お星様きれい(笑)
年末に「ガイア―地球は生きている」を見かけたので購入した。「ガイア」をテーマにした本には、環境保護の妙な色がついたものも多いが、提唱者のラヴロックの本はきちんと読める内容である。なお、著者自身は、ガイア理論は仮説であると明言している。
東大先端研に居た頃、軽部教授が新潟の塩沢に別荘を買った。塩沢のスキー宿集落&夏場は農業集落の中の一軒で、もともとは農家であった。研究室の人数が多いので、夏と冬の合宿をそこでやることになっていた。夏は全員集合するので、別荘の廊下にまで雑魚寝しても足りず、道を挟んで向かいの宿に素泊まりするグループも出ていた。私は寝苦しいのが嫌で、テントを持ち込んで庭で寝ていた。他にも教授提供のオートキャンプ用のテント組が居た。
別荘は塩沢の山の中腹にある。事情により早く帰ったり遅れてきたりする人も居て、車で送迎することになっていた。この運転手を務めていたのが、当時の助手の佐々木氏であった。晴れた夜は、山から下りてきて展望が開けると、塩沢の街の明かりが大変キレイである。
ある時、私は早めに帰ることになって、佐々木氏に車で送ってもらった。街が見えたとき、佐々木氏は
「街の灯がきれいですねえ。空の星と区別がつきませんねぇ」
と言った。
私がそのとき考えたのは、ラヴロックのガイアの本の内容だった。正確には思い出せないが、「核融合は宇宙ではありふれたエネルギー源で、普通は星は核融合で光っているが、地球は石油を燃やして作る電気で光っている。もし、宇宙人の天文学者が地球を観測したら、一体どういう原理で光っているのか不思議がるだろう」といった内容だった。これと、どういう立体角で光が入るかで見え方が決まるということが頭に浮かんだ。私は思わず、
「原理的には同じですよ。でも波長が違うから分光したらわかります。核融合は短い波長の光も出すので」
と答えた。
そのときはこんな会話を交わしたことなどすっかり忘れていたのだが、その後1年以上たって、この話が軽部研内でさんざんネタにされていることを知らされた。
佐々木氏は、送迎役を仰せつかって、星と街の灯が見える度に、「街の灯がきれいですねえ。空の星と区別がつきませんねぇ」と言って、相手が何と答えるか見ていたということだ。大抵の人は「佐々木さんてロマンチストなんですねえ」といったたぐいのことを答えていて、それが普通の反応ということらしい。原理的に同じだの分光して区別しろだの言ったのは私だけだったため、研究室内でウケまくっていた。でもこれ、そんなにおかしな反応かねぇ?私としては、もし宇宙人の天文学者が望遠鏡で観測したら……とある意味ロマンに浸りながら答えていたつもりなんだけど。
ともかく、ガイア理論のせいで笑いをとってしまったようだ。
ラヴロックの本の中にも出てくる「デイジーワールド」は、ラヴロックの論文を入手して、微分方程式の数値計算をして追試したことがある。普通に、ロトカ・ヴォルテラ方程式を解く話で、むしろ数理生物学に近い内容だと思いながらプログラムを組んだことを覚えている。
ここからは旧ブログのコメントです。
by K2 at 2006-02-08 03:27:08
Re:お星様きれい(笑)
時折拝見させて頂いています。
どこが?と言われても困るのですが(ツッコミ場所?展開?知識?話題?)、何か文章に親しみを感じて「この人がお嫁さんだったら面白そうだなぁ。」と思ったりする時があります。
(いろいろと厳しく仕込まれそうですが。)
私はきっと星と街の光を見て、「あ~、大気による揺らめきがあって綺麗だなぁ。」と漠然と思ったりすると思います。(それ以上の説明語句が出てこない。ぷははっ。)
これからもサイエンス・ロマンティストで楽しい(?)話をいっぱいお願いします。
by A-WING at 2006-02-31 04:33:31
Re:お星様きれい(笑)
こんなこと言うと失礼だとお感じになるかもしれませんが,K2さんと同じく,apjさんて,かわいい人だなぁと思いました。
さらに先の学生の「先生は私たちのアイドル」というコメントに,なるほどね,と思いました。
私だったら「またのぞきしたら面白そう」って言うかも。
by apj at 2006-02-27 06:06:27
Re:お星様きれい(笑)
多分関西人の血が混じっているからでしょう。
「大阪の会社に就職するときに出す履歴書には、ボケかツッコミかに○を付ける欄がある」って東京で言ったら素で信じましたもん>お茶の水大の後輩。
「関西人がやりとりする見合いの釣書にはボケかツッコミかに○を付ける欄がある」とかいろいろ応用できそうですよね。試してみてください。関西以外の人たちだとかなりの確率で信じてくれます、多分。
そういえばドッカでみたネタで、「大阪の小学校では毎朝校庭で児童が”なんでやねん!””なんでやねん!”言うて千本ツッコミの練習をしている」てのもあったな。
by apj at 2006-02-49 06:10:49
Re:お星様きれい(笑)
そういえば、子供の頃にどこかからすり込まれたデマに「恒星はちかちかまたたくけど衛星はまたたかない」てのがあったな。核融合の出力がそんなにちらちら変わるわけないっちゅーねん。一体誰がんなこと言い出したんかいな……。
by tamtam at 2006-02-39 06:28:39
Re:お星様きれい(笑)
恒星がまたたくのは空気のゆらぎのせいで星の像がジャンプするからです。惑星(衛星)は、ある程度大きさがあるのでジャンプしても像が重なるのでまたたきませんが、恒星は点にしか見えないのでジャンプするとまたたくのです。当然、気象条件で変わります。”シーイング”でググレば良いでしょう。
ところで、最近は、天の川を見ることがほとんどありません。数年前、オーストラリアのエアーズロックに行ったときに天の川を見たのですが、見慣れた形と違うので、異世界の星空を見ているような気がしました。
by apj at 2006-02-40 07:32:40
Re:お星様きれい(笑)
あ、情報ありがとうございます。ある時期から近視が進んでしまい、またたいてるかどうか以前に星は全部ボケて見えますが何か?な状態になってしまったため、きちんと空を見なくなりました。つい衛星って書いちゃいましたが惑星の間違いです。こちらもご指摘ありがとうございます。見えてる大きさと空気の揺らぎの大きさのかねあいでどう見えるかがが決まるんですね。納得です。
ちなみに、軽部研の人たちは、合宿の時、外にでて空を見て、流れ星が見えるる度にお約束通り「金、金、金」と叫び倒しておりました。ロマンチックとはほど遠い罠orz。
私は既に星を見るのはあきらめて、谷川沿いに蛍を探しておりました。こっちの方が明るくて見えやすいし^^;)。
by K2 at 2006-02-42 07:51:42
Re:お星様きれい(笑)
tamtam さん、
>異世界の星空
いいですね~、素敵な体験ですね。見てみたい。
apjさん、
>流れ星
流星群を見る時はいつも口が開きっぱなしです。
明日からツッコミ練習がんばります。
(千本か~。。。)
by 地野 at 2006-02-21 08:06:21
Re:お星様きれい(笑)
ごぶさたしております。
そりゃぁまぁ、前置きとしての「異性人が地球を見たら」がないから、面白い話になるわけですな。
日常生活がネタとなるにも関わらず何故かボケではない(むしろ突っ込み)というのは、羨ましいです。
ついでにブログ日記がいつも面白すぎて嫉妬します。(爆)
自分もこの様な真面目なのに面白くて読んでいて楽しい日記を書きたいものです。
by 北斗柄 at 2006-02-34 09:00:34
Re:お星様きれい(笑)
宇宙人が地球の光を分光してみたら、水銀のスペクトルが無視できないほど多くて、地球では水銀を多用する文明があると予想されてしまったりするかもしれませんね。
by ながぴい at 2006-02-39 03:23:39
Re:お星様きれい(笑)
>もし、宇宙人の天文学者が地球を観測したら、一体どういう原理で光っているのか不思議がるだろう
こゆ話は地球外知的生命探索の分野では時々語られているようですね。
K2クラスの文明がダイソンスフィアのような超巨大構造物を作っていれば、主星のスペクトルにも影響を及ぼす可能性があり、そんなものが近くにあれば望遠鏡で覗いて分光学的手法を用いれば見つかるのではないか、みたいな議論。
ちなみに地球外文明について、それが消費するエネルギーの量によって3段階に分ける分類法があります。
K1文明:惑星規模のエネルギーを利用している文明。地球文明はこの段階にあり、これはなかなか望遠鏡では見つけにくいかもしれない。
K2文明:恒星規模のエネルギーを消費している超文明で、これがそばにいると、分光学的手法で見つけられるかもしれない。
K3文明:銀河規模のエネルギーを消費する超々文明。これは相当離れていても観測にかかるかも知れない。
まあ、今のところ、K2もK3も見っかってはいないようですが。
by nq at 2006-02-28 05:09:28
Re:お星様きれい(笑)
無粋なツッコミですが、「原理的に同じ」という言葉の意図がわかりません。光る物理過程という意味でしたら、白熱灯と星であれば、光学的に厚い熱放射(黒体放射に近い)という点で、原理的に同じといえないこともありませんが、水銀灯やナトリウムランプですと、光学的に薄い輝線が主ですので、放射の物理過程とスペクトルはぜんぜん違います。現代で見える街の光はほとんどこちらでしょう。
また、核融合であれば短い波長の光も出す、というのも間違い。星の中心部で核融合反応で発生した光(というよりガンマ線)は、さんざん吸収と再放出、散乱、拡散を経るので、表面に出るときはまったく発生時のスペクトルを失ってしまいます。星のスペクトルからは表面の状態しかわらず、熱源に関する情報は全く得られません。星雲のように光学的に薄いものですと話は別ですが。
by apj at 2006-02-30 07:02:30
Re:お星様きれい(笑)
原理的に同じ、と言ったのは、「光が目に入ったあとどう見えるか」という生理学的な部分を先に考えたのでそう言いました。
人間の目の分解能(空間、波長)では、遠くから見た街の明かりの色の違いの区別はさほどうまくできないし、現に星っぽく見えているのであれば(実際には星より明るいし大きいのですが)、どういう立体角を見込んでいるかで見え方が決まるだろうということです。色は何となく白っぽい感じの物が多いとそう見えてしまう。
もちろん、輻射の過程は全く違うので、きちんと観測すれば物理的な原理の違いがわかるということです。
by トゲナシトゲトゲ at 2006-02-33 10:10:33
Re:お星様きれい(笑)
町のあかりのエネルギー源は火力発電が主流で、その石油や石炭は、かつて太陽の核融合のエネルギーの放射を、地球上で生物が炭素や水素や窒素の化合物の形に結合させて貯蔵してあったものだから、つまり、ものすごく遠回りな核融合発電ということになるのでしょうか。
さらに、人類は今現在地球が受けている太陽からのエネルギーを工業的にはほとんど利用しようとせず、何億年も前の太陽の核融合エネルギーをわざわざ今になってさらに放出させて大気組成などのバランスを崩していると言うことになるのでしょうか。
とすれば、もし宇宙人が地球の発光の仕組みを知ったら、こう突っ込むのではないでしょうか。
「馬鹿かお前ら?」
・・・ということで良いのでしょうか? なにせ文学部なもので。
by ながぴい at 2006-02-47 09:53:47
Re:お星様きれい(笑)
> 「馬鹿かお前ら?」
まあ、宇宙人の科学技術のレベルによってはそう言われちゃう可能性はあるのかな?
あれからよく考えてみると、
資源を食らい尽くす大量消費型の文明が最後に行き着くのがK2、K3文明なのかも知れないけど、それがほんとに進んだ文明なのかはわからない。
高効率化と省エネルギーを究極的に突き詰めていけば、進んだ文明ほど消費するエネルギーは少ないのかも知れない。
また、我々の理解できないようなすごいエネルギー源を手に入れてて、核融合のような危険で効率の悪いもんは、もうとうの昔に放棄しているのかも知れない。
超文明は意外に地味にひっそりと暮らしているのかも知れないわけで、それを地球から観測するのは難しいのかも?
by hideki at 2007-08-26 09:16:26
Re:お星様きれい(笑)
>何億年も前の太陽の核融合エネルギーをわざわざ今になってさらに放出させて大気組成などのバランスを崩している
エネルギーが欲しくて、手っ取り早い方法を見つけるのがうまい人間のしょうがなさなのではないだろうか。『わざわざ』というより、『しょうがなく』または、『浅はかにも』の方が適していると思います。
>もし宇宙人が地球の発光の仕組みを知ったら、こう突っ込むのではないでしょうか。
「馬鹿かお前ら?」
賛成できるところが多々あります。
by Denkou at 2007-08-25 22:30:25
Re:お星様きれい(笑)
>でもこれ、そんなにおかしな反応かねぇ?
私達人間は、一応同じ世界に生きてはいますが、それぞれ個人の主観から、別の切り口・観点からこの世界に接しています。
普段の生活で、どういった方向性から世界を捉えているかによって、同じ情報を目の前にしても、人それぞれある程度異なる反応を示すのは、当然かと思います。
ただそうは言っても、同じ文化圏に所属し、ほぼ同じ教育を受ける場合、ある程度「一般的な」ものの見方というものは発生するでしょう。
先日のニセ科学フォーラムにて、apjさんが「きゅうりのアクは取れるのか?」という疑問に対して回答された内容は妙に分析的な回答で、「おお、さすが学者さんはものの見方が違うなぁ」などと、感心したものでした。(感心するだけでなく、自らもそういう見方が出来るようにならねばならないのですが・・・)
で、個人的な印象としては、apjさんの観点は、一般的な部分からは外れているのではないかと思います。
それは無論、良い意味でありまして、「こういうものの見方が出来る人は、貴重だ」と、思うのです。(笑)
by apj at 2007-08-25 23:15:25
Re:お星様きれい(笑)
んでも、きゅうりのアクレベルだと、いくつか連想できる日常の現象があるかも。
・ジャガイモからデンプンを取り出す→ジャガイモはすり潰して粉々にしないとだめ。(でもデンプンは目に見えるけどアクは見えないよなぁ)
・アクの強いゴボウを食べる→細く薄く切って水に浸けてアク抜きしてから
・花を使って染め物→細かくすり潰して色水を取る
「中に含まれているものを取り出すには、端っこを切っただけじゃダメで、薄く切ったり潰したりして、水に浸しておかないとうまくいかない」にたどり着くのが、そんなに難しいとは思えないんだけどなぁ。
後は、料理の本に、こうやると美味しい、とか、下ごしらえはこうしろ、ってのが一杯でているけど、そういうところで、一言二言科学的観点から理由を書いておいてくれると一般の方への考え方の普及という点で役立つかもしれないですね。
星については、一般的でないことは認めます^^;)。
でも、私の場合、星や月については、小学生レベルの一般的知識が危ないです。視力が落ち始めたのが小学2年生頃からで、星や月について学ぶ頃には、まだ視力矯正しておらず、裸眼ではだいぶ見えなくなっていました。だから、月を見てどっち側が欠けているかと訊かれても答えられず(よほど欠けてないと輪郭がぼけていて判別できない)、星座の図を渡されてもその通りには見えないわけで、こうなると、直前の暗記でテストは何とかなっても知識としては定着しないですね。
by mimon at 2007-08-12 01:58:12
Re:お星様きれい(笑)
私自身は、少し老眼がかかってきましたが、まだ、裸眼で運転免許を更新してもらっています。
昔、強い近視の友人から聞いたのですが、裸眼では、夜空の星や月が、本当にゴッホのスターリーナイト(星月夜)のように見えるそうです。
http://kaigagohho.pazx.info/image/hosi.jpg
そういえば、視力検査のナントカ環の小さいヤツは、マンマルに見えますので、そろそろめがねを検討する時期かな?
by apj at 2007-08-32 04:39:32
Re:お星様きれい(笑)
>マンマルに見えますので
環のサイズにもよるでしょうけど、まだ大丈夫かも。
本当に悪くなると、そ も そ も 環 に 見 え な い のでorz。