都市拡業株式会社へのコメント(2019/04/03)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
バイオウォーターという,カラムに水を通過させる方式の水質改善装置を売っている。ところが,宣伝内容がことごとく曖昧で,水の何がどうなるのかさっぱりわからない。
トップページを見てみる。まず, 水道水を山の石清水のような水に改質する「ザ・バイオウォーター」を開発しました
とあるが,「石清水のような水」とは何を意味するのかがわからない。純水と石清水を比較した場合,石清水の方は土壌や岩石の間を通ってきており,ミネラルなどの不純物を含んでいるのが普通である。土壌や岩石の組成は場所によって異なっているので,不純物の組成と濃度も石清水ごとに違ってくる。とてもじゃないが「石清水」でひとくくりにできるはずがない。
次の触れ込みは, 水道管に設置するだけで水道水が石清水のように物性変化するため、ただ水を普通に使っているだけで赤錆・赤水・スケール対策になるうえに、錆の進行を防止する黒錆を形成する効果もあります。
である。石清水のように変化したとしたら,それは,薄い水溶液になったということであり,「物性変化」ではない。次の疑問として,この宣伝文句が成り立つ為には,石清水(どこで汲んだか知らんけど)に,赤錆・赤水・スケール防止効果がある,ということがわかっていなければならない。石清水を汲むために錆びやすい配管を設置してみたがほとんど錆びなかった,といったことが起きていなければならないが,そのような説明は見当たらない。
水のホメオスタシスの力※(自己修復能力)を約2倍に高め
とあるが,全く意味不明である。水に自己修復能力と呼べるような性質は備わっていない。2倍というのも根拠不明である。何をどうやって測定したら2倍になったのか,全くわからない。 水道水中の塩素消毒剤を包摂し、消毒能力を保ったまま無害化します。
というのも,起こり得ないことである。消毒能力=殺菌能力なので,無害化したら菌に対しても無害になってしまう。無害化をどうやって確認したのか,根拠をしめしてもらいたい。
ハイブリッドセラミックが外部エネルギーを水の振動と共鳴する振動に変換します。
とあるが,その外部エネルギーが一体どこから来たのかが不明である。水分子の振動は赤外線の振動数と同じところにある。共鳴するには振動数を合わせなければならないのだが,さて,赤外線のあたり,つまりテラヘルツ以上の振動数の振動をどうやって作っているのか,振動が生じていることをどうやって測ったのか,まずは示してもらいたい。
次に,製品の概要を見てみる。
地中深くにしみ込んだ水は、地表に出てくるまでに長い年月をかけて地中の鉱物結晶に触れて活力ある水に生まれ変わります。
とあるが,変わるのは水にわずかに溶けている鉱物由来の成分の種類と濃度であって,活力,などという測定しようのない代物ではない。
※部分には, 改質とは、水道水から何らかの成分を取ったり加えたりせずに、水そのものの物性を変化させ高機能にしたものです。
と,絶対に起きないことが書いてある。水や水溶液の物性は,不純物組成と温度と圧力が決まればそれで決まってしまうもので,それ以外のやり方で物性を変化させるということは不可能である。水にはそのような性質は無い。この部分は,水の架空の性質を仮定して書かれたものであり,全く信用できない。
続く説明も誤解の連続である。「鉱物結晶は受けた力を一定の振動に変換する性質を持っています。水晶クウォーツの腕時計はこの性質を利用しています。」は間違いで,薄くカットした水晶に蒸着等で電極を作り,電気を流すことで水晶が振動する。受けた力,ではなく,必要なのは電流である。電源のない水処理装置では,水晶の振動は起こらないし,他の結晶で水晶と同様の性質を持つものがあったとしても振動は起こらない。
「水分子の自己再組織化が起こり、水の改質が可能となると考えられます。下に水改質のイメージ図を示します。 」はただの空想である。自己組織化のようなことが起きているかどうかは,X線や中性子線回折の実験でわかる。でもって,鉱物が溶解するときは電解質として溶解しているはずで,その周りの水,つまりイオンの周りの水の構造についての研究は多数ある。しかし,水の改質が起きたという話はない。マクロに見ると,水溶液としての性質が変わったというだけである。また,ここで主張する「改質」が起きるには,ミネラルが必要だが,すぐ上のところに 改質とは、水道水から何らかの成分を取ったり加えたりせずに、水そのものの物性を変化させ高機能にしたものです。
と書いてあり,成分を変えないと主張している。ミネラルが存在しているイメージ図と明らかに矛盾している。
ラボデータなるものがあったのでこちらも検討してみる。
表面温度40℃での,セラミックスからの赤外線放射データがあった。この温度で弱いヒーターとして使うのであれば,このデータも意味がある。しかし,水処理装置の中に入れて水を通せば,水は熱容量が大きいので,セラミックスも処理装置本体も,速やかに水と同じ温度になってしまう。物体が出す電磁波の波長と強度は温度に依存するので,水と同じ温度になってしまったら,セラミックスが一方的に水に赤外線を照射するということは起きない。なお,水の振動モードのうち,伸縮振動モードは3500cm-1付近にあるので,この波長域(2250cm-1〜650cm-1)だと,水の変角振動(1600cm-1)と,数百cm-1に広がっているリブレーションと呼ばれるモードの一部しかカバーできていない。振動が,という設定(この考え方自体は間違っているのだが)なのに,どうして一番強い水分子の振動を除外したのかが謎である。
一般細菌の制菌力のデータを見ると,4種類の水を滅菌ビーカーに入れ,片方はアルミ箔で蓋をし,もう一方は蓋をしないで室温で放置した,とある。蓋をした方で,滅菌蒸留水以外で菌が検出されなかった,ということは,蓋をした滅菌蒸留水で菌が検出された,ということになる。ビーカーも滅菌済みであり,アルミ箔がどうかは不明。ということは,その菌は,アルミ箔に付着していたか,実験操作の途中で混じったかどちらかということになる。つまり,偶然の要素で菌が混入する精度での実験結果だということをまずは踏まえる必要がある。蓋をしなかった結果について,改質水と滅菌蒸留水で菌が発生していない。蓋をした方で菌が発生するということであれば,実験自体がかなり偶然に左右されるものだと考えるしかない。つまり実験の精度が悪い。
レジオネラとO-157の結果を見ると,改質水の原水は水道水で塩素も含まれたままであることから,制菌作用の原因物質は水道水殺菌用の塩素で,何らかのミネラルの存在が制菌作用を増やしている可能性はある。が,滅菌とまではいかないので,これで安全,というわけにはいかない。
抗酸化作用については,理由がよくわからない。検体を分析した,とあるので,水を送って分析している。両方の検体をどういう実験操作で準備したかがわからないと,差が出た理由がミネラルによるのか,処理手順の差によるのか,何ともいえない。
塩素保持能力についてみると,「16時間エランビタール処理したもの」「16時間静置したもの」の比較となっている。エランビタール処理がどのように行われたのか知りたいところである。処理に使った容器や,容器の気密性がどうであったかといった情報がないと,測定結果が正しくても,原因が何であるかをはっきりさせることはできない。
フィールドテストデータを見る限りでは,差はあるらしいが,原因がはっきりしない。ただ,これだけの違いが出るのであれば,水に溶けているミネラルの組成と濃度に理由を求めるべきだろうとはいえる。
ザ・バイオウォーターの宣伝は,原理の部分について,想像に基づいて起こりそうもないことが書かれている。水には,この会社が説明されたような機能はなく,何らかの効果や作用があるとしたら,セラミックスから融け出したものが原因だろう。何がどれだけ融け出しているかは,元素分析等で調べることができるのに,実験を行った形跡がない。真っ先に調べるべきものが無視されているわけで,効果があるのに無害だと言われても全く信用できない。菌が死ぬことと,スケールや錆に変化が起きるということと両立するのは,水溶液としての溶質の作用であり,組成もろくに調べないまま安全だと言われても受け入れようが無い。何が入っているか調べていないということは,何が入っているかわからない水を使うということでもある。まずは,高校の化学を復習し,セラミックスから何がどれだけ溶出しているか成分分析をするところから始めてはどうだろうか。
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