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ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

Posted on 1月 5th, 2009 in 倉庫 by apj

 ムペンバ効果について、昨年9月の雪氷研究大会のシンポジウムで、前野紀一先生(北海道大学名誉教授)が発表された内容をまとめたものが、雪氷学会誌に掲載されることになった。「湯と水くらべ」のサイエンスからどうぞ。
 掲載前に情報をいただいたので、広く関心を集めた話題であることから、このまとめも広く読まれるべきであると思い、ウェブ公開について問いあわせてみた。cml-office.orgと勤務先サイトでの掲載について、前野先生と雪氷学会の許諾が得られたので、ウェブで公開する。
 なお、掲載紙面とほとんど同じレイアウトのpdfファイルもいただいたが、ウェブ公開の方が雑誌掲載より先になる可能性があり、さすがにそれはまずいということで、前野先生から原稿のファイルを別途いただき、レイアウトは適宜変更してもかまわないという承諾を得て、私の一存で図などをはりつけさせていただいた。


ここからは旧ブログのコメントです。


by omni at 2009-01-17 04:55:17
これが「サイエンス」なのですか? おかしくありませんか?

 どなたか反論する人はいないのかと様子を見ておりました。誰もいないようなのでomniがつっこませていただきます。

 前野先生の図3の実験では、発泡スチロールに直径50cm、深さ1cmの穴を2つ開けて、その中に湯と水を入れてこれをディープフリーザーに入れて冷却しています。湯と水の量は2.5×2.5×3.14×1=19.625 cm3です。水の分子量が18ですから、ちょうど良いところで18g入れたとします。前野先生の実験条件に近い、75℃の湯と40℃の水が凍って0℃の氷となると仮定します。

75℃の20gの湯が氷になる時のエンタルピー(熱量)の変化は水の比熱を4.2J/g・deg、水の凝固熱(融解熱)を333J/gとして、
75×4.2J/g×18g+333J/g×18=5670J+6000J=11670J=11.67kJ (2.78kcal)

同様に40℃の水が氷になる時のエンタルピーの変化は次の通りです。
40×4.2J/g×18g+333J/g×18=3024J+6000J=9024J=9.02kJ (2.2kcal)

その差は 11.67kJ (2.78kcal)-9.02kJ (2.2kcal)=2.65kJ (0.63kcal) です。実は水の凝固熱が大きいため、湯と水のエンタルピーの差は0.63kcalと思ったほどありません。
 
それから水の蒸発潜熱は41000J/mol=2280J/g=2.28kJ/g (0.54kcal/g)とかなり大きいことに注意して下さい。75℃の湯はどんどん蒸発しますから初期の冷却速度は40℃の水に較べてかなり速いです。したがって、75℃の湯と40℃の水が0℃近くになる頃には、両者の間にエンタルピーの差はほとんどないと考えられます。

 物理学や伝熱工学の立場からは、同一の熱伝達環境に置かれた、同じ物質で、同じ量で、エンタルピーの大きいものが、先に冷却されることはありえません。それでは熱力学の法則を否定してしまいます。75℃の湯が40℃の水より先に温度が下がったり、凍ってしまうのは、単に両者が同一の熱伝達環境にないだけです。

 家庭用冷蔵庫にしろ、ディープフリーザーにしろ、冷風の強制循環をしています。湯と水が置かれた場所の風速や空気の対流が同一である保証はありません。湯面または水面への冷風のあたり方が違えば、エンタルピーのほとんど差のない元湯と元水の冷却速度が逆転することは当然起こり得ます。

 次の問題は実験の再現性です。図3の発泡スチロール容器の実験では、75/37℃の場合は必ず水が先に凍り、76/43℃にすれば必ず湯が先に凍るのでしょうか。図6の家庭用のポリエチレン製製氷皿では、64/34℃の組合せにすると必ず氷が先に凍り終わるのでしょうか。それを確認しないと、単に両者で風のあたり方が違っただけというような、気まぐれな実験条件の結果であることを否定できません。

 さらに図4の写真の実験装置についてですが、ずいぶん太い熱電対が湯と水の中に突っ込まれています。素線は0.3mmですけれど被覆を含めたら3~4mmありそうです。しかも熱電対の配置も適当でこの部分の熱伝達も同じとは言えません。

 熱電対の保持にも太い鉄のアングルを用いていますが、この鉄アングルの熱容量は実験に用いた湯や水に較べてかなり大きいです。始めに室温にあって、たぶんいきなり-20℃のフリーザーに突っ込むのでしょうから(論文には書いてありませんので、どうやっているのか判りません)、冷凍庫内の対流に影響を与えます。熱容量からいったら、湯と水を冷やしているのではなく、鉄アングルや熱電対やその保持具を冷却している実験になっています。こんな実験装置でまともな実験結果が得られるでしょうか?

 それから、通常結晶育成の実験を行う場合は、少なくとも育成装置内の温度分布を測定します。フリーザーが空の場合と実験装置を入れた場合(湯や水は入れなくても良いです)について行う必要があります。育成装置内の温度分布を測らないで結晶成長させるのは素人のやることです。
 
 温度分布と同時にフリーザー内の流速分布がどうなっているのかも測らないといけません。これもフリーザーが空の場合と実験装置を入れた場合について測定する必要があります。
 
 もっとつっこみ所はありますがこの辺で止めておきます。前野先生、そしてこの「論文」をピュアレビューされた先生、雪氷学会の会員の皆様、反論をお願いいたします。
 
apj様、前野先生によろしくお伝え下さい。


by apj at 2009-01-34 08:46:34
多分、全てを最初から作ることになると思います

omniさん、
 丁寧なコメントありがとうございます。論文紹介記事の方にもコメントをつけられるはずなので、そちらに転載してもよろしいでしょうか?

 シンポジウムでは、ビーカーに水を入れてやってみた人や、ビーカーの底に発泡スチロールを入れて底からの熱伝導を防いでやってみた人が居ましたが、いずれも水が先に凍ったということでした。前野先生の容器では、それなりに湯が先に凍る現象がみられたそうです。でも、もちろん前野先生の装置も、まだお試しの装置でしかないという位置づけです。
 おっしゃるような問題については、一つ一つ潰していくしかないと思います。今は、個別にいろんな人がいろんなことをやっているので、比較も何もないんですが、今後実験チームが動き出せば、それなりの頻度で湯が先に凍る容器セッティングが見出されたり(見つかればの話ですが)、そこを手掛かりにして、何が影響しているのかを鵜の目鷹の目で探すといった形で、細かいことがわかってくるのではないかと思います。
 この系なら湯が先に凍る、が確実なものが出てこないと、科学として先に進むのは難しいかと。だから、今の、まだ確実な条件がわからない状態で、いろんな人が「ポイントはこれだろう」とあれこれ手探りで試している状態だけみて判断するのはちょっと待って下さい。関心を持っている研究者の方も、この問題については、一般の方がイメージする科学としての精度はまだ無いと考えているはずですから。


by omni at 2009-01-08 18:19:08
補足させていただきます

> 論文紹介記事の方にもコメントをつけられるはずなので、そちらに転載してもよろしいでしょうか?

どうぞ転載してください。

次の点を補足させていただきます。熱伝達は速度論ですから、熱伝達の環境によっては、例えば自然対流の大きくなるような容器や冷却系を使えば、75℃の湯が同量の40℃の水より先に冷却されることはあり得ます。対流による熱移動と伝熱面(容器との接触面や空気との接触面)の湯が更新する影響で冷却効率は良くなります。熱交換機に冷却水をたくさん流せばよく冷えるのと同じ理屈です。対流の影響については、前にムペンバ効果調査中(5)でコメントしています。強制的に撹拌してしまうと、やはり40℃の水の方が先に冷えるでしょう。
http://www.cml-office.org/archive/1222392105128.html#comments

75℃の湯の対流は40℃の水より強いですから、75℃の湯が40℃に冷却されたとき、温度分布や対流状態が化学工学的に同一ではありません。そして対流には慣性が働きます。問題は、同一容器に湯と水を入れ、均一な流速の均一温度の冷凍庫で冷却した場合に、湯が水より先に冷却し、そして先に凍ることが再現性良く起こるのか、また、前野先生の実験結果のように、それに必要な一定の湯と水の温度の組合せが本当にあるのか、それを前野先生とプロジェクトチームの皆さんに実証していただきたいのです。恐縮ですが、前野先生の実験装置と方法では、それが可能とは思えないのです。私には、もしかすると単に化学工学的な問題に過ぎないのかもという気もします。


by omni at 2009-01-04 19:59:04
簡単な思考実験をしてみました。

簡単な思考実験をしてみました。

2つのビーカーに、75℃の湯と40℃の水を入れて、0℃の氷水に入れて冷却し、両者の平均温度が4℃になる時間を測定することにします。(ビーカーは表面積/容積の比が大きくい、小さいビーカーの方が冷却速度が速いです。最適な容積があるかも知れませんので、それは別に調べる必要があります。)

(Case 1) 両方のビーカーを、同じ回転速度のマグネチックスターラーで撹拌して冷却します。どちらが先に平均温度4℃になるでしょうか?
(答) 40℃の水です。

(Case 2) 今度は、40℃の水の方はスターラーを回転しない。一方、75℃の方はスターラーの回転数をパラメーターにして冷却してみます。スターラーの回転数を上げていくとどうなるでしょうか?
(答) スターラーの回転数を上げていくと、75℃の湯の方が先に4℃になる回転数がある。

(Case 3) 次に75℃の湯も40℃の水もスターラーを回転しないで冷却したらどうなるでしょう。

(答) 40℃の水が先に平均温度4℃になったとしたら、普通の予想と一致です。もし仮に75℃の湯が先に平均温度4℃になったとしたらなぜでしょうか。それは75℃の湯の方の蒸発で奪われる熱量が大きく、また対流の影響が大きいからです。

もし、上の実験で湯の方が先に4℃になる条件が判ったら、今度は、冷媒を0℃の氷水から-20℃の不凍液に代えて実験すれば、湯の方が先に0℃に達して先に凍り始めるのではないでしょうか。というわけで、何の不思議もない素っ気ないことになるような気がします。


by うーむ at 2009-01-10 21:11:10
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

omniさん、たしか結晶工学関連のお仕事をされている方でしたっけ?
それなら 結晶工学分野の専門家の実験結果をお待ちになるか、
あるいはご自身で実験された方が早いのではないでしょうか。

あと、もう一点気になる点があります。
タイトル 「これが『サイエンス』なのですか? おかしくありませんか?」
ご発言例「これは素人のやる実験だ」
寡聞ですが、サイエンスの専門家がこの種の発言をされる機会はあまり見たことがありません。
あなたは一体何者ですか?サイエンティストでも素人でもないとするとエンジニア?

何か大きな前提を置いてアレも違うコレも違うと否定ばかりされるエンジニアの発想では、
例えば昨年5月に産総研で発表された水の二成分流体性が、仮に比熱にも関与しこの「現象」を発生させていた場合、それを検証できないのではないですか。
何事に対しても否定的な見解ばかり口にせず、ありきたりの実験からも何か新しい知見を得ようとする姿勢、これこそがあなたには欠けている「サイエンス」かと存じます。


by うーむ at 2009-01-20 21:23:20
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

まあ、単なる「思考実験」をわざわざ他人のブログにコメントして
何か言った気になっているようでは
実際はエンジニアですらないと思うけどね。


by うーむ at 2009-01-36 04:21:36
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

> もっとつっこみ所はありますがこの辺で止めておきます。
> 前野先生、そしてこの「論文」をピュアレビューされた先生、雪氷学会の会員の皆様、
> 反論をお願いいたします。

なんというか、最初から計算間違ってるよ。
#判っててあえてツッコまない読者諸氏の紳士っぷりに感服。


by うーむ at 2009-01-59 04:59:59
訂正

失礼しました。間違いがあるのは計算ではなく
それを説明している日本語の方ですね。(50cm→50mm、20g→18g)

お詫びに一つだけ有意義なツッコミをば。

昨年8月頃、某所だったかこのblogコメント欄だったかで対流や温度勾配に関する議論の中で
「スタイラーで攪拌して比較実験してはどうだろう」
と言っていたのは実は私です。

ただ、その後の報告や議論(例えば(5))を考慮すると
むしろ攪拌せず温度勾配を維持する事が この現象 を再現する上で重要な要件であるように思われます。現時点ではまだ真実はまだ判りませんが。

いずれにせよ、スタイラーによる攪拌実験は
必ずしも ムペンバ現象を否定する証拠 になるわけではなく
元々の実験条件(無攪拌) における 自然対流 や 温度勾配の果たす役割を
推測する材料となる比較実験に過ぎない
と私は当初より考えています。


by omni at 2009-01-02 20:10:02
パラドクス

うーむさん、コメントありがとうございます。それから、誤りのご指摘ありがとうございます。50cm(誤り)→5cm(正)です。

対流を制御すると「ムペンバ-前野現象」が起こらなくなるという実験上のパラドクスがあると思います。湯を放冷したときに生ずる自然対流は、初期条件が一定ではないので再現性がありません。しかも動的ですから定常状態がありません。「ムペンバ-前野現象」が起こるとするならば、それは対流の非再現性、非定常性によるものだと思います。撹拌をしないで対流を再現性良くコントロールするのは不可能といって良いほどの無理難題です。

シリコンなどの回転引き上げ法(チョクラルスキー法)では、ワイヤで吊り上げた結晶を回転させたり、るつぼを回転させたりして、結晶と融液との摩擦で融液を強制対流させます。気まぐれな自然対流が起こって、温度分布が立体的に非対称になることを避けているのです。


by うーむ at 2009-01-36 17:40:36
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

omni氏の大きな勘違いが誰の目にも明らかになったようですね。

omni氏の考えでは「非定常」で「(全く同一の結果が得られる)再現性」のない「確率的現象」は科学ではない、という事ですね。

それはあなたの「科学」の定義の間違いです。
非定常な確率的現象も、確率を調べる事で科学の対象となります。


by うーむ at 2009-01-29 17:51:29
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

補足しておきますと、前野氏が指摘しているように(そして気象現象の科学を知る大半の物理学者がおそらく同意するように)

地球の気象現象の主要因は 大気と海の動的で非定常な自然対流によるものです。
そしてそれは、農作物の生育、漁業活動、生産活動、日々の社会活動、そして自然災害等を通じ、人間社会に大きな影響力を持っているので
その主要因たる大気と海の「動的で非定常な自然対流」を科学的に解明する努力が長年続けられています。


by うーむ at 2009-01-48 18:12:48
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

× これが「サイエンス」なのですか? おかしくありませんか?
○ これは「エンジニアリング」ですか? (エンジニアリングとして)おかしくありませんか?

答:前野氏がやっているのはエンジニアリングではありません。
apjさんが転載してくれた前野氏の記事を読めば、
前野氏が「ムペンバ効果」と呼ばれる不明確な一件を「サイエンスの手法」でクリアにするために、「サイエンスによる取り扱いの方法」を極めて慎重に定義している事が判るはずです。(実験だけ見て「サイエンス」云々言い出すのは論外)


by とおりすがり at 2009-02-58 09:51:58
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

ここのコメント欄のやりとりを見て apjさんのエントリー

  「『本物』の科学を手にしていないとニセ科学を批判してはいけないのか?」

が見落としている大きな問題点(似非科学批判側に愉快犯が紛れ込み、誠意ある科学者を背後から撃つ危険性)を感じた。
「魔法使いの弟子」問題と言ってもいいかもしれない。魔法を知らない弟子が似非魔法叩きで味をしめ、自身に他の魔法使いの真偽を裁く能力があると勘違いしてしまう悲喜劇


by apj at 2009-02-45 10:49:45
Re:ムペンバ効果調査中(6):【連絡】前野先生による雪氷学会誌記事の転載

とおりすがりさん、

 おっしゃるような危険性があるとしたら、水素水の方が高いと思います。
 一般の方には「とりあえず今は背後から撃つ段階じゃない」と言いつつ、研究者(太田教授)に向かっては「撃たなきゃならない奴等の真似をするんじゃない」と言わなきゃいけないという状態ですので。

 実際それをやっているところなんですが、科学者に便乗しようとする有象無象が同時に居るという、ややこしい状態でして。

 「魔法使いの弟子」問題、というのは面白いネーミングですね。今後広めてもいいかもしれません。