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これはひどい

Posted on 10月 29th, 2007 in 未分類 by apj

「でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相」福田ますみ著 新潮社
 2003年6月に、福岡の小学校で担任の教師が生徒に向かって「早く死ね、自分で死ね」などと暴言を吐いて体罰を繰り返したという事件があったと報道された。マスコミはこの教師を大バッシングし、医師はその子供がPTSDになったと診断し、550人もの弁護士が弁護団に名を連ねて教師と福岡市を提訴した。
 ところが、この騒動がすべて、子供の親の虚言癖によるでっちあげだったというもの。
 体罰は事実無根、PTSDを診断した医者は実はまともな診断をしていない、校長も教育委員会もまともな調査をしていない、マスコミの取材も不足していた。
 事態が悪化した原因は、
・モンスターペアレンツに比べて教師の立場が弱かった。
・マスコミのネタにされることを避けるため、事なかれ主義に走った校長が、ろくな調査もなしに言葉尻だけとらえて教師が悪いことにして無理矢理謝罪させた。
・親の行動が異常で、言ってもいないことを言ったといい、反対の意見を言う別の保護者に怒鳴り込んだりしていたので、みんなが避けていた。

 この事件から得られる教訓は次のようなものだろう。

・謝罪は事態を悪化させ、嫌がらせ訴訟の賠償金上乗せに利用されるだけ。
(謝罪が親の妄想を暴走させて巨額の賠償金を請求する訴訟に発展した)
同僚や上司の誘導尋問には引っ掛かるな。特に、その個人の判断や意見を認めないといった態度を取ったヤツは明白に敵。
(最初から親の前で謝罪させるというシナリオが校長によって作られていたが、まともな根拠が無かった。校長はそのシナリオ通りに行動することを教師に求めた。)
クレーマーを親と思うな。敵と思え。
(実際この事件では悪意満々だった)
事なかれ主義の管理職は敵よりタチが悪い。
(最初から教員を悪者にして親を納得させようとする意図が見えていた。)
教員が身を守るには、最初から出るところに出るという姿勢が大事。組織は守ってくれない。
(教育のことを考えて、謝罪で済むなら……と譲歩したことが後まで響いた)
マスコミ対策で組織に箝口令が敷かれた場合は、それに従ってはならない。組織に都合の良い情報だけが発信されて、個人に責任が押しつけられる。
(取材に対して、学校発の情報ではいじめがあったことにされた。)
個人で勝手なことをして、などと言う連中は、同僚だろうが上司だろうが足を引っ張るだけである。
(取材に対して教員個人が発言したら、学校の作ったストーリーと違うことを責められた)
処分があったら即座に提訴。
(処分が先にあったためか、一審判決で請求棄却を勝ち取れなかった。現在控訴中。もし、処分の方も争っていたら結果は違ったかもしれない、というのが感想。)

 極端なモンスターペアレンツを踏んでしまった場合は、この程度のことを考えていないと、多分身を守ることはできない。

 もう一つ別の教訓としては、正義(を信じるヤツ)ほどタチの悪いものはない、といったところか。

【追記】
 「万国の労働者よ,団結せよ」って有名なスローガンがあるが、これからは「全国の教師よ、法廷闘争せよ」をスローガンにした方が良くないか?
 amazonの書評には、現職教員で、同じような目にあったらしい人の書き込みもあった。教員志望の学生には必ず読んでもらいたい本である。


ここからは旧ブログのコメントです。


by 亀@渋研X at 2007-10-59 11:20:59
Re:これはひどい

こんばんは。
無実なのであれば、赤字の部分については基本的に賛同します。私が出入りしている学校でも、非常識なクレーマーに対応する際は、必要とあらば警察を呼ぶことや訴訟を前提に考えることを恐れるべきではない、と校長。副校長。主幹には進言してきました。もっとも、先生方は保護者を訴える等となると在校生(つまりクレーマーの子ども)への影響を考えてしまうので、踏み切れないとおっしゃいますが。

ただ、この福岡の件については、当然ながら原告と被告の主張は真っ向から対立していて、書籍にされた内容は被告の開き直りであり、地裁では不法行為の一部を認めたとする情報もあるんです。
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20070517/ijime
経由で読んだのですが、下記がまとまっています。
http://www7.atwiki.jp/kyouiku_hiroba/pages/69.html
ただ、裁判の記録もネットでは見つけられず、どう考えたらいいのか、いまは保留といったところです。


by 亀@渋研X at 2007-10-58 11:22:58
Re:これはひどい

ありゃ? すいません、一部、句読点が変なことに(汗
「校長。副校長。主幹」は「校長、副校長、主幹」のつもりでした。


by apj at 2007-10-08 19:16:08
Re:これはひどい

亀@渋研Xさん、
 それは、箇条書きの最後に書いた部分です。
 第一審の判決が出る前に、教育委員会側の処分が出ていたため、それを踏まえた判決になったのだろうと著者は言ってます。私も同意見です。
 民事訴訟だと、主張したことが事実認定されます。処分をそのままにしてれば、相手から「かくかくしかじかで処分されていることからも明らか云々」などとやられて、被告が処分が事実であることを認めると、判決を書くときの基礎にせざるをえません。
 ですから、この教師は、市と教育委員会を提訴して、処分が誤認によってなされたことを認めさせないといけなかったんじゃないですか。誤認による不当な処分であるとして争って撤回させていれば、また別の事実認定がなされるのではないかと。


by 亀@渋研X at 2007-10-50 22:10:50
Re:これはひどい

あああ、そういうことなんですか……。最後の部分も読んではいたんですが、全然わかっていませんでした。処分に対して不服申し立てなりをして、正すべき部分は正しておかないと、後々になってそれを根拠とされて不利ということですね。
これも民事と刑事の事実認定プロセスの違いに由来する話ですね。わかったつもりでわかってないなあ、わたし。
失礼しました。


by apj at 2007-10-58 22:51:58
Re:これはひどい

亀@渋研Xさん、

 正確に言うと、訴訟の前に6ヶ月停職の処分は完了してしまっていたようです。
処分が終わった後も親の妄想がとどまるところを知らずに訴訟になった。

>先生方は保護者を訴える等となると在校生(つまりクレーマーの子ども)への影響を考えてしまうので、踏み切れないとおっしゃいますが。

 子供が親を選べないのは確かですが、クレーマーの子供については、ろくでなしの親を持った不運ということであきらめてもらうしかないかと。
 なお、本件訴訟の場合は原告が子供で親が法定代理人で訴訟代理人が弁護団、ということですから、もはや子供も巻き込まれた後です。

 とんでもないことになったきっかけは、忘れ物を親に注意された子供がやっぱりなおせなくて、親の前で苦し紛れに先生のせいにする言い訳をしたことにあるようです。
 ただ、その後PTSDの診断が出たりして、子供は入院することになったので、薬を飲まされたりなかなか病院から出してもらえなかったり(そして親の主張する深刻な症状の割には外泊しまくりで辻褄が全く合わない)で、それなりに報いは受けているような気はしますが。
 それでも、教員一人を社会的に抹殺することに、学校ぐるみで手を貸したというのであれば、学校の管理職どもにもそれなりの報いをくれてやるべき案件でしょうねぇ。


by ぼそっ at 2007-10-33 22:11:33
Re:これはひどい

亀@渋研Xさんが揚げられた一つめのリンク先にもありますが、新潮社のページに『「でっちあげ」事件、その後』がありますね。
http://www.shinchosha.co.jp/book/303671/


by ひろのぶ at 2007-11-44 00:23:44
Re:これはひどい

赤文字で書かれたのはもっともだと思うけどさ、それをやったとしてもこの本にかかれている状況はあまりかわらなかったような気がするよ。週刊文春で徹底した攻撃キャンペーンが行われていた状況下で、さらにインターネットとかで煽られて学校や教育委員会に大量のメールとか電凸とかあるわけでしょ。この教師のことばを取り上げたTV局も週刊文春によって「史上最悪の『殺人教師』を擁護した史上最悪のテレビ局」という具合に徹底的に叩いていた。もしモンスターペアレンツだけなら、ここまでひどいことにはならなかったと思うよ。きっかけはモンスターペアレンツかも知れないけれど、本質的には正義という仮面をかぶった悪意によるソーシャルなDoS攻撃が行われたというもっと難しい問題だと思うな。弁護士懲戒の話もそうだけど、情報流通がむかしよりよくなった分、情報をちゃんと見極めることのできない陽動されやすい人たちの存在が表層化しちゃって、それが雪崩のようにどどどっと来るのが問題じゃないかな。


by 愛・蔵太 at 2007-11-15 06:26:15
Re:これはひどい

どうもはじめましてこんにちは。こちらにリンクが貼ってあったのでリファで来ました。ぼく個人は、ある事件に対して視点のまったく違う二つの解釈が出ており、争われている、ということに興味を持ったので、あんまり新潮社のその本のテキストも、全面的に信じていいものかどうか、というような感じです。「鬼教師」も「モンスターペアレンツ」も、どこまで正確な実像なのか…。


by apj at 2007-11-56 06:40:56
Re:これはひどい

愛・蔵太さん、
 はじめまして。
最も正確なのは訴訟記録を読むことでしょう。民事訴訟は特に非公開にしなければならない部分を除いては公開なので、裁判所に行って閲覧してくるのが一番確かです。
 謄本は、関係者しかもらえないことがあるんですが、このへんの情報公開がもっと進めばいいと思います。私が当事者になった裁判は、できるだけ訴訟資料を公開するようにしていますが。


by 酔うぞ at 2007-11-03 10:24:03
Re:これはひどい

この場合は訴訟被害とでも言うのでしょうが、恫喝訴訟=口封じが問題だというシンポジウムがあります。

「表現の自由を考えると11.29シンポジウム」
出版労連の主催で、11月29日18時半から、東池袋です。
オリコン訴訟の烏賀陽さんがパネラーで参加します。

詳しくはこれを(PDF)

http://www.syuppan.net/uploads/smartsection/37_11_29genron.pdf


by apj at 2007-11-58 11:45:58
Re:これはひどい

 酔うぞさん、
 興味津々なんですが、その日は午後に講義があるので休めません。直前の週に、学会で休講にしてしまうということもあって……。

 恫喝訴訟ですが、弁護士会のしばりが外れて、訴訟金額の何割を着手金に云々てのがなくなったので、とんでもない高額の訴訟を起こされても、労力に見合った金額で引き受けてくれる弁護士さんが見つかるようになってきているとは思いますけどね。


by com at 2007-11-28 08:10:28
Re:これはひどい

こんばんは。

思いっきり亀レスですが…酔うぞさんの示したシンポジウム、行ってみたい希ガス。


by たちばなや at 2008-04-48 01:42:48
Re:これはひどい

真実を一語一句新聞に載せてもらいたいものです。