雑記帳

ポットの管理(1999/03/01)

 研究室の学生居室には、古いポットがあった。だが、最近見かけない。

 これが普通の研究室だったら、最近大学や会社のポットに毒物を入れるという事件が相次いで起こっているから、誰かが恐くなってどこかへ隠してしまったということもありうる。しかし、うちに限っては、毒物混入事件を起こすことは不可能である。

 もちろん実験系の研究室であるので、毒物は戸棚の中に存在する。また、大学の研究室は所詮閉鎖社会なので、知らぬ間に恨みをかっている可能性もある(書いててちょっと恐くなった)。それでも、ポットの中に毒物を入れてもまず不成功に終わる。

 ポットの湯の管理がきわめて杜撰に行われているのだ。朝誰かが湯をわかしてポットに入れるという習慣がそもそもない。たまたま湯を多くわかしてしまってポットに入れても、それを使うのはたいていがわかした人だけである。次に誰が湯をわかしてポットの中身を入れ替えるかというのは、全く偶然にまかされている。

 こういう状態なので、ポットの湯がいつのものかはっきりしていることの方が希である。油断するとカビでも生えていそうである。中に入っている湯はたいてい2、3日前かそれ以上古いものなので、ポットを使おうと思ったら、まず中身を捨ててきれいに洗って、ついでに熱湯で滅菌してからでないと、気味が悪くて使えない。こういう状態が数年続いているので、ポットの中身はそのままでは使えないというのがメンバーの共通認識である。従って、ポットの中に毒物を入れても誰にも被害が出そうにない。

 それでは、お茶の中に混入したらどうか。

 これも、無差別ならともかく、誰かを狙うのは不可能である。お茶の種類が多いのだ。私が沖縄の学会のときに買ってきた「グァバ茶」「パパイヤ茶」「ウコン茶」「ハイビスカス茶」に始まり、「麦茶」「ほうじ茶」「玄米茶」があり、最近ではレモングラスが2種類追加され、さらにハイビスカス茶のブレンド物が入り、その上紅茶が3種類にコーヒーにココアという状態である。だれがどれを飲むかは、これまたその日の偶然にまかされている。

 つくづく、推理小説の舞台設定には使えない研究室である。

 ちゃんとポットを管理して毎朝湯を入れ替えて、決まった種類のお茶を入れるという職場や研究室がほとんどなのだろうか。ねらわれないためには、徹底的にずぼらに管理するというのも1つの手だと思うのだが、そういう解決策をすすんでとっているという話はきかない。几帳面な管理と再現性のある行動というのは、一服盛って特定の誰かに確実に被害を与えるという目的のためには、実に魅力的なものではないだろうか。



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