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0-1 科学知識の情報源について考える・特許

 以下のようなコメントを読者の方からいただいたので紹介する。特許の部分について、私は、申請から各段階の細かい手順や意味を知らなかったので、曖昧な書き方をしてしまったようだ。その点についてご指摘くださったので、補足として紹介させていただく。本文の改訂も進行中である。なお、改行位置などは適宜編集させていただいた。

Delivered-To: apj@atom.phys.ocha.ac.jp
From: "津田 幸宏" <GED01372@nifty.ne.jp>
To: "apj" <apj@atom.phys.ocha.ac.jp>
Subject: Re: 「0-1 科学知識の情報源について考える・特許」(改)
Date: Sun, 29 Sep 2002 23:52:53 +0900
X-Priority: 3

天羽 優子様

はじめまして、津田と申します。企業勤務の弁理士をやっております。水商売ウォッチング等の天羽さんが作成されるHPについて、興味深く、拝見させて頂いております。

さて、そのHPの中で、以前も少し気になっていたのですが、現在作成されている「水を理解するために」中の、首記の部分についても、若干気になる点(誤解を招きかねない点)がございましたので、御連絡を差し上げます。
なお、改行箇所を変更させて頂きますが、ご容赦ください。

1. 「永久機関でも出さない限り、背景の理論が正しいかどうかまでは出願時にはチェックされない。」
永久機関でも、出願は自由であって、特許庁からチェックは全くされません。権利取得のフローにおいて、永久機関に関する発明が特許性がないとされるのは、特許庁での「審査」にかかってからとなりまして、その前提としての受理は、書類の形式が整っていれば為されます。なお、永久機関の出願(おかしな出願の定番として絶えないようです)と言えど、(大抵は理系出身である)弁理士が出願書類を作っている場合があるかもしれませんが弁理士はあくまで「代理人」であって、依頼者の意思を尊重することがその本分であると考えることも出来ますので、依頼者が「出願したい」と強く要求してきたときには、書類の作成を行うこともあるかと思います。少なくとも、弁理士は学会誌の「査読者」に該当する「チェック者」ではないことは、間違いございません。

2. 「どんなトンデモない話に基づいていても、形式が整っていて実施方法がちゃんと書けていれば特許は出せる。」
上記のように、「形式」が整っているだけで、特許は出願することが出来ます。また、「ちゃんと」ということは、権利を取得するためには(要するに審査をパスするために)特許法上では要求はされているのですが実状として実験を行わない特許庁側では判断が難しいので、出願書類上でロジカルに矛盾が無ければ、この「ちゃんと」と言う要件は具備しているとして、審査のハードルを越えている、というところでしょう。従って、その後の各種係争で、「(実験したら)書いていることが間違っている」と争われることが、ままございます。アカデミックに有名な事件としては、AT&Tの「カーマーカ特許」に対して、今野浩東工大教授(当時)が「数式に明らかに間違いがある」として、異議をかけた事件でしょう。
特許庁での審査をパスして特許されているものでもそのようなことがありますので、(このようなものは「特許公報」に掲載されます。)審査終了前の特許出願は、(このようなものは出願後一年半後の時点で、「公開公報」に「全出願」が軽いチェック(主に商標を消す)の後に掲載されます。)その科学的な正しさは、完全に出願人の意識・知識に委ねられます。
従って、
(1) 特許に記載される実施方法は、それが正しいという保証はないのが実状である。(たとえ特許を取得していたとしても!!)
(2) 公報の種別で、その信頼度が全く異なっている。ということになります。

3. 「特許の内容と会社がやっている宣伝が一致していないこともある。」
これは、非常によくある話でして、これをもって「ひどい会社」というのは酷ではないかと考えます。それだけ、「技術」を「文章」で書き表して、しかも、後の設計変更にも耐えうるような特許権を取るのは難しいものなのです。現に、そのような権利を取ることを失敗した、まじめなベンチャー企業が、他社の参入を止めることが出来ずに、倒産に至った例がございます。但し、「水を理解するために」の啓蒙的な性格から考えると、これは改めて明言する価値はあるのかも、とも考えます。

4. その他のこと
まともな企業は、実質的に意味のある特許を取得したいので、下記のような点を利用することは全くない筈なのですが、実は、大きな、しかし目立たない間違いが存在する出願であれば、特許を受けやすくなるように、制度は構築されていると考えられます。特許の審査は、出願時刻を基準として、
(1) 新規性
(世界中でそれまでに発行されている文献に全く同じ発明の記載があるか?)
(2) 進歩性
(世界中でそれまでに発行されている文献を簡単に組み合わせて、全く同じ発明に行き着くか?)
という順で判断されると、簡単には言うことが出来ます。
(上記のかっこ内の説明は刊行物公知」に限っている点等で若干不正確ですが、わかりやすさ優先と言うことでご容赦ください)。
従って、「間違い」が存在する発明については、当然ながら、上記の「文献に記載される発明」は存在しないのです。そして、これらの文献が存在しない場合には、明細書の記載が「ちゃんと」しているか・公序良俗に反しないかがチェックされて、これをパスすると、特許が与えられると簡単には言うことが出来ます(この他に形式的なチェックがありますので、「簡単には」としてあります。。そこで「間違い」が目立たなければ、これもパスすることになります。よって上記の結論に達します。

それでは、「永久機関は?」という問題がありますが、これは上記の通り「間違っているのがあまりにも明らかである」という類のものであり、また、特許関係者の中には、「永久機関に特許を与えても、特許権侵害事件等が起こるわけもない(発明を実施できないから)から、なんら問題がない」という考えを持つ人もいます。法制度の構築・運用の考え方の中には「第三者との利害関係が発生しないのならば、ほっといても問題がない」という旨のものがありますので、上記の意見は乱暴なものとは言えないところがあります。

このように、特許は産業の発達に寄与するために、国策として設けられた、
「新しい情報を秘匿させずに公開する。公開のインセンティブとして権利を与える。」
という制度ですので、
「新しい」ということが優先され、「正しい」というのは二の次でも国にとっては別にかまわない、それは自己責任で担保すること、という一種ドライなシステムになっています(正しいことを書いていないと、権利行使時に支障が出る可能性が大です)。そのようなわけで、特許文献に記載されているとされる発明について、「内容の科学的正しさとは無関係」という天羽さんの指摘は論理的に正しく、また、たとえその発明が特許を受けているとしても、その指摘の正しさは変わらないと思います。
但し、上記の各点は、一般の方(天羽さんをこの中に入れてしまうようで恐縮ですが)が間違えやすい、特許という「新しさを優先するシステム」に対する「正しさがかなりのレベルで審査されるとの誤った想像」ですので、敢えて御連絡を差し上げた次第です。天羽さん・阪大の皆様の実行されていることは、大学の社会貢献の一つであることは間違いなく、深く敬服致す次第です。
今後の皆様のご活躍を祈念するとともに、物理関係者の情報発信がさらに活発になることを期待致します。(私は物理系の出身であり(すでに遠く離れてしまいましたが)、正当な科学的思考がが社会に広まってほしいと考えている者の一人です)

津田 幸宏
弁理士登録番号 11532
GED01372@nifty.ne.jp
http://homepage3.nifty.com/darupen/


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