政策変更した方が良いのでは
毎日jpの記事より。
研究開発人材:5年で質量とも低下 文科省調査
国内の研究開発人材が、この5年で質量ともに低下していると、第一線の研究者が感じていることが、文部科学省科学技術政策研究所の意識調査で分かった。国は96年から5年ごとに科学技術基本計画を立て、10年間で科学技術分野に約38兆7000億円を重点配分してきたが、人材育成に関しては期待したほど成果が上がっていないようだ。
調査は昨年11~12月、大学の学長や研究所の管理職、基本計画で重点の置かれた生命科学や材料科学、エネルギーなど8分野の一線の研究者ら約1400人に実施。研究資金や人材、産学連携などの現状を質問し、約1200人からの回答を分野ごとにまとめた。
研究者の数や質を5年前と比較する設問では、「質が上がった」という分野は皆無。情報通信やものづくり、エネルギーなど5分野では「やや低くなった」と評価された。研究者の数もほとんどが「横ばい」か「やや減った」とされた。
自由記述では、「ポストの減少で数も質も劣化」(環境)▽「博士号取得者は増えたが、全体として質は低下」(ナノ・材料)▽「分野内の領域ごとに偏りがある」(生命科学)--などの回答があった。
同研究所の桑原輝雄・総務研究官は「現場の実感では、政策の効果が十分に表れていないと受け取れる。今後、聞き取り調査などで理由を探りたい」と話している。
現在必要な取り組みとしては、各分野とも「人材育成と確保」がトップ。特に、基礎研究を担う人材育成が急務とされた。また、若手育成では、博士やポスドク(任期付き博士研究員)の就職支援を求める声が多かった。【西川拓】
毎日新聞 2007年11月23日 2時30分
むしろ、政策の効果が十分現れたから低下したんじゃないかと思うんですが。
まず、大学院重点化で博士の数を増やす政策をとったから、数が増えて、平均が下がった。増えた博士を、研究人材の流動化の名目で短期雇用に振り向けたから、就職難が知れ渡って、まともな人なら研究者を目指したいなどと思わないであろう状況が生じた。一方で、モラトリアムしたい人は定員増と定員を充足せよという政策誘導によって昔よりも進学しやすくなった。
競争的研究資金を増やしたため、研究・教育をやる時間と手間が、書類書きに費やされることになった。法人化による中期目標・中期計画についても、研究・教育をやるはずの人手が振り分けられて、大学本来の仕事を妨げる方向に働いた。
任期制になると、次の職のためにはまずは論文数が必要になるから、先が見えていて確実に論文が出る研究に向かう人が増える。
昔は校費の額がそれなりにあったから、先が見えないことをやって失敗してもダメージがそれほど無かったけど、今は校費が減らされてしまっているので、ある程度結果が確実なテーマで研究費の申請書類を書くことになる。
なお、大学について言えば、これからはポストが減ることはあっても増えることはなさそうだし、斜陽産業に人が集まらないのは大学に限らずどこの業界でも同じだったと思うのだけど。
1つや2つなら何とかカバーできても、これだけ一度に重なったら、そりゃ影響も出るんじゃないか。
ここからは旧ブログのコメントです。
by 杉山真大 at 2007-11-50 17:58:50
Re:政策変更した方が良いのでは
そもそも事の発端って、経済界が「これからは研究開発重視だ!」って声挙げて、それで行政も大学も「それじゃ研究重視・研究者増加」って向かった訳なんですよね。
ところが藤末参院議員が指摘する様に、現実には研究者の採用はグローバリズム向かっていて、日本人でなくても優秀なら外国から幾らでも就職させるとかなっているんですよね。
http://www.fujisue.net/archives/2007/10/post_2144.html
研究者から方向転換しようものなら「院卒は使い難い」と就職口は結構無難しくなるし(自分もそういう指摘受けて、履歴書から院卒の経歴消しましたよ)、ベンチャーを目指すにしてもベンチャーとして活かせる研究は一部の大学に限られている上に、そのための人材も環境も不足している。結局、経済界の要請・実も蓋も無いことを言うなら「ものづくり立国」のために全て振り回されたって気がしますね[:困り:]
by apj at 2007-11-35 20:43:35
Re:政策変更した方が良いのでは
杉山真大さん、
>研究者から方向転換しようものなら「院卒は使い難い」と就職口は結構無難しくなるし(自分もそういう指摘受けて、履歴書から院卒の経歴消しましたよ)
これは勘弁してほしいですよね。優遇してくれとまでは言わないにしても、せめて、大学院を出たことが就職の足を引っ張る現状はどうにかしてほしい。
で、頭脳を集め鵜るとか何とかいって、酔うぞさんのエントリとコメントを見ればわかるように
http://youzo.cocolog-nifty.com/data/2007/11/post_01b6.html
頭と現場が食い違ってぐだぐだになってたりするし。
あと、東大の寄付講座で海外の研究者を呼ぼうとしたら、給料が安すぎて(国立大学の教官の給与体系は世界標準と比べるとお話にならないほど安かった)、話がまとまらなくて困っていたりしましたね。
まあ、海外から「まともな給料」で研究者を呼ぶようになった方がいいのかもしれません。そうすれば、それなりの相場が形成されるでしょうし、研究のレベルアップと同時に高給をめざそうというインセンティブを若い人達に与える可能性もありますし。
by 杉山真大 at 2007-11-34 00:27:34
Re:政策変更した方が良いのでは
>まあ、海外から「まともな給料」で研究者を呼ぶようになった方がいいのかもしれません。そうすれば、それなりの相場が形成されるでしょうし、研究のレベルアップと同時に高給をめざそうというインセンティブを若い人達に与える可能性もありますし。
うーん・・・それで今度は研究者間の「格差」が問題になっちゃうんじゃないですかね?ごく一部のグローバルな研究者と圧倒的多数のフリーターもどきでトンデモないくらい差が開いて、しかもその評価もイミフじゃ現状と何も変わっていない気がしますでつ。
そう言えば中村修二と日亜化学の一件で、「日本は文系社会」という中村の発言とは裏腹に、理系の研究者や技術者の間では中村を非難する声が意外に多かったんですよね。逆に文系の人間に中村擁護が目立っていたくらい。理系の現場に言わせれば、中村の様なレアケースで報酬アップをやられたら、巡り巡って自分とこの飯の食い上げになるって危機感(??)があったのかも。
by apj at 2007-11-57 11:08:57
Re:政策変更した方が良いのでは
杉山真大さん、
しかし、研究者全部がぱっとしない給料という現状よりは、一部でも高給取りが居てくれた方が良さそうに思いますが。
レアケースに対しては、レアな高額の報酬を出すということでバランスはとれそうに思います。それなりのケースはそれなりに……。
by 杉山真大 at 2007-11-13 19:25:13
Re:政策変更した方が良いのでは
>しかし、研究者全部がぱっとしない給料という現状よりは、一部でも高給取りが居てくれた方が良さそうに思いますが。
>レアケースに対しては、レアな高額の報酬を出すということでバランスはとれそうに思います。それなりのケースはそれなりに……。
うーむ・・・そもそもの研究者倍増・大学院重点化って、研究者や院卒の高収入という一面の事実が”エサ”になっているんじゃ?つまり「一部でも高給取りが居てくれた」ていう部分だけが下手にクローズアップされて、修士や博士が増えてみたら就職難でフリーターもどき、って結末に。
そう言えば弁護士の世界も似た話になってますね。弁護士の需要が増えて高収入を貰えるって”エサ”で、法科大学院に入ったはいいが、司法試験のハードルは高く合格しても就職難→質は低下し志望者減ってオチ。幾ら「レベルアップと同時に高給をめざそうというインセンティブ」を与えても、夢から目覚めると元の木阿弥になるのが関の山なんじゃ。
by もす at 2007-11-08 23:09:08
Re:政策変更した方が良いのでは
ていうか、単に年長者が年少者を指して「つかえね~」と言う、よくある愚痴にしか見えないんですけど。
「質が上がった」なんて言えば、後輩より自分が劣ってることを認めることになりますから。
by apj at 2007-11-08 23:44:08
Re:政策変更した方が良いのでは
杉山真大さん、
>研究者や院卒の高収入という一面の事実が”エサ”になっているんじゃ?
そんなことありましたっけ?私が学生をしていた頃から、国立大学や国立の研究所に就職した人達はみんな、同窓会では給料の話はしたくない、あまりの安月給に泣けてくるから、と言ってました。もちろん、その当時に大学の先生や研究者をしていた層というのは、旧帝大院卒がほとんどで、仲間はみんな企業に勤めてずっといい給料がもらえる仕事をしていたわけで。一部の私立大学はともかく、大学は安月給というのが常識だったような。
開業医や弁護士が高給取りというのは、それなりにあてはまるケースが多かったでしょうけど、重点化前から研究者は軒並みだめぽだったハズですよ。
もすさん、
>「質が上がった」なんて言えば、後輩より自分が劣ってることを認めることになりますから。
学問は積み上げだから、後から来た若い人が年寄りよりいい仕事をするのは当たり前、指導教員は踏み台にされるために居るんだから頑張れ、って言ってますけどね。私も私の師匠もウチのグループの先生も。私についていえば、あんまり高機能の踏み台になれてない気がするところがトホホなんですが^^;)。
by omni at 2007-11-56 02:53:56
Re:政策変更した方が良いのでは
> むしろ、政策の効果が十分現れたから低下したんじゃないかと思うんですが。
民間の技術屋ですがまったく同感です。ここ5年間というより、独立行政法人化騒動が始まってからの日本の大学は株を下げてしまったようです。しかもこの間の日本の教育政策と科学技術政策は、日本の技術競争力を奪うためにとんでもなく効果的だったのでは? まるでどこかの国に強要されたのか、仕掛けられたのではないかと勘ぐりたいくらいです。
国の科学技術政策は、国が重点研究項目を決めて、競争的研究資金を導入し、それで大学にたくさん発明させ、たくさんベンチャー会社を作らせて、その収益で大学の教育資金、研究資金をまかないなさいといっているように見えるのですが、それは妄想だと思います。本業(教育と研究)の片手間に開発研究をして、ベンチャー会社を興して経営して、その収益で大学の足りない予算をまかなえなんて、誰が考えたって無理です。民間企業だってそんな離れ業はできません。本気でそう思っているなら、文部科学省の優秀な官僚さんも知的水準の高いはずの大学の先生方も狂っているとしか思えません。それとも、みんなで狂えば恐くないと思っていらっしゃるでしょうか。
産業界が博士を量産するように国に要望したこともないです。博士を量産したら日本の科学技術のレベルが上がるとでも考えたおめでたい方が、文部科学省のおエライさんの中にいて勝手に増やしたのでしょう。企業が大学に求めているのは優秀な卒業生をよこしてくれることです。それに、産業界が大学にベンチャー会社ごっこをしてなんて要望したこともないと思います。大学発ベンチャーがたくさんできても、産業界には全くメリットはないです。大学発ベンチャーの興隆で経済活性化などと妄想したおエライさんがMETIにでもおられるのでしょう。
競争的研究資金制度の導入が今日の大学の凋落の大きな原因です。誰だって研究費は必要ですから、ウソでもこじつけでも自分の研究は世の中の役に立つと言わざるをえません。でも、儲かる成果など簡単には出てきません。本来教育と研究に使われるべき予算が競争的研究資金に持って行かれているのです。競争的研究資金で大学発ベンチャーを育成して経済活性化などというのは実際に妄想であることを示すべきです。実態を明らかにして、やめさせるか制度の見直しをするべき時ではないでしょうか。
by 杉山真大 at 2007-11-30 02:55:30
Re:政策変更した方が良いのでは
>一部の私立大学はともかく、大学は安月給というのが常識だったような。
>開業医や弁護士が高給取りというのは、それなりにあてはまるケースが多かったでしょうけど、重点化前から研究者は軒並みだめぽだったハズですよ。
でもマスコミでは、院卒・博士=高待遇って紹介のされ方が半ば当然になっちゃってたんじゃないですかね?実際研究者になってみると「軒並みダメポ」だけど、外から見たイメージは全く違ってるって言う訳で。そしてその”エサ”として「一部でも高給取りが居てくれた」という事実がダシに使われているという次第。「それなりにあてはまるケースが多かった」って言われても程度問題じゃないかと。
by 杉山真大 at 2007-11-53 03:04:53
Re:政策変更した方が良いのでは
omni氏:
>国の科学技術政策は、国が重点研究項目を決めて、競争的研究資金を導入し、それで大学にたくさん発明させ、たくさんベンチャー会社を作らせて、その収益で大学の教育資金、研究資金をまかないなさいといっているように見えるのですが、それは妄想だと思います。
それ、アメリカの完全な受け売りになっちゃってるんですよね。アメリカはグローバルに研究者集めまくって、しかも起業の環境も充分。その一方で技術者や専門職でさえ収入格差の激しい国でしょう。表面上の制度面だけ真似したことに問題があったのでは?
>産業界が博士を量産するように国に要望したこともないです。博士を量産したら日本の科学技術のレベルが上がるとでも考えたおめでたい方が、文部科学省のおエライさんの中にいて勝手に増やしたのでしょう。企業が大学に求めているのは優秀な卒業生をよこしてくれることです。
いやぁ、経団連辺りでも「これからは研究開発重視でいく」って声があったと記憶していますよ。で、文科省が過剰反応したんじゃないかと。「優秀な卒業生をよこしてくれる」って圧力がかかれば尚のことじゃないですか?
ところで気になったのですが、omni氏は今迄の日本の製造業が体現していた生産能力勝負・コスト削減勝負で技術開発は二の次って言うのとは別の何かビジョンをお持ちのでしょうか?もし、それを変える必要が無いというのなら、下手したら偽装請負も非正規雇用の拡大も収入格差の拡大も認めざるを得ないってことになるのですけど。
by yebisu500 at 2007-11-59 08:11:59
Re:政策変更した方が良いのでは
>>もす さん
私もその疑いは拭いきれないと思います。
apj さん他の“実感”は否定しませんが、客観的に、定量的に裏付ける方法ってないんでしょうか。こういった意識調査でもって政策を左右するのは、危ういといわざるを得ません。「最近、少年犯罪が増えている」とかね。
by bose at 2007-11-08 02:06:08
Re:政策変更した方が良いのでは
本質からずれてて申し訳ないですが、
履歴書から院卒を消すのってありなんですか?
履歴書改ざんになりませんか?
自分、ドクター取得見込みで中小企業の技術職に応募して
最終面接で学歴が高すぎる、とはっきり言われて
落とされた事があるんですが。
♪もっとも他の理由もあるとは思われますが。
少々次元が違いますが、学歴のダウンコンバートって
どっかで問題になってたような。
♪高卒採用ポストにに大卒者が入ったとか。
by Kaey at 2007-11-21 07:28:21
Re:政策変更した方が良いのでは
関心のある問題なので始めて意見を送らせて戴きます。
日本の国立大学の「法人化」の動機は、要するに国の予算の削減であったと思います。公務員を「非公務員」化して、その給料に使われる税金を減らすかのように見せかけるとともに、首を切りやすくする。国立大学を整理統合して減らすための下準備をする。運営交付金という形にして大学に与える資金を容易に減らせるようにする。その他....
。
法人化の中に日本の科学・技術力を向上させようとか、教育に力を入れて人材育成を推進しようとかいう理念は見えてきません。
そんな政策を取ってきた国が「大学院重点化」の中にどんな理念を持っていたか?
法人化も大学院重点化も一般の国民にあまり注目されてこなかったのだから、「実験結果」が悪いものになりましたということで、こっそりと元に戻してもいいのでは。
郵政民営化と違って、国立大学法人化なんて政治的に大した反対もなく行なわれてしまったのですから、「逆改革」したって大した文句も出ますまい。
ただ、大学の「風通し」の良くなった所は評価できるので、まったく前と同じ状態にする必要はありません。
日本は人材と科学技術の育成を本気でしっかりやらないと衰亡していくと思えます。