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ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

Posted on 8月 1st, 2008 in 未分類 by apj

 ムペンバ君が、どのような報告をしたかについて情報を掲載しておく。
 ムペンバ君本人による報告は、
E. B. Mpemba and D. G. Osborne, Phys. Edu. 4(1969) 172-175
・E. B. Mpemba and D. G. Osborne, Phys. Edu. 14(1979) 410-413
の2つがある。が、この2つの内容は、見出しやタイトルが少し違うだけで、内容は全く同じであり、1979年のものは1969年のもののレプリントである。

(報文前半:ムペンバ君による)
 ムペンバ君がやったことは次の通り。
・ミルクを沸かして砂糖を入れて氷らせる(=アイスクリームを作る)操作をしていた時、冷やさずにそのまま(料理用の?)冷凍庫に入れたら、沸かさずに入れた(=ミルクに砂糖を入れて混ぜただけで冷凍庫に入れた)友達(1名)のものより、ムペンバ君のものの方が先に凍っていた。
・50cm3のビーカーに、冷たい水道水と、ボイラーから汲んできた湯を入れ、理科実験室の冷凍庫に入れた。1時間後に見たら、いずれもまだ全体が凍っていなかったが、ボイラーから汲んできた湯の方が、凍っている部分が多かった。
 Osborne先生がムペンバ君の学校に招かれて、科学について講演をするために来たとき、このことについてムペンバ君がOsborne先生に質問をした。
(報文後半:Osborne先生による)
 University College in Dar es Salaamのテクニシャンに、実験をするよう頼んだら、ムペンバ君の主張を裏付ける結果になった。
 そこで、学生と一緒に実験をしてみた。70cm3の水を100cm3のパイレックスビーカー(直径4.5cmくらい)に入れ、家庭用冷蔵庫の冷凍ボックスに入れた。断熱のために、ビーカーの下に、ポリスチレンのフォームを置いた。
(1)冷やしていくと、元々熱かった方が先に凍ってるっぽい。
(2)温度に対して、凍り始める時間をグラフにすると、文献中図1のようになった。
(3)水の表面に油の薄い膜を置くと、凍るのが数時間遅れた。水の熱は表面から奪われていることがわかった。
(4)蒸発による体積減少は僅かであった。蒸発による潜熱の影響は30%以上ではないし、それだけでは温度が高い方が先に凍る原因にはなりそうにない。
(5)液体内部に温度勾配ができた。
(6)溶存した気体の影響は無視した。(低い温度の実験では湯冷ましを使った)

【私が気付いた疑問】
・繰り返し実験した割には、報文中図1のデータ点が6点しか無いのは何故か。その6点で、最初の温度と凍り始めまでの時間を曲線で表しているのは無理が無いか?
・報文中図3では、冷却曲線そのものではなく、冷却開始温度が47℃と70℃のものについて、水の表面温度が近付いていくことを示している。しかし、これではよく分からない。わざわざ差にするよりも、冷却曲線そのものをたくさん重ねた方が、データのばらつきも含めてよくわかるのではないか?
・容器に蓋をしていない上に、家庭用の冷蔵庫なので、温度制御がどうなっているかがわからない。多分、冷蔵庫任せになっていたはず。
・ゴミが入れば結晶の核になる。水の準備のやり方が、報文の記載だけでは不十分なのではないか。蒸留してフィルターを通したあと(必要ならば脱気し)、蓋をした状態で湯煎で加熱するなどして、温度以外の効果が入らないようにして実験しないとまずいのでは。1969年頃にOsborne先生が学生と一緒に遊んだ実験では、どの程度の精度が要求されるか十分認識していなかったのではないか?
・NHKが番組中で出したのは、ムペンバ君の報文の図1のグラフの曲線を編集したものか?


ここからは旧ブログのコメントです。


by curious at 2008-08-25 10:12:25
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

apj先生はいろいろくわしくしらべているようですが、少なくとも国内ではもっともムペンバ効果についてまともにわかっている方だと思います。
いっそのこと、apj先生ご自身で実験をされてはどうでしょうか・・・簡単に手だしできるほど単純な現象ではない(コントロールが難しいパラメータが多すぎる)のかもしれませんが・・・


by apj at 2008-08-21 11:20:21
どういう系でやるかが問題だしねぇ

 実験するにしても、
S.Esposito, R De Risi, L. Somma “Mpemba effect and phase transitions in the adiabatic cooling of water before freezing”, Physica A 387(2008)757-763.
や、
David Auerbach “Supercooling and the Mpemba effect: Whern hot wter freezez quicker than cold”, Am. J. Phys. 63(1995)882-885.
の精度は確保した上で、それを越えないと研究としては意味が無いんですよ。でもって氷の結晶ができはじめる時間が本来ばらつくものだというのは、この論文2つで尽きていると思うんですね。追試の必要があるかというと、既に独立に2つの論文が出て同じ結論である上、普段の他の実験の状況とも矛盾しないので、そんなに必要ではない。
 大槻さんの「物理的に見て起きる筈がない」という話は乱暴過ぎるわけで、十分注意して試料を調整し冷却装置を準備すれば、50%よりは小さいけ割合だけれども、凍り始めのばらつき具合のためにお湯の方が先に凍り始めることがある、ということなんです。前野さんの主張の方が事実に近いと思うけど、もともとばらつきの大きな話だから、やっぱりすっきりはしないでしょう。
 冷却曲線を測定するだけなら、クライオスタットを用意すれば、そこそこの予算でできると思うんですが、問題はその次です。
 2つの論文では排除した影響を、1つ1つ入れていかないといけない。また、再現したと称するNHKの実験が何処まで注意深いかわからない上、追試できるだけの情報も無い。水やお湯の準備一つとっても、詰めが甘ければ何をしているかわからなくなる。NHKの実験操作を全部最初からくっついて横で見てるとかしないと、どういう余分な要素が紛れ込みそうか見当がつかないんですよ。水の温度を上げるときにどうやったかとか、細かく聞いてみないと……。正直な話、例えば、ヤカンで沸かしましたとか備え付けのボイラーの湯を使いましたとか言われたら、凍らせる前にフィルターを通しても結果は同じでしょうか、ってな話から確認しないといけなくなるし。
 また、空気の流れや温度勾配やらを作って制御しようってことになると、それなりの規模の冷却用の箱が必要だけど、下手すると年間で使える研究費が飛びます(泣)。

 凍らせる方のプロの雪氷学会が調査するつもりらしいし、向こうは金持ち(設備持ち?)も多いでしょうから、しばらく様子見ですねぇ。


by apj at 2008-08-53 11:31:53
「科学的に解明」

 あともう1点。
 このまま大槻さんや前野さんのコメントが広がると、「科学的に解明」の意味が一般の方々に誤解されかねないことを懸念しています。

 前野さんが言ってる「科学的に解明は無理」の理由としては、対流や熱の移動のシミュレーションそのものが難しいといったことを考えているように見えるんだけど、もう少し本質的に、一般の方がイメージするような「解明」は無理な現象なんです。

 過冷却になった水が○分後に凍ったという観測事実が1つあったとして、なぜそれが○分後なのか、を説明することは不可能なんですよ。
 もちろん、きちんと実験すれば、何度で何分の間に凍る確率が何%、といった記述ができ、確率的に予測ができます。でも、ある特定の水が何分後に何度で凍り始めるかを確率を使わずに当てることはできないし、なぜその水が凍り始めたのがある特定の時刻だったのかということの説明もできないんです。

 確率を使って議論する場合は、ある特定の事象がなぜそこで起きたのかについては問題にしないんです。というか、そういう問いの立て方が出来ない現象を定量的に扱うのが、確率を使う方法なので。


by complex_cat at 2008-08-07 19:18:07
紊фЩ羂

大槻氏は,以前から感じていましたが,こういう筋道だった問題の整理が必要な分野で,馬脚を現してしまいました。
 たとえ,トンデモハンターの立場を取っておられるような演出をされていても,あれでは,科学者全体が馬鹿にされてしまいますし,トンデモ系の人につけいる余地を与えて利することになるなと思いました。分野の人間とまともにディスカッション普段からやっているのかというレベルから,少々疑問です。
 電波芸人をやっている大学人,駄目な人が僅かでも,出演頻度が高いと影響は大きいです。しっかりして貰わなければ。


by ごんべえ at 2008-08-26 20:16:26
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

(3)と(4)の関係はどうなんでしょう。薄い油膜というのは熱は伝えるけど蒸発を防ぐという意図かと思いきや数時間遅れるのに30%以上ではないという?

再現実験を考えるなら水を精製して過冷却がおきやすくするんじゃなくて、核になる素をたくさん入れて過冷却がおきにくい状況でやったほうがいいんじゃないでしょうか?


by ごんべえ at 2008-08-10 22:07:10
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

30%って何の何に対する割合でしょう?


by 通りすがり at 2008-08-34 06:50:34
ムペンバ効果まとめ

不真面目なハンドルですみません。

やや古いまとめですが
http://math.ucr.edu/home/baez/physics/General/hot_water.html
がわかりやすいと思いました。議論はこれを元に行われるべきではないでしょうか。

過冷却についてはごんべえさんの11:16:26の意見にまったく同意です。


by apj at 2008-08-06 10:53:06
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

ごんべえさん、
元の英文を見ると、
the latent heat of vaporization can not accout for more than 30 % of cooling
となっています。蒸発の潜熱が冷却に及ぼす効果、といった程度の意味でしょうが、具体的にどういう測定値同志の比をとったかは書かれていないため、よくわかりません。そのため、まとめの方も曖昧な書き方になりました。
 逆に言うと、ムペンバ君の報告のあたりでは、この程度の議論しかできない実験だったということではないかと……。

通りすがりさん、

>議論はこれを元に行われるべきではないでしょうか。

 私もそのページを見ました。それで、まずは、引用されている文献をいくつか取り寄せて順番に調べているところです。
 まとめの議論の方を元にしないのは、実験の論文を見ても、何をどう測定したかまで踏み込まないと評価ができないからです。

 今のところ、理論の論文は後回しでいいと考えています。New Scientistの解説記事も同様。
 それよりも、どういう実験条件でどういう結果になり、試料調整も含めて実験の精度はどの程度か、ということを押さえるのが先ではないかと考えています。ご指摘のサイトに引用されている実験の論文は、これからも集めていくつもりです。1次資料が大事なので。


by ごんべえ at 2008-08-58 22:27:58
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

おお、青字になっているのは原論文のPDFがリンクされていたんですね。すばらしい。

ムペンバ君は最初気づいた実験とはミルクに砂糖を放り込んだもので、次にやった水ではどっちも凍りかけで、その後3回ミルクで実験していて、ミルクでは4回中4回高温の方から先に凍っていると。

そして、近所のアイスクリーム屋では熱いまま冷凍庫に入れるほうが速いと伝えられていると。(これは冷凍庫での時間がほぼ同じでも、室温まで冷ます時間分得する気もするので無視したほうがいいかも)

で4/4で高温側が先に凍っていて、これだけでは統計的にはP~0.5を否定はしないものの、かれはP~1と考えているわけですよね。

0ある温度のミルクあるいは水をある容器に入れてある温度で冷やすと
P ~ 1 で高温の液体が先に凍るというのこそ第一種Mpenba効果とすべきじゃないでしょうか。
Osborneさんの実験も油膜をつけると著しく凍結までの時間が伸びるので、蒸発の影響は大きい系と考えるべきでしょう。

#実は、水より砂糖水、砂糖+ミルクのほうが結果が出やすいのかも
Osborneさんは上下での温度差が重要なんじゃないかと考えているわけですが、冷却する温度と、凍る温度の差が小さいほうが結果が出やすいとすると、凝固点効果があるほうが差がでるとか、弱い冷凍庫の方が差が出るとかあるかもしれませんもんね。

で(3)(4)はまとめにはあるのにどこにも元データが書かれていないわけですね。大体ビーカーに入れた水の量を体積で言っちゃあいけませんよねえ。質量を計らないんですかっての。

「ポリスチレンのフォーム」ってのは発砲スチールですね。


by nomad at 2008-08-57 08:51:57
Re:ムペンバ効果調査中(3):ムペンバ君の報告

大槻教授は「と学会」では「ネタを提供する(w)学者」の位置が確率されてる。
で、apjさんはと学会会員
これまめちしきな