「活性水素」について,広く一般に誤解を振りまいている九州大学農学部の白畑教授へのインタビュー記事が,毎日新聞に掲載された(2003年7月29日)。
電解還元水の効果のもとについて研究するのは,それはそれでいいことだと思うが,仮説に過ぎない「活性水素」を,十分な存在証明無しに,一般の目に触れる新聞や業者の宣伝で振りまいたのは,白畑教授の責任である。さらに,九州大学教授が活性水素の存在を実証したかのような宣伝がなされているにも関わらず,自分から積極的に訂正を行っていない。最近では,活性水素が微小な白金粒子に吸蔵された状態で存在すると主張している。しかし,これは,白金微粒子の触媒作用で水素分子が化学反応するときにはH-H結合が切れた状態が短時間存在するというだけの話であって,「活性水素」という概念を持ち込む必要性に乏しいと思われる。
私は毎日新聞をとっていないのだが,インタビュー記事について,メールで全内容を知らせてくださった方がいらっしゃるので,それを引用し,一般の方々を惑わす部分について指摘したい。もし,内容その他がちがっていたら指摘していただけるとありがたく思います。
夏の水と健康 「奇跡の水」に科学のメス 白畑實隆・九州大学大学院教授に聞く
2003.07.29 大阪朝刊 20頁 特集 写図有 (全2597字)
◇老化を防ぐ活性水素
「水」に対する関心が高まり、食料品店やスーパーに並ぶペットボトル入りの水の種
類も増えている。日本は水に恵まれた国で水道水の品質も良く、水を買い求める習慣は
なかったが、ここ数年で水市場は大きく成長し、ブランド商品化の傾向も見られる。お
いしさだけでなく、健康に良いことも、水を選ぶ条件の一つだ。健康に良い水はどうい
う水であり、その科学的な根拠は何なのか。どのような効果が期待できるのか。活性水
素の機能を解明し、水に関する共同研究で成果を上げている白畑實隆・九州大学大学院
教授に聞いた。
――水を選ぶ基準として、まず安全性やおいしさなどが挙げられます。
白畑 水質は年々悪化し、生活排水などで汚れた水を浄化して使っている状況です。
水道水の品質の劣化は気になるところですが、すぐに危険というわけではありません。
殺菌されていて、衛生基準を満たしている水です。ただ長期的に飲んだ場合の評価は今
後の課題でしょう。
水のおいしさはマグネシウムやカルシウム、ナトリウムなどの成分の比率にかかわり
ますが、味は感覚の問題で、人によって好みも違います。世界の名水といわれる水でも
、日本人には合わないような硬水もあります。
――水の選択肢の一つとして、健康面の効果が注目されています。
白畑 健康に良い水というのは根拠があって、それを実証する研究データの裏付けが
なければなりません。私たちの研究がその先駆けになればよいと思います。
――世界には「奇跡の水」と呼ばれるような、健康を回復させるという評判の水があ
ります。フランスのルルドの水やメキシコのトラコテの水、ドイツのノルデナウの水な
ど。科学の目で見て、普通の水との違いは?
白畑 ルルドの水については、ノーベル医学賞をもらったアレクシー・カレルの伝記
の中で紹介されていて興味を覚え、病気を治す水が本当に存在するのだろうかと疑問を
持ちました。活性酸素の研究をしていましたので、奇跡の水といわれるものが、老化の
原因であり万病のもとである活性酸素を消去する働きをするのではないかと想像できま
した。
それから、健康に良い水のメカニズムを科学的に立証するため、本格的に水の研究に
取り組みました。その結果、これらの水に共通して活性水素が多く含まれていることが
分かりました。活性水素というのは原子の状態にある水素のことで、さまざまな病気の
原因となる活性酸素と反応して水になることで、活性酸素の毒性を消してしまうと考え
られます。
酸化・還元というのは中学の教科書にも出てくる基本的な原理です。活性酸素が害を
もたらすのは、相手から電子を奪って酸化してしまうからです。還元とは、水素と結び
つき、相手に電子を渡す化学反応です。活性水素の側から見ると、活性酸素に電子を渡
して還元したことになります。
水素は宇宙が誕生した最初の原子で、そこからすべての物質ができたのです。あらゆ
る物質の親である物質をたくさん含んでいるのが水なのです。水の中で生命は生まれ、
水なしには私たちは生きていけません。
水というのは非常に安定した物質で、もし壊そうとすれば4000度くらいの熱をか
けないと壊れません。ところが不思議なことに、電気には弱くて、ちょっと電流が流れ
るだけで水素が出てきます。一瞬のうちに活性水素を大量に発生させて還元水を作る技
術も可能になりました。そういう人間の知恵で作った人工的な還元水も、実は自然にお
手本としてあるわけで、それに気づきなさいというのが奇跡の水の教訓ではないかと思
います。
ただし、奇跡の水はどこにでもあるものではなく、各地の水を調べましたが、日本で
は日田天領水など大分県の日田で採取される水に匹敵するような活性水素水は、今のと
ころ他には見当たりません。そのような水がなぜそこだけにしかないのか? 活性水素
を発生してもそれが安定して水の中に存在する仕組みが必要で、そのためにはミネラル
とくっつかないといけない。それがうまく合う条件が、たまたまそこにあったのではな
いかと思われます。
糖尿、がんアレルギー効果に期待も
――活性水素水は、具体的にどのような症状の改善に有効なのですか。
白畑 そういう水を飲むことによって、例えば糖尿病の場合、すい臓のインスリンの
出や血糖の取り込みが良くなって改善することを、マウスを使った実験や実際の症例が
示しています。また、悪性のがん細胞が、水を変えたら増殖速度が落ちて転移浸潤が抑
えられ、体の免疫力も高まることを確認しています。
還元力のある水はビタミンCなどと比べても、細胞内の活性酸素を消す働きの持続力
が違います。それを体内に取り入れることによって、免疫機能の回復が見られます。が
んの種類を問わず、効果があるのではないかと考えて、広範な研究に取りかかっていま
す。
アレルギーについては、九州大学の小児科の教授との共同研究で、強度のアレルギー
体質の学生に協力してもらい、症状の改善が見られました。同じく第2内科と共同で脳
梗塞(こうそく)を防ぐ研究を、理学部と一緒に神経細胞が再生することを証明する研
究を進めているところです。その結果、活性水素水は老化に伴うアルツハイマー痴呆な
どにも効果があるだろうと考えています。
特にこのような天然水は有限なので、大切にしなければなりません。良い水を評価し
ながら、水道水を良い水に変えていく技術や、汚い水を安全な水に変えていく技術も必
要です。
コップの水を一口飲めば数分で全身に行き渡ります。まさに水は命そのもの。そう考
えたとき、結局行きつくところは水に対する感謝です。ありがたいと思って皆が飲むよ
うになれば、世界が変わるのではないか。世界中の人やあらゆる生き物と共に生きる共
生の時代に、水の心を知ってほしいと思います。
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◇九州大学大学院教授、白畑實隆さん
しらはた・さねたか 1950年、鹿児島県生まれ。78年、九州大学大学院農学研
究科食糧化学工学専攻博士課程修了。87年、米国オレゴン州立大学生化学・生物物理
学科訪問助教授。89年、九州大学大学院農学研究科遺伝子資源工学専攻助教授。95
年、同教授。現在、九州大学大学院農学研究院遺伝子資源工学部門教授、同大学院シス
テム生命科学府生命工学講座教授併任。
毎日新聞社
この記事のおかしなところを,QandA形式で以下にまとめてみた。
Q.九州大農学部の白畑教授が,活性水素の存在を実証したのではないの?
A.白畑教授自身は,最初の論文の中で,「活性水素」が仮説であることをはっきり書いています。電解水製造装置の会社が,勝手な解釈をして宣伝に利用しただけです。もちろん,その後の白畑教授が宣伝に出て来るのを見た限りでは,白畑教授は業者の解釈をわざとに訂正せずに放置しているか,業者の宣伝に加担していると思われます。
A.私たちが,「ミネラルウォーター」というときの「ミネラル」は,イオンとなって水に溶けているカルシウムやマグネシウムなどを思い浮かべます。こういった「ミネラル」と,白畑教授がここでいう「ミネラル」には,何の関係もありません。白畑教授の主張では,原子状水素は金属微粒子に含まれていることになっています。「ミネラルが必要」などとわざわざぼかした言い方をせずに,「金属微粒子が必要」と言えばいいのです。「ミネラルが必要」などと言ったら,多くの読者は,ミネラルウォーターのものと同じミネラルだと誤解します。
今回の記事から得られる教訓は,国立大学の教授がもっともらしく語っていても内容が正しくないか読者をミスリードさせる場合があること,毎日新聞に,話の裏をとるという能力がないということの2つである。もしくは,大学教授ですら「三た論法」しかしないことがあるということか。