出前授業@会津高校
先週やった出前授業のまとめ。理学部に進学する場合のミスマッチを無くすための話。
○新しいものを見つけた時、理由を考えるのが理学部、それを利用して役立つものを作ろうとするのが工学部。大まかに言って何に興味を持つかという方向が違う。
○高校の授業内容は、指導要領で制限されて、他の科目の知識を使わないようにわざとに仕組まれている。しかし、自然は1つなので、大学では何でもありで、他分野の知識も動員して進む。高校の教科書という限定されたものだけを見て、得意科目に絞って勉強すると、大学での何でもあり状態に対応できなくて躓くもとになるので、できるだけいろんなことを勉強しておいてほしい。大学で伸びるのは、結局のところ、全科目まんべんなく勉強してきた人。
○大学の数学は、公理論的扱いをするので高校の数学とは違う。高校で数学が得意でも大学の数学に合わないことはある。あらかじめ大学の数学の教科書をいくつか見て、定義、定理、証明で話が進んでいくのを確認した方が良い。なじめそうにないと思ったら、数学以外に行った方が幸せ。
○高校の数学好きな人は大学では物理に、高校の物理好きな人は大学では化学に、高校の化学が好きな人は大学では生物に行くと合うかも。
○物理進学を考えてる人は、駿台受験シリーズの山本義隆の「新・物理入門」を読んでおくこと。この本のやり方についていけそうにないと思ったら、物理学科以外を選んだ方が無難かも。
○個人的な経験。生物系の研究は、個体差によるばらつきが気になって、私には合わなかった。一方、生物系(農学医学含む)で楽しそうにやってる人にいろいろ訊いたら、個体差があることが面白いとか、個体差があることが苦にならないと言っていた。個体差があることが楽しいなら広い意味での生物系、個体差が無い方が良いが個別の物質に興味があるなら化学系、物質も離れて現象に興味がある人は物理系に合う、ということかもしれない。理学か工学かという分類とは別の適性があるのかも。
○東大に行っても山形大に行っても、学部で勉強する内容はほとんど同じ。理学部の場合は分野ごとに定番の教科書がいくつかあって、そのどれかをやる。定番の教科書が翻訳本だったりすることも多く、世界規模で大体同じことを勉強していることになる。
ここからは旧ブログのコメントです。
by bugbird at 2010-06-33 03:29:33
いや~、これは「目ウロコ」
○高校の数学好きな人は大学では物理に、高校の物理好きな人は大学では化学に、高校の化学が好きな人は大学では生物に行くと合うかも。
(単なる)批判じゃなくて現状をきちんとふまえた上でポジティブに活かそうとする視点に感激しました。すばらしい。
by mimon at 2010-06-52 07:00:52
そうなんだ!
> 大学では何でもありで、他分野の知識も動員して進む。
いやぁ、私のような素人には、ラーマン散乱に民事訴訟法がどう関わってくるのか、想像もつきませんが、・・・。
学問の世界は、奥が深いですね。
冗談は、さておき、大学に入ってからでも、うっかりしていると、見落とすことがあります。
私の場合は、一般教養のころ、微分方程式のベッセル関数なんていうものが何の役に立つのか見当もつかなくて、適当にごまかしていましたら、伝熱工学の中で重要な事にあとから気づきました。フーリエやラプラスも同様でして、いまだに解析解は、苦手です。
その代わり、専門から修士にかけてプログラミングは、いろいろ勉強しまして、「要するに答えが出ればいいんだろ!」とばかりに、数値解ばかりで生き延びています。
by modoki(Poisonous_Radio) at 2010-06-53 19:05:53
生物
>○高校の数学好きな人は大学では物理に、高校の物理好きな人は大学では化学に、高校の化学が好きな人は大学では生物に行くと合うかも。
たしかに化学好きなら分子生物系は合うかも。
物理系はどうなのかな?
分子生物学の黎明期には物理系の人も大きく貢献してましたけど。
ところで、高校の生物・地学が好きな人は…どうしたらいいんでしょうw
by y_ikeda at 2010-06-59 07:39:59
目から鱗です。
高校の頃は、数学と化学が得意で、化学科に進学したけど、あわなくて辞めちゃいました。生物系の授業は楽しかったけど、有機化学とか苦手意識を持ってしまいました。
後に、電気工学科に入り直したんだけど、これは、数学好きで物理系の学科に行ったと言う解釈ができます。確かに、結構相性は良かったです。
by ちはちょる at 2010-06-30 02:04:30
案外その通りかも
>>○高校の数学好きな人は大学では物理に、高校の物理好きな人は大学では化学に、高校の化学が好きな人は大学では生物に行くと合うかも。
言い得て妙、ですな。
僕も高校のときは物理が好きだったのですが、少し変化球と思って化学の学科に進学しました。当時は、物理学科よりも化学科のほうが偏差値が低かったこともありますが。。
大学に入ってからは、保守本流の有機化学とかにはあまりなじめなかったものです。化学も幅が広いので、物理寄りの分野もあって最後は結果オーライですかね。
by apj at 2010-06-38 23:40:38
必ずしも全員に当てはまるわけではないんですが
bugbirdさん、
高校の指導要領に文句はありますが、学生に言っても仕方ないので、手持ちの知識がどういうものかを教えて、各自で考えていただくしかないのですよ。
mimonさん、
冗談はさておき、ウチの学科ですと、数IIIc未履修だと必修の物理化学が大変なことになります。速度論も量子化学も熱力学も、微積分の山ですから。
Poisonous_Radioさん、
高校までの生物学とはウェイトが違うんですよねぇ。大学になると分子生物全盛ですから、その覚悟をして来て下さいというしかないです。
地学は、私自身に経験が無いのであまり語れないんですが、フィールドワーク嫌いな人が来ると悲劇かも。
y_ikedaさん、
高校数学のように、数式とグラフを対応させて理解するような訓練って、回路の振る舞いを理解するのと共通の基盤があると思います。個別の物質というよりは現象記述の色合いが強いですから、そちらでマッチしたのではないでしょうか。
ちはちょるさん、
私は、駿台文庫の物理に嵌ったのと、数学でも微積分だけ点が良かったので、物理学科向きと判断して進学しました。その後の紆余曲折で物理化学に来てしまってますが、物理でも花形の素粒子宇宙論方面は、現代数学の得意な人がリードしているので、結局こっちで良かったのかも。
高校生達には、子供の頃から昆虫好きだったけど研究対象にはできそうになかったので、単に好きというのと研究ネタにできるというのとは違うみたいだよ、とか、医学部は落とされたけど医者にならなくて今は良かったと思ってるよ、といった話もしておきました。