CDエクスプレスラテン語が面白い
白水社のCDエクスプレスといえば、語学の実用的な参考書で、各国語で出ている。その国で生活しているときにありがちな会話を例にして、単語や文法を学びつつ、CDを聴いて練習しようというコンセプトで作られたシリーズである。たとえば、手元の現代ヘブライ語だと、「コーヒーにする?紅茶にする?」といった会話や、「どこでコンピュータを修理できるか知っている?」「トマトを二キロください」といった、生活密着型の例文が出ており、イスラエルに行った臨場感を味わえるようになっている。
これが、ラテン語になるとどうなるか。
「あなたは旅行者ですか?」
「そうです。昨日ローマに来ました」
「何が見たいですか?」
「元老院議事堂を見たい」
となる。
「公衆浴場に行かないか?」
現代の日本で口に出したらほぼ確実に風俗の話だと思われそうだ。
「世界中でどの都市が最も豊かだろうか?」
「もちろん、ローマさ。ローマほど栄えている都市はないよ」
確かに紀元前のあたりはその通りだわな。
「ところで、ぼくは新しいトガがほしいんだ」
トガってのは、ローマ市民が着用する白い上衣のことである。さらに
「これは、何て盛大な行列なんだ」
「ユーリウス・カエサルが凱旋式を行っているんだよ。凱旋車に乗っている月桂冠をかぶった将軍がカエサルさ」
とか、
「試合場では剣闘士たちがみな元首に向かって整列した。何をするのだろう?」
「元首が彼らから挨拶を受けるんだ。彼らのある者は勝利し、ある者は傷つき、ある者は殺されることになるだろう」
今なら人権問題発生だが、古代ローマ基準では問題無し。
「今日は学校に行きたくないな」
「どうして?」
「先生は、ウェルギリウスの詩を覚えてきたかどうか、ぼくに尋ねるだろう。ぼくは全く覚えていないんだよ」
「君が詩を暗唱できなければ、先生は怒って君をむちで打つよ」
ローマの先生、厳し過ぎ。
確かに他の言葉と同様、生活している臨場感はたっぷりある。コンセプトは間違ってない。間違ってないんだけどさぁ……。これのラテン語を暗記してもいいけど、一体どんなシチュエーションで使うんだよその例文は。古代ローマにタイムトラベルでもしてくれと言わんばかりの内容がてんこ盛りで、語学の習得という本来の目的以外のところでツボにはまりまくった。
ここからは旧ブログのコメントです。
by 酔うぞ at 2007-01-49 19:31:49
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
昨日の深夜 NHK BS-2 でやっていた「逆転」
http://www.nhk.or.jp/bs/navi/movie_td.html
の中で60年代らしい洒落たセリフがありました。
主演のポールニューマンが泊まったホテルで街に出かけるためにフロントで相談するシーン
何か面白いところはある?
コンサートホールとかありますが
もっと庶民的なところ、ダンスとか
(名前をABCと並べて) あっとCはダメです。
なんでCはダメなの
若い娘が沢山
そりゃダメだな
そうです、近づかないように住所を書いておきますね。
久しぶりに洒落た会話シーンでありました。
by qur at 2007-01-29 22:57:29
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
いやいや、現代においてラテン語を日常生活で使うというシチュエーションはありえないのですから、ここでの狙いは、「ラテン語の書物(古典)を読んだ時に、誤訳しないようにすること」でしょう。その為には、当時の習俗や常識について知っている必要があるから、そういう内容になる訳で・・・ってマジレスカコワルイ?
by apj at 2007-01-49 00:26:49
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
今ラテン語で読まなければならないものというと、たとえばカエサルとかキケロなんかの書いた古典か、ヴァチカンあたりのキリスト教関係の書物でしょう。だから、いわゆる「会話」じゃないんですね。
まあ、シーザーの話は映画にもなってるから、それをラテン語版で撮ったりすると教材のような会話が必要になるでしょうけど……。
日常でラテン語を使うシチュエーションがあり得ない→でもコンセプトは「日常会話の例で練習」→結果としてタイムスリップ万歳、なことになってるから、何だかウケてしまったわけで。現代を舞台にラテン語会話されても合わないのは確かなんですが、でもこの巻だけ雰囲気がwww。
by qur at 2007-01-02 01:33:02
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
了解です[:うっしっしネコ:]
他言語の同様の教材を知っていると、比較でおかしくなるのは分かる気がします。
by nomad at 2007-01-24 03:54:24
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
apjさんが学生を鞭打ったときに「うっかりラテンで」と言い訳するときに使えば大丈夫です。
(それなりのニーズが期待できます)
by ひろのぶ at 2007-01-13 05:12:13
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
これが古典ギリシャ語だったりするとどうなるのだろう。
「あなたはエウクレイデスさんですか?」
「いいえ私はエラトステネスです。地球の大きさを測っています。」
とか
「アレクサンドリア図書館へいく道はどちらですか?」
「ムセイオンの角を右に曲がったところです」
とか、もうちょっと上級になると
「アレクサンドリアに観光にいくんだ」
「お勧めはファロス島の大灯台だね。観光客のマストアイテムさ。
あとアレクサンドリアのマスカットは美味いぞ。お勧めだ。」
なんて会話なんだろうか
by 越後屋遼 at 2007-01-29 09:04:29
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
よくわからないのだが、つまりは
「萌え単」
ラテン語版ということか。
by apj at 2007-01-11 01:36:11
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
越後屋遼さん、
機動戦士ガンダムで学ぶ英単語(題名失念)、みたいな本があったと思うんですが、そっちのノリに近いかな。
by TM at 2007-01-04 18:23:04
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
昔々、テレビの「コンバット」で英語の話せないドイツ兵とドイツ語の話せない米兵がラテン語で会話をするというエピソードがあったことを思い出しました。
現代におけるラテン語の実用的な使用法っていうとこれぐらいしか思い浮かびません。ものすごくレアではありますが。
といいつつ、あの米兵はカソリックだったのだろうなと、それも珍しいか。
by 271828 at 2007-01-39 13:45:39
Re:CDエクスプレスラテン語が面白い
ニュートンさんの時代では学術論文はラテン語で書くのが普通でしたね。だから『自然哲学の数学的諸原理』を原語で読みたい人はラテン語を学ぶ価値があるのでしょう。
でもあの本には数式が無くて絵と幾何学的な説明だけなので日本語で読んでも大変な苦戦です。
私は植物の学名の元の意味を知るために『植物学ラテン語辞典』を持っているのですが、植物分類学では今でもラテン語で論文を書かないと受け付けてもらえないらしい。