な録画をしておくこと。録画担当は録画にのみ集中し、会話するなど気を逸らすことがあってはならない。録画担当は二人ぐらいで行って、操作の一部が見えなかったり録画が飛んだりすることがないようにすることが望ましい。
一旦バケツなどで水を受ける場合は十分な時間が経ってから上澄みのみを採水するか,分析機関に依頼するときは,鉄イオンのみを定量するため,濾過などの適切な前処理を行うように伝えておくこと。
赤錆と黒錆の比率の検査
場合によっては、配管の一部を外して錆のサンプルを採り、内側の赤錆と黒錆の比率を確認する、という検査が行われることがある。
北海道での販売後の事例としては、設置後にこの検査を行うために、住民に知らせずに配管の一部を外して持ち帰ろうとしていたという話だった。
持ち帰りの何がいけないかというと、持ち帰ってから検査機関に出すまでの間に検体に対していくらでも操作を加える余地があるからである。
一般に、配管が腐食する時には、赤錆しかできないわけではなく、赤錆の内側の酸素供給が少ない部分には黒錆が自然発生し、その比率は時間とともに変わっていく。従って、検査機関に送るための検体を準備する時に、赤錆部分を比較的多く入れるとか、黒錆部分を比較的多く入れるといったことが可能である。表面だけ削れば赤錆が多くなるし、錆を削った後黒っぽい部分を取り除いても赤錆が多くなり、逆をやれば黒錆が多くなる。故意の操作で結果を変えることもできるが、誤操作で結果が変わってしまうことも起こりうる。
注意事項としては、取り外した配管を営業所等に持ち帰らせないことが重要である。一度営業所等に持ち帰った配管を使って出した検査結果は、信頼性に欠けるので破棄しなければならない。設置を済ませたり、検査結果次第で契約成立・解除が決まるような場合、日本システム企画株式会社は、ポジティブな結果を出したいという動機を持つことになる。公正な検査結果を得るには、双方立ち会いの上で検体を採取し、そのまま、手を加えずに第三者機関に送って検査を行う必要がある。あるいは,管ごと第三者機関に送り,赤錆と黒錆の実際の存在比率を正しく反映するように,偏りのない採取をする必要がある。
フィルターなどを用いる場合
上記に述べた方法以外に、流路にフィルターなどを設置して錆を採取して分析し、効果判定の指標に用いる、といったことが考えられる。
この場合の注意事項は、フィルターを設置してから外して分析に回すまでの間、水の流量や流速を毎回ほぼ一定にする、ということである。もし、分析前に勢いよく水を流せば、錆が洗い流されてしまうかもしれない。また、十分な水が流れていなかったら、錆も流れてこないので、結果として得られる錆の量が大きく変わることも起こりうる。設置から検査に回すまでの間の条件が毎回同じであることをしつこいぐらいに確認することが重要である。
日本システム企画株式会社にとっても歓迎すべき注意事項である
パイプテクターの売り込みを受けると、購入に賛成した人はどういう訳か日本システム企画株式会社を全面的に信じて全く疑わなくなってしまう。一方、購入に反対する人は、原理の説明が怪しいといった理由で疑っており、そのままでは両者の溝が埋まることはない。
従って、ここに書いたような測定時のチェックは、導入賛成派の住人だけで行うのではなく、必ず導入反対派の住人も一緒に行うべきである。サンプル採取時の実験操作に誤操作が入り込む穴が無いように、反対派が納得するまで確認した上で出した検査結果でパイプテクターに効果があるとなれば、反対派の人達も賛成に回り、導入がスムーズに行くだろう。これは、日本システム企画株式会社にとっても大きなメリットのはずである。これまでに立ち会いや録画などチェックが不十分なままで検査を続けてきたとしても、日本システム企画株式会社が再現性が良くなるきちんとした手順で試料採取などを行っていたのであれば、今後チェックを行っても検査結果が変わるはずがないので、日本システム企画株式会社にとって何のデメリットも無いはずである。
日本システム企画株式会社がこの提案に対してどういう態度で臨むかは知らないが、購入を考えている方々においては、ここに書いた注意事項が確認できるような提案を行い、それに対する会社側の反応も見た上で、購入を検討されたい。