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「株式会社フリーデン」へのコメント(元ネタ:日経プレスリリース)(2003/01/17)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 日経プレスリリース掲載記事について掲示板へのたれ込みがあったのでコメントしておく。

 おいしい肉が食べられるのは嬉しいことだが,それが「活性水」利用だというあたりから怪しい雰囲気が漂い始める。ただ,まさかとおもって日経プレスリリースの利用法を確認したら,

 

このサイトでは、企業や団体などのプレスリリース(報道機関向け発表資料)を一般ユーザーが閲覧できるよう、そのまま掲載しています。 画面表示上の問題がある場合などを除いて、発表された文章を原文のまま公開しています。
(中略)
日本経済新聞社は、このサイトで公開しているプレスリリースの発表者が製造・提供する製品、サービスなどの購入や利用を推奨したり、その品質・内容を保証するものではありません。

 

とある。要するに免責条項で,書かれた内容については日経新聞はノータッチということだ。まあ,プレスリリースを新聞に掲載するかどうかについては編集の手が入るのだろうが,本誌とは別にプレスリリースをそのままの形で公表するというのは,インターネットならではの利用法だと思った次第。

 関連リンクをたどると,(株)フリーデンのページを見ることができる。トップページは肉のおいしそうな写真が。空腹の時に見るのはちょっとつらいかもしれません。

 要チェックなのは,左側の目次からたどれる「活性水案内」である。装置名は分子振動活性装置。装置内に水を通過させるタイプである。しかし,水そのものの変化については,

 

超ミクロレベルでの微弱エネルギー振動法を活用した分子振動活性装置で、水を活性化させます。

 

と書いてあるだけであり,「活性化」とは水を具体的にどうすることなのか,最初の方をみただけではわからない。次に,「水の効用」を見ると,

 

生体内では、様々な栄養素を取り込みながら、必要なアミノ酸やタンパク質等を生成、それらが血液や細胞へと順次変化生成されています。このシステムは、規則化された分子結合によって生体エネルギー化されており、分子振動活性装置で活性化された水は、固有化している本来の分子組成のバックアップしています。

 

となっている。最初の文章はまあ正しい。次の記述の「生体エネルギー化」とは一体何だろう?現状の生化学では,生体エネルギーなどという概念は不要で,単なる生化学反応のエネルギーを考えるだけで足りている。「規則化された分子結合」が蛋白質などの立体構造を指すとしても,結局のところ,1次結合を作るのに必要な結合のエネルギーと,そこから決まる折り畳みのポテンシャルエネルギーで全体の形が決まるというのが通常である(ただ,蛋白質のフォールディングの問題はまだ研究途上である)。「固有化している本来の分子組成のバックアップ」というのも何を意味するかまったくわからない。通常は,ある蛋白質のアミノ酸配列はDNAの配列によって決まっており,水を変えたからといって変わるものではない。もし,アミノ酸の組成が変わったらそれは別の蛋白質か,何らかの事故によるものである。水が影響しているとしたら,蛋白質の立体構造の保持に対してであるが,この場合は水はH2O分子として蛋白質に結合することで立体構造を保つ役割だから,活性化などという概念の入りこむ余地はない。

 ページの最後にある装置の説明「ナノテクノロジー時代の先達装置、分子振動活性装置とは」を見ると,なかなかに面白い説明が並んでいる。というよりは,水の振動分光屋としては見過ごせない記述のオンパレードである。

 

ミクロレベルで発生している、原子\電子\イオンの個々の磁力に注目し、磁気条件で発生する分子の配向現象、 分子の整列現象を利用し、 活性振動化させる

 

 当サイトでも何度も書いたように水は反磁性体だから,磁場をかけても水分子は配向もしないし整列もしない。うんと強い磁場をかけると,磁場の無い方に移動しようとするだけである。第一「活性振動化」って何?

 そのすぐ後の,

 

まず、 分子に磁気条件を与え、バラバラな分子振動を 単分子化、整列化 します。

 

も同じ内容である。ただ,装置を見た限り電源コードは出ていないから,磁気をかけるとしたら永久磁石しかないと思うのだが,水に磁場をかけても単分子化はできないし,整列化もおこらない。水本来の性質としてそういうことは起きない。磁場によるエネルギーと水素結合のエネルギーでは,後の方が大きいし,ある温度の水は熱揺らぎで運動の状態が10のマイナス12乗秒のオーダーで変わっている。

 

これにより、微弱振動、微弱エネルギーは、 ドミノ倒し的エネルギーとなり、 半永久効果が持続されます。

 

 水の何が振動するのか?というのがこの記述では謎である。というのは,水分子内のOH伸縮振動や変角振動は,別に何もしなくても,実験用の蒸留水でも常に存在しているからだ。だから,ウチでRaman散乱を測ると毎回同じスペクトルになるわけだ。「半永久効果」は,もっと起きなさそうな現象である。というのは,水分子のどれかの振動モードに一時的にエネルギーを吸収させたとしても,水分子同士の相互作用があるから,散逸して最後には熱に変わってしまうからだ。

 

分子の微弱振動を、さらに 生(命)体微弱振動と共鳴共振させ、活性振動化します。

 

 生体微弱振動などというものの存在が確認されたことはない。一時期,誘電体の研究者のフレーリッヒが,細胞全体にわたる素励起があるのではないかと主張したことがあるが,既に実験的に否定されている。振動があるとしたら,個別の生体分子が持っている分子内・分子間振動である。分子内振動には,もともとフェルミ共鳴しているものがあってもおかしくないが,それは分子の形で決まる話である。これらの分子振動は,他のものが分子に結合したり,分子のおかれた環境が変わることで変化することがあるが,元の振動数に一致する強い光を照射したりしない限り,外部環境と共鳴することも共振することもない。「活性振動化」も意味不明である。

 

また、このような活性振動を 深達性と安全性のある、遠赤波長領域とし取り込んでおります。

 

 この記述は逆ではないか。日経プレスリリースを見ると,ここでの遠赤外は「6〜14ミクロン波長」とのことだ。大体見積もると,波長1cmで30GHzだから,1mmで300GHz,100ミクロンで3THz,10ミクロンで30THzである。てことは,6ミクロンで50THz,14ミクロンで20THzになる。我々のRaman散乱でよく使うcm-1になおすと,1THzが大体30cm-1だから,600cm-1から1500cm-1あたりということになる。さて,このあたりの水のスペクトルは次のようになる。(Ramanは冨永研で測定,赤外は文献より)

null

 水の600cm-1付近の吸収はlibrationと言われており,1600cm-1のピークは水分子の基準振動のうちの変角振動である(とりあえず今のところは)。どちらのモードであっても対応する赤外線を照射すればエネルギーを吸収することができるが,与えたエネルギーは散逸が起きて結局熱にかわってしまう。水が水分子である限り,赤外領域のエネルギーを保持するということはできない。水に限らず,分子内振動モードには,与えたエネルギーを長時間にわたって保持する性質はない。

 

整列単分子の活性振動は、水質(食品に含まれる水分も同じ)を活性化、 活性水素により余分な活性酸素や、有害毒素の不純分子組成情報を遮断 (病気の原因をガード)、バラバラに混在したクラスターを整理し、 体内吸収にも効果を発揮します。

 

 という記述も変である。まず,活性水素であるが,未だに存在するという直接証拠も定量したという話もない。九州大白畑教授は,最近では金属微粒子にとりこまれているのではないかという説を出しているが,本当かどうかはまだわからない。「有害毒素の不純分子組成情報」とあるが,物質そのものを化学的に変えるのでない限り,情報を遮断することなどできないので,表現としておかしいのではないか。クラスターの変化があるとか単分子になるという主張ならば,上図の3500cm-1付近が水のOH伸縮振動が,混入した不純物の影響以上変わっていなければおかしい。水の場合,OHのHを介して別の水分子のOが水素結合する。もしクラスターの変化があればこのOの結合が変わるから,その影響がOH伸縮振動の変化を通して観測されるはずである。赤外でもRamanでも測定すれば確認できる話である。ぜひ,測定してから主張していただきたい。あと,活性振動なるものが存在すれば,やはり,赤外もRamanもスペクトルの形が変わってくるはずである。ここはやはり測定して,不純物の効果以上の変化を出してから議論していただきたいところだ。

 

時によって、余分な活性酸素や対外毒素進入により不自然な化学生成、つまり不純結合分子を発生させます。

 

 不純結合分子という学術用語はないし,毒素や活性酸素が体内にできることを「不自然」と呼ぶのはどうかと思う。我々の体内の生化学反応は,それが有害であってもなくても,自然現象の1つである。

 いずれにしても,こういう宣伝をするのなら「振動」の強さと振動数はどれくらいなのか(水,生体両方),どうやって測定すると値が出るのか,与えている遠赤外線のスペクトルプロファイルはどうなっているのか(各波長についてどんな強度なのか)くらいは,最低限説明してくれないと,一体何をしているのかさっぱりわからない。宣伝内容を読む限り,効果があることが確かだったとしても,水処理そのものの原理の説明は我々の科学とは相容れないものである。

 

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