東光株式会社へのコメント(2018/12/29)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
磁気処理水用装置「MUZO」の宣伝がいろいろとアレなので指摘しておく。
まず,
磁気処理水の有効性の原理は水の電気分解です。
が最初に出てくる。磁気処理水を謳いつつ,効果は磁気じゃなく電気だと主張するのは斬新なパターンといえる。ところが,その次の説明が,義務教育の理科をやり直した方が良いのではないかという内容になっている。というか,どこからどういう順番で突っ込めば良いのか,突っ込み所が多すぎて困ってしまう。
【電気分解の方法で一般的なものは次の三種類です】
1.熱エネルギー : 水を沸かすとお湯になります。これも電気分解です。
2.自然エネルギー : 滝を流れる水は岩に当たって砕けます。マイナスイオンが出ます。これも電気分解です。
3.磁気エネルギー : 強い磁力と磁場に直接水を流すと電気分解し水が活性化します。弱い磁力では電気分解しても有効なレベルに届きません。ご注意下さい。
水の電気分解は理科実験のテーマとしてよく知られていて,水に溶けない電極と,電気化学反応に直接関与しない電解質を入れた水溶液を使って水分子を電気分解すると,酸素と水素が発生する。電解に必要な電圧は,水に融けている不純物の量と種類に依存する。
まず1番目の熱エネルギーについて。実は,水は熱力学的に安定な物質である。電気では簡単に分解できる水も,熱ではそう簡単に分解できない。熱のみを使って水を酸素と水素に分解するには,温度を4000℃程度に上げる必要がある(参考:水の熱化学分解)。これではちょっと大変なので,他の反応と組み合わせることで,もっと低い温度で水を熱化学分解する方法が研究されている。それでも,必要な温度条件は数百℃のオーダーで,「水を沸かすとお湯になります」といった穏やかな条件とはかけ離れている。
さらに,水の直接熱分解や熱化学分解は,電気分解ではないので,宣伝の記述は,条件も,内容も,両方とも間違っている。
2番目は,マイナスイオン騒動からヒントを得たような話だが,もし,滝を流れる水が電気分解と同じように分解されているなら,滝の周りでは,純酸素と純水素の濃度が上がっているはずである。しかし,そのような報告はない。さらに,電気分解と同じ現象なら,発生するものは,電荷を持ったイオンではなく,電気的に中性な酸素分子と水素分子なので,イオンカウンターでは検出できない。従って,宣伝の通りの電気分解が起きた場合,マイナスイオンとはむしろ何の関係もなくなる。
3番目について。強い磁場の中に水を流したところで,水に変化は生じない。水が電解質を含んでいてもである。理由は,病院で行うMRI検査が極めて安全だからである。医療用のMRIでは,主成分が水である血液が流れている人体をまるごと超伝導電磁石が作る強い磁場の中に入れて断層撮影を行う。もし,宣伝のような電気分解が起きていたら,撮影中している間,血液中に純酸素と純水素の気体が発生し,健康被害が発生するはずである。実際には,MRIは最も侵襲が少なく健康影響の無い検査法として広く使われている。
つまり,宣伝に書かれている3つの現象は,3つとも起こるはずのないものである。
その次の,お客様がMUZOを選んだ理由の列挙は,いろいろと興味深い。セールストークをそのまま信じて物を買う場合はこんなことを信じるのか,というサンプルとしてであるが。
利用者の声もたくさん書いてあるが,主観的だったり,定量評価ができないものばかりだし,水以外の要因で簡単に変動しそうなものばかりである。
水やごはんがおいしい
→体調,温度,材料,調理条件で変わる生花が長持ちするようになった
→気温,生花が新鮮かどうか,茎の部分を切った時の状態で変わるお茶・コーヒーがまろやかになった
→主観的。飲み比べしないと正確なことはいえない。肌のかゆみが和らいだ
→自然に改善したのか水が理由か区別不可能熱帯魚の世話が楽になった(水槽の水が濁らない)
→水槽の管理の条件の精度は?肌の調子が良い
→そりゃ人間だから調子良くなる時も悪くなる時もあるわなカルキ臭さを感じなくなった
→多少の変動はあるし温度でも感じ方は変わる。残留塩素濃度の測定値で評価すべき。お風呂のカビが減った
→季節によって変わる効果を除去して比較しないとシンクのヌメリが減った
→これも季節によって変わる効果を考慮して比較すべきポットの湯垢がつかない
→湯垢の量なら測れるし,元の水の不純物組成の変動を押さえないと水が原因かどうかは……洗濯物・食器の洗い上がりがきれい
→条件揃えて洗ってますかタオルの嫌な臭いがなくなった
→洗剤替えたりしてませんかフキンの黄ばみが減った
→温度と湿度の影響が効きそうアトピーの症状が緩和した
→アトピーって良くなったり悪くなったりしませんか。医者の治療の効果と水の効果の分離は?洗顔の泡立ちが良い リンスも不要になった
→温度で変わるし水の不純物組成の変動も効くけど?ひざのがさがさがなくなった
→気温と湿度の影響が大きい便秘が軽減した
→食べ物同じにしてますか?お風呂上がりの肌がつるつるに洗髪後の髪がサラサラに
→温度湿度の影響が大きい手がつるつるでハンドクリームをつける回数が減った
→温度湿度の影響が大きい化粧水が不要になり水でパッティング
→他の水でやった場合との比較は?排水口から臭いがしなくなった
→気温に依存しそうメンテナンス(洗浄)が楽で,自分でできる
→何の話かよくわからない洗面所の掃除が楽になった(汚れがつきにくく,落ちやすくなった)
→これも温度依存しそうトイレなど陶器の材料の掃除が楽になった
→具体的にどう楽になったの?緑色の苔が生えていた土間に水道水を週2〜3回かけていたら苔がある日消えた
→枯れたとしても完全消滅するはずはないし痕跡は残るはず。誰かが除去しただけでは。金額からするととても満足する活水器
→うん,まあ,それは買った人にとってはそうなんでしょうね。
といったように,ユーザーの声が本当で,ユーザーが実際に体験したことを正直に書いてあるのだとしても,水を変えた効果なのか,他の要因なのかが全く分離できていない。良さそうな効果をいくら列挙されても,水を変えたことの効果である保証にならないのである。
特許は「活性水用磁場形成具及びそれを用いた流体処理装置」で,特許検索をして内容を見ると,水に磁場をかけるための,メンテナンスしやすい装置の構造についてのものである。磁場をかけたことによって水が変わるかどうかを確認したデータは出ていなかった。
それよりも何よりも,この装置が磁場で水を変え,その理由は電気分解と同じだと主張するのなら,もっと確実で簡単に装置の効果を確認する方法がある。この装置を通過させる前とさせた後の水の酸素濃度と水素濃度を測定すればよい。電気分解が起きているのなら,通過後に,水素濃度と酸素濃度の両方が増えているはずである。水素の測定が難しいなら,酸素電極を使ってまずは酸素だけを測るというのでも良いし,水をサンプリングして気体を追い出し,含まれる水素と酸素をガスクロマトグラフィーで分析するという方法もある。しかし,どういうわけか,電気分解が起きているかどうかの検証という最も基本的なことを確認した形跡がなく,電気分解と直接関係のない現象ばかりが効果として宣伝されている。まずは,この装置でどれだけ電気分解が起きているか定量すべきである。
★MUZOのサイトを見に行く