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定量的に……

Posted on 8月 11th, 2006 in 倉庫 by apj

 学科の先生と話をしていたら、理学部進学者においてさえ、ものごとを定量的に扱うとか、いろんな知識を組み合わせて大体の量の見当をつけるということがすっぽり抜け落ちているのではないかという話題が出た。
 出した問題は地球上のオゾンの存在量で、地球の半径+上空何キロから何キロにある、といった情報を与えて、存在する体積を出すとか、地表に敷き詰めるとどうなるかといったことを試算するというものだが、どこでつっかえたかというと、球の体積と表面積が出せなかったのだそうで……。公式自体は理科じゃなく数学、それも中学校あたりで出てくる(ゆとりで無くなったかも知れないが……)はずなんだけど。
 ウチの学科の専門に進んでも状況は同じでである。炭素原子の記号すら出てこず、ひたすらモデルやら解析やらをやる反応速度論なんてのもあり、学生の感想は「化学ってこんなに定量的に厳密にやるものだとは思ってなかった。暗記科目だと思っていた」ということで、ショックを受けるらしい。
 大学入試の問題を作っていても、「定量的に扱わない」「計算させない」というしばりがあるものが結構あって、これでは、装置にせよ実験条件にせよ、量的な見当がまるでつかんだろうと思うことも多い。

 何か、「定量的にものを考えることから遠ざける」「計算は極力させない」という方針で理科の指導要領が作られているように見えるのだが、これは一体誰の意図なんだろうか?
 量の関係に気づかせないという方向で教育すれば、リスク管理のような考え方には進まず、危険だと煽れば程度を無視して簡単に世論を誘導できることになると思うのだが、ひょっとしてそれを狙っているのか?さすがにこれはうがちすぎか?


ここからは旧ブログのコメントです。


by レイト at 2006-08-08 01:15:08
Re:定量的に……

僕の世代は(現在大学3回の二十歳です)9の体積や表面積は中学で習ったんですが、今の中学生はどちらもしていません。
恐らく僕の2コ下(今年に現役で入ってくる代)くらいから変わったと思います。
確か中学で比熱や1次不等式をしなくなったのもその世代からなんで。


by いいじま at 2006-08-02 02:52:02
Re:定量的に……

球の表面積・体積は中学レベルだと証明抜きで暗記になってしまいますからね。
個人的にはこれは暗記しないできちんと証明すべきだと思っています。ピタゴラスの定理と数列の和の公式、極限の取り方、このへんを前座として用意しておけば、区分求積法で体積を求められますし、表面積は体積を半径で微分すれば出てきます。
小学校で円の面積はきちんと極限をとって証明するのに、中学・高校になるととたんに「微積分は高校数学IIの範囲だから中学では扱えない」と逃げてしまっているのがなやみどころ。微分と定積分って、そんなに高学年にまで先送りしなきゃいけない項目なんですかね?
ついでにいうと、高校教科書の微分→不定積分→定積分→区分求積法、という順序も大いに不満。微分をやっておいてから、区分求積法→整式については公式化→微分積分学の基本定理(微分と積分は互いに逆演算)→不定積分、と進んだほうが歴史の進歩と符合しているように思うのですが。


by ss at 2006-08-20 05:33:20
Re:定量的に……

大学に入り、物理と化学が「暗記でない」と知り、驚きました。有機なんて亀の甲に悩み大っ嫌いと思いましたが、有機電子論にはまりました。物理も、高校で、****の部分は略、なんてのが納得できず、大学ですっきりしました。あと、法律も暗記でないと知り、おもしろくなりました。
よーは、私が、「受験向きでない」ってことか。。。


by 地野 at 2006-08-07 07:53:07
Re:定量的に……

「ゆとり教育」を受けたのはこの世代ではないのかな?
もう少し後の世代か?

と言いつつ、球体の面積と体積?・・・・・公式が全く判りません。
と言うか憶えていないのか?
まぁ自分は生物実験系だったので使った憶えはありませんが。
余り使わない事は記憶野から拾い出すのが困難です。(^^ゞ


by yish at 2006-08-52 15:41:52
Re:定量的に……

理学部の学生ですらそうなんですから、世間一般の人にいたっては「定量性って何?」ですがな。定量的に考えないから、トンデモなお話でも信じちゃう人が世間に多いのだろうなと思っています。

これは極端な例かもしれませんが、先日書店で見かけた節約について書かれた本は定量的な話が一切無くて、「○○をすれば××円節約できる」という書き方ではなく「○○をすれば得になる」という書き方。例えば「ガソリンの給油は、ガソリンが冷えて体積が小さい朝が得」って書いてあったのだけど、家に帰ってから理科年表を見たら液体の膨張率がだいたい0.1%/℃位なので、朝と昼で10℃温度が違えば1%の体積の違い。年に100000円給油すれば1000円得か。しかし、自分に当てはめて考えると1回40リットルの給油で400cc得なはずだけど、車の燃費から走行距離に換算すると400ccは5.2kmに相当。最寄りのガソリンスタンドまで往復で約5km。いつもは会社の帰りに給油している(出勤時はまだ開店していないので)から、朝わざわざ給油しに行ったらメリットは無い、ということになってしまいました。

ところで、ガソリンスタンドでは地下にタンクがあるので、給油するガソリンの温度は1日を通してあまり変わらないのではないかと思うのだけど(うちの床下の温度を見ても朝晩で変わらないし)。そうすると、朝給油する事のメリットはまるで無いということになってしまいます (^^;)


by 酔うぞ at 2006-08-51 17:51:51
Re:定量的に……

う~ん・・・・。
実は、1997年ぐらいにこれを買ってます。

http://www.concise.co.jp/store/rule/index.html

もちろんお守り状態で、持ち歩いてはいるが実用してはいません。

この頃数字で「この程度」と言う感覚がぼやけてきて「危ない」と思って買ったのです。
私が大学の頃は、まだ電卓が普及していなかったので、機械式(手回し・電導)計算機か、計算尺を使っていた。

計算尺だと、どこかで「これぐらい」と決めないといけないわけで、これが制度の検定などにはとても効いてきます。

やはり、計算で電卓を含むデジタル計算の使いすぎという面はあると思うな。


by 酔うぞ at 2006-08-23 18:51:23
Re:定量的に……

yishさん

ガソリンの話は面白い。

飛行機は体積ではなく重量で燃料を計算するんですね。
ところで、実際には重量を計測するのではなくて積み込み時の流量で計算するで、事件になったのが「高度41,000フィート 燃料ゼロ! 」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/410233601X/ref=sr_11_1/503-7752527-2617501?ie=UTF8

カナダ航空のボーイグ767が、上空で燃料切れグライダー状態で緊急着陸でした。

この事件の原因はカナが政府がメートル法を押しつけたから換算が複雑になって念慮をどのくらい入れればよいのか分からなかった。

この本を読むと「どの程度で解明するのを諦めちゃうのか」が分かってきます。


by みつを at 2006-08-35 21:58:35
Re:定量的に……

定量性の教育=計算関係の教育がおろそかになっているのは、計算がいかにも作業的で、時間がかかるからではないでしょうか?
「効率的に教育したい」と文部官僚が目標設定したとして、計算関係は数学でもっとも削りやすい位置にいるのでは?
実は、感覚的なものは、経験で養われるから、「理解」だけでは教育は足りないんだと最近思い始めてます。

まあ推定ですけどね。


by yish at 2006-08-41 04:20:41
Re:定量的に……

私が大学生の頃はパソコンはまだごく一部の人が持っている程度で(8bit機から16bit機への移行期位)、私自身は関数電卓とポケコンを使っていました。有効数字がいくつか、なんてのはわりと気にしていて、電卓やポケコンの表示桁指定で丸めて表示させる事が多かったです。

勤務先には有効桁数を気にしない人がわりといて、表計算ソフトの計算結果をそのまま何桁も引き写して平気な顔をしているので困ってしまいます。

カナダではなくてNASAですが、しばらく前にフィートとメートルを取り違えて火星に落とし物をしていますね。これは計算ミスというのとは違いますが(つーか、それ以前の問題のような)。ポンド、kg、ガロン、リットルなんてのが入り交じっても、飛行機落とすほどの計算ミスをするというのは私には信じがたいのですが、現実に落ちているので信じられない計算をしたんでしょうねえ>カナダの人

自分が何か訳のわからない計算をするときは、オーダーがあっているか、次元があっているかぐらいはチェックするようにしています。


by apj at 2006-08-51 22:29:51
Re:定量的に……

 おぉ懐かしい。ポケコン。
今じゃ、学生実験でノートパソコンを持ち込んでる人も珍しくない状態ですけどねぇ……。
 学部時代に使ってたポケコン、まだ動いてますよ。でも、生協でもポケットコンピュータは見かけなくなりましたねぇ……。グラフ表示で着る関数電卓を使うか、それ以上ややこしいものはパソコンを使う方が早かったりするし。


by すっぱいぶどう at 2006-08-36 08:00:36
Re:定量的に……

>「ゆとり教育」を受けたのはこの世代ではないのかな?

ゆとり教育にどっぷりつかった世代が今の大学一年生です。高校教諭をしている友人は、「次の年からのがもっとすごい!」と言ってました。ど、どんなだろう…。

そんなこととは関係なく、理系でも文系でも5年くらい前の学生から、球の体積や表面積の公式は板書したときに「そんなのもあったなぁ」という反応です。子供の頃に覚えたことって、案外忘れないと思っていたのですが…。


by ぴら at 2006-08-17 08:30:17
Re:定量的に……

はじめまして、

定量的というのとは関係ないのですが、
数年前、本郷三丁目で教えている友人と飲んだときに
反比例と傾きがマイナスの一次関数の区別がついていない
学生がいたという話を聞き驚きました。


by いいじま at 2006-08-14 02:23:14
Re:定量的に……

酔うぞさん:
> 「高度41,000フィート 燃料ゼロ! 」
ギムリー・グライダーですね。これは次のような経過をたどっています。

航続距離から、パイロットは積むべき燃料の量を「約20000」と算出した。ここまではよかった。(単位がついていないことに注意)

※飛行機は、重すぎると燃費が悪かったり、極端な場合は目的地に着いても最大着陸重量をオーバーしてしまったりするので、クルマと違って必要な量しか給油しません。

ところが当日、地上クルーに給油量を指示する際、めったにやらない手計算をやることになった。上記で算出した「20000」の単位はキログラムなので、それをリットルに換算して地上に指示を出す必要があるわけだが、今まで染み付いた癖で、キログラムからリットルへの換算係数ではなく、ポンドからリットルへの換算係数をかけてしまった。

※1ポンド=459gです。

結果、少ない量しか給油されず、計器が故障しているのに航行を強行したので誰も気づかず、結果、上空で燃料切れ!

理科教育がここから学ぶとしたら、定量性うんぬんというより、「物理量には単位をきちんとつけましょう」という教訓のように思います。別記事の、酸素分子がタキオンだったり3万年かけて分子1個ぶんを移動したりする話のほうと結びついてくるような。