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(1999/04/22)

ご注意:このページは、元ネタとなったウェブサイトの内容が全面的に改訂されたので、実態に合わなくなったという理由で商品名および社名を消去し、若干の修正を加えて掲載しています。似たような宣伝文句をどこか他で見かけたときにでも活用してください。(2001/11/22)

 磁気と遠赤外線を使った水の活性化装置の販売をしている。

 磁気を利用した水処理の基本原理は「M.H.D原理」なるもので、

M・H・D原理とは?
水(伝導性を持つ流体)が、一定以上の速度で磁場を直角に横切った場合、流体内の
荷電粒子にローレンツ力が働き、電子励気作用が起こって、高電位状態のエネルギー
が発生するというもの。

 混乱を防ぐために整理しておく。純粋な水は絶縁体で、電気を通さない。水道水は不純物が混じっているので、多少は電気を通す。水に溶けて、電気伝導を担っているもののことを普通は「イオン」という。「荷電粒子」は、電荷を持っている粒子全般に対する呼び名なので、広い意味ではイオンも荷電粒子の仲間には入る。あんまりこの呼び方は使わないけれど。まあ、水道水は不純物だらけなので導体と思ってよい。

 だが、ローレンツ力についての説明は、後半が誤りである。上に引用した文章の直後に図があるが、そこのローレンツ力の説明は、

 荷電粒子の流れが磁場を横切ると、荷電粒子に働く力が生じ粒子をマイナス電子と陽イオンに分解する。
この力をローレンツ力と呼び永久磁場によってその力を発揮する。

となっている。

 部分的には正しいが、文章全体では間違っている。確かに、荷電粒子が磁場の中を進むと、進行方向と磁場の方向の両方に垂直な方向に力を受けて進む方向が変わり、その向きは電荷が正の場合と負の場合で逆になる。ここまでは良いのだが、水の中の荷電粒子とはイオンのことで、すでに電荷を持っているので、正・負イオンがそれぞれ別の方向に進路を曲げられたとしても、それ以上分解はしない。水道管の中で分布に偏りができる可能性はあるが。もし、イオンならずに溶けている(というか水に完全に混じっている)ような物質は、中性の粒子であり、磁場の中を進んでもローレンツ力は受けない。だから、中性の粒子がローレンツ力によってマイナス電子と陽イオンに分解されることはない。また、磁場の発生源は何でも良くて、別に(永久磁石によって作られる)永久磁場でなくてもかまわない。
 水の中には、正・負両方のイオンが存在するので、ローレンツ力によってそれぞれが反対方向に引っ張られるが、その力は磁場の強さと水の流れる速さの積に比例する。室温だと、水分子もイオンも熱運動しているので、よっぽど強い磁場をかけるか水の流速を速くするかしないと分けるのは難しい。そして、磁場をかけるのをやめると、正・負イオンの存在の偏りは熱運動によって速やかに磁場をかける前の状態に戻る。
 ローレンツ力は、運動する荷電粒子の方向と垂直な向きに働くので、磁場は荷電粒子に対して仕事をしない。荷電粒子が磁場の中を動いても、速さは変わらず運動エネルギーも変化しない。ローレンツ力に電子励起作用はない。これを書いた人は、どうやら古典電磁気学を根本的に誤解しているようだ。ついでにいうと、水の中では遊離した電子が存在しているのではなく、 OH-の形で存在する。このイオンは水分子同志の水素結合のネットワークに埋め込まれた状態で存在していると考えられている。

 さて、次が、

この「M・H・D原理」によって、磁化された水に遠赤外線を加えることにより、 電子スピン共鳴を起こし、更に効果は高まりますが、...(以下略)

とある。最初に「電子励起作用」といっておきながら今度は「磁化された水」である。電子励起と磁化は全く別の現象で何の関係もない。

 「電子スピン共鳴」は、起きる条件が決まっていて、共鳴周波数と磁場の強さが比例する。物理学事典には、例として、周波数が9GHz、磁場が0.321Tという値が出ている。実験をするときにも、周波数はマイクロ波領域で行うから、数百MHzから数GHzの範囲である。遠赤外線は周波数になおすとTHzのオーダーだから、通常の共鳴条件より3桁も大きい。この条件で共鳴させるためには、3桁大きい磁場を作る必要がある。30Tということになる。確か8Tを達成するためには液体ヘリウムで冷却する超伝導マグネットが必要だった。その約4倍の強さである。最近フォローしてないので、強磁場発生技術がどこまで進んでいるか知らないが、同じ方式で30Tは達成できているのだろうか。永久磁石じゃまず無理だと思うが。
 ついでにいうと、強い遠赤外線は発生させるのが難しい。室温でもそこらじゅうから赤外線も遠赤外線も出ているが、「遠赤外線を加える」って、これのことだろうか。

 水の変化については、

前記理論によって水分子が高電位状態になる為、低電位状態の錆・水垢・スケール・
大腸菌・細菌等に常に接触放電を繰り返すことによって、錆・水垢・スケール等は
徐々に分解され、水流によって剥ぎ取られ、やがては除去されますし、又、大腸菌・
細菌等は、放電によって死滅してしまいます。

 とある。水の中で「接触放電」は無茶だろう。どうしても放電を起こさせたいなら、電極を2つ突っ込んで接近させた状態で、電極間に高電圧でも加えるしかない。書かれているような殺菌効果を起こさせたいなら、水の中にラジカルが存在すればよいが、ラジカルを作るには磁場と遠赤外線の組み合わせではではとても無理である。強力な紫外線かX線でも照射すれば別だが。

 水の説明は、

通常、水分子は単独では存在しなく、クラスターと呼ばれる分子集団に水素結合されて
いますが、まずい水は分子集団が不揃いで整列されていません。
ところが前記理論によって磁化された水は、電子励気作用によって電子の動きが活発に
なる為、水分子間のエネルギー運動が激しくなり、衝突を繰り返すことによってクラス
ターは小さな整然とした分子集団に生まれ変わります。
この変化によって分子の表面積が大きくなり、水の浸透圧が増す為、体への吸収も良く
なり、不廃物を取り除き新陳代謝を活発に促進するので健康にも大いに有効です。
又、分子間の隙間が多くなり、酸素溶解量が増す為、飲んでもまろやかで非常に美味し
い水となります。

だそうな。水分子同志が水素結合しているところはまあよいとしても、液体の状態での水のクラスターという考え方は、まだ確立していない。クラスターの小さい水がおいしいというのは、根拠のない話である。大体、水の分子集団の整列した状態って、じゃないのか。

 水分子間の運動が激しくなって衝突が増して、クラスターが小さくなった状態というのは、温度が高い状態に対応する。磁場と遠赤外線で電子励起は無理だが、もし他の方法で水の電子状態を励起し続けた場合、それが元に戻るときには光を出すか、その分のエネルギーを分子の振動や運動に与えるかして、最終的には温度が上がる。一般に、気体は、温度が上がるほど水にとけにくくなる。特に圧力もかけていない状態で、「水分子間のエネルギー運動が激しくなる」ことと「酸素溶解量が増す」ことが同時に起こるはずがない。

 また、人体には恒常性の維持という機能があって、水に限らず吸収や代謝を一定の状態に保つようになっている。それに逆らって吸収の良い水というのは体に負担をかけ悪影響を及ぼすだけである。

 ここで引用したようなメカニズムは、実際には起こっていない。赤錆が除去できたり水がおいしく感じられたりするのは本当のことかもしれないが、そのメカニズムの説明は、ウェブページで紹介されているようなものではないだろう。というのは、もし触れ込み通りのことが起きていたら、医療事故が多発して大変な騒ぎになっているはずだからだ。
 MRIをご存知だろうか。磁気共鳴イメージングといって、断層撮影法の1種で、病院で広く使われている検査法である。この検査では、超伝導マグネットで作った強磁場の中に人を入れて、さらに傾斜磁場と変動磁場をかける。人体には血液循環があって、血液中には様々な物質やイオンが存在するから、まさに「M.H.D原理」があてはまる。引用した通りのことが起きた場合、血液中の水は高電位状態になって血管壁を破壊し、浸透圧の増した水は細胞の代謝を狂わせ、患者はたちまち危険な状態となるだろう。実際には、MRIの検査を受けた患者にそんな事故は起こっていない。

 

補足:もし、「M.H.D」が電磁流体力学のことだとすると、その研究対象は水銀や融解ナトリウムなどの液体金属や、電離気体(プラズマ)で、普通の状態の水や水溶液は対象外である。

さらに補足:超伝導電磁推進装置というのがあって、これは水を電磁流体として取り扱っている。ただし、その条件は、超伝導電磁石で14Tほど海水に磁場をかけ、海水に700Aの電流を流したときに、フレミングの法則で水が力をうけて移動するので、推進力になるという話である。もっと小さい磁場でも原理的に可能だが、電流が大きくないとだめで、海水に大電流を流すと今度は海水の電気分解が起きるのでなかなか大変らしい。

もっと補足:「1.3T(永久磁石では現在最大の磁場)程度の磁界を150μS(一般的な水道水の電気伝導度)程度の流体に与えると、流速に応じてμA〜mAレベルの電流が流れます。この電流を検知して流速の計測に応用しているのが電磁流量計であり水道水レベルの流量計測の基本の一つです。μA程度の電流が水の中を流れて水に何が起きるかは定かではありませんが、電流が流れると言うことは確かです。」との情報をいただきました。電流が流れる状態で金属の管に水が接しているのであれば、水の中のキャリヤーはイオンであっても、金属表面のところでは電気化学反応が起きる可能性があるから、水そのものの物理的変化ではなくて金属表面の酸化還元反応(とそれに伴う水の微量成分の変化)でいろんな効果が説明できるかもしれない。