四塩化炭素(CCl4)の25 cm-1のピークはMRTモデル単独で合わせることができる[33]。フィッティングの結果得られた緩和時間は0.657 psである。220 cm-1のピークは分子内振動としてすでに帰属されている。この25 cm-1のピークは、いわゆるCole-Coleの緩和でもGaussianでも減衰振動でも合わせることができない形をしている。
最近は分光器が進歩して、1 cm-1以下のラマン散乱が測定できるようになった。光学系をVVの配置にするとBrillouin散乱を測定することもできる。エチレングリコールについて、VVの配置で測定すると図18のようなスペクトルが得られる[34]。
光学系をVHに切り替えて測定すると、0.1 cm-1付近に誘電緩和とほとんど同じ形のピークが存在することがわかった(図19)。
このピークと60 cm-1の振動モードの間にもう1つ緩和を入れてスペクトルを再現できた(図.20)。低い方(Region I)はnarrowing limitが成り立っていて揺らぎがガウス・マルコフ型である緩和を、中間(Regieon II)は2状態模型かつノイズに相関を入れた緩和をあてはめるとうまくfittingできた。60 cm-1以上(Region III)については広がった減衰振動のピークが3つあったので、それぞれに1つずつ減衰振動をあてはめてスペクトル全体を合わせてみた。フリーパラメータモデルとしてはパラメータの数が多いので合うのが当たり前だと言われればそれまでだが、振動モードの細かい構造を無視して60 cm-1を1つの減衰振動モードで強引に合わせたとしても、緩和モードに関する議論は変わらないことを付記しておく。
他の多くの有機溶媒は、60 cm-1付近のモードが振動ではなくてGaussianでないとスペクトルを再現できない。感受率がGaussianになるようなモデルがどんなものかまだはっきりしないが、ともかくGaussianであったとして、ジオキサンを例にしてフィッテイングした結果を示す。
MRTモデルとGaussianのみでスペクトルを再現できた。一方、単純なDebye緩和にカットオフを入れたModified Debye関数[35]を使うとフィッティングは図22のようになる。
この場合は振動モードを1つ入れないと、スペクトルを再現できない。どちらのフィッティングが正しいかは実際に振動モードが存在するかどうかを他の方法で確認しない限り決められない。現象論の弱点である。もし振動モードがなければ、図22の方法による解析は存在しない振動モードについて議論することになる。もし振動モードが存在した場合、図21の方法ではその情報は一切取り出せない。
あえて私の見解を述べるなら、図21の方が良いのではないかと考えている。図22の減衰振動モードは幅が小さすぎるように思う。60 cm-1についてはcollision-indluced absorptionや分子間振動の幅の広いのピークが現れるところであり、これより低いところに非常に鋭い振動のピークが出る状況は考えにくい。