ネットと新聞
イザ!の記事より。
【土・日曜日に書く】ネットで変わる情報空間
産経デジタルが運営するインターネット上のサイト「iza(イザ!)」で記者ブログを書くようになって1年半が過ぎた。どんな記事が求められ、読者のニーズはどこにあるのか。新聞紙面との書き分けはどうするのか。まだまだ試行錯誤中だが、読者と頻繁なやりとりを行うブログ運営を通じ、実感したことがいくつかある。(阿比留瑠比=阿比留記者のブログはこちら)
■マスコミへの不信
まず、既成マスコミのあり方に対する強烈な反感と不信感だ。新聞やテレビは、情報を加工し、紙面や番組枠に収まるようコンパクトにまとめて発信する。記者として当たり前のように繰り返してきたこの作業は、多くの情報の受け手に、マスコミによる日常的な情報操作だと受け取られていた。
昨年8月10日、「小泉首相の靖国関連ぶらさがり全文」という記事をブログに投稿した。政治部記者にとっては、日常の取材メモで簡単に読める首相と記者団のやりとりをそのまま載せたに過ぎなかったのに、これが大きな反響を呼んだ。この日のコメント欄には次のような書き込みが寄せられた。
「マスコミは正確で豊富な情報提供をしない」「物を考える際に情報のオリジナルソースがどれほど大切か」「私たちは、たくさん語られた中からマスコミの都合のいい形にまとめられたものをずっと聞かされ読まされてきた」…。
中には、記者に対し感謝を表すコメントまであった。間違いなく、読者は加工されていない一次情報を欲しているのだ。現在、MSN産経ニュースは官房長官の記者会見全文や裁判傍聴記の詳報を流しているが、これには記者ブログでの経験が生かされている。
■ネットの機動力
産経新聞は今年1月13日付朝刊で、民主党の小沢一郎代表の資金管理団体の平成17年の事務所費が約4億1500万円に上ることを報じた。記者も同日のブログに「民主党・小沢代表の事務所費について思うこと」という記事を投稿し、この団体が小沢氏に多額の借金をし、利子を払っていることなどに疑問を呈した。すると、すぐにこんなコメントが届いた。
「産経の13日の朝刊より1日早く、小沢氏の高額な事務所費について注目していたその筋では有名なサイトがある」
そのサイトを見てみると確かに小沢氏の事務所費問題について、いろいろな角度から指摘がなされていた。小沢氏が提出した17年分の政治資金収支報告書には当初、実際には存在しない住居表示・地番が複数書かれていたが、この点についてもネットでは早くから疑問の声が上がっていた。
驚いたのは、複数のネットユーザーが実際に法務局に赴いて登記簿を上げ、現地調査を行っていたことだ。その結果、収支報告書に記載された地番には小沢氏が説明した「秘書の寮、共同作業場」は見つからず、小沢氏に厳しい視線、批判が向けられていた。
不特定多数のネットユーザーの機動力が発揮された好例であり、ユーザー同士の情報共有にも成功しつつあると感じた。新聞は、ネットの情報力を取り込まないと生き残れないという思いを強くした瞬間だった。
■情報ニーズとは
ネットが普及する前までは、情報は新聞、テレビなどのメディアが発信し、読者や視聴者は、基本的にその情報を受け取るだけという一方的な流れが固定化していた。もちろん、投書や情報提供、苦情電話などは毎日、数多くメディアに寄せられていたが、新聞の読者数やテレビの視聴者数に比べれば、ごく少数だった。
一方、「イザ!」は双方向型の情報空間を目指している。まだ必ずしも十分に機能しているとまでは言えないが、記者と一般利用者がブログで相互にコメントし合うことによって、新たな発見も生まれている。こんなこともあった。
安倍晋三前首相が病に倒れ、入院してしばらくしたころ、記者のブログのコメント欄に、千羽鶴を折り届けて安倍氏を励まそうという有志による運動がネットの巨大掲示板「2ちゃんねる」内で始まったという紹介が書き込まれた。
最近になって「ところで、千羽鶴運動のその後は?」との問い合わせがあり、安倍事務所に照会したところ、秘書がきちんと千羽鶴を受け取り、安倍氏もそれを承知していることが分かった。早速、千羽鶴を撮影してブログで報告しようと事務所を訪ね、千羽鶴を手にした笑顔の安倍氏の写真を載せた記事を投稿できた。
これには多くの好意的コメントが寄せられ、アクセス数も多かった。従来の新聞ではニュース価値がないと判断したであろう話でも、読者のニーズが高いもの、本当に知りたがっていることは少なくない。それを再認識できたのも、ブログを通じてのことだ。
(あびる るい=政治部記者)
一次資料にアクセスできるのが新聞記者の強みだったわけだが、ネットで情報共有がなされると、一般の人でも一次資料にたどり着けるようになり、その結果、新聞の優位性が揺らいだということか。
「既成マスコミのあり方に対する強烈な反感と不信感だ」は、情報の加工の段階での優劣の付け方が合わなかったのだろう。読者が「他に報道すべき問題があるだろう」と思っているのに大見出しで書かれた記事がずれている、力を入れて報道している内容がずれている、といったことが続いたことが、不信感につながったのではないか。単にコンパクトにまとめて報道するだけなら、反感や不信感は持たれずに済んだので。
なお、私がマスコミを信用しない理由の1つに、環境ホルモン濫訴事件の扱いがある。原告の「提訴しました」プレスリリースを掲載した新聞が、原告敗訴の報道を同程度に扱わなかったというのでは、偏っていると言われても仕方がないだろう。
ここからは旧ブログのコメントです。
by 酔うぞ at 2007-12-51 02:45:51
Re:ネットと新聞
グーテンベルグが印刷機を発明して最初の印刷物が販売(なんだろうな)されるまでに数十年だか掛かっているのですが、そこで出来た商売は「印刷機を持つ優位性」だったようなのです。
そこで、印刷する権利として著作権が誕生したらしい。
同じようなことは謎の絵師の写楽にも登場するのだが、写楽がそういう権利問題に巻き込まれていなくても、小説本である黄表紙の人気作家を版元が奪い合った、という話もあります。
面白い(役に立つ)情報を発信できる作者→配付手段としての印刷のところで、ビジネスが生まれ著作権の概念が確立した、ということでしょう。
それが、情報発信元がいきなり世界に情報を出せるようになったから、機械を保有していること自体に優位性が無くなってしまった。
ところが、それに気がつかないというか見たくないと言っているのが既存マスコミなのでしょう。
初音ミクはすでに音楽業界をぶち壊し始めていますね。
音楽という、作詩・作曲・歌唱と三拍子揃って成立する事になっていた、歌唱の部分をコンピュータにしてしまった。
もう、権利を形作っていた構成のなかに「人以外」がいることになっては「別名でも人(自然人)には違いがない」とやっていた権利商法が崩壊してしまうわけです。
まぁここまで、加速するとあと10年ぐらいでマスコミの一体性は無くなってしまうでしょう。
酔うぞ拝
by ひろのぶ at 2007-12-02 06:24:02
Re:ネットと新聞
あびるのように安倍のプロパガンダ要員が新聞記事を書いていることこそが、メディアへの不信につながっているんだろうに。なんかあびるの記事は天に唾はくような記事で笑ってしまう。
by apj at 2007-12-01 07:21:01
Re:ネットと新聞
普段の記事がプロパガンダなのは仕方ないとしても、マスコミに対して一次資料がゆがめられているという不信感を持たれていることを正面から認めたことは評価してもよいのでは。
やっと第一歩というところに見えます。
by nomad at 2007-12-04 09:10:04
Re:ネットと新聞
> やっと第一歩
新聞にとっては小さな一歩だが衆愚にとっては大きな飛躍である
by ひろのぶ at 2007-12-14 18:04:14
Re:ネットと新聞
そうですか?マクルーハンがいまから30数年前にいっていたこととなんにも変わっていないと思うのですが。こんな文章を読むと、車輪を再び発明して喜んでいる幸せな人たちとか思うだけですけどね。
by apj at 2007-12-32 19:58:32
Re:ネットと新聞
評論家がいくら言っても聞く耳持ってなかったってことでは。
by 酔うぞ at 2007-12-39 03:52:39
Re:ネットと新聞
>こんな文章を読むと、車輪を再び発明して喜んでいる幸せな人たちとか思うだけですけどね。
そういう人たちが実際にかなりの力を持っているという現実は常にチェックしておく必要があります。
昔は、ネットワークがあまりにメディアと距離があったから「メディアは・・・」とやっていたのだと自分でも思いますが、以前に比べたらいつの間にか「極めて力の差が少なくなった」ために、色々な問題が生じています。
一番大きいのは裁判でしょう。
ダイナミックに変化しているわけだから、同じ事もその時々で評価し直すことは必要不可欠だろと思いますね。
たんぶ一番危ないのが「昔と同じ」と決めつけてしまうことでしょう。
「しょせんは2ちゃんねる」なんて言い方は、いつ足をすくわれるか分からない、と考えるべきだと思います。
by ひろのぶ at 2007-12-23 23:09:23
Re:ネットと新聞
「極めて力の差が少なくなった」なんてご冗談でしょ。今は、むしろむかしより簡単に煽動型メディアに乗せられやすい時代になっていますよ。
by apj at 2007-12-14 00:24:14
Re:ネットと新聞
>今は、むしろむかしより簡単に煽動型メディアに乗せられやすい時代になっていますよ。
その根拠を具体的に出していただけませんか?
by ひろのぶ at 2007-12-07 03:03:07
Re:ネットと新聞
そのうち暇をみつけてどっかに書いておきますね。
by ☆ at 2007-12-23 08:39:23
Re:ネットと新聞
裁判に訴えた記事で、よく、訴えられた側での取材結果が、「訴状が届いていないのでコメントできない」というのに対して、訴状が届いた後のフォローを見たことがないなぁ
by apj at 2007-12-23 09:06:23
Re:ネットと新聞
☆さん、
確かにそうですね。
ただ、これは裁判サイトの方に書いたのですが、訴訟制度の仕組みとして、訴状出した日のうちに「訴えたぞ宣言」を原告がプレスリリースで出しても、訴状の正本も副本もまだ裁判所にしかなく、十日ほどたって、事件番号のついた期日指定の呼び出し状と一緒に副本が被告に届くまでは、実際に被告は訴状を見ることができません。だから判で押したように「訴状を見ていないのでコメントできない」という答えになるわけです。別に逃げているわけでも何でもないんですよね。そもそも、報道する側も、この現実をわかっててやってるんじゃないかという……。
被告のコメントが欲しかったら提出と同時にコピーを直送して、届いたあたりでプレスリリースを出さないとダメですよね。
前に地元の新聞から取材がきた提訴は、裁判所の方に掲示されたのを見てから記者さんが来たから、被告も訴状を見ている状態でした。
by disraff at 2007-12-19 18:18:19
Re:ネットと新聞
判で押したように「コメントできない」って載せてなにが面白いのかなぁと常々疑問なのですが、これも一種の「前例主義」なのでしょうか。
それはそれとして、たまには「訴状が届いた頃また話を聞きに来い」ってコメントを見てみたい気がします。
by 石田剛 at 2007-12-58 05:21:58
Re:ネットと新聞
> 現在、MSN産経ニュースは官房長官の記者会見全文や
> 裁判傍聴記の詳報を流しているが
この会見のやり取りを全部晒すってのは、すごく良いですね。
今日は、石原慎太郎都知事の会見詳細を読みました。
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/071221/lcl0712211848001-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/071221/lcl0712211848001-n2.htm
石原都知事によると「ブラックホールはホーキングが見つけた。ホーキングがブラックホールはあるって言ってたのに誰も信じなかった。けどあった」ということになってるそうです。
これはツッコミの仕方を練習する「お題」なんでしょうか?
apjさん が学生時代に鍛えてたという「1000本ツッコミ」ってのは、こういう「お題」が出るんですかね。