「市民のための環境学ガイド」に掲載された、「マイナスイオンを擁護する人からの反論」に、水の動的構造の研究者としてフォローします。このページを読む方は、まず、安井教授のページを見てからにしてください。フォロー箇所は、安井教授が吉岡氏という方からのメールを引用して反論を書いておられる部分です。私の立場も、安井教授と基本的に同じで、化学種と存在量をはっきりさせ、それぞれの物質の効果を押さえてから、マイナスイオンの効果・・・じゃなくて個別の空気イオンあるいは空気イオンの混合物としての利用法を検討するべきだというものです。以下、引用部分は安井教授のコメントも一緒になります。()内が安井教授のコメントのようです。
トルマリンの効果だが、トルマリンは焦電性と圧電性を持つ。電気的な分極も起きているので、永久磁石に対してちょうど永久電石のようなものを想像してくれればよい。分極はしていますが、普段は、空気中で帯電したホコリなどが表面にくっついて、見かけ上表面に電荷が出ていないはずだ。圧力や温度をかけると、分極の大きさが変わって、表面に電荷が出てくるから、結晶のある面の間の電位差を測定することで、圧力や温度のセンサーとして使える。ウチの師匠の話では、熱戦追尾式ミサイルのセンサー材料だということだった。論文を調べると圧電素子としての利用に関する研究が進んでいるようだ。
トルマリンを水に入れると、微量の水素を発生させて水が少しアルカリ性になることが報告されている。この実験は、中村輝太郎という誘電体の研究者によってなされた。しかし、論文要約をみた限りでは、その後の水質の元素分析までは行っていないようだ。観測された現象は、トルマリンの成分である金属が微量だけ水に溶けたと考えると説明がつくもので、高校の化学の範囲の話である。
もし、トルマリンの中に放射能を持った同位元素が含まれていれば、微量の放射線を出し続けることはあり得る。この場合、トルマリンの近くで空気イオンが増加することは起こりうる。が、それなら、イオン測定器じゃなくて、ガイガーカウンターでも近づけた方が、何が起きてるかはっきりわかるだろうね。
いずれにしても、トルマリンは揮発性物質ではないから、物質として勝手に空気中にマイナスイオンを出すわけではない。イオンを作っているとしたら中に含まれている放射性同位元素によると考えれば説明できる。これは別にトルマリンの摩訶不思議な効果でも何でもない。他の放射性同位元素を含むものを持ってきても同じことが起きるだろう。
以下の磁気活水器に関する記述に注目してほしい。
しかし原理としては正しいものです。製品が悪いから原理もインチキだ、ではサイエンスとは言えません。ご指摘の遠赤外線は、その磁石から出ているのではなく、スペックを見ればおそらくどこかに特別なセラミックも配置されているはずです(遠赤外線などは、酸化物なら全部出している。だから鉄パイプの表面に錆びがあれば遠赤外線を出すbyC)。遠赤外線も水の性質を変化させる力を持っているようですが、ここではこれ以上触れません。
そもそもサイエンスとは、原理が不明でも効果の確認が科学的になされていればそれで良しとするものだ。原理が既存の科学的知識に根本的に反する場合、主張する原理が正しいことを立証するのは、その原理を主張する側の責任だというのがサイエンスのルールである。
さて、ある温度の物体は、赤外線も遠赤外線も出している。黒体輻射である。物質によっては、理想的な黒体輻射の場合と出ている輻射のスペクトルの分布が変わるかも知れないが・・・。肝心なことは、セラミックであろうと水であろうと、温度に応じた赤外線も遠赤外線も出しているということだ。じゃあ、セラミックと水が接触して同じ温度になってしまうと、どちらもその温度に応じた赤外・遠赤外線を出すが、いずれか一方がもう一方に遠赤外線をあびせかけるような関係にはならない。セラミックが水に対して余分な遠赤外線を浴びせられるとしたら、水より温度が高い場合だけである。水の熱容量は大きいから、セラミックにある温度の水を通過させると、セラミックと水はさっさと同じ温度になるから、それ以上何も起こりようがない。
マイクロ波から遠赤外線領域にわたる水の誘電損失(複素誘電率の虚部)は、以下のような形になる。
Dielectric data: J.Barthel, K.Bachhuber, R.Buchner and ah.Hetzenauer Chem. Phys. Letters, 165(1990), 369誘電損失(図中の赤丸で示したもの)に角周波数を掛けると、電磁波の吸収係数に対応した量になる。問題は、いろんな波長の電磁波を水に照射した場合、水にもともとあったどういう運動状態がそのエネルギーを受け取ることができるのかという点にある。遠赤外線の領域は、図の白抜きの赤丸のあたりになる。水の場合、遠赤外領域に存在する分子運動は、水素結合を介した分子間振動である。分子間振動に起因する吸収のバックグラウンドに、25GHzをピークとする水を特徴付ける誘電損失による吸収がかぶった状態になっている。だから、遠赤外線を浴びせた場合、誘電緩和の高周波端と分子間振動が、遠赤外線のエネルギーを吸収することになる。水素結合を介した水分子間の振動は、水が液体だから、できたりこわれたりしている。こんなところにいくらエネルギーを与えても、分子運動をランダムに激しくするだけ、つまり加熱の効果しかない。図のピークの低周波端が、ちょうど電子レンジの周波数にあたる。ピークの反対側のあたりで電磁波を照射しても起きる現象は同じである。
もっとも、遠赤外線を効率よく発生させるのは至難の業で、選択的に分子間振動にエネルギーを与えて何が起きるか追跡した実験はまだない。上記の測定では遠赤外線を照射してるけれど、微弱だからわずかな熱に変わる程度の効果じゃないかな。今私がやってるのだって、パルスレーザーを使って結構明るい遠赤外線パルスが出るけど加熱するほどのパワーはない。遠赤外線を選択的に照射して加熱する(赤外ナシで)ことに成功した例はないはずだ。励起や「活性化」など夢のまた夢じゃないか。巷で言われている、「(電力も投入しない)セラミックスが遠赤外線を発生させる」というのは、そのエネルギーがどこから来たのかが不明だから眉唾だし(いつからセラミックスが永久機関になったんだろう)、「遠赤外線で水の性質が変わる」というのも、水のダイナミクスという観点から見てあり得ないことだ。
お風呂に張る水が青くなるのは、水道水の中に溶解している酸素のエネルギー状態が磁場によって励起されて、それが元に戻るときに青い光を発する、とメーカーは説明しています。合理的な説明だと思います(それを商売とする人には、その理由を科学的に説明する義務があると思う。それができないものはインチキと断定されても、文句は言えない。本当に発光するのなら、暗いところで実験をしてみればすぐに分かることだが、本当なんだろうかbyC)。
安井教授のコメントに補足しておく。発色するようなイオンが不純物として混じれば水に色がつくのは当然としても、そうでない純水(あるいは酸素が溶けた水)も少しは青いのだ。これは、水が本来持っている性質による。水は、赤外領域に分子内伸縮振動(酸素原子と水素原子が共有結合を介して振動する)に由来する強い吸収を持っている。この分子間振動のn倍音(3倍音か4倍音、あとこれらの結合音。successive overtoneと元論文には書いてある)にあたる振動が、ちょうど可視光の赤色のあたりにあることがわかっている。実際に、非常に大きな光学セルをつくって光の通る長さを長くして吸収スペクトルを測定すると、赤色の光が吸収されるという実験結果がある。このため、白色光を通すと、赤い光が吸収されて青い光が残るので、水が青く見える。これは、普通のH2Oで表される水が本来持っている性質である。水の安定同位体であるD2Oで同じ実験をすると、水素原子の質量の違いから分子内伸縮振動の振動数が異なるため、そのn倍音は赤色のところからずれてしまう。だから、D2Oでは赤色の光を吸収するという現象はみられない。これも実験で確認されている。水の振動分光を生業としている立場としては、上記のような説明を放置しておくわけにはいかない。一体どこが合理的なんだか。上記のメーカーの説明はウソである。このことは、既に当ページで「(有限会社)創栄(そうえい)」へのコメント のところで元になった論文も引用して紹介している。