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白畑教授の活性水素仮説改訂版(2002/11/09)

 白畑教授が、活性水素仮説をさらに進めたようである。総説が、九州大学中央分析センターのセンターニュース75号(平成14年2月)の、7-21ページに掲載された。文献名は、「活性酸素消去能をもつ還元水の科学と医療への応用」である。以下、この文献を紹介する。とはいえ、化学物理の立場から興味のある部分のみの紹介を書く。上記文献は、分析センターにお願いすると送ってもらえるので、全文を読みたい方は各自連絡してほしい。


 はじめに、から始まる前振りの部分や、電解還元水がいいという話、トラコテの水に効果があったという話の紹介は、ばっさり略する。化学物理の立場で興味があるのは、白畑教授が提案した、原子状水素が水の中に存在するという話が、いかなるメカニズムによって可能になるのかということ、その定量法、さらに、水に効果があるとしてその効果を他のメカニズムでも説明可能かどうか、と言った点である。

 まず、なぜ還元水の研究を始めたか、については、「電解還元水及び奇跡の水が改善効果を示す疾病の多くに活性酸素が慣用していることから、これらの機能水が体内の過剰の活性酸素を消去することにより効果を示している可能性が考えられた。」と述べている。

 活性水素仮説については、6節の「活性水素還水説」のところに記述されている。ここを読むと、まず、水の電気分解について書かれている。書かれている内容は電気化学の教科書通りで、発生した水素は電極表面に吸着した形で存在すると述べている。この説明は、巷の怪しい説明(あたかも原子状水素が水の中に存在するかのような記述)とは全く別物である。電気分解の説明のあと、水素吸蔵合金について次のように書いてある。「吸着された水素原子はつぎに金属内部に拡散し、吸蔵される。吸蔵された水素は加熱することにより、再び金属表面に放出し、水素分子にすることができる。この原理を応用したものが水素吸蔵合金である。

 この水素吸蔵合金の話から、本総説では、以下のような仮説が提案されている:「電解還元水の活性酸素消去能は室温で1ヶ月以上安定であることから、遊離の水素原子が水溶液中に長期間存在するとは考えがたい。そこで、我々は還元水中では水素原子は金属ミクロクラスターに吸着・吸蔵された形で長期間安定に存在するという仮説を提唱した」この仮説については、3つ文献が引用されている。

  • 白畑實隆:電解還元水の活性酸素消去作用とガン細胞の増殖抑制.機能水の科学と利用技術、137-138、ウォーターサイエンス研究会(1999)
  • 白畑實隆:「水が持つ生理機能」農業および園芸、74、165-171(1999)
  • 白畑實隆:「還元水による動物細胞の機能制御と医療への応用」日本農芸化学会誌、74、994-998(2000)

 測定方法については、まず、酸化タングステンを用いる方法では感度が足りないということが述べられた後、「スピントラップ剤を用いた新規の活性水素定量法を開発した。これはスピントラップ剤が原子状水素と特異的に反応し、色素を形成する反応を利用したものである。中間体の化学構造を決定し、電解還元水及び天然還元水が活性水素の供与体であることを明らかにした。」と書かれている。しかし、この部分については、何も文献が引用されていない。この方法については、0.1ppb以下の活性水素が測定できるとされている。実サンプルの測定結果については、電解還元水及び日田天領水は0.8-0.9ppbの活性水素そ含むこと、トラコテの水とノルデナウの水は0.1-0.2ppbであること、市販のミネラルウォーターや水道水ではほとんど検出されない、と書かれている。

 水素の安定性については、ケイ酸化合物中に取り込まれると1年以上安定に存在するということが、Sasamori, R., Okaue, Y., Isobe T. and Matsuda, Y: Stabilization of atmic hydrogen in both solution and ctystal at room temperature. Science, 265, 1691-1693 (1994)を引用して触れられている。

 で、ポイントとなる活性酸素消去効果のメカニズムだが、「電解還元水を高圧電子顕微鏡室の透過型電子顕微鏡で解析したところ、1〜10nmの白金クラスターの存在が確認できた。また、日田天領水にも白金クラスターのほか、銅クラスターや鉄クラスターなどの存在も確認できた。この金属クラスターの濃度に依存して活性水素反応が強まること、純粋な2nm程度の均一な白金コロイドも活性水素反応を示すことが明らかにした。これらの結果から、電解還元水や奇跡の水中に存在する金属ミクロクラスターが活性水素のキャリヤーとして機能するものと推定した。水分子の大きさは0.3nmであるので、1nmサイズの金属ミクロクラスターは水分子と同様に細胞内に細胞内に取り込まれ、細胞内活性酸素を消去するものと推測された。一般に、粒子サイズが2nmよりも小さくなると、バルクの場合と性質が異なり、表面原子の作用が強くなって、酵素と同様な強い触媒活性をもつようになることが知られている。

 活性水素がビタミンCなどより優れている理由は、ビタミンCなどが活性水素消去後、再び酸化剤として機能するが、活性水素は反応後水になって反応を停止するからだと書かれている。

 活性水素は、脱気処理、攪拌、超音波処理には安定だが、加熱すると効果が失われた。しかし、密閉溶液中で加熱した場合は活性は保持される傾向を示したと書かれている。

 何を消去するかについては、「電解還元水及び電解還元水中の金属ミクロクラスターが活性水素反応を示すとともに、O2-、H2O2および・OHを消去することが明らかとなった。」と書かれている。


 動物実験の結果などは、何が効いているかはともかくとして、少なくともある成分なり製法で作った水の効果であるから、追試が出そろったあたりで判断すればいいことなのでここでは取り上げない。

 以前の活性水素仮説から進んだところは、金属ナノクラスターが活性水素のキャリヤではないかという話になったところである。

 しかし、肝心の活性水素の高感度検出法については文献引用がなく、詳細は何も記されていないので、誰も追試できない状態である。おそらく特許の関係ではないかと思う。情報を公開できないのなら総説を書くなとまでいうつもりはないが、どうせ書くなら、特許を出して論文も通ってから、誰でも追試をしたり内容の検討が可能になるだけの情報を盛り込んだものを書いてほしいと思った。ということで、白畑教授の次回作に期待したい。

 また、この総説を読んでも、活性酸素消去効果があったとして、結局何がそれを担っているのかがはっきりしない。金属ナノクラスターが活性水素を吸蔵していると書いてあって、そのすぐ後に、電解水や日田天領水に金属クラスターが含まれていると書いてあるのはいいとしても、そのクラスターの大きさは1nmから10nmとある。本文中でも記載されている触媒として働く大きさの2nm以下のものを含んでいることになる。これでは、効果があったとしても、クラスター中の水素によるものなのか、クラスターそのものの触媒効果なのかがはっきりしない。

 「水分子の大きさは0.3nmであるので、1nmサイズの金属ミクロクラスターは水分子と同様に細胞内に細胞内に取り込まれ」とあっさり書いてあるが、水分子より大きい金属クラスターが細胞内に取り込まれると考えている理由もはっきりしない。普通は、水が細胞膜を通過する−>水より小さい分子なら通過するに違いない、とは考えても、水より大きいものが通過するとは考えないのではないか。この部分は、なぜこう考えているのか読んでもさっぱりわからなかった。

 また、効果の定量評価であるが、動物実験の結果はあっても、試験管内で活性酸素を直接消去したという話がどこにも出ていない。金属クラスター中の水素が効果を発揮するにせよ、金属クラスターそのものが効果を発揮するにせよ、この文献に記載された活性酸素消去効果は試験管中で観測されなければおかしいのだが、その点について何も情報がない。この文献の記述からは金属クラスターの効果か水素の効果かわからないと書いたが、どちらの効果かを確認する1つの方法が、活性酸素を定量することであると思う。つまり、観測された活性水素の分だけ活性酸素が消去されるのであれば反応を担っているものは水素だといえるし、活性水素量よりも消去される活性酸素量がはるかに多いということなら、金属クラスターの触媒効果が支配的だという話になる。なぜ、活性酸素消去量と活性水素の量の関係がいつまでも明らかにされないのだろうか。

 この文献の別の意味での見所は、10節に、

 これまでの研究結果から、我々は飲料水を還元水と酸化水に区別することを提唱している、還元水は活性水素を含むか発生させる水、活性酸素を消去する水、生命を酸化障害から保護する水、疾病を防ぐ水、エネルギーのある水、若返らせる水、古来からの水、生命を育む水と定義できる。一方、酸化水は活性酸素を含むか発生させる水、エネルギーを消費させる水、老化を促進する水、疾病を起こす水と定義できる。水道水はこの酸化水に分類できるであろう。

と書かれている点である。水の分類として、科学的とはとてもいえない。

 この文献を素直に読むなら、効果がある水を作るには、金属ナノクラスターを効率よく生成させることと、生成したクラスターにできるだけたくさん水素を取り込ませることの2点が重要だということになる。製造方法として、電解することが最も効率のいい方法ではないかもしれないし、通常の電気分解の条件がいいとも限らない。改めて、金属クラスターの製造方法を考える必要があるのではないか。

 また、金属ナノクラスターが生体に取り込まれて効果を発揮するのが本当か?という点については文献からはよくわからない。これからの研究課題なのだろう。さらに、金属ナノクラスターを高濃度に含む水を飲んだときに害がないのかどうかもまだわからない。この害がないことが確認されないと、とても健康にいい水とはいえないのではないか。

 いずれにしても、この文献から直接、電解水を薦めるという結論は出てこないように思う。まだその段階ではない。この文献を引用して、消費者に電解水を勧める企業が続出しないか心配である。

 報文全体を読む限り、私には、「金属ナノクラスターの生体に及ぼす効果」という基礎的研究テーマの萌芽に見える。動物細胞やナノクラスターの最近の成果については素人なので何とも言えないけど、生物学の基礎的なテーマとしては面白そうだし、白畑教授の研究の本流にも直結しているのではと思う。ただ、研究の説明があまりにも水に偏りすぎている点が心配である。