液体の水のクラスターの大小が、17O-NMRで測定できると信じた研究者の報文リストである。
既に、「水のクラスター −伝搬する誤解−」で、17O-NMRの線幅はpHやプロトン交換、水の回転拡散の指標であり、空間情報を直接観測するものでないことは述べた。日本電子ニュースでも、注意をよびかける記事が出ている。
しかし、水処理装置を作って17O-NMRで水の評価をしようとする企業が後をたたないようである。水処理業界の企業は、中小企業が多く、限られた資源の中で開発・評価を行っている。水質の評価に役立たない17O-NMRの測定に費用をかけるのは、無駄であり、そのコストは最終的には消費者に転嫁される。17O-NMRの線幅を水の評価に使うことは、企業・消費者の双方にとってマイナスであると考える。
NMRを使った、まともな液体の(分析化学・溶液化学分野の)研究論文では、17O-NMRで水のクラスターが測定できるとした結果はない。むしろ、そんなものは測定できないことが、この分野の常識であったと考えられる。
中小企業が、分析化学・溶液化学の研究に疎いのはやむを得ないことであるし、クラスターの話が業界誌に出ているわけだから、信じてしまうのは無理からぬことである。しかし、大学の研究者であれば、学内外の分析化学・溶液化学分野の研究者に問い合わせて、真偽のほどを確認することはいくらでもできたはずだし、文献データベースをあたって1次資料までたどることも容易にできたはずだ。また、民間であっても研究を生業としている団体であれば、同様の調査はしても良かったはずである。それをしないで、17O-NMRの線幅で水の評価をしたのは、やはり調査不足だと考えられる。最初に勘違いした松下和弘氏は仕方がないとしても、それを鵜呑みにして17O-NMRの線幅で水の評価をし、報告した人たちの責任は大きい。その報文がその後いろんな企業に引用されて、17O-NMRの線幅の測定と水のクラスターの関係を信じる会社が続出しているからである。
ここに、クラスターに関する要注意の報文リストを掲載する。もし、新たに見つけた人は教えてほしい。ただし、報文の著者の中に大学関係者・国立研究機関・民間の研究所の研究者がいる場合に限る。一般企業の宣伝文は除外する。このリストの目的は、大学の権威や業界紙に対する信頼を背景として17O-NMRの線幅の測定と水のクラスターの誤った話が伝搬することを防ぐことにある。「要注意」の意味は、これらの文献を引用して、17O-NMRによって液体の水クラスターの大きさを議論する根拠にはできないということである。