まったくもって同感
自由であって良いのだが、勉強をしない自由はあってはならない。大学はまずもって学問をする場所だ。
学生にはこれを叩き込むべきだろう。勉強しない自由があると勘違いしている人もそれなりに居そうだし。
で、学問の部分をもし抜いてしまったら、役に立つ部分は何も無くなるんじゃないかという話をこのあいだきいてしまった。
先日、会社の人と話をしていたら、研究費の話になった。大手企業で、比較的基礎的なR&Dにたずさわっている人の年間研究予算は研究者一人あたり平均一千万円、実用化に近いところだと一千五百万円程度で、一人が数件のテーマを掛け持ちつつチームで進めているという話だった。大学は、何もしないでもらえる校費は教員一人あたり 40万円から60万円程度で、ここから教材の印刷費やコピー代を捻出する。科研費は充足率を考えれば、何年かを平均すると多分100万円~多くて200万円程度(ごく一部の大型研究費を取っている人を除く)で、もらえない年は校費だけになるから、コンスタントに仕事を進めるというわけにも(予算上)いかない。【追記】この予算の話は勿論人件費は別で、純粋に職場で仕事としての研究開発に使える予算が、ということ。(なお、大学の研究関係の予算額は、日本の大学(国立大学法人のみか、私立も含めてかを失念したんだけど)を全部合わせても、中堅の製薬会社1社の研究費に及ばないという話がどっかにあったはずだが……)
10倍以上の予算の開きは、アイデアや工夫で太刀打ちできるものではない。大学は研究では企業に勝てない。やっと取った研究費で、サンプルやら測定装置にどういう割合で支出するかと考えている間に、企業は、大学の研究者がもらった研究費を全額つぎ込んでも買えない稀少なサンプルを手に入れて実験し、大学からは絶対出せない結果を得ている。
大学に研究でアドバンテージがあるとしたら、学問上の意味はあっても儲けにつながらなくて、たまたま企業が手出しをしていない分野においてだけだろう。大学の研究が応用につながらないといって責めるのはお門違いではないか。応用に直結して企業と競争になるようなテーマでは、大学が企業に勝てるはずがないのが最初からわかりきっていて、やるだけ無駄だからやってないというのが本当のところではないか。
ここからは旧ブログのコメントです。
by 平凡助教授 at 2007-09-03 01:11:03
Re:まったくもって同感
(どういうときに自由を制限できるのかというややこしい議論になるので) 勉強しない自由を認めないという恣意性の高い議論には与しないほうがいいと思います.学生側にその自由もある一方で,教員側にも結果を出せない学生を落とす自由があるとやればいいのでは.現実には落とすべき学生を落とせない教員が多すぎまず.そういう責任を果たせない教員のほうがまず問題では.
効果だけをみれば,学生側の自由を認めないという意見と大差はないわけですが[:つかれた顔:],さて,どちらが教授陣にすんなり受け入れられるか.
「ガソリンも入れないで「クルマが動かない」と言われても」という関連記事をリンク先にしておきます.
by A-WING at 2007-09-33 02:49:33
Re:まったくもって同感
こんにちは。
「勉強しない自由」って、認めるかどうか以前に、そもそも大学内では存在しえないんじゃないかと思います。
なぜなら、「今現在大学にいる私」という存在を自己否定することになりますから。
義務教育ならともかく、勉強しない自由を選ぶと言うことは、すなわち大学を出て行くということでは。
by apj at 2007-09-59 04:11:59
Re:まったくもって同感
平凡助教授さん、
>教員側にも結果を出せない学生を落とす自由がある
>現実には落とすべき学生を落とせない教員が多すぎ
この自由が実は無いから問題なんですよねぇ。[:ふらふら:]
落とすべき学生を落としたら、留年する学生の数が跳ね上がり、そうすると留年が多いのは問題だと上の方からお達しがくるため現実には落とせないという面があります。で、そのお達しは、学生に足元を見られる方にしか効果を発揮しない。もちろん、補習をやったり追試をやったりという努力はするんですが、「短期的な努力が必ず結果に反映する」と思い込んでるらしい上の方を先になんとかしてもらいたい。
もし、上の方が、通った学生の学力保証が第一で、そのためには留年が増えてもかまわない、という方針を打ち出してくれさえすれば問題は解決します。
そうそう、法務の強化も必要かも。
10年以上前の話ですが、先輩が就職した私立大学で、できの悪い学生を落としたら、「担当教員を訴えるぞ」と親がねじ込んできた(学生本人はそのことを知らなかったらしい)そうで。講義は普通に行われ、他の人達はまあ通常の成績分布で通っていて、問題の学生についてはろくに講義に出てこなくて点数も悪いという証拠がしっかり残っていたらしい。提訴をちらつかされて脅されて教員側がびびったらしいけど、いっそ訴えさせればいいのにというのが私の感想。そうすれば、晴れて裁判官の前で「デキが悪い学生」であるという事実が認定されるわけで。
ところで、blog見させていただきました。どこでも大変そう、というべきか、いずこも同じ秋の夕暮れ、とつぶやくしかないというべきか。残りのエントリも読ませていただきます。
by nanashi at 2007-09-28 05:40:28
Re:まったくもって同感
企業の研究費は、研究員の人件費(給与・年金・保険等)込みの値段ではないですか?大学でも同じ基準で計算すれば1000万円/年・人くらいにはなりませんか?
by apj at 2007-09-20 06:10:20
Re:まったくもって同感
nanashiさん、
企業の方は、人件費込みではなく、純粋に研究開発費としてつく予算だという話でした。
by 名無い at 2007-09-01 09:00:01
Re:まったくもって同感
PDFへのリンク、最後のFが欠けているようです
by apj at 2007-09-41 11:30:41
Re:まったくもって同感
確かに抜けていました。直しました。
by ひろのぶ at 2007-09-46 19:32:46
Re:まったくもって同感
日本の大学場合、伝統的に研究と教育を混在させているのでこんな比較をすると話がおかしくなります。貧乏を嘆くのはわかるとして、日本の大学において今まで流れてきた研究費に対して、企業の研究費との比較や、アメリカの大学での研究費との比較は適切な比較にはなりません。遠山プランはそのあたりをどう近代的な研究開発に変えていくかの計画だったんだけど、遠山プランを批判していた大学人を見ていると、古い日本型の教育と研究を混在させるタイプの考え方に拘泥していたので、いろいろとこの先も大変だなぁ、と思ったものです。
by apj at 2007-09-54 19:55:54
Re:まったくもって同感
ひろのぶさん、
別におかしくはないですし、適切な比較だと考えます。
学生への教育の費用が微々たるものだから、そちらを考えても金銭的な面では状況は変わらないからです。卒業研究を見ると、卒研4年生一人あたりで数千円のオーダー、博士前期で一人あたりやっと万のオーダー、博士後期はさすがに十万円超もいくでしょう。これが年間ですから、教育を混在させているわりには教育を理由に割り振られる予算があまりにもしょぼい。というか、研究に割り当てられる予算でもって、教育と研究が混在、という主張のもとに、教育のためにも使われていたんじゃないんでしょうか。
結局のところ、試料が買えるかとか、測定器が買えるかといったところに効いてくるし、それによって何ができるかも決まるので、金額の比較をするのが最も単純でしょう。
で、貧乏を嘆く云々じゃなくて、研究については出した金に見合った成果以上のものがあればそれはラッキーなんですよ、ということを広く知ってもらうことの方が大事じゃないかと。何て行うか、ここ数年の産学連携の動きを見ていると、世間の側が大学に幻想を抱きすぎのように思うので、まずは金額ベースで比較して相場ってものを自覚してくれというのが第一歩ではないかと。
by 酔うぞ at 2007-10-59 02:54:59
Re:まったくもって同感
わたしは研究環境(なんて言葉はあるのか?)については素人ですが、例えば(研究の)成果を狙う程度(?)をY軸にとって、X軸を研究費に取って考えてみると、「多大の研究を注ぎ込んだのだから成果を出せよ」というグラフにはなるでしょう。
その一方で「成果なんて期待できないけどなんか出てくるかもしれない」という研究姿勢(?)も当然あるでしょう。
それで、上記の座標系を設定した場合には、例えば正比例の右上がりの直線であったとすると、研究成果の保証が全く無いとか分からないでは、研究費はミニマムになってしまうのは仕方ないでしょう。
おそらくは、こういった「正比例の関係」からの脱却こそがそういう研究のが成果を上げるために必要なのでしょうが、日本では寄附制度が妙に厳重に税制面で規定されているのが問題なんですよね。
簡単に「○○基金」とか出来るようにした方がよいと思うだけどねぇ。
by ひろのぶ at 2007-10-09 19:49:09
Re:まったくもって同感
それ昭和の予算管理です。
by 研究しない名無しさん at 2007-10-29 11:17:29
Re:まったくもって同感
>何もしないでもらえる校費は教員一人あたり 40万円から60万円程度
それは理系の場合ですね。文系はもっと貧乏で大学によっては10万というところもあるそうです(某地方旧国立)。
科研も基盤Cクラスですとしょぼいです。いえ、もう、いただけるだけでありがたいんですけど。
by もとエスペ at 2007-10-25 20:37:25
Re:まったくもって同感
私の配偶者は某私大の講師ですが、過日「科研費の上手な申請法」というようなテーマの講習が開かれたようです。講師は、某財団職員だった由。私大も、法人からの研究費は抑制し、外から稼いでこい、ってな感じになっているようです。