パーソナルツール
現在位置: 水商売ウォッチング / 水商売追加情報 / 論文紹介「電解イオン水を用いた新しい洗浄技術」(2002/03/05)
ナビゲーション
 

論文紹介「電解イオン水を用いた新しい洗浄技術」(2002/03/05)

 最近、電解還元水(アルカリイオン水と呼ぶ場合もある)が頻繁にマスコミに出ている。錆の実験をしたり、トラコテの水と同じで病気を治すと宣伝されたりする。特に、九州大の白畑教授は、電解還元水中に活性水素(原子状水素)が安定に存在して、その効果であると主張しているし、林秀光医学博士(水関係の本を沢山書いている)も同じ主張をしている。もっとも、林博士の方は水素豊富水と言っているようだが・・・。その上、電解しながら超音波処理をするという装置まで売られたりして、もう何が何だかという状態である。

 やった実験と結果や、病気が治ったということは本当に起きたことであったとしても、活性水素の存在そのものについては、まだ認められるに至っておらず、白畑論文では作業仮説として導入されている。にもかかわらず、マスコミ報道だけが先行しているあたりは、一時期の常温核融合の騒ぎとそっくりだと思う。

 問題は、もっともらしい演示実験をしてみせるTV番組の制作者が、電気分解や酸化還元反応の何たるかをわかっていないというところにある。さらに、高校化学の知識すら怪しい人が、電解装置を作って売ったり、本を書いたりして、それが一般に読まれて、誤解を広めている。

 そこで、そういった変な説の毒消しということで、電解イオン水と超音波で何が起きるのかを、きちんと調べた論文を紹介する。

 なお、以下の要約は、私の責任で行ったものである。論文を利用する際には、元論文をとりよせていただきたい。

電解イオン水を用いた新しい洗浄技術(TFT−LCDプロセスへの応用)
今岡孝之1、小島泉里1、久保和樹1、森田博志1、大見忠弘1、三森健一2、呉義烈2、笠間泰彦2、吉澤道雄3、山中弘次3、加藤正行4、都田昌之4
1東北大学工学部電子工学科・2株式会社フロンテック・3オルガノ株式会社・4山形大学工学部物質工学科
信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE. SDM95-102(1995-08)

 電解イオン水に超音波を照射したものの、TFT−LCD基板表面の不純物除去効果について調べた。電解イオン水とメガヘルツ帯の超音波照射の相乗効果でラジカルが生成し、電解イオン水の持つ酸化種、還元種の反応を促進させることが示唆された。

 イオンを含んだ水を電気分解すると、アノード(陽極)側では酸性で酸化性の水を、カソード(陰極)側ではアルカリ性で還元性の水を製造することができる。

 電解漕を三漕式とし、イオン交換樹脂を組み込み、電極に貴金属合金を使用することで、電解層からの不純物発生を極力抑えた。目的に応じて超純水に電解質を添加して電解すると、より広範囲のpHおよび酸化還元電位(ORP)を有する電解水を製造することができる。電解によって生成される酸素、水素などのガスは、水を取り出すときに分離し、気泡の無い水を利用できるようにした。

 超純水を電解して得た純水電解カソード水は中性で還元性、純水電解アノード水は中性で三日制を示す。NH4Clを添加するとカソード水は酸性で強酸化性、HClを添加するとアノード水は酸性で強酸化性になる。強酸化性は、電解によって生成した溶存O3、溶存ClOxの酸化力によるもので、強還元性は溶存H2の還元力による。

 純水電解カソード水およびアノード水に、大気開放下で液を1l/minでオーバーフローさせながら0.95MHz、出力1200W、容積11lの装置で超音波を40分照射した。また、HClを10mMol/l, NH4OHを2mMol/lそれぞれ添加た水の電解も行った。ラジカルトラップ剤として、DMPO(5,5-dimethl-lpyrroline-N-oxide)を用いて、導電率測定やESR測定を行った。ESR測定では、HラジカルやOHラジカルを観測することができる。

 超音波照射によって、液の比抵抗が減少した。カソード水中ではNH4+イオンが40ppb生成した。これは、溶存H2を含むことで還元性の液であるカソード水に大気からとけ込んだN2がメガソニックで還元されて、NH4+イオンが生じたと考えられる。アノード水中には、NO2-、NO3-がそれぞれ250ppb,180ppb生成した。酸化性の液であるカソード水に大気からとけ込んだN2が、メガソニックによって酸化されてNO2-,NO3-イオンが生成したと考えられる。

 HClを添加した場合は超音波無しでもOHラジカルが生成した。超純水、電解カソード水も、超音波照射によりOHラジカルを生成した。Arをバブリングしてから超音波照射した水ではOHラジカルとともにHラジカルも検出された。

 弱アルカリで還元性の電解カソード水は、通常のアルカリ洗浄にくらべて除去効果が高いことが報告されている。

 0.1ppmのNH4OHを添加した水に超音波を照射し、ガラス基板上の平均1ミクロンのアルミナ粒子(等電点pH9-10)の除去効果を調べたところ、還元性の電解カソード水の粒子除去効果が高いことがわかった。また、不明粒子汚染のあった製膜済みITO薄膜付き基板上の粒子除去効果も認められた。

 

 電解イオン水の半導体基板洗浄効果は、他にも詳しく調べられているようだし、この実験ではESRにより、ラジカルの種類まで特定されている。もし、巷で言われているような、原子状水素が安定に液中に存在するなら、その影響が半導体基板の洗浄効果のどこかに影響して、何か異常が見えるはずである。また、今の技術であれば、ESR測定でも観測が可能なのではないだろうか。

 電解水に超音波をかけたら活性水素が出ました、などと主張する前に、せめてこの論文程度の実験をやって、化学種の確定と定量をするべきではないだろうか。