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毎日新聞の白畑教授へのインタビュー記事について(2003/08/18)

 「活性水素」について,広く一般に誤解を振りまいている九州大学農学部の白畑教授へのインタビュー記事が,毎日新聞に掲載された(2003年7月29日)。

 電解還元水の効果のもとについて研究するのは,それはそれでいいことだと思うが,仮説に過ぎない「活性水素」を,十分な存在証明無しに,一般の目に触れる新聞や業者の宣伝で振りまいたのは,白畑教授の責任である。さらに,九州大学教授が活性水素の存在を実証したかのような宣伝がなされているにも関わらず,自分から積極的に訂正を行っていない。最近では,活性水素が微小な白金粒子に吸蔵された状態で存在すると主張している。しかし,これは,白金微粒子の触媒作用で水素分子が化学反応するときにはH-H結合が切れた状態が短時間存在するというだけの話であって,「活性水素」という概念を持ち込む必要性に乏しいと思われる。

 私は毎日新聞をとっていないのだが,インタビュー記事について,メールで全内容を知らせてくださった方がいらっしゃるので,それを引用し,一般の方々を惑わす部分について指摘したい。もし,内容その他がちがっていたら指摘していただけるとありがたく思います。

夏の水と健康 「奇跡の水」に科学のメス 白畑實隆・九州大学大学院教授に聞く
2003.07.29 大阪朝刊 20頁 特集 写図有 (全2597字) 
◇老化を防ぐ活性水素
 「水」に対する関心が高まり、食料品店やスーパーに並ぶペットボトル入りの水の種
類も増えている。日本は水に恵まれた国で水道水の品質も良く、水を買い求める習慣は
なかったが、ここ数年で水市場は大きく成長し、ブランド商品化の傾向も見られる。お
いしさだけでなく、健康に良いことも、水を選ぶ条件の一つだ。健康に良い水はどうい
う水であり、その科学的な根拠は何なのか。どのような効果が期待できるのか。活性水
素の機能を解明し、水に関する共同研究で成果を上げている白畑實隆・九州大学大学院
教授に聞いた。
 ――水を選ぶ基準として、まず安全性やおいしさなどが挙げられます。
 白畑 水質は年々悪化し、生活排水などで汚れた水を浄化して使っている状況です。
水道水の品質の劣化は気になるところですが、すぐに危険というわけではありません。
殺菌されていて、衛生基準を満たしている水です。ただ長期的に飲んだ場合の評価は今
後の課題でしょう。
 水のおいしさはマグネシウムやカルシウム、ナトリウムなどの成分の比率にかかわり
ますが、味は感覚の問題で、人によって好みも違います。世界の名水といわれる水でも
、日本人には合わないような硬水もあります。
 ――水の選択肢の一つとして、健康面の効果が注目されています。
 白畑 健康に良い水というのは根拠があって、それを実証する研究データの裏付けが
なければなりません。私たちの研究がその先駆けになればよいと思います。
 ――世界には「奇跡の水」と呼ばれるような、健康を回復させるという評判の水があ
ります。フランスのルルドの水やメキシコのトラコテの水、ドイツのノルデナウの水な
ど。科学の目で見て、普通の水との違いは?
 白畑 ルルドの水については、ノーベル医学賞をもらったアレクシー・カレルの伝記
の中で紹介されていて興味を覚え、病気を治す水が本当に存在するのだろうかと疑問を
持ちました。活性酸素の研究をしていましたので、奇跡の水といわれるものが、老化の
原因であり万病のもとである活性酸素を消去する働きをするのではないかと想像できま
した。
 それから、健康に良い水のメカニズムを科学的に立証するため、本格的に水の研究に
取り組みました。その結果、これらの水に共通して活性水素が多く含まれていることが
分かりました。活性水素というのは原子の状態にある水素のことで、さまざまな病気の
原因となる活性酸素と反応して水になることで、活性酸素の毒性を消してしまうと考え
られます。
 酸化・還元というのは中学の教科書にも出てくる基本的な原理です。活性酸素が害を
もたらすのは、相手から電子を奪って酸化してしまうからです。還元とは、水素と結び
つき、相手に電子を渡す化学反応です。活性水素の側から見ると、活性酸素に電子を渡
して還元したことになります。
 水素は宇宙が誕生した最初の原子で、そこからすべての物質ができたのです。あらゆ
る物質の親である物質をたくさん含んでいるのが水なのです。水の中で生命は生まれ、
水なしには私たちは生きていけません。
 水というのは非常に安定した物質で、もし壊そうとすれば4000度くらいの熱をか
けないと壊れません。ところが不思議なことに、電気には弱くて、ちょっと電流が流れ
るだけで水素が出てきます。一瞬のうちに活性水素を大量に発生させて還元水を作る技
術も可能になりました。そういう人間の知恵で作った人工的な還元水も、実は自然にお
手本としてあるわけで、それに気づきなさいというのが奇跡の水の教訓ではないかと思
います。
 ただし、奇跡の水はどこにでもあるものではなく、各地の水を調べましたが、日本で
は日田天領水など大分県の日田で採取される水に匹敵するような活性水素水は、今のと
ころ他には見当たりません。そのような水がなぜそこだけにしかないのか? 活性水素
を発生してもそれが安定して水の中に存在する仕組みが必要で、そのためにはミネラル
とくっつかないといけない。それがうまく合う条件が、たまたまそこにあったのではな
いかと思われます。
糖尿、がんアレルギー効果に期待も
 ――活性水素水は、具体的にどのような症状の改善に有効なのですか。
 白畑 そういう水を飲むことによって、例えば糖尿病の場合、すい臓のインスリンの
出や血糖の取り込みが良くなって改善することを、マウスを使った実験や実際の症例が
示しています。また、悪性のがん細胞が、水を変えたら増殖速度が落ちて転移浸潤が抑
えられ、体の免疫力も高まることを確認しています。
 還元力のある水はビタミンCなどと比べても、細胞内の活性酸素を消す働きの持続力
が違います。それを体内に取り入れることによって、免疫機能の回復が見られます。が
んの種類を問わず、効果があるのではないかと考えて、広範な研究に取りかかっていま
す。
 アレルギーについては、九州大学の小児科の教授との共同研究で、強度のアレルギー
体質の学生に協力してもらい、症状の改善が見られました。同じく第2内科と共同で脳
梗塞(こうそく)を防ぐ研究を、理学部と一緒に神経細胞が再生することを証明する研
究を進めているところです。その結果、活性水素水は老化に伴うアルツハイマー痴呆な
どにも効果があるだろうと考えています。
 特にこのような天然水は有限なので、大切にしなければなりません。良い水を評価し
ながら、水道水を良い水に変えていく技術や、汚い水を安全な水に変えていく技術も必
要です。
 コップの水を一口飲めば数分で全身に行き渡ります。まさに水は命そのもの。そう考
えたとき、結局行きつくところは水に対する感謝です。ありがたいと思って皆が飲むよ
うになれば、世界が変わるのではないか。世界中の人やあらゆる生き物と共に生きる共
生の時代に、水の心を知ってほしいと思います。
……………………………………………………………………………………………………
◇九州大学大学院教授、白畑實隆さん
 しらはた・さねたか 1950年、鹿児島県生まれ。78年、九州大学大学院農学研
究科食糧化学工学専攻博士課程修了。87年、米国オレゴン州立大学生化学・生物物理
学科訪問助教授。89年、九州大学大学院農学研究科遺伝子資源工学専攻助教授。95
年、同教授。現在、九州大学大学院農学研究院遺伝子資源工学部門教授、同大学院シス
テム生命科学府生命工学講座教授併任。
毎日新聞社

 この記事のおかしなところを,QandA形式で以下にまとめてみた。

Q.「活性水素水」って本当にあるの?

A.水にどういう名前をつけようが売る人の自由ですが,「活性水素」なる物質の存在を,直接証明する実験はありません。

Q.九州大農学部の白畑教授が,活性水素の存在を実証したのではないの?

A.白畑教授自身は,最初の論文の中で,「活性水素」が仮説であることをはっきり書いています。電解水製造装置の会社が,勝手な解釈をして宣伝に利用しただけです。もちろん,その後の白畑教授が宣伝に出て来るのを見た限りでは,白畑教授は業者の解釈をわざとに訂正せずに放置しているか,業者の宣伝に加担していると思われます。

Q.活性水素って何?

A.白畑教授の説では「原子状水素」ということです。理科の教科書に出てくるように,水素や酸素などは,原子のままでは安定ではなく,H2やO2といった分子の形で存在します。普通は,水の中では,水素はH2になっています。原子として存在することはありません。

Q.活性水素がたくさん含まれた水とは?

A.いまのところ,そう自称する水があるというだけです。白畑教授でさえ,活性水素の濃度を決める方法を出していません。存在確認もできず,測定法もないのに「たくさん含まれる」と言われても困ります。

Q.白畑教授は,本当は何を見つけたの?

A.白畑教授の特許によれば,白金の微粒子と水素ガスが水の中にあるときに,白金を触媒として水素が別の試薬と反応するという現象のようです。同じことが電解水中でもわずかにおきるということでした。また,白畑教授の報文では,電解水中の白金微粒子は,高電圧で電解したことによって電極表面からはがれ落ちてきたものだろうということでした。これ自体は,我々の知っている化学と別に矛盾しません。

Q.白畑教授の見つけた現象は「体にいい」の?

A.いまのところ何ともいえません。白金を使って水素ガスを他のものと反応させたとき,体内で使って有効なものがあるかどうかは,これからの研究課題です。白金が,体内のどこに取り込まれるのか,あるいは吸収されずに排泄されるのか,そのとき水素分子はどうなっているのか,といったことがわかってくれば,何かの治療法として使えるものが見つかるかもしれません。動物実験は進んでいるようですが,本格的な臨床試験はしていません。いずれにしても,もうすこし,体内での白金粒子と水素ガスの挙動がわかってこないと,どういう試験をするといいか,決めるのも難しそうです。

Q.活性水素説の問題点は?

A.白金の触媒作用で,水素分子が化学反応するときに,H-Hの結合が切れて,一時的に原子状水素になるのは当たり前です。そうでないと,他のものと反応できません。これを説明するのに,「活性水素」という概念を持ち込むことにどれだけ意味があるのかが疑問です。しかし,研究を進めるときに,いろんな概念を立てて考えることは必要なことも確かです。そういう試行錯誤の段階の話は,学会のみにとどめておくべきでしょう。話をきく方が専門家であれば,批判も検証もする力を持っているので,むやみに混乱することはありません。今回は,不用意に,一般の方々にまで「活性水素」という言葉を広めてしまっています。この言葉が企業の宣伝に使われて,一般の消費者に「活性水素」という何か特別な物質があるかのような誤解が広まっているのが,社会的な意味で問題です。

Q.新聞記事では,人に使って効果があると書かれていますが?

A.臨床試験をしたとは書いてないので,どんな症状に有効かについては,まだわからないということでしょう。また,アレルギー体質の学生に協力してもらったということですが,患者をたくさん集めて試験をして,「活性水素」の効果とそれ以外の効果を分けてからでないと,やはり何とも言えません。試験をせずに少数の例だけを示すのなら,健康グッズの体験談と大差ない話で,科学的根拠に乏しいのです。新聞にこんなことを載せたら,読者が「効果がある」と誤解します。臨床試験の結果が出てからにするべきです。

Q.活性水素は活性酸素を消去しますか?

A,白畑教授の特許と報文から考えるかぎり,還元水や日田天領水で活性酸素が消えたとしても,その理由はすぐにはわからないでしょう。単なる水素ガスの効果で消えたのか,白金粒子の触媒作用で消えたのか,他の不純物によって消えたのか,はっきりしません。この点については,白畑教授の報告が待たれるところです。ただし,今なお活性水素を直接検出できていないわけですから,活性酸素消去効果を活性水素に求めるのは,フライングといっていいです。なお,活性酸素の寿命は,水溶液の種類によって変わりますから,他の不純物の存在で影響されることも有りえます。

Q.活性酸素を消去すれば病気がなおりますか?

A.正常な人間の体は,必要に応じて活性酸素を作ったり分解したりしています。活性酸素が悪さをすることもありますが,体内で活性酸素が増えることが病気の原因なのか病気の結果なのかは,個別に考えないと判断を誤るでしょう。また,もし,活性酸素消去効果が本当なら,必要な活性酸素まで分解されてしまうかもしれません。「活性酸素は万病のもとだから取り除けばいい」というのは,短絡的すぎる考え方です。

Q.水に電流を流すと水素が出てくるのは不思議なことですか?活性水素が大量に発生するのは本当ですか?

A.「不思議」の中身によります。電気化学反応一般について,どういうメカニズムで反応しているのだろう?という「不思議」なら確かにありますが,白畑教授が主張するような意味での「不思議」とは,ちょっと違うのではないでしょうか。水を電気分解すれば,酸素ガスと水素ガスが出てきます。これらの反応は,電極表面で起こっています。電極表面と水が接して電子をやりとりするときのメカニズムを知りたい,という「不思議」であれば,誰でも考えつくことです。「奇跡の水」とは無関係でしょう。大体,メカニズムがわかって実験で再現できるようなら,それは「奇跡」とはいいません。また,白畑説の「活性水素」の実体は,白金微粒子と水素ガスのセットのようですから,金属からたくさん白金の粉がはがれて,かつ,たくさん水素ガスが出て来るような条件で水を電気分解すれば,白畑説では「活性水素が大量に発生」したと言えなくもないでしょう。

Q.活性水素を安定させるにはミネラルが必要ですか?

A.私たちが,「ミネラルウォーター」というときの「ミネラル」は,イオンとなって水に溶けているカルシウムやマグネシウムなどを思い浮かべます。こういった「ミネラル」と,白畑教授がここでいう「ミネラル」には,何の関係もありません。白畑教授の主張では,原子状水素は金属微粒子に含まれていることになっています。「ミネラルが必要」などとわざわざぼかした言い方をせずに,「金属微粒子が必要」と言えばいいのです。「ミネラルが必要」などと言ったら,多くの読者は,ミネラルウォーターのものと同じミネラルだと誤解します。

 今回の記事から得られる教訓は,国立大学の教授がもっともらしく語っていても内容が正しくないか読者をミスリードさせる場合があること,毎日新聞に,話の裏をとるという能力がないということの2つである。もしくは,大学教授ですら「三た論法」しかしないことがあるということか。

 


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