【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。
(株)アンジェランジェが開発したスキンケア化粧品『EXSAFTY(エクセフティ)スキンケアシリーズ』を紹介する報道記事。(株)アンジェランジェ自身によるものではない。化粧品の説明としては、「数十年にわたり美容業界にかかわってきた同社と研究機関とのコラボレーションにより誕生したものだ。石油鉱物油、色素、香料は使用せず、海藻や植物由来の天然ゲルや天然植物エキス、ナノ化プラチナなどが配合されている。顧客の中には原因不明の皮膚疾患で長年病院に通っている人や、重篤なアトピー性皮膚炎を患っている人もいて、「あらゆる敏感肌用のスキンケア化粧品を使ってきて合うものが見つからなかった」人に、劇的な改善効果が認められた例もあるという。
」とある。これだけなら、効果効能を謳っていないので(劇的な改善効果=アトピーそのものが改善したという効果効能の表示ではなくて、スキンケア化粧品が従来のものとは異なり快適に使えるようになったという改善があった、と読める)まあ、ぎりぎりセーフだろう。化粧品を良くするための努力はしてきたのだろうし、うまいこと書くなあ、と思っていたら、水のネタが登場していた。
農業をはじめとするあらゆる産業で"水をいかに有用なものとして活用するか"という研究を20数年前から行なってきたある研究開発企業が有する技術との出会いにより、"低電位水素酸素水"を日本で初めて、化粧品基材として採用(製法特許出願中)。この"低電位水素酸素水"とは特殊装置で水を電気分解し、得られた水素ガス・酸素ガスをクリーンかつ安定的な状態にして、プラスとマイナスの電荷を与えたのちそのガスを再度水中で混合させることにより、水分子自体がプラスとマイナスの電荷を持った水(電気力を持った水)。水素水と酸素水の長所を併せ持ち、水中に溶存した水素の変性がおきにくいため(揮発しにくい)、化粧品基材として混入された後もその還元力(酸化されたものが元の状態に戻る力)が持続すると考えられる。
一体どこの会社だか知らないが、その企業と出会ったりしなければ、こんな説明をすることもなかったと思われる。
水を電気分解すれば、酸素ガスも水素ガスも発生するし、発生したガスが抜けないようにした状態で化粧品を製造することも、別に不可能ではない。しかし、水素ガスや酸素ガスが安定でいられるかどうかは、一緒に入っている化学物質の種類と量によって違ってくる。
また水分子1個を考えると、酸素側が負、水素側が正の電荷を持っている。水分子1個の持つ電荷には、分子のサイズでの偏りがある。ただし、分子1個でみた場合、正電荷と負電荷は釣り合っているので、全体では電気的に中性である。これは、どんな水分子にも共通の性質である。
水素ガスや酸素ガスのもとになっている水素分子(H2)や酸素分子(O2)は、もともと電気的には中性である。これに無理矢理電荷を与えると、イオン化した不安定な状態となるので、相手かまわず化学反応をしてしまい、いつまでも電荷を持ったままではいない。
この宣伝に書いたようなメカニズムで水が電荷を持つわけではないし、電気力を持つわけでもない。
還元力が高いことにより、化粧品に配合されている天然原料の酸化および劣化を防ぐ働きにも期待でき、化粧品が持つ機能性の維持にも貢献する。
この部分は、直前の説明と矛盾する。直前の説明では「水中に溶存した水素の変性がおきにくいため(揮発しにくい)、化粧品基材として混入された後もその還元力(酸化されたものが元の状態に戻る力)が持続すると考えられる。」と書いてある。揮発しにくいという部分は、容器に何か工夫をしたのだろうということで認めるとしても、還元力が持続するとか変性がおきにくい(化学変化しにくいという意味と推察される)といったことを仮に認めたとすると、化粧品の劣化防止には効果が無いことになる。
酸化防止剤とは、それ自身は非常に酸化されやすい物質である。酸化防止剤を目当ての物質に混ぜると、目当ての物質よりも先に防止剤の方が酸化される結果、目当ての物質はユーザーが使うまで酸化されなくなる。だから、仮に、入っている水素が普通のものよりも「劣化」しないというのであれば、化粧品の保護には役立たないことが考えられる。
実際には、水素の酸化のされやすさは、他にどんな物質があるかで変わってくるので、この説明だけでは何とも言えない。水素より酸化されやすい物質が入っていたら、そちらが水素の酸化防止剤として働くことになる。
この水の最大の特徴はpHが中性で還元力が非常に高く、「プラス電位に傾き酸化が進んだ」細胞にマイナス電位を連鎖的に与えて細胞膜内外のイオン電位差を正常化、代謝機能を回復し細胞賦活作用に導くこと。さらに多種多様な天然ミネラルと特殊金属を水に誘導接触させることにより得られた水分子(クラスター)は非常に小さく"マイナスイオン"を大量に放出、その結果肌の電子の流れをスムースにして血流を促進、代謝機能を向上させるという。
最後の説明は全くの意味不明。細胞内では酸化も還元も起きているし、細胞の電位と酸化は無関係である。水分子のクラスターは、液体中では定義できないし、水の中のイオンを考えるのに「マイナスイオン」という概念は不要である。
「肌の電子の流れ」と言われても、そもそも肌の細胞は電子伝導体ではない。細胞内部だって、電気信号の伝達を担っているのはイオンの勾配であって、電子ではない。
こんな説明をくっつけたのでは、せっかく肌に優しい化粧品を作ることに成功していても、逆に信用を落としてしまう。スキンケア商品の開発に真剣に取り組んでいるのなら、何も水に手柄を譲る必要は無いはずである。
これが肌に合う人だって居るだろう。買う時は、あくまでも自分の肌との相性を基準とすべきであり、わけのわからない水の説明は最初から無かったものとして考えるのが妥当である。