「愛と英知の紀州備長炭研究会」へのコメント(2002/12/16)
【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
備長炭といいつつトルマリンの販売もしているのだが、トルマリンが持つとされている機能の説明がものすごい。ページ左側の目次から「トルマリン」の項目のところにある「トルマリン激安販売」がその内容である。まず、
21世紀をになうこと間違いない、機能性素材トルマリン
太陽のエネルギーを吸い込み人々にチャージする鉱石
まるで、絶縁体のトルマリンが太陽電池になったかのような記述である。それ以前に人にチャージしてどないすんねん。素直に日光浴した方がいいかも。その次が、
遠赤外線効果・マイナスイオン放出・クラスター細分化・・・
と、怪しい記述の3連発である。「遠赤外線効果」であるが、ある温度の物質は赤外線も遠赤外線も出しているわけで、部屋の中に単にトルマリンを置いてあるだけだと、部屋の熱輻射の状態と平衡になっているだけで、遠赤外線発生体になりようがない。水につけたって同じことである。温度を上げて遠赤外線を・・・という話であれば、トルマリンである必要はない。「マイナスイオン放出」も、トルマリンは単なる焦電体(絶縁体)であって、そのままで何かをイオン化する作用はない。トルマリンの中に放射性同位元素でも入っているのなら別だ。それ以外の方法だと、トルマリンは圧電素子でもあるので、圧力をかけたら火花が散るような装置を作ると、火花が散ったときだけ空気をイオン化するかもしれない。クラスター細分化にいたっては、それが液体の水であれば根拠はない。
もっとも、
トルマリン応用製品は個別の目的を持つわけですが、
原石そのものの使い方は、あなたのお知恵次第です。
イマジネーションをいっぱいに膨らませて、
トルマリンの世界をお楽しみ下さい。
とあるわけで、これはこれで、デタラメでもなんでもいいから使ってみろ、と読めなくもない。ひょっとしてブレーンストーミングの薦めでしょうか。
トルマリンが脚光を浴びている理由としては、
現代は、化学物質の使用を積み重ねてきた結果、「大気・水質汚染」「温暖化」という環境破壊が大問題となっています。
これらの問題点を副作用無く緩和する働きをもっているトルマリンは、無理なく日常生活に取り込める素材として各方面で活躍の場を広げています。
とまあ、単なる圧電素子がいつの間にこんな便利なものに出世したんだといいたくなるような記述がなされている。何度もいうように、トルマリンにこういうミラクルな効果があるという根拠はまったくない。各方面で活躍の場を拡げているのは、日本においては不幸なことに事実だが、実際に活躍しているかどうかは疑問で、単なる都市伝説を真に受ける人がいるから広がっただけといえなくもない。
トルマリンの注目点として、「水質改善」のところに挙げられているのが、
遠赤効果で芯までぽかぽか、朝まで暖か
一体どういう効果なんだか。トルマリンで水質が改善したとしても、遠赤外線の放射量は単に水の温度によって決まるので、書かれた効果はトルマリンとはそもそも無関係である。健康美容の記述もおかしい。
遠赤外線高レベル放出・代謝活性
と書いてあるが、遠赤外線が代謝に効果を及ぼすという根拠はあるのだろうか。確かに、遠赤外線をたくさん出すと言われているヒーターを使って温めると、代謝が変わることはあるかもしれないが、単に温度が上がっただけの効果とどう区別するのだろう。
最後の「電磁波弱体化」は物理現象として完璧なデタラメである。
電磁波を強力な遠赤外線で弱体させる
遠赤外線も電磁波である。弱体どころか、遠赤外線を浴びせるということは、電磁波を追加していることになる。なお、我々が普通過ごしている環境中では、波長の違う電磁波がお互い独立に飛び交っている。遠赤外線発生源を持ってきたからといって、他の波長の電磁波が影響を受けることはない。というか、波長の違う電磁波が独立に存在するから、ラジオでもテレビでもいろんなチャンネルで違う内容の放送を送受信できるわけである。
トルマリンの働きが13項目列挙されているが、これも根拠にとぼしい。1番目の
マイナスイオンによる環境改善
→「酸化」から「還元」へ
は、単に言葉を並べただけ。環境中の反応は、酸化も還元も両方起きているので、還元すればいいというものではない。また、この記述では環境の何を改善するのかまったく明らかではない。まじめに環境問題に取り組んでいる人が見たら怒りそうな記述である。
2番目の、
遠赤外線の働きで体の芯から暖める
→代謝の促進で不要物を排泄
は、既に述べたように、別にトルマリンでなくてもかまわないし、遠赤外線である必要はない(赤外線で十分だし、却って効率がいいのでは)。単に温度を上げればいいので。
3番目は
抗酸化作用
→妨腐食・防錆
→老化防止・シミ取り
だが、水道管と人体を一緒にするな。また、老化は酸化作用で起きるわけではない。体内では酸化も還元も同時に起きている。4番目から7番目までの「血行促進・自律神経の安定・細胞の活性・美白作用」ですが、根拠を示してから言ってもらいたい。適当に並べただけに見える。
8番目の
界面活性作用
は故中村教授&久保氏の置きみやげか。表面張力の変化からこう結論しているのかもしれないが、トルマリンを入れた水の成分の分析無しにこんなことを言ってはいけない。水溶液の表面張力が純水と異なるのは当たり前の話だ。
9番目と12番目の
水にミネラル補給
植物の育成
だけが怪しくない説明である。実際、トルマリンを入れた水からはカリウムなどが溶出するし、そういう水を入れると植物育成に役立つ可能性はあるからだ。
液体のクラスター細分化
は全く根拠なし。水に限らず液体のクラスターのサイズを直接測定する方法はない。ただし、もし、クラスターが小さくなった水、つまり分子間水素結合の切れた水が存在したとしたら、沸点と融点が目立って下がり、誘電率も小さな値になり、それ以外の物性も矛盾無く全部が変化するはずである。
消臭・抗菌・鮮度保持
にも、どれだけ根拠があるのか疑問である。もし、本当に抗菌作用があるなら、人体にとって有害でないかどうかのチェックをしないと危なくて使えない。人体に気軽に使っていいのなら、目立った抗菌作用があるかが疑問である。最後の「有害電磁波の低減」については、まったくの間違いであることを既に述べた。
いずれにしても、効果として説明されている内容に、疑わしいものが多すぎる。「愛」はともかくとしても、「英知」を謳うページなら、もうちょっとまともな科学知識を仕入れてはどうか。
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