(株)かねはら 開発事業部(2002/08/20)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
「スーパー磁王」という、磁気活水器を販売している。値段を見ると、家庭用から業務用まであり、それなりに買いやすい値段にはなっている。てゆかぼったくりまくる同業他社多すぎ。「比較してわかるスーパー磁王の8大特徴」の表の注意書きのところに、
「スーパー磁王ピュア」は鉄管非対応です。メーターボックス内の指定場所(真鍮部分)または塩ビ管に取り付けて下さい
という注意書きがあるあたり、他の多数の業者さんよりは磁気のことをわかっているらしい。ちゃんと、鉄管の中の磁場も測って確認しているところはプラスに評価できる。鉄は磁性体だから、外側に磁石をくっつけても、磁束のほとんどは鉄の部分を通ってしまい、水にはほとんど磁場がかからない。ただ、装置の磁場の漏れが製品によって大きく異なるらしいので、鉄管の中を測定するときに、十分な長さの鉄管を準備して測定しないと、漏れた磁場の効果で実際よりも鉄管の中の磁場が高く出る可能性がある。測定実演を見る機会がある方には、ぜひその点をよく確認していただきたい。
効果の主なものは、赤錆の除去であるとされている点も、お約束通りである。手頃な価格設定であるし、それなりに売れてもいるのだろうから、どういう条件のときに磁気活水器が確実に効果を発揮するのかという基礎データを集めてほしいところだ。たくさん普及した方が、いろんな条件でのデータが得られるだろう。
このページのみどころは、「ご挨拶」で始まる説明の文書である。社長の挨拶はごく常識的なものだが、次の「磁気を受けた磁化水は血液をサラサラにして血圧を下げ体内の老化の元凶も撃退」がいけない。書いた人は、理学博士で信州大学名誉教授 松崎五三男という人なのだが、大学人が何でこんなデタラメを一般(企業)にふりまいているのか?と小一時間問いつめたい内容である。以下、問いつめたいところを引用してコメントする。
水道水など、自然界に存在する水のクラスターは、普通、平均12個の水の分子から成り立っています。
そんなことはない。水は3次元ネットワーク的に水素結合でつながっており、熱運動で水素結合ができたり消えたりしながら集団運動している。クラスターの平均サイズを決めた実験などない。名古屋大の大峰教授らによるMD計算の画像を見るといい。ずっとイメージがつかめるはずだ。集団運動の単位は数十個と見積もられている。12個は少なすぎる。しかも、集団運動の単位が数十個ということは、水分子が数十個単位のクラスターを作っていることを意味しない。水素結合の生成消滅が起きて揺らいでいるので、明確な単位を決めることができないのだ。
こうした水の分子のかたまりは、磁気処理することによって分裂します。
水は反磁性体だから、うんと強い磁場のところに持ってくると、磁場から遠ざかろうとする性質がある。磁場から遠ざかるとまた元に戻ってしまう。水は液体であり、分子は自由に運動しているから、過去に磁場にさらされた状態が残ることはない。
磁気処理した水、すなわち磁化水のクラスターを調べてみると平均6個になり、一般の水の半分に減っています。
一体どこからこんな数値が出てきたのか。水のクラスターサイズを測定する方法は無いし、液体の水に対して「クラスター」をどう定義するかという定説も無い。デタラメを言うのも大概にしてほしい。もし、平均6個しかつながってない状態が実現したとしたら、本来水の中にあった水素結合の多くが無くなっていることになる。水が0度で凍って100度で沸騰する性質は、まさに水分子間が水素結合で結ばれていることで出てきているから、平均6個の状態になったら、沸点と融点が数十度下がるはずだ。水が0度で(過冷却でもっと低い温度まで液体でいるときもあるけど)凍って、100度で沸騰している限り、クラスターの変化など起きているはずがない。
「かたまりの小さい水」である磁化水は、普通の水では入り込むことのできない細胞問のごく小さな隙間にも、スイスイ入り込むことができます。つまり、体内に吸収されやすくなります。このため新陳代謝(体内での新旧物質の入れ代わり)が非常に活発になります。体内の有害な老廃物がいっまでも体内にとどまることなく、すみやかに排泄されますから、体を健康に保ち、老化を防止することができるのです。
大嘘である。細胞には、恒常性の維持という機能があって、水分量は適切な状態に保たれている。また、細胞内への水の輸送は、水チャンネルとでもいうべき膜タンパクが担っていることがわかっており、分子単位で輸送を行っている。水の水素結合を切って細胞内に運ぶのは、蛋白質で作られた「筒」の内部の話だ。クラスターが小さくなったことにも根拠はないし、仮に小さくなったとしても、「体内に吸収されやすい」の根拠はもっとない。
もともと血管の成分の90%は水です。ですから「かたまりの小さな水」である磁化水を飲み続けていると、血液のクラスターも小さくなり、しだいに血液はサラサラになります。中性脂肪が加わってドロドロになった血液の粘土を下げることができますから、血圧の上昇をおさえ、血栓(血管内にできる血のかたまり)ができるのを防止します。
単に水を飲んだだけでもこの効果があることが知られているのに、それをあたかも磁化水の効果であるように書いているのはどういうわけだろう。こんなことを主張したいのなら、普通の蒸留水やミネラルウォーターを飲んだときの結果と比べて、どれだけいいかを示してもらわないと信用できない。
もう一つの磁化水の効能は、人体にとって有害極まりない「活性酸素」を除去することができることです。
だったら活性酸素を定量した実験を示すべきだろう。でも多分やってないんだろうな。この根拠を述べているつもりらしい説明は以下のような具合だし。
ここで重要になるのが「酸化還元電位」です。これはある物質がほかの物質を酸化する力、あるいは還元(酸素を元に戻す働き)する力の強弱を表わすものです。
その物質自身にどれだけのエネルギーを与えたら分解するかという指標になる、物質固有の値が酸化還元電位である。物質と物質を結びつけているエネルギーの指標ともいえる。水の中に電極を入れて測定すると、解離している状態とそうでない状態の電子授受の平衡の電位を測定でき、この値は溶けているイオンのイオン化傾向によって値が変わってくる。
ところが、磁気処理することで水に溶けている酸素が還元され、還元性分子に変化します。つまり、磁化水は酸化還元電位の低い水なのです。
病院にはMRIという検査機器があって、患者を強磁場中に入れて断層撮影をするのだが、これによる健康被害はいまのところ報告されていない。人間の血液中や細胞の中には酸素がたくさんあるが、ここに書いてあるようなことが起きて、磁場の効果で「還元性分子に変化」などされたら、予期しない酸化還元反応が体内で起こって、確実に健康被害をもたらすはずだ。現実にはそんな話はない。
著者のプロフィールも掲載されていて、
まつざきいさお
1930年生まれ。北海道大学理学部化学課卒業。理学博士。ノースウェスタン大学、テキサスA&M大学留学、北海道大学助教授などを経て、1871年信州大学理学部教授。1995年より同名誉教授。
こんなものを書いた人の専門が「化学」だということの方が、水の効果よりよっぽど驚異、いや脅威か・・・。元いたらしい研究室のページの、業績の中身は至極マトモなんだけど。一体何があったんだろう。
「スーパー磁王」の水質検査結果を見ると、やっぱりというか、NMRの線幅測定の結果が出ている。松下説を信じ込んだ企業がまた1つ穴に落ちたか・・・。
水のクラスターが小さいはど、値が小さくなります。
は、まったくの誤解で根拠がないことは、既に当ページで解説してある。
酸化還元電位の測定は、やれば値が出るだろうが、条件が問題である。水の中にどんな不純物がどれだけ溶けているかで値が変わってくるから、成分を押さえないと、酸化還元電位の値だけ出しても意味がない。
検査結果に対する「スーパー磁王」の性能評価とその理論、でも、水クラスターの話を誤解しているとしか思えない記述がある。NMRの半値幅について、
原水の123.5Hzはクラスターが(平均)12.4個の水分子から成り、一過水の102.9Hzは(平均)10.3個から成ることを示します。
この話が一体どこから来たのかが謎である。T2とクラスターサイズを関係づける式がまともに導かれたことなどないのだが。
クラスターの小さい水は、還元性(下記)、溶解力、流動性が増しています。
それ以前に融点と沸点が大きく変わって低くならない限り、クラスターが小さくなったとはいえない。ついでに、水の静的誘電率も、小さくならないとおかしい。なぜ、クラスターの話のあとは、どこの会社も「還元性、溶解力、流動性」や表面張力といった指標ばっかり述べたがるのだろうか。誰でも測定できる融点と沸点を無視しているのはどうしてだろうね?
上記のように、12.4個のクラスターが10.3個のクラスターになると、水素結合を起こすクラスターの端末のO−H部が20%増します。この増加によって、ORPを上昇させる容存酸素O2が捕捉され、ORPを上昇させる次亜酸素酸(下記)が分解されます。
あの・・・。どんな絵想像したらいいのやら?クラスターの部分で既に違うんで、それを前提にして書かれたモデルはもっと違うものになってるが。
せっかく水に磁場がかかる装置を作ったのだから、水の中の不純物にどんな影響があるかとか、鉄管そのものにどんな影響があるかとか、そういうことを調べた方が次の性能アップにつながるんじゃないかと思う。それにしても、罪作りなのは、松崎名誉教授と松下氏だろう。NMRの測定費用は決して安くない。この会社は、ちゃんと測定をしていこうという姿勢でいるのに、この二人がデタラメな科学知識をふりまいて影響をおよぼしたために、方向を間違えてしまっている。
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