私のところにこれまでに寄せられた質問をQ&Aとしてまとめました。
Q. 電子レンジで水が暖まるのはなぜですか?水分子の振動波長と電子レンジのマイクロ波の波長は桁が違うんですが。
A. 確かに水分子のOH伸縮振動モードは、赤外領域にあり、電子レンジの周波数とは随分離れています。
水の電磁波に対する吸収スペクトルを測定すると、実は数GHzから遠赤外領域(THz)にわたる巨大な吸収ピークが存在します。これは、水分子が数十個まとまって集団的にある程度ランダムに運動 する事に起因する吸収です。振動ではありません。我々は緩和と呼んでいます。水分子がまとまって作っている電気双極子の回転緩和によるものです。
同じ周波数帯で水の複素誘電率を測定すると、ラジオ波以下では室温で約80であった実部が、THzあたりでは、5前後の値になります。水を特徴づける誘電緩和は、約25GHzにあります。これに対応して誘電損失のピークもあります。誘電損失のピークに、角周波数(周波数*2π)を掛けると、吸収係数になります。電子レンジは、この領域の吸収スペクトルの、低周波側の裾野をたたいています。このピークは周波数範囲にして3桁に渡る非常に広いものです。
誘電損失が存在する周波数領域に合った電磁波を照射すれば、水でも油でも加熱することができます。あとは、吸収係数の違いで加熱の効率が違ってきます。
Q. いろんな浄水器が出ていますが、どれを買うのが一番いいでしょうか?
A. ウチは暮らしの手帖ではないので、商品テストをしないとわからないような内容についてはお答えすることができません。ただ、もし私が自分で買うとしたら、まず普通の浄水器(活性炭や中空糸膜使用のもの)を買います。予算に余裕があったら、台所殺菌用に、家庭用の強酸性水の製造装置を次に買って、さらにお金があったら、電解還元水や磁気活水器を試すと思います。効果の確からしさの順にジャンル別に並べるとこんな具合だと思います。
Q. **水はニキビに効きますか?買うか買わないか迷っています。
A. 効くか効かないかの判定を、ウェブページ上の宣伝情報から判断するのは非常に難しいです。それは以下の理由からです。
にきびということですが、普通に何もしなくても、症状が軽くなる人、そのままの人、重くなる人、さまざまでしょう。**水がにきびに有効であることを示すには、にきびで悩んでいる患者さんをたくさん集めて、**水を使うグループ、普通の水を使うグループ、薬を使うグループに分けて、実際に治療してみて、どのグループがいちばん症状がよくなるか、あるいは差がないのか、などを調べる必要があります。これを臨床試験といいます。調べる組み合わせによって、水では効果があるのか無いのか、薬に比べてどうなのか、**水が他の水に比べて効果があるのかどうか、といったことがわかります。
個別の患者にとっては治るかどうかしかないのですが、治ったことが偶然ではなく薬や水の効果だということをいうには、試験が必要なのです。だから、体験談は「臨床試験をしてみよう」というきっかけにはなっても「この薬(水)が効く」という判断基準にならないのです。**水のページには、体験談しかありませんから、効果があるかどうかはまだ不確かだと思われます。
法律上言えることは、医薬品として認可されていないのに薬としての効果を宣伝すると、薬事法に触れるということです。業者が何か試験をしていて、効果があるという結果を得ていたとしても、認可されないのに効果を表示してはいけません。
**水の場合は、臨床試験がないから、どの程度効くのかは疑問だと思います。しかし、世の中には、薬が体に合わないが何か手当をしないと心の平穏が保てない人もいるでしょうから、その人にとって効果も副作用もない**水を使った結果、薬の副作用からは解放されて全体として症状が改善するということは起こり得ます。また、肌に水が必要だったという患者の場合、**水は本当に効くことになるでしょう。この場合は蒸留水でも効くでしょうけど。
判断の基準は化粧品と同じでいいと思います。ただし、これは、薬事法に定める医薬部外品程度に期待できるという意味ではなく、あくまでも買う側のスタンスとして、過剰に効果を信じたりしないように、という意味です。「美しくなる」と宣伝されていて、使ってみたけどよくない場合、無理矢理こだわって使い続けたり、効果がないといって業者を訴えたりはしないでしょう。**水とのつきあい方も、化粧品と同じにするのが、今のところ妥当だと思います。
あとは、フトコロ具合と相談して決めて下さい。
Q. はっきりした情報がわかっていないのに、都合の良い情報だけを掲げて機能水や活水器を売るのは企業倫理に反する行為だと思いませんか?
A. 確かに、誤った主張をしている企業は多いですが、これを一方的に悪だともいえないのが現状だと認識しています。多数の機能水や活水器関連企業は中小企業で、研究開発に十分な物的・人的資源を投入できるとは思えません。
その一方で、簡単に入手できる資料(一般書店で手に入る水の本や一部業界誌など)の多くが似たり寄ったりの記述をしています。また、正確な情報を調べるにはどうすればよいか、科学的に正しいと判断できるのはどういう条件を満たした時なのか、といったことについて系統的に学ぶ機会は、大学の理工系の学部でまともに訓練しないかぎりありません。それでも、卒研で院生の手足をしただけだったりすると、訓練ができないまま卒業して就職ということになります。
まともな情報を持っているのは主に大学の研究者なのですが、いざビジネスを始めようと思ったときに誰にきいたらいいのかわかるかというと、それもすぐにはわからない状態でしょう。
我々のところにきた問い合わせの中には、地方の分析センターや国立の研究所に訊いてみたが誰も知っていなくて、ウェブページを見てやっとたどりついたという人もいました。我々が参加している研究会のメンバーだとみんな知ってる話だったりして、居るところには知ってる人がいるんですけど、多分外からはなかなかわかりにくい。
企業の中には、上司が巷の本に書いてあることを本気で信じて部下に開発を命じるという場合もありました。確信犯なら倫理に反すると言えるのですが、善意で信じてしまっている場合は、「調査不足」以上のことを責められないと思います。ましてや限られた資源と時間で市場に投入、という状況では、「多くの本にこう書いてありました」と主張するであろう企業の責任を追求するのは、ちょっと酷だと思います。
正しい情報の入手が事実上困難であることと、容易に入手できる情報が誤りに満ちてしまっていることの両方が、今の状態を作ってしまったのだと理解しています。
Q. 水のクラスター分析をやって、水の機能の評価ができますか?
A. そういう測定方法はありません。水をジェットで真空中に噴き出させて、断熱膨張で微小液滴(クラスター)を作って質量分析などを行う実験はありますが、水の機能の評価法ではありません。水溶液のミクロスケールでの混合の様子を調べたりするのに使われています。
気相でのクラスターと、通常の液体の間にどんな関係があるかは、まだまだこれからの研究課題です。試料も、実験用に精製されよく調整されたものを使っています。どんな不純物があるかわからない水道水などに使える方法ではありません。
Q. クラスターの小さい水は体にいいですか?
A. 2重の意味で嘘です。
液体の水のクラスターサイズを決める測定法はありません。17O-NMRの線幅が使われていますが、pHや不純物の影響が大きく、空間的な情報はそもそも得られない測定法です。言い出しっぺの松下和弘氏が誤解したのがコトの始まりです。
従って、クラスターサイズが測れないので、体にいいかどうかの評価試験も不可能です。
多くの企業がこの話に乗せられて、水の評価のために17O-NMRの測定を分析会社に依頼しています。分析を頼むとそれなりに費用が発生する上、この測定は浄水器・活水器の性能には無関係であることを考えると、実に罪作りな話だと思います。さらに、某大手企業では、数億円のNMR分光器を研究所に入れてしまい、結局使えなかったようです。そういう費用があれば、本当に製品開発に役立つ測定に使っていただいた方が、企業はいい製品を作れるし、消費者だってハッピーです。
Q. マイナスイオンの話は本当ですか?霧を作ると発生するという話が出回っています。
A. 単に水を破砕しただけでは、電荷が出てくることはないと思われます。これは、水のクラスター質量分析をしている分子研の西先生にうかがいました。水破砕で微小液滴が電荷を持つなら、質量分析器に導入したときに、その信号がノイズとして観測されるはずですが、そんな実験事実はないということです。
空気中には、宇宙線などで一定割合の酸素分子が電離してマイナスイオンになっています。これと水滴がくっつくことはあり得ます。また、コロナ放電などを使っているマイナスイオン発生器で作ることができます。
だからといって、体にいいかどうかはまた別の問題です。マイナスイオンの臨床試験をやって結果がでた話は寡聞にして知りません。
Q. 磁気処理水は効果がありますか?
A. 唯一効果があるかもしれないのは、赤錆とスケール防止についてです。しかし、効果があったという実験結果と、無かったという実験結果の両方があり、何とも言えないというのが正確なところだと思います。必要な実験パラメータがまだ完全に押さえ切れてないのではないかと考えています。
しばしば、水のクラスターの話が一緒に出てきますが、こちらは誤解によるものなので無視してかまいません。
薬事法第68条「承認前の医薬品等の広告の禁止」により、承認されていない医薬品等(「等」というのは医薬部外品や医療用具などを含む、ということです)について、その医薬品的効能効果を明示することや暗示することは禁止されています。「承認前」というのは、「未承認・無承認」と読み替えてかまいません(たぶん)。「体験談のみでは科学的根拠にならない」というのは科学の側の見方です。しかし、「試験結果を公表して宣伝で使うこと」は、科学の立場ではかまわないが、法的な規制に引っかかりそうだということのようです。このへんの判断の基準は、今すぐは私にもわかりません。そのうち資料が集まったらまたまとめたいと思います。ということで、上記のQ&Aの薬事法云々の部分は、書くには書いたが違ってるかもしれないので注意して見てください。(正確なところをご存じの方はお教えください。できれば判例とか、確実なものがあるとうれしいです)
当該の場合、効能効果をうたった語句がないとしても、臨床試験の結果を広告内に用いることは、明らかに暗示(矛盾しているようですけど)していると解釈されると思いますので、完全にペケだと思われます(たぶん)。
ということで、Aの中の「売る側としては、効く証拠はできるだけ出したいでしょうから」というのは人情として当然だと思いますが、「臨床試験でいい結果が出ていればそれを出すはずです」という部分と「試験の結果を示すだけなら、別に薬事法には触れないでしょうから」は誤りといっていいと思います(たぶん)。
たとえ医薬品であっても、その広告に試験のデータなどを表示することはできなかったと思います(未確認)。医薬品等適正広告なんたらというのがあって、規制されているはず。