【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
日本機能性イオン協会のページに,山田氏が「安井氏の言動に対する意見」を公表している。しかし,この内容は,批判としてはピントはずれのものである。以下に、その内容が妥当でないと思われる理由を議論する。
まず、山田氏は、
安井氏の主張は観念的であると申しましたが、その主な理由は週刊ポスト、朝日新聞、その他のどの記事にも共通して何ひとつとして彼自身の科学的なデーターが示されていないことです。
と主張している。このことは事実だが,これを持って,批判が観念的であるというレッテルを貼ることはできないと私はは考える。なぜなら,安井氏のマイナスイオンに対する批判は,「まだ十分科学的裏付けがないのに商品として一般に宣伝されたということ」に対してなされているからである。科学的裏付けについては、山田氏自身が述べているように、「マイナスイオン」の実体がまだはっきりしないということを意味する。
こんなに長い期間、自己主張する時間が有ったならば、他人の仕事にケチをつけてまわらずに、何故自分自身で実際に問題を解決する努力、つまり自分の実験データーを示す努力をされないのかきわめて不思議です。
と書いてある。山田氏は,文中で研究にたずさわってきた経歴を明らかにしておられるが,科学における立証責任については何もご存じないらしい。科学においては,新規なことを主張する側が立証責任を負うのだ。この場合,効果の存在はもとより,「その濃度は通常の化学物質に比べて低すぎるのでは?」という疑問にもまともに向き合って答えなければならないのは,マイナスイオン推進派の人たちである。しかし,山田氏は,この立証責任を安井氏に負わせようとしている。これは,疑似科学を主張する人たちの典型的な論法である。つまり,まず自分の考える勝手な理論なり観測事実なりを示し,「今の科学に照らし合わせると疑問がある」とつっこまれると,それならこの説が間違っていることを立証して見せろとつっこんだ人に要求するというやり方と同じに見えるということだ。(注:「相対性理論は間違っている」系の人が多用する論理展開でもある)
さらに山田氏は,安井氏が「・・・解明されていないんです」と書いたことに対して,解明されていない理由を具体的に示せと主張し,山田氏自身が以下のように説明を書いている。
つまり、原子・分子などに外部エネルギーが作用し、電子の出入りによりネガテイブ イオン(negative ion)あるいはポジテイブイオン(positive ion)が生成されること、特に、空気中の水分子のイオン解離やこれらの生成イオンがその後(約0.01秒程度後)には周囲の中性分子と反応し、次々と形を変えるのでおのおのの分子の正確な同定が困難なこと、呼称的にはマイナスイオンやプラスイオンであるが、ネガテイブイオン(negative ion)あるいはポジテイブイオン(positive ion)に相当し、極めて早い速度で変化する水和イオンが関連した複雑な化合物である可能性が大きいこと、おのおののイオンは負イオンあるいは正イオンとして大別できること、しかし、多くの研究者による努力のもかかわらず、今尚まだあまりにも早い変化を正確に追跡し、物質として正確にそれらの構造を技術的にかつ定量的に把握・同定できない実情を明確に述べるべきです(文献4−6)。
物質として定量的に把握も同定もできていないのをいいことに,「マイナスイオン」とひとくくりにして,いかにもミラクルな物質があるかのような宣伝をしまくって消費者をケムに巻く行動はすべきではないだろう。ところが、現実には、マイナスイオン機能搭載のエアコンで放電式であるにもかかわらず、パンフレットには滝の写真が出ているという状態だった。安井氏はまさにそのことを批判しているのだ。同定も何もされていなくても,宣伝だけはしてもいいというのが,山田氏の考えなのだろうか。こんなこと主張しておいて,製品の宣伝については,「コロナ放電や水破砕装置をエアコンに組み込むとリラックス効果があるという結果が出ていますが,原因物質についてはまだはっきりしたことはわかりません,と正確に述べるべきです」と言わないのはどうしてなんでしょうかね。見事なダブルスタンダードに見えますね。
オゾンが生体に悪い影響をおよぼすことは一般に良く知られていますが、重要な点はオゾンの濃度なのです。オゾン濃度が0.01-0.02ppmで「生臭い」と感じ、0.2-0.5ppm以上で視覚低下、1-2ppmで頭痛や咳などの影響が生じます。
化学物質の効果が,濃度で違うということも,山田氏はきちんとわかっておられるようである。そうれであれば,マイナスイオンの効果の濃度依存性についても考える必要があるが,それについては「定量的に把握・同定できない実情」を理由に,目をつぶって無視するということなのだろうか。
問題はイオン機能の良い点、今後大いに研究しさらに良質の製品の開発が期待でき、日本発の新技術になりうる可能性が大きいこのときに新しい芽が育たないことが起こるのが心配です。
もし、芽が育たないということが起きるとしても、化学種や存在濃度についての疑問に答えられるような十分な研究が済まないうちに、「マイナスイオン」という言葉だけを一人歩きさせた業界の自業自得ではないのか。また、将来、本当にイオン機能を応用した製品が出てくるときのことを考えても、現状では未科学で化学種もわからず濃度もはっきりしないのに宣伝だけしている、という内容の批判はきっちり行っておく必要があるだろう。今後大いに研究が進んだならば、化学種と濃度も測定できて制御もできて、効果と成分や濃度の関係もきちんとわかったうえで、そのことをふまえた製品宣伝がなされることが期待されるからだ。そのときには、以前の未科学なマイナスイオンとはココが違う、という宣伝だってあっていい。きっと市場にも(今批判的な研究者にも)受け入れられるに違いない。
新聞、雑誌、テレビなどをして通じてイオン機能が明らかになることは世の人々の正しい理解を促進し、ひいてはこれまでに無い新規産業の誕生をもたらすかもしれません。
情報の出し方の順番が違う。まず、ピアレビューを伴った学会発表、次に、分析化学者を納得させるだけの化学種と定量方法の確立、効果の組成や濃度依存を調べる実験をし、独立のグループで追試に成功したあたりで、初めてまとまな知識を新聞、雑誌、テレビなどで流す、というのが正しい手順である。疑似科学、病的科学の多くは、こういった通常の科学の手続きをとらずに、いきなり新聞、雑誌、テレビなどに話が出ることで始まっている。山田氏は、もっと通常の科学の手続きを重視するべきである。
東大教授の言うことが正しいと盲信せずに、幅広いアンテナを張り巡らせて情報の質や信憑性を検討できる頭脳を早く養成して、論陣に力強く参加してもらいたい。
「マイナスイオン」といわれた時に、高校までの科学知識を動員して(高校進学率は9割を越えていますのでね)、イオンの実態となる物質や濃度についてどんなことがわかっているのか、作用機序についてはどこまで解明がなされているのか、そういう情報をメーカーが正しく提供しているのかといったことを検討するのが、正しい日本国民の態度だと思われ。少なくとも、「マイナスイオン」といわれただけで「なんだかすごくて科学っぽくて効果ありそうなものだ」と受け取って宣伝に乗せられるのが、盲信であることは確かだろう。