Feed

わけのわからない判決

Posted on 4月 23rd, 2008 in 未分類 by apj

 YOMIURI ONLINEより

雑誌にコメント「掲載同意なら個人に責任」東京地裁が賠償命令

 音楽市場調査会社「オリコン」(東京)が記事中のコメントで名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの烏賀陽(うがや)弘道さん(45)に損害賠償などを求めた訴訟の判決が22日、東京地裁であり、綿引穣裁判長は烏賀陽さんに100万円の賠償を命じた。

 問題となったのは、月刊誌「サイゾー」の2006年4月号に掲載された記事中のコメント。記事は、オリコンの音楽ヒットチャート集計の信用性に疑問を投げかけるもので、烏賀陽さんは「オリコンは予約枚数もカウントに入れている。予約だけ入れておいて後で解約する『カラ予約』が入っている可能性が高い」などとコメントしていた。

 雑誌の発行元ではなく、コメントした個人だけを名誉棄損に問うのが妥当かが争点となった。判決は「一般に、出版社はコメントの裏付け取材や編集を行って掲載するため、コメントした者が名誉棄損に問われることはない」とする一方、「そのまま掲載されることに同意していた場合は、例外的に責任が問われる」と述べた。その上で、烏賀陽さんが掲載に同意しており、内容も真実とは言えないとして、賠償を命じた。

 烏賀陽さんは「言論を封じ込める判決で納得できない。控訴する」と話した。

 服部孝章・立教大教授(メディア法)の話「記事に最終的な責任を持つ出版元ではなく、コメントを寄せた個人の発言をとらえて名誉棄損を認めた判決には強い違和感を感じる。このような司法判断が出ると、取材を受ける側はコメントしにくくなり、マスコミは疑惑を報じる記事を書けなくなる恐れも出てくる」

(2008年4月22日23時14分 読売新聞)

 サイゾーの取材は、以前に私も受けたことがある。怪しい水商売批判ネタだったし、当然、批判するコメントをした。また、コメント掲載がそのまま行われる事も予想していた。だから、この判決は他人事ではない。
 そのまま掲載されることに同意せずにコメントせよ、というのでは、ほとんど何もコメントができなくなってしまう。コメントは改変してから掲載してください、じゃ、そもそも取材に応じる意味が無くなりそうである。
 そもそも、記者の取材に応じることに「公然性」があるのかも疑問である。普通は、責任を問われるのは出版社や編集部や記者までではないのか。


ここからは旧ブログのコメントです。


by zorori at 2008-04-04 15:59:04
Re:わけのわからない判決

おはようございます。
じっくり考慮する時間の無い取材記事の話ですね。
となると、TVの街頭インタビューも危ないことになるのかな。
違うとすれば、専門家と一般人の違い?
どうせ一般人のコメントは信用されないけど専門家の発言は重みがあるということでしょうかね?

専門家、識者のいい加減なコメントが多いので責任を問いたい気もしますが、出版社や記者の責任は問わないという点がなんとも。つまり、マスコミはウソでもなんでも紹介するだけで、一切内容について責任を負わないわけだから気楽な商売ですねえ。


by zorori at 2008-04-35 16:15:35
Re:わけのわからない判決

送信した後気づいたのですが、原告がコメントした個人のみを訴えたので、裁判所としては、取材する側については何とも言う立場にないわけですね。

それで、原告もマスコミ関係みたいなものだから、なれあいじゃないかという印象ですね。


by 青い海 at 2008-04-15 06:12:15
Re:わけのわからない判決

 フリージャーナリストの言論を封殺する、というのはごく日常に行われている話であるので、特に驚くにはあたりません。
 つまり、フリージャーナリストは身の程をわきまえて記事を書け、ってことです。
 ペンは確かに剣と同様の力があります。しかし無敵ではありません。組織に決定的な過失がない限り、個人が組織を争っても個人に勝ち目はありません。歴史が証明しています。
 おそらく今後も、同様の事例が起きればフリージャーナリストは負けるでしょう。それを広く国民に知らしめる意味で、今回の判決は意義があると思います。


by Kei at 2008-04-53 07:23:53
Re:わけのわからない判決

青い海さん、
烏賀陽さんは記事を書いた責任を問われているのではなく、雑誌記者のインタヴューに答えた責任を問われたんだよ。
だから、この驚くべき判決によって潜在的脅威に晒されるのは、マスコミから電話取材を受けてコメントを発する立場になりうる人全てだ。


by 田部勝也 at 2008-04-41 08:47:41
Re:わけのわからない判決

たとえば、「関係筋の話によると……」とか書いて、記事中に匿名関係者のコメントを引用・掲載した場合、そのコメントが名誉毀損で訴えられたとすると……、
(1) 取材源秘匿の原則により、関係者の名前は明かせない。
(2) ただし、その関係者は、自身のコメントが「そのまま掲載されることに同意」していた。
──という場合は、どうなるんだろう。っていうか、取材記事って、たいてい、そういうモンじゃないの?

それとは別に、このエントリと、前日の「テレビ番組の裏側」(↓)
http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/blog/index.php?logid=8942
のエントリを続けて読むと、なんだか、とっても香ばしいですね。マスコミって、本当に楽な商売だと真剣に思います。江原の件もさんまの件も、コメントした出演者の責任って事にして、テレビ局関係者は無視して泰然としていれば良かったのに……という倫理観を推奨したいんでしょうか。


by 酔うぞ at 2008-04-52 09:32:52
Re:わけのわからない判決

わたしのブログに傍聴してきた方のコメントが付いています。
http://youzo.cocolog-nifty.com/data/2008/04/post_f1a5.html
どうも被告側の証拠が採用されなかった、取りようによっては最初から敗訴といった判決のようです。

名誉毀損裁判の説明になりますが、名誉毀損裁判では被告側に立証義務があります。
つまり通常の裁判である、原告側の立証が不十分で賠償請求を脚されるのの逆でして、被告側の防御の主張が弱いと賠償責任が発生します。

こういう仕組みなので、被告側の証拠採用されないというのは、それだけで、原告の主張がムチャクチャでも被告に賠償責任が発生するという、名誉毀損裁判の問題点があらわになった例なのかもしれません。


by apj at 2008-04-09 09:40:09
Re:わけのわからない判決

酔うぞさん、
 であるならば、控訴審で逆転する可能性が高いですね。

 町村先生のblogを見に行ったら、この件に関連して、人格権法概説が紹介されていたので発注しました。
 素人目には、当事者適格があるかどうかから争ってもよさそうな訴訟に見えるんですが、これまでの裁判例やら判例やらを見てから改めて考えることにします。


by apj at 2008-04-09 09:43:09
Re:わけのわからない判決

zororiさん、
 私が取材をかけた記者であったら、当事者参加してでも取材源を守ろうとすると思いますけど^^;)。
 何で記者も雑誌社も完全スルーされてるのかが謎ですよねぇ。

 ってか、名誉毀損の当事者ってのをもうちょっと何とかしてくれと。関係の薄いヤツばっかり訴えられてないか?


by 酔うぞ at 2008-04-16 09:48:16
Re:わけのわからない判決

しかし、これは名誉毀損に当たるのでしょうかね?

    第34章 名誉に対する罪〔平七法九一章名改正〕
    
    刑法 第230条(名誉毀損) 
    公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、
    その事実の有無にかかわらず、
    三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
    2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示すること
    によってした場合でなければ、罰しない。
    
    「模範六法 2008」(C)2008(株)三省堂

民法上の名誉毀損は刑法の名誉毀損を引っ張っているだけで、民法上で名誉毀損とは何かという定義はありません。

取材に応じてコメントを述べることが「公然と名誉を毀損した」事に当たるのか?というのは大いに疑問なのですが、名誉毀損裁判ではこの場合、被告側が「記事が雑誌に出たが、取材に応じてコメントを述べたのは公然と名誉を毀損し事にはならない」と証明することを要求されています。

これでは被告側が憲法裁判をやるようなもので、無理すぎると思うのですが・・・・・最高裁まで行く可能性は低くないと思います。


by zorori at 2008-04-20 18:00:20
Re:わけのわからない判決

「テレビ番組の裏側」と合わせての感想です。

記事なり番組を制作するときには、ストーリーや主張したいことが先ずあり、そのストーリーに合う材料を求めて取材をするわけですね。ですから、コメントは単なる一材料にすぎ無いわけで、主張の主人公は記者や番組製作者とみるのが普通だと思うのですね。両論併記で中立を装っても、どちらかに肩入れしているのは大抵透けて見えます。

ところが、報道は中立的なものであって主義主張を挟まず事実を伝えるものであるという幻想もあります。その幻想に従えば、主張しているのはコメントの主であって、記者や番組製作者はなんら主張の責任は負わないと逃げを打てるわけです。今回の判決もこの幻想によっている気がします。

第三に、幻想とは反対の身も蓋も無い現実論では、マスコミは(インターネットの一部もそうですが)広告で成り立っているので、情報や記事を売って商売しているのは少数の例外にすぎないことを重視します。となると、主張の影の主はスポンサーであるわけで、記者や番組製作者は単なる代理人になります。彼らはお客(スポンサー)のニーズに応える商売をしているだけだと嘯くことになり、分かったような物言いをする人はそれが現実で、それに文句をいう方が物事を理解していないなどと言います。

でも、医者でも、技術者でも食うための商売でやっているのだけど、そこにはちゃんと職業倫理というものがあります。被害者を出すようなまねをして金もうけしても寝覚めが悪いし。記者や番組製作者にはそれが足り無いのじゃないかとつくづく思います。

背景や間接的に関連することを追及するのは言論に任せて、裁判では直接的な記事作成者の責任しか問うてはならないのじゃ無いでしょうか。連帯責任追及とか、拡大解釈とか、予防的措置などという危うい事態になりそうで嫌ですね。でも裁判所だけじゃなくて世間の空気が何かとそれを求めているような気もするんですね。なんか怖い。


by zorori at 2008-04-47 18:17:47
Re:わけのわからない判決

>apjさん、酔うぞさん、
>そもそも、記者の取材に応じることに「公然性」があるのかも疑問である。

裁判所の見解では、記者や出版社は取材内容を一切、吟味も裏付けを取ることもせず、右から左に受け流すメッセンジャーにすぎ無いととらえているのではないかと。つまり、記者や出版社とは何ら付加価値を生み出すことの無いつまらない仕事だと認定したのではないかと。それにしては、放送禁止用語やら言葉がりには神経質ですが。


by たまに見てる人 at 2008-04-05 19:06:05
Re:わけのわからない判決

判決の全文が出てます。

http://xtc.bz/index.php?ID=500 のなかの
http://xtc.bz/file/oricon-tisai.pdf

判決理由については22ページから、因果関係については28ページからですね。

電話取材での回答をまとめたメールを原告に送って、意見交換とか修正を原告がしてるんですね(と認定している)・・・
全然印象が違ってくるような気がしなくもなく。


by たまに見てる人 at 2008-04-46 19:15:46
Re:わけのわからない判決

上のコメント

× 原告
○ 被告

です、失礼しました。


by やまき at 2008-04-24 20:27:24
Re:わけのわからない判決

たしかに、判決理由をみる限りにおいては、原則としては取材を受けただけでは相当因果関係はない、この件は特別である、という趣旨が見て取れますね。

それでもやっぱり、「自己のコメント内容がそのままの形で掲載される可能性が高いことを予測しこれを容認しながらあえて当該出版社にしてコメントを提供した場合」というのは範囲が広すぎると思いますよ。取材をうけてコメントしておいて、それを無視してほしいとか改ざんしてほしいとおもう人がそんなに多数派だとは思われません。コメントの内容について確認を求められれば、それに応ずることぐらい普通するでしょう。

いくら訴えがないからとはいえ、出版社や記者の責任が不問の状態でコメントした人だけの責任が問われるという事態にはやはりかなりの違和感があります。

あと、判決文を見た感想としては、「一般読者」の知的レベルをナメすぎてませんか、とも思いますね。ほのめかしをすべて真に受けるのが愚かな一般大衆というものナノデアル、と言わんばかりの判断が散見されます。いろんな意味で、判事のセンスの疑われる判決だと私は思います。

#とか書いたら判事に対する名誉棄損になったりなんかして :-p


by apj at 2008-04-26 01:20:26
Re:わけのわからない判決

たまに見てる人さん、

>電話取材での回答をまとめたメールを原告に送って、意見交換とか修正を原告がしてるんですね(と認定している)・・・

 編集の結果とんでもない内容になっていたり、間違った内容になっていたりしないことを確認するため、こうまとめました、というのがやりとりされることは、別に珍しくもないのですが。
#そういう取材をされたこともありますので。

やまきさん、

>取材をうけてコメントしておいて、それを無視してほしいとか改ざんしてほしいとおもう人がそんなに多数派だとは思われません。

 ありがちなパターンは、「取材を受けてコメントしたら、一部だけ使われて、言いたかったのとは正反対の印象を与える内容にされてしまった」って方じゃないかと。だから、コメントを改ざんしてほしいと思う人が多いとは私も思いません。