有限会社ティネット(2002/08/20)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
「エルセ活水器」という、セラミックを詰めた筒に水を流す方式の装置を販売している。
ただし、機能の説明は謎である。水を「活性化」すると書いてあるが、具体的に、分子レベルで見て水がどうなることを「活性化」と呼ぶのか、説明を読んでもまったくわからない。
水中の成分付着・除去や、セラミックからの成分の溶出もなく、水中でセラミックが流動、衝突、摩擦することにより、セラミックに発生するエネルギーを水に伝達し、水の構造に変化を与え、活性化させ様々な機能をもたせるものです。
と、最初の説明にあるのだが、「水の構造に変化を与え」の証拠がどこにも書いてない。水のどこをどう変えるのか、はっきり説明してほしいものだ。もちろん、水の分子構造は水である限り変わらないし、分子間水素結合も変わりようがない。水でセラミックを揺さぶる方式をとっているように見えるが、セラミックにエネルギーが発生するとしたら、それは、水の流れから受け取った運動エネルギーではないか。セラミックが焦電体であれば、お互いにぶつかれば粒の表面に電荷がでることは起こりうる。電荷が出ている間は、もしかしたらその付近の水の配向が変わるかも知れない。しかし、水は液体で、熱運動でランダムに動いているから、セラミック部分を通り過ぎたらまたもとの性質に戻ってしまう。
この手の話を読むときの原則は、どういう物理的手段を使っても、水の中に溶けている物質の種類と量を変えない限り水そのものの性質を変えることはできない、ということだ。但し室温1気圧では。ずっと高温高圧の条件では、水の性質が変わるが、それでも、もとの状態に戻したら水の性質はもとに戻る。
いずれにしても、書かれていることしか判明してないのだとすると、まだまだ研究不足なのではないか。体験談でも写真でもだめで、もっと条件を押さえた試験をしないと、どんな効果がどの程度あるかがわからないと思う。
このページをとりあげるきっかけになったのは、歯科医の方からの以下のようなメールをいただいたことによる。
さて、本題ですが、歯科医院で使用する歯科用ユニット(切削器具等がついている治療台です、以下ユニットと略します)内部の水配管内壁はバイオフィルムが形成され、非常に汚染されております。
拙院での簡易培養結果では1000CFU以上の細菌が認められました。米国ではすでに問題化されており、テレビでトイレにたまった水とユニットから出てくる水の比較をして後者の方が細菌数が多いという結果が放映されました。そこでモリタという歯科メーカーは対策としてエルセ活水装置というものを売っています。開発元のHPを拝見しましたが私には理解できません。JRで使っているというのも驚きです。よろしければ貴HPで開設して頂けないでしょうか。
ちなみに拙院では上記の対策として、夜間、ユニットに入る水の元栓を閉め、水回路に圧縮空気を流すことにより。乾燥状態にした上、圧縮空気にエタノールを混ぜて噴霧して消毒しています。簡易培養では細菌は認められません。歯科メーカーは非常に非科学的なところが多く、水回路の元栓付近に浄水装置をつけるところもあります。そんな事をすれば有効塩素濃度が下がり細菌汚染が進むのは自明の理だと思うのですが。
確かに、配管中のぬめりを取るという効果が宣伝されてはいる。それでも、水洗トイレの配管や、流しの配管でやっているうちは、写真と体験談で話をしても、まあ実害は生じないだろう。しかし、医療用ということになると、こんな程度の調査でははなはだ心許ない。装置を付けた後、条件を変えて培養実験をやって結果を出してもらわないことには、現実の健康被害が生じかねない。歯科メーカーが勝手にここの活水器を採用しているらしいので、責任は、有限会社ティネットではなくて歯科メーカーの方にある。「歯科メーカーは非常に非科学的なところが多く」が真実だとすると、非常に怖い。通常の治療の際に、口の中を傷つけることはよくあり、菌にさらされると弱い状態になっているからだ。
歯科メーカーが、ここの会社の宣伝の「JRで採用」を本気にしたのだとすると、判断基準を疑ってしまう。どう見ても、男子用トイレの水洗の水の配管にとりつけてある。飲用に適さない水でも使えるトイレの水洗と、口に入れる歯科用の水を同じ基準で判断するなど、ちょっとかんべんしてほしい。トイレの方は、「フレコミ通りの効果があれば掃除の手間がはぶけてラッキー」、という基準でやってもらってかまわないが、歯科用ユニットの水は、培養実験をして念入りに安全性を確認してもらわないと困る。また、季節によって水温がかわって、菌が繁殖しやすいときもあるので、そういう条件の悪いときでもかならず殺菌効果があるかというところまで確認してもらわないと、患者は安心できない。
【エルセ活水器続報】(2002/08/25)
上記のコメントをアップしたら、これを読んだ別の歯科医の方からメールをいただいた。個人名は伏せて、一部を紹介する。
歯科医院の水道の元栓付近にエルセを装着しております。歯科販売業者の**から購入したものです。購入時からその効果には疑問を感じておりましたし、購入後も約束された効果が得られないので、何度かクレーム致しましたが、未だについております(笑)。
購入時の約束された効果とは・・
1.オートクレーブ内に付着物が付き難くなる
2.流しの水垢が落ちる
3.水割りが美味しくなる などでした。
未だに、オートクレーブ内には付着物は付きますし、流しに水垢は付きますし、水道の水で水割りなんてちょっと論外ではありますが、もう諦めてます(笑)
あまりにも効果が顕著ではありませんので、文句を言っておりましたら、私のところは大型の水槽で魚を飼っておりますが、その水槽につける小型のエルセを無料にてくれたのです。しかし、そのエルセを装着してみますと、魚が1週間で全部死んでしまったのです・・。さすがに、水槽用のエルセはすぐに外してしまいました。
水割りが美味しくなる件については、販売店(福岡市のお店でしたが)の社長がうちの水道水を持ち帰り、分析を依頼して、分析結果は送ってきましたが、その後は音沙汰なしとなっています。
で、本題なのですが、水槽に装着していた小型のエルセが手元に残っておりますので、Y.Amo様さえよろしければ、現物を差し上げたいと思っております。お送りしてよろしければ、送り先をお知らせください。
ということで、活水器をお茶大宛に送っていただくことにした。とにかく、実物を見たいと思った。使用法については、こんな感じだそうだ。
サイズは現物を見ていただくと致しまして、使い方は、単純です。エルセの下部に、ホースを接続して、水を流し、セラミックの玉がくるくるといい具合に(笑)回転する水圧に調整します。すると、エルセ上部から水が出てきますので、その水は、クラスターが細分化された(笑)、とっても素晴らしい水であるというお話になっております。
悪徳商法マニアックスページは以前より存じておりました。そこで以前に話題になりました活水器の話を、私が以前に管理していたWeb掲示板で続いておりましたところ、エルセ販売店より、クレームがありまして、掲示板は閉鎖した経緯がございます。
エルセに関しましては、私の同級生の歯科開業医も設置しておりまして、彼は、「ユニットの水管がきれいになった」と言っており、肯定的な意見を持っているようです。
私の方は、エルセを設置して、1年後あたりに、サニクリーンが同様の器具を売りに来た時に、配管内部の写真を見せられ、「こんなに汚れてます」「この機械を取り付けたらきれいになります」等と営業され(笑)、情けない気持ちになっております。
ということで、効果が出たという人もいるらしいのだが・・・・・。それはともかく、手元に装置があるので、きれいな水を通水してみて、ウチでラマンの水のOH伸縮振動と、誘電緩和測定をやれば、宣伝のようなクラスターの変化(=水の中の水素結合の変化)が起きたか、それとも普通の水のままかということは判定できる。近日中に(とはいえ今忙しいのでこの2、3ヶ月以内てことになるだろうけど)やってみたいと思う。いや、本当にクラスターが変わっていたらモロに当方の研究テーマになるわけで、巨額の研究費獲得も夢ではない・・・ごにょごにょ^^;)。
ところで、この方のメールの中に次のような記述があった。
業務用?のエルセは、水道の元栓の直後に設置します。今回お送りした水槽用のものは、水槽の濾過槽から水槽本体に行く配管の途中に設置しておりました。
業者によれば、福岡市にある、マリンワールド水族館にもエルセが採用されて良好な結果を得ているという事でしたので、以前に私の掲示板でもめた事もあり、今回お送りした水槽用エルセを無料でくれるという事で、「手打ち」をしたつもりでしたが、結果は前のメールで書いたとおりで、私はキレてしまいました(笑)
さすがに、魚が死ぬ現象の追試はしていないだろうから、活水器が悪さをしたのか、活水器取り付け時期にたまたま別の偶然が重なったのかは定かではない。まあ、これまでのいきさつがあったということで、ご本人がキレるのは納得できるが・・・。ところで、福岡のマリンワールド水族館といえば、マリンワールド海の中道じゃないかと思ったんで、私が参加しているメーリングリストにそこの人がいるから、ちょっとメールで訊いてみた。
「エルセ活水器」という水処理装置があります。構造は、流路にセラミックの粒を入れてあるが、ぎっしり詰まっているわけではありません。粒径は2mm程度でしょうか。
水を流すと、セラミックの粒が流れによってカートリッジ内を運動します。フレコミでは、これで、水クラスターを細分化(激謎)し、活性化された水を作り、その効果は、配管のぬめりをとるとか、付着物を防ぐとか、そういったものです。
このタイプの活水器が、福岡のマリンワールド水族館で採用されて効果をあげていると業者が説明しているそうですが、それは本当ですか?
もし、効果が本当だとすると、クラスター云々はさておき、それは通常の科学でどのような説明が可能でしょうか?
そうしたら、高田@マリンワールド海の中道さんから、以下のような返事が来た。
当館には導入していないと思うのですが、
施設担当者に明日にでも確認しておきます。
(時々、テスト、という名目で勝手に機器を置いていく業者がいますので)
活水器につきまして、続報です。
3日前から出張中のため、先ほど館に電話して
担当者に確認しました。
設置の事実
今年、7月頃に試験導入しました。
業者が「とにかく使ってみて欲しい」と置いていったそうです。
経過
当館の予備水槽(温水ー5)の循環系に設置。
付着藻類防止の効果があるという触れ込みで、約1ヶ月使用。
効果
使用1ヶ月後、「効果なし」ということで返却。
ということでした。
(中略)
「採用」ではなく、試験設置しましたが、
効果をあげている、という事実はありません。
以上、報告まで。
あららら...と思ったら、今度は、左巻@京都工繊さんからのフォローが。
こういうことはインチキ水商品ではよくあることです。
「創生水」というトルマリン水(ぼくの『入門ビジュアルエコロジー おいしい水 安全な水』(日本実業出版社)で一番インチキとしたもの)があるのですが、金沢大学某研究室に「重油分解効果大」と送りつけてきて、研究室で調べたが効果無しなのでそのままにしていたら展示会などで「金沢大研究室で太鼓判」という口コミでの宣伝に利用されています。
業者に強く抗議して名前を使われないようにしたほうがいいですね。
それにしても、そんなものを試験的にも設置するのは見識がなかったですね。
私は、試験をすべて断るべきだとは思わないし、大学の社会貢献が要求されている昨今では、できる協力はしてもかまわないと思うのだが、それにはガイドラインが必要だろう。たとえば、
- 試験は行うが、その結果について、大学側の研究者が評価試験をしたもの以外は、勝手に大学の名前を使わないことを約束させる。
- 持ち込まれた装置の名前と業者名、設置状況、試験結果については各大学のウェブ上で公表する。この条件を受け入れない業者に対しては、試験への協力を断る。(このような情報を公開しても、業者の企業秘密は十分守ることが可能)
- 学内で、どんな装置が持ち込まれているか、施設課と研究者との連絡をしっかり行う。連絡ルートを公式に確保する。
- 勝手に名前を使われた場合には、クレームをつける。同時に、勝手に名前を使っている業者名を公表する。
装置が持ち込まれるときには、施設課を口説き落として設置されていることがある。この場合、学内の研究者は全く知らないし、試験にも関与していない。業者側の宣伝では「**大学にも設置」で、写真が出たりする。
大学にも、知財部が必要なのではないか。勝手に名前を使われて世間に誤解を振りまいている状態を放置すると、別の責任を問われかねない。マナーのいい業者とばかりつき合ってると意識しないのかもしれないが、産学連携や社会貢献は、大学の名前を利用しようとする業者にひっかかることも想定しておかないと、これからはうまくいかないのではないか。
【上記の話を読んだ歯科医の方からさらに続報が】
メールをいただきました。一部を紹介します。
私が水槽用のエルセをもらったのは、もう、多分、1年以上前の話ですので、「今年の7月に試験的に・・」というのとは一致しませんが、なにせ、あのような業者さんですから、違う商品を納入したのかもしれません。「珊瑚は溶ける」とも言ってました。
エルセは主として宮崎大学農学部で「共同研究」?している模様です。確かパンフレットがあったと思うのですが、もしかしたら捨ててしまっているかもしれません。なにやら、植物にエルセを通した水を与えると生育がよろしいとの事(笑)でした。
後に出た製品ほど効果が無くなっているのはなぜ?普通は改良されて後ほど性能アップするんじゃ・・・。それはさておき、またもおいしいキーワードが出てきましたよ「宮崎大学農学部」。まさか、また石川らのグループじゃ.....。ここは、磁気水の性能試験に手をだして、17O-NMRの線幅で水クラスターの大きさがわかる話にみごとにはまって報文出した前科がある。しかも、NMRで磁気水評価というイタイ取り合わせ。かりに磁場が水に影響することがあったとしても、NMR測定の磁場で水溶液試料は全部磁気処理水になっちゃうから意味ないんだってば。てゆか途中で気付け。このときも、NMRの評価試験と小麦の初期成育試験をしていたな。農学部だから植物に訊いてみるという姿勢はいいとしても、それ以前にやることがあるような気もするが。
【共同研究一覧発見】(2002/08/26)
宮崎大学の共同研究一覧を見ると、「粒状セラミックスを利用した水活性化処理装置と処理水の植物に及ぼす影響」(日本治水株式会社)の、宮崎大側の担当者は、機器分析センター・講師・田辺 公子氏となっている。農学部じゃなかった。
【誘電緩和測ってみました】(2003/06/17)
このエルセ活水器の水だが、このコメントを読んだ人から、
私の住んでいるマンションの管理委託会より「エルセ活水器」を紹介されております。コメントを興味深くよませて頂きましたが、本文中に水の特性に変化があるか評価をしてみたいと書いてあります。
この評価は実施されたのでしょうか、終了されておりましたら、データを公表していただけませんでしょうか。
参考にしたいと思います。
というメールをいただいた。そういえばなかなか時間がなくて、測定が延び延びになっていた。とりあえず、確認できう方法でチェックをしようということで、誘電緩和測定をしてみた。
時間もなかったので、とりあえずざっと試しの測定をしてみた結果を出しておく。測定用のプローブの配置その他を変えて回数を多く測定すれば、おそらく、水道水もエルセ活水器の水も実験用蒸留水も、ほぼ同じになって重なるはずである。理科年表に出ている、室温での水の誘電率の約80という値は、グラフの平らな部分の値と一致している。
もし、水分子自身に変化が起きたり、水クラスターが小さくなったり(=水素結合がたくさん切れてしまった状態にかわったり)すると、水分子1個1個の電気的な偏りの大きさが変わるし、水分子の集団的な動きも変わってくるはずである。その結果、水の誘電率は80から大きく変わるはずである。この誘電率測定の結果からは、活水器によって、水自体に顕著な変化は起きていないといえる。
この活水器の効果をうんぬんするのであれば、水の水素結合に変化が無い以上、水に溶けている不純物がどう変わったかを調べてからにするべきである。植物や動物に直接適用しました、といった類いの話しか出てこないのであれば、その実験は本当に妥当なものであるかをまず考える必要がある。
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