ホームオブハートの水商売(2004/04/19)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
【2004/04/26】
ウチで取り上げたら,ホームオブハートが商品説明のページを削除した模様です。まず,ホームオブハートのトップページの左側メニューから,リンクで行けなくなったのが先週でした。ただ,その時はまだ,直リンしてる商品案内ページには行けたんですよ。ところが本日,ページ自体が無くなるという・・・・。一体何をしたいのかよくわかりません。まあ,ページは消すことができても売っていた事実までは消せないし,超ミネラル水自体は他でも売ってるので,このページはこのままにしておきます。ぐぐる時は,「くまスンの森の癒し水」をキーワードにするとたくさん情報が表示されます。
【2004/05/17】
「くまスンの森の癒し水」を,野島尚武医師が提供する超ミネラル水を割るために使っていたという方からメールをいただき,野島医師が出しているミネラル水と「くまスンの森の癒し水」は別物ではないかという指摘があった。こちらでは,公開されたウェブページの情報だけで議論しているので,売ってる側が「スーパーミネラルウォーター(超ミネラル水)」を自称した場合にはそのように書くしかない。なお,購入したボトルには成分が書かれているということなので,買った人は触れ込みと矛盾しない量が含まれていることを各自ご確認ください。
ホームオブハートは,セミナー団体(カルト的だという話もある)である。そこで,児童虐待(長時間労働や,学齢期なのに未通学など)が行われたという理由で,この団体の代表達が刑事告発された。また,既に,児童が保護されている。児童虐待関係については,既に,「弁護士紀藤正樹のLINC/ホームオブハートとTOSHI問題を考える」で,特集されている。また,「ホームオブハートとTOSHI問題を考える会」(ホームオブハートの被害者が主催している)のページでも継続的に情報が出される模様である。
当サイト的には,まずは,この団体が売っている水,「超ミネラル水」に注目し,さらにこの団体の自然観といった部分についても考えてみたい。ただし,水そのものについての情報は,ホームオブハートのページには少ししかない。しかし,別会社の売ってるのと同じものを違う料金で売っているという情報はあるので,適宜そちらの宣伝文句も引用しつつ,一体どういう水を売ってるのかについて突っ込んでみたい。
売っているのは,「スーパーミネラルウォーター(超ミネラル水)」で,「商品のご案内」ページに掲載されている。商品名は「くまスンの森の癒し水」というもので,
約1億年以上前の中生代白亜紀に形成された九州山脈の凝灰質砂岩層を長い年月を経て、にじみ出る鉱泉水を近代施設にてペットボトルに充填いたしました。
という,いわゆる普通のミネラルウォーターである。これの説明が,おいしい天然水をどうぞ,といった程度であれば何の問題もなかった。ところが,列挙されている宣伝は以下の通りである。
細胞賦活作用
個々の細胞が持つ本来の細胞活力をよみがえらせ免疫力を高める機能
抗酸化作用
油脂などの酸化・劣化を防止する機能
消臭分解作用
汚染物質を分解し、悪臭の発生を防止する機能
活性化作用
科学的処理により死水と化した水道水などを活性化する作用
鮮度保持作用
品質劣化、腐敗時間を遅延し、鮮度を長時間保持する機能
熟成作用
微生物発酵などにより生み出されるまろやかさをきわめて短時間で実現する機能
(くまスンの森の癒し水に含まれる成分)
Na,K,Li,Ca,Mg,Sr,Ba,Fe,Mn,Al,Cu,Ni,Co,
Cr,V,Co,Cr,Mo,Ti,Se,Ag,I,Si,P,B,Ge
順番に見ていくと,お互いに矛盾している内容が含まれていることがわかる。細胞賦活作用や熟成作用があるのだとすると,この水は,微生物や菌の活動を高める効果があることになる。しかし,鮮度保持作用として謳われている腐敗時間の遅延効果があらわれるためには,腐敗の原因となる微生物の活動が低下しなければならない。結局この水は,微生物の活動を活発にさせるのか抑制するのか,はっきりしない。なお,腐敗と熟成は人の側から見た分類であるし,細胞賦活作用はヒト限定の話でもないことに注意してほしい。微生物だって細胞でできているのだ。まあ,随分人間に都合のよい水があるもんですなあ,というしかない。
抗酸化作用と消臭分解作用も矛盾する場合が起こりうる。臭い物質の分解反応の際に電子の移動を伴うと,それは酸化・還元反応である。酸化反応と還元反応は同時に起きる。酸化反応を妨げてしまったら,臭い物質の分解反応が進まなくなるかもしれない。
活性化作用の部分はもっとひどい。「科学的処理により死水と化した」と書いてあるが,水道水は別に毒ではない。次亜塩素酸による殺菌がなされているが,飲んでも別に問題のない濃度である。水道水の有害性を針小棒大に主張して消費者を脅すのは,インチキ水商売にありがちな方法である。さらに,水の「活性化」は,当サイトでも何度も取り上げたように,曖昧な内容であり,科学用語として水に対して「活性化」という用語を使うことはない。
この水については成分が列挙されていて,いかにも凄そうに思ってしまう人も居るかもしれないが,ちょっと待て。濃度がどこにも書いてない。「超ミネラル水」「スーパーミネラル水」をキーワードにしてネットを探すといくつかのページがヒットするが,含まれているミネラルの種類は書いてあっても量を書いてないという共通点がある。種類が特定できたということは,それなりの分析をしたのだろうが,じゃあどうして存在量を隠しているのだろうか。これでは何の意味もない。もともと水は,どんなミネラルでも溶かす性質があるのだ。いろんな組成の岩石層を抜けてきた水に,岩石に含まれるいろんな元素が溶け込むのは当たり前である。
超ミネラル水の提唱者の野島尚武医学博士のページを見ると,食品のミネラル含有量について昔と最近との比較の表はあっても,肝心のミネラル水に何がどれだけ含まれているかという記述がない。何倍に薄めて使え,という使用方法は公開されているが,それに従ったところで,一日にどのミネラルが何mg摂取できるかについては,全くのブラックボックスになっているのだ。この製品のコンセプトからすると,「今の野菜は昔に比べてミネラル含有量が減ってるから,その分をミネラル水で補給すべし」ということなのだろうが,だとすると,どうして水から補給できる量がどこにも書いてないのだろうか。正直に書いたら,とても補うどころじゃない微小な量だったりするんじゃないかと,穿った見方をしたくなる。あるいは,そんなに必要じゃない元素の量が多くて過剰症の可能性がある,なんてオチだとかなり嫌だが。
ホームオブハートのウェブページを見ると,自然であることを謳いながら,自然と向き合う気などさらさら無いことがわかる。だからこそ,矛盾しまくった水の宣伝を平気でしているのだろうが・・・。
本の紹介ページの「ありのまま自然界」を見ると,MASAYA氏にとっては,自然とは自分にとって都合のいいものの別名でしかないし,そういうとらえ方しかできていないことがわかる。人間も自然の一部ではあるが,本来,自然(但し人間を除外した部分)は,特に人間の味方ではない。ありのままの自然の中に放り出されたら,大半の人間は感染症で死ぬだけだろう。抵抗力のない者,弱い者,運が悪かった者が徹底的に淘汰されて,少数だけが生き残って次の世代を産み出すのが,ありのままの自然というものだ。自然が美しいなどと暢気な事を言っていられるのは,人が楽に生活できる人工の環境に居られるうちだけである。
「素粒子の海」は,何だか理論物理学者の逆鱗に触れそうな気がする。こういう文脈で素粒子なんて使うなという・・・。それ以前に,「万物としての科学」という認識もどうにかしてほしい。科学は,自然現象を理解しよう,説明しようとする努力とその成果であって,科学=万物ではない。「未知なる自然」はまあいいとしても,「物質と意識」のあたりでオカルトが炸裂しているように見える。ここでの「物質」が神経伝達物質を意味しているのでない限りは。
なお,「ホームオブハートとTOSHI問題を考える会」のリンク集によれば,この団体,ミネラル水を市販価格より70%高い値段で売っていたそうな。会員価格で安くなるならメリットもあるのに,何でわざわざ高い値段にするのだろう。そういえば,教団アレフの単分子水製造浄水器も,信者向け価格は市場価格より高く設定されていた。こういうのって,やっぱり,御布施が上乗せされているということなんだろうか。
ところで,このホームオブハート,子供たちを施設で共同生活させていたことが問題になっている。ここの方針では,「学校は危険な場所だ」「人間が汚染される」などと言って子供を学校に通わせていなかったらしい。これはこれで問題なのだが,それ以前に,当のホームオブハートの大人達は,学校でちゃんと理科を勉強しなかったから,宣伝内容のこの程度の矛盾すらチェックできなかったんじゃないの?学校をとやかく言ってるあんたらが,そもそもどうしようもない学力不足なんと違うかと小一時間(以下略)。こんなんで,学校に行かない方がいいなどと主張されても,説得力がまるでない。ま,とりあえず子供たちは学校に通わせてまともな理科も含めて各教科しっかり学ばせないと,将来こういう大人ができ上がる,というのを率先して身をもって示してくれてる罠。